異世界日帰り漫遊記!

御結頂戴

文字の大きさ
上 下
845 / 952
麗憶高原イデラゴエリ、賢者が遺すは虚像の糸編

5.すっかり専属冒険者

しおりを挟む
 
 
 う……く、苦しい。

 でも、正直なところを言うと、ちょっと嬉しかったりする。

 ……お、俺だって別にブラックのコト嫌いじゃないんだし、こ、こ、恋人だって、自覚は俺もあるし!! だから、その……安心するっていうか……ホントは、こんなすぐに会えると思ってなかったから、こんなに早く会えて……って、俺の感情はどうでも良いんだよっ!

 ともかく、抱きしめられて大歓迎は良いんだけど……ここはどこだろう。
 今頃は船に乗っているものだとばかり思ってたんだけど、ここはどうやら……どこかの街の路地裏……っていうか、もしやラッタディアか?

 でもアレから数時間くらいしか経過してないだろうに、もうラッタディアなんて早すぎないか。どういう事なんだろう。
 気になって、俺は自分を抱き上げているブラックの顔を見た。

「ブラック、ここ……」
「あっ、そっか。ツカサ君は知らなかったっけ」
「キュー!」

 と言うなり、ブラックとロクは俺に今までの事を説明してくれた。
 ……ふむふむ、キュウマがアドニスが使うような【異空間結合エリア・コネクト】を使って、一気に船からラッタディアまで連れて来てくれたんだな。

 そんで、シアンさんに報告したら、そのまま次の依頼を任されてしまった……と。

 ……キュウマはそこまで力を取り戻していたのか……と思ったけど、まあ今はどうでもいいか。それより大事なのは、別の事だ。俺は思考を切り替えると重要な事をブラックに問うた。

「ブラック……シアンさん、大丈夫そうだった? やつれてなかったか?」
「普通、ここまで話を聞いたら『行き先はどこ?』が先じゃない……?」

 あっ、ブラックが何故かぶすくれちゃった。
 でも俺はシアンさんに会えずじまいだったんだから、心配するのは当然だろう。

 むしろ何で行き先を先に聞こうとするんだと眉間に皺を寄せる俺に、ブラックは不満を表したようにぷくーっとほおふくらませた。
 だからオッサンがその顔しても可愛くないんだってば。

「それで、シアンさんはどーだったんだよ」
「むうーっ。大丈夫だったから心配ないよう! そもそも僕らに依頼を押し付けてくるんだから、弱ってるもクソもないでしょ! 元気だよあのババア!」
「あっ、こらっ! お母さん代わりの女性になんてことを!」

 その発言は許さんぞ、とブラックのほっぺを指でつかんでむにむに引っ張るが、相手はどこ吹く風で「ふんっ」と頬を再度膨らませて俺の指を退しりぞけると、仕方ないと言わんばかりに溜息を吐いて俺を地面へ降ろした。

「ともかく……ロクショウ君とこれから出発しようかって話をしてたんだよ。この子ならアコール卿国きょうこくまで一っ飛びでしょ?」
「えっ、アコール卿国? シアンさんてば何を俺達に頼んだんだ?」
「まあそれはロクショウ君の背中で話すよ。とりあえず、アコールの適当な街で物資をそろえてから目的地に向かいたいし」

 確かにそれもそうだ。
 ロクに頼んでアコール卿国きょうこくに向かうのなら、出発地点のラッタディアで色々な物資を揃えるより、新鮮な物を手に入れられる近場で購入した方がお得と言える。

 となればこんな所で立ち話をしているヒマもない。
 俺達は一旦いったん街から出て、人気が無いところでロクに乗せてもらう事にした。

 最早もはやロクが居ないと移動できないようになっている気もする……っていうか、折角の久しぶりの旅なんだから、これまたお久しぶりの藍鉄あいてつに運んで貰って、もう少しゆっくり旅路を堪能たんのうしたかったんだが……まあ俺の方もそこそこ時間がないし仕方ないか。

