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古代要塞アルカドビア、古からの慟哭編
10.相手を抑えるのも愛のうち
しおりを挟む「ええ!? ろ、ロクとブラックがヤドカリを突っつきに行ったって!?」
起きてすぐ、いつの間にかベッドの横に座っていたクロウが伝えてきたことに、俺は思いっきりビックリしてしまった。
どうやら俺達がえっ……えっち、した後に帰ってきたっぽいんだけど、何も言わないところをみると、多分最中を見たワケではないはず……いや、それはともかく。
だから、その、ロクショウに見せられないシーンは見られてないと思うし、クロウも、多分大丈夫……じゃねえ、コイツ獣人だから匂いでえっちしたかどうかも分かるんだったぐあああああああ死にたい。
う、うぐぐ……でも今はそんなことで死んでいる場合ではない。
ブラックとロクショウの話を聞くのが先だ。
クロウに聞いたとき、相手は確かに「ヤドカリがどういう能力を持っているのか試しに行った」なんてサラッと言いやがったが、それが本当ならヤバい。
もしかしたら、予想以上の強さかもしれないんだ。そんな、そんなのを相手にする時に傍に居られないなんて……っ。
「二人だけでないぞ。兄上とナルラトも一緒だ」
「だ、誰が一緒だろうが危険だってば! なんで俺も連れて行ってくれなかったんだよ、みんなに何かあったら……」
相手がもし怪獣みたいにレーザーみたいなモノを吐きだせるとしたら、そんなものを食らってしまうとどうなるか分からない。
ブラック達が死ぬなんて思ってないけど、でも。
「あまり心配するものではないぞ。それでは、ブラック達が弱いようにみえるだろう」
「う……そ、そんなこと絶対にないけど……でも、強くたって怪我はするんだから心配になるだろ。強かったら、酷い怪我しても平気なフリとかしちゃうだろうし……」
俺だって、ブラック達が弱いなんて思ってない。
……ブラックは……誰より強いって、俺は何故か確信しているんだ。どんな相手でも、例え一度負けたとしても、最後には必ず勝ってくれる。もし普通の関係だったら、俺はきっとブラックのデタラメな強さに憧れていたかもしれない。
そのくらい、負ける姿が想像できなかった。
でも……それと怪我をするかどうかってのは別だ。
俺は、怪我の恐ろしさを知っている。大事なヤツが酷い怪我を負った時の、自分の体が冷たくなっていく感覚や、相手が“死ぬかもしれない”と考えた時のあの絶叫でもしそうなほどの恐ろしい感覚を知ってるんだ。……ガキの、頃から。
だから、喧嘩なんてしたくない。人を傷つけたくない傷ついてほしくない。
大事なヤツが傷つくなら、俺が傷つくことで守ってやりたい。
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むしろ今、こ……こんな関係、だからこそ……余計に、イヤになるんだよ。
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だから、ブラックが頷いてくれる限りは一緒に戦いたいと思ってるのに……。
「……ツカサ、お前も男なら分かるだろう。心配してもらえるのは嬉しいことだが……愛するものを己の力で守るという行為以上に、誇らしいことはない。そのために己の力を誇示するのは、もっと誇らしい……と」
「…………」
それは……悔しいけど、わかる。
俺だって格好よく戦いたい。それが人を守るための戦いなら、なんだって出来るような強さが湧いてくる。大事な人を守るためなら、殴られたって関係ないんだ。
大事な人や女の子が「ありがとう」って心底安心して笑ってくれるんなら、それだけで戦った甲斐があるって思ってしまう。
人のために戦うのって、自分の力を正当に認められたみたいで嬉しいんだよな。
きっとそれは人間であれば、誰だろうと感じることなんだろうけど。
でも日本男子……いや時代劇を見て育った俺としては、やっぱり女子供や大事な人を守る行為をカッコいい漢気だと思ってしまうワケで。
だから、男として……って考えちゃうのは痛いほど理解できる。
……ブラックだって、ロクだって、そう思ってるんだろうことも。