 ロクにはいつも頑張って貰ってばかりだから、人族の大陸に戻ってきた今こそ何かねぎらってやらなければな。

 そんなことを思いつつ、再び空の旅になった俺達は、ようやくブラックに「シアンさんからの依頼」の話を聞くこととなった。

「んで、シアンさんからの依頼って? アコール卿国きょうこくに何かあるの?」

 俺を背後から支えるブラックに問いかけると、相手は「ふむぅ」と面白くなさそうな声を漏らして、しぶしぶと言った感じで答えた。

「うん……実は、シアンのヤツからアコール卿国の遺跡調査を頼まれてさぁ」
「遺跡? 遺跡って……【空白の国】の?」

 【空白の国】ってのは、この世界における遺跡の名前だ。
 といっても普通の遺跡じゃなくて、それらは主に「その国の歴史に属さない、完全に出自不明の遺跡」に付けられる名称で、この世界にはオーパーツレベルの超技術や謎技術が眠っている不可解な遺跡がゴロゴロしている。
 いやもう本当、びっくりするぐらい数えきれないくらいに。

 で、こういう名称がつくレベルなので、当然【空白の国】ってのは各国にあるのだが、その遺跡の多くはモンスターが出たり、調査しても理解が追い付かなかったりで、解明は遅々として進まないのだそうだ。

 そんな遺跡が溢れているので、それらを調査して、オタカラをネコババ……ゴホン。人類に有用な古代の技術を持ち帰ったり、その【空白の国】に属していて正確な地図が存在しない場所を探検しながら切り開いていく職業――――【冒険者】が、ギルドと共に生まれたのである。

 まあ、出資者が大商人とか色んなお金持ちなので、欲がないとは言わないが……俺達が属する【冒険者】ってのは、まさに未知の領域に飛び込んで開拓していくって職業って事なんだよな。ふふん。

 あ、でも、俺が漫画やチートものの異世界小説で知ってる【冒険者】と同じように、市民からの依頼を受けて日銭を稼いだりもするぞ。

 本来は探索が仕事だけど、やっぱりしょっちゅうってワケにも行かないらしいからな。

 俺達も実際そんなに積極的に遺跡調査はしてないワケだし……。

 ……閑話休題。
 なので、シアンさんが遺跡調査の依頼してくるのは当然ともいえるんだけど……ブラックが言うには、どうやらこの依頼は俺達を指名したものらしい。

 俺達じゃなきゃダメって、どういうことなんだろう?

「詳しい話は、目的の遺跡がある領……【エショーラ領】の領都【ナバラスリ】で使いの者に聞けって話だったけど、どうやら相手は遺跡調査で“街興まちおこし”……いや、領地おこし? をしたいらしい。だから、僕らに頼んだんだって」
「町おこしって……あっ、そうかトランクルを俺達が立て直したから、それで?」

 そうそう、すっかり忘れていたが……俺達は一度、村を観光地として立て直したことがあるんだ。といっても素人仕事なので、成功したのは村の人達の頑張りが大きい気もするのだが……ともかく、評判になったのは間違いない。

 あの村が観光地として人気になればなるほど、俺達が関わった事はどこかの誰かの耳に入ることになる。それが今回は【エショーラ領】の領主だったってことか。

 ……いや、でもなあ……。
 遺跡調査で町おこしってどういうことだろう。

「まあ実際、評判がいいんだろう? だからツテを使ったんだろうね。アコール卿国きょうこく国主卿こくしゅきょうは、あのいけ好かない飄々ひょうひょうオヤジだ。どうせ自分の権力を使って依頼をんだに違いないんだったら。あーホント権力者ってやだねーやだやだ」
「確かに強引に依頼を受けさせられるのはちょっとな……。でも、シアンさんに頼まれちゃったんじゃやるしかないよ。とにかく、領都に行ってみなくちゃな」
「グォン!」

 断ったらシアンさんの立場が悪くなるかもしれないし、それでなくともシアンさんは今自分の息子の事で、色々と危ういかもしれないのだ。
 それを考えたら、俺達が依頼を受けて他の【裁定員】の心証を良くしておくってのも必要な事かも知れない。

 なんだかんだで俺達シアンさん専属の冒険者っぽくもあるしな。
 俺達が活躍すれば、なんとか面目もたもてるかも。

 そう考えてブラックの顔を振り向くと、相手はムッと不満げな顔をしていたものの、俺と同じような事は考えていたのかそれ以上愚痴を言う事は無かった。

 ……やっぱり、何だかんだでブラックもシアンさんが心配なんだよな。

 ただの腐れ縁だ、昔の仲間だ、とブラックは憎まれ口を叩くけど、それでも「自分は母親代わりだ」と言って常に気遣ってくれていたシアンさんに対してだけは、ブラックも特別な思いを抱いている。