「ツカサ、大丈夫だ。あのブラックだぞ。何度殺したって死にそうにない恐ろしいヤツなんだ。きっとロクショウ達すら無傷のままにして、じきに帰ってくる」
「うん……」
とはいえ、それで心配せずにいるなんてことも難しい。
それはクロウも分かっていたのか、ベッドに座ったままの俺に近づこうと、ベッドの上に乗り上げてくる。ギシ、と大仰な音が鳴って、クロウが乗った分沈むベッドに少し体を緊張させると、相手は俺の髪に鼻を埋めながら抱き寄せてきた。
「案ずるな……というのも無理な話だろうが、お前をオレがこうやって慰めているのを、ブラックが黙って許容するはずもない。きっと、こうなることすら見越したうえで即座に帰ってくるつもりだろう。そうは思わないか」
「それは確かに……そう、かも……」
確かに、ブラックなら何かとクロウを警戒してすぐ帰ってきそうな気がする。
本当は無断でそんな事するようなヤツじゃないって分かってるだろうけど、それでも何故か嫉妬しまくって過剰反応するからなぁ。
そう考えると、ブラックがあえて出撃したのも「そうする余裕があるから」と取れる。
……なら、心配しなくても大丈夫なのかな。
ブラックは頭もいいし腕っぷしもあるし、きっと……みんな大した怪我もなく連れ帰ってくれるだろうし……。
…………な、なんか……俺がうぬぼれてるみたいだし、ブラックのことを盲信してるみたいで恥ずかしいけど、今までがそうだったんだからそう思っても仕方ない。
ゴホン、ともかく!
クロウが励ましてくれるんだし……心配し続けるのも悪いよな。
俺だって、信じてないわけじゃないし……。
うん、そうだな。心配するだけじゃなくて、俺にできることをやろう。そういえば……【回復薬】の在庫もちゃんと確認してないし、術の練習だって中途半端だ。これを機に一度持ち物の確認をしておこう。どんな戦いになるかも分からないしな。
よし、そうとなったら……。
「ツカサ、元気が出たようだな」
「おうっ。ともかく俺にできること、を……いやあの、クロウ……」
「なんだ」
「げ、元気が出たので……髪をスンスンするのちょっとやめて……」
あとできれば抱きしめてる腕も離してください。
なんか意識がはっきりしてきたら、だんだん腰とかケツ肉とか変なとこが痛くなってきた。きっとブラックのせいだ。アイツが俺を正座みたいな体勢にして、後ろから遠慮もなくガツガツと……っ。
「ム……顔が赤いな。どうした、まだ耳を舐めてもいないのに早いぞツカサ」
「~~~ッ! そっ、そんなことしようとするなよっ!」
逃げようとするが、やっぱりというか何と言うか、腰も肩もクロウのでっかい手にガッチリ掴まれていて動けない。こうなってしまうともう首しか動かせないが、そんなことをしても無駄でしかなかった。
しかし、このままだと非常にやばい。
ただでさえ変な体勢でブラックに無茶をさせられて体中ギシギシ言ってるってのに、このうえクロウにまで何かされたら俺は死ぬぞ。
具体的に言うとギュッてされただけでも疲労した筋肉が逝く。
さすがにもう痛みで悲鳴を上げたくはない。人を守るとかそういう話じゃなかったら俺は非力なのだ。もうちょっとの痛みでも耐えられないのだ。
なので頼むから解放してくれと懇願するが、クロウは離してくれない。
自分だけ仲間外れだったのがよっぽど嫌だったのか、宣言通り俺の耳に口をピタリとくっつけてきて、低くてお腹に響くような大人の声でわざと「どうした? もっと耳が熱くなったぞ」とかとんでもないことを言ってくる。
こ、こいつ……っ、元気になったらまた調子に乗って……!
「もしかして、ブラックと交尾した余韻でも残っているのか。それは妬けるな……オレだって、ツカサを貪り尽くして思う存分舐めまわしたかったのに……」
「ひっ……ぅ、だ、だから、耳元で喋るのゃめ……っ」
腹の奥に響くような声だけじゃない。熱い息が吹きかかって、クロウの前髪が顔に触ってくすぐったくて、体中がぞくぞくしてくる。
それに、クロウから恥ずかしいことを言われると、さっきまでこの部屋で行っていた事の記憶と今の状況が重なって、余計にいたたまれなくなってきて。
せっかく何かしようって決めたのに、なんでこんなことになってるんだよ!