 それは愛とか恋じゃないけど……でも、大切な気持ちだと俺は思う。

 だから、内心では心配していても上手く言い出せないブラックの為にも、シアンさんの株を上げるような依頼をガツンと成功させなくっちゃな。

「はぁーあ……せっかくツカサ君と二人きりでのびのびイチャイチャできると思ったのに、これじゃいつ休めるんだか分からないよ……」
「まあまあ、これが終わればきっと休めるだろうからさ。まずは親孝行しようぜ」
「グォングォン」
「う゛ー」

 俺達がたしなめると、ブラックは子供っぽくうなって俺にかってきた。
 まったく、オッサンのくせに面倒臭いんだから。

 …………でも、こうやって気楽に喋っているのが何より安心する。

 俺も中々に面倒臭いことになっちゃったなと心の中で苦笑しつつ、前を向いて青々とした広い大地を見下ろし小さく笑った。











 
しおりを挟む
感想 1,046

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

吊るされた少年は惨めな絶頂を繰り返す

五月雨時雨
BL
ブログに掲載した短編です。

その男、有能につき……

大和撫子
BL
 俺はその日最高に落ち込んでいた。このまま死んで異世界に転生。チート能力を手に入れて最高にリア充な人生を……なんてことが現実に起こる筈もなく。奇しくもその日は俺の二十歳の誕生日だった。初めて飲む酒はヤケ酒で。簡単に酒に呑まれちまった俺はフラフラと渋谷の繁華街を彷徨い歩いた。ふと気づいたら、全く知らない路地(?)に立っていたんだ。そうだな、辺りの建物や雰囲気でいったら……ビクトリア調時代風? て、まさかなぁ。俺、さっきいつもの道を歩いていた筈だよな? どこだよ、ここ。酔いつぶれて寝ちまったのか? 「君、どうかしたのかい?」  その時、背後にフルートみたいに澄んだ柔らかい声が響いた。突然、そう話しかけてくる声に振り向いた。そこにいたのは……。  黄金の髪、真珠の肌、ピンクサファイアの唇、そして光の加減によって深紅からロイヤルブルーに変化する瞳を持った、まるで全身が宝石で出来ているような超絶美形男子だった。えーと、確か電気の光と太陽光で色が変わって見える宝石、あったような……。後で聞いたら、そんな風に光によって赤から青に変化する宝石は『ベキリーブルーガーネット』と言うらしい。何でも、翠から赤に変化するアレキサンドライトよりも非常に希少な代物だそうだ。  彼は|Radius《ラディウス》~ラテン語で「光源」の意味を持つ、|Eternal《エターナル》王家の次男らしい。何だか分からない内に彼に気に入られた俺は、エターナル王家第二王子の専属侍従として仕える事になっちまったんだ! しかもゆくゆくは執事になって欲しいんだとか。  だけど彼は第二王子。専属についている秘書を始め護衛役や美容師、マッサージ師などなど。数多く王子と密に接する男たちは沢山いる。そんな訳で、まずは見習いから、と彼らの指導のもと、仕事を覚えていく訳だけど……。皆、王子の寵愛を独占しようと日々蹴落としあって熾烈な争いは日常茶飯事だった。そんな中、得体の知れない俺が王子直々で専属侍従にする、なんていうもんだから、そいつらから様々な嫌がらせを受けたりするようになっちまって。それは日増しにエスカレートしていく。  大丈夫か? こんな「ムササビの五能」な俺……果たしてこのまま皇子の寵愛を受け続ける事が出来るんだろうか?  更には、第一王子も登場。まるで第二王子に対抗するかのように俺を引き抜こうとしてみたり、波乱の予感しかしない。どうなる? 俺?!

俺だけ永久リジェネな件 〜パーティーを追放されたポーション生成師の俺、ポーションがぶ飲みで得た無限回復スキルを何故かみんなに狙われてます!〜

早見羽流
ファンタジー
ポーション生成師のリックは、回復魔法使いのアリシアがパーティーに加入したことで、役たたずだと追放されてしまう。 食い物に困って余ったポーションを飲みまくっていたら、気づくとHPが自動で回復する「リジェネレーション」というユニークスキルを発現した! しかし、そんな便利なスキルが放っておかれるわけもなく、はぐれ者の魔女、孤高の天才幼女、マッドサイエンティスト、魔女狩り集団、最強の仮面騎士、深窓の令嬢、王族、謎の巨乳魔術師、エルフetc、ヤバい奴らに狙われることに……。挙句の果てには人助けのために、危険な組織と対決することになって……? 「俺はただ平和に暮らしたいだけなんだぁぁぁぁぁ!!!」 そんなリックの叫びも虚しく、王国中を巻き込んだ動乱に巻き込まれていく。 無双あり、ざまぁあり、ハーレムあり、戦闘あり、友情も恋愛もありのドタバタファンタジー!

【完結】魔王を倒してスキルを失ったら「用済み」と国を追放された勇者、数年後に里帰りしてみると既に祖国が滅んでいた

きなこもちこ
ファンタジー
🌟某小説投稿サイトにて月間3位(異ファン)獲得しました! 「勇者カナタよ、お前はもう用済みだ。この国から追放する」 魔王討伐後一年振りに目を覚ますと、突然王にそう告げられた。 魔王を倒したことで、俺は「勇者」のスキルを失っていた。 信頼していたパーティメンバーには蔑まれ、二度と国の土を踏まないように察知魔法までかけられた。 悔しさをバネに隣国で再起すること十数年……俺は結婚して妻子を持ち、大臣にまで昇り詰めた。 かつてのパーティメンバー達に「スキルが無くても幸せになった姿」を見せるため、里帰りした俺は……祖国の惨状を目にすることになる。 ※ハピエン・善人しか書いたことのない作者が、「追放」をテーマにして実験的に書いてみた作品です。普段の作風とは異なります。 ※小説家になろう、カクヨムさんで同一名義にて掲載予定です

側妻になった男の僕。

selen
BL
国王と平民による禁断の主従らぶ。。を書くつもりです(⌒▽⌒)よかったらみてね☆☆

性悪なお嬢様に命令されて泣く泣く恋敵を殺りにいったらヤられました

まりも13
BL
フワフワとした酩酊状態が薄れ、僕は気がつくとパンパンパン、ズチュッと卑猥な音をたてて激しく誰かと交わっていた。 性悪なお嬢様の命令で恋敵を泣く泣く殺りに行ったら逆にヤラれちゃった、ちょっとアホな子の話です。 (ムーンライトノベルにも掲載しています)

義兄の愛が重すぎて、悪役令息できないのですが…!

ずー子
BL
戦争に負けた貴族の子息であるレイナードは、人質として異国のアドラー家に送り込まれる。彼の使命は内情を探り、敗戦国として奪われたものを取り返すこと。アドラー家が更なる力を付けないように監視を託されたレイナード。まずは好かれようと努力した結果は実を結び、新しい家族から絶大な信頼を得て、特に気難しいと言われている長男ヴィルヘルムからは「右腕」と言われるように。だけど、内心罪悪感が募る日々。正直「もう楽になりたい」と思っているのに。 「安心しろ。結婚なんかしない。僕が一番大切なのはお前だよ」 なんだか義兄の様子がおかしいのですが…? このままじゃ、スパイも悪役令息も出来そうにないよ! ファンタジーラブコメBLです。 平日毎日更新を目標に頑張ってます。応援や感想頂けると励みになります♡ 【登場人物】 攻→ヴィルヘルム 完璧超人。真面目で自信家。良き跡継ぎ、良き兄、良き息子であろうとし続ける、実直な男だが、興味関心がない相手にはどこまでも無関心で辛辣。当初は異国の使者だと思っていたレイナードを警戒していたが… 受→レイナード 和平交渉の一環で異国のアドラー家に人質として出された。主人公。立ち位置をよく理解しており、計算せずとも人から好かれる。常に兄を立てて陰で支える立場にいる。課せられた使命と現状に悩みつつある上に、義兄の様子もおかしくて、いろんな意味で気苦労の絶えない。

処理中です...