「声が高いな……オレに触れられてもそういう可愛い声を出すなんて、あとでブラックに仕置きをされても知らんぞ?」
「い、今さらなことを……っ。もうっ、や、やめろってば……っ」
もう絶対からかってる、クロウのヤツ絶対に俺をからかって遊んでる!!
なのになんで俺は耳元で囁かれるたびに声が変にひっくり返っちゃってるんだ。耳がくすぐったいだけなのに、へ、変なところが反応したりもしてないのに……っ!
「ツカサ……ブラックが帰ってくるまで、オレと遊ぶか……? 久しぶりに、お前の股倉に顔を埋めて何時間も絞り尽くすのも楽しそうだな」
「うぅうっ……!? や……ちょっ……そ、そんな、バカなこと……っ」
そんなことされたら、本当におかしくなる。
まだブラックにされたのでお腹の奥が変な感じになってるし、そのせいでクロウの耳への攻撃だっていつも以上に効いてるのに、これでまたえっちな事をされてしまったら、今度こそ本当に狂ってしまう。
いくら気持ちよくたって、続けざまに何度も頭に叩き込まれたら辛いんだぞ。
さ、さっきだって、なんか、覚えてるだけで俺、何度もブラックに「ゆるして」とかって、い……い、いいい、言った記憶あるし……ぃ、ぃいいああもうまた恥ずかしくなってきちまったじゃねーかあああ! クロウのバカ! おたんこなす!!
「ふふ、良い匂いがしてきたな……美味そうだ……」
「ぐわーもうやめろってばー!!」
このままだと本当にクロウに頭をおかしくされてしまううううう。
なんとかして抜け出したいけど、どうすることも出来ない。ああもう、なんで曜術ってのは、術者がパニクッてると使えなくなっちゃうんだっ。
いやまあイメージとか精神状態で強さを調整するワケだし、そりゃ混乱したり恐怖に負けてたら使えなくなっちゃっても仕方ないけどさあ!
でもこんな時にこそ、相手の頭に水をぶっかけて頭を冷やさせたかったんだが……とか、嘆いていると。
「なんだ、匂い付けの最中か?」
その誰かの言葉に、クロウの動きがピタリと止まる。
だが俺もその声に聞き覚えがあって、すぐさま助けを求めて振り返った。
「あっ、で、デハ……」
「…………」
「お、お兄ちゃんちょっと来て、俺を抱えてくださいっっ」
「うむよかろう妹よ。そのおねだりは良い妹おねだりだぞ」
イモウトオネダリってなんですか。
果てしなく意味不明な言葉に一瞬意識が遠くなったが、とにかくクロウの魔の手から逃れるべく、性欲ゼロの兄上様に抱っこしてもらう。
正直ブラックのせいで下半身がほぼ動かなかったので助かった……。
「ムゥ……ツカサ酷いぞ。叔父上にねだって逃げるとは」
「アンタがすさまじいこと言って俺を困らせるからだろうがっ!」
「ム? それはいかんぞクロウクルワッハ。メス、ひいては妹には優しくせんか。子を産む大事な体に無理をさせるものではないぞ」
そうそう、デハイアさん良いことを言うじゃないか。
俺は子供は産まないが、組み敷かれる側の事も少しは労わってほしいものだ。
「疲れているメスに匂い付けをするなら、せめて子種汁をかけるくらいにしておけ。尻だけではなく体中全部だぞ」
……前言撤回してもいいかな。
なんでそんな話になるんですかねえお兄様!!
「すみません叔父上、ツカサが可愛くてついからかってしまいました……。まあ、股倉に何時間も吸い付きたいのは本当ですが」
「ハッハッハ、お前も言うようになったな色気づきおって! 我が愛しの妹スーリアが知ったら、さぞ喜んだだろう」
ナニのどこを喜ぶんですかねえ!!
どっちかっていうとそれお母さん泣きませんかね!?
自分の息子がめっちゃヤバいことサラッと言うようになっちゃったって……いや二人は獣人だから、全然おかしいと思わないのか。ああもう異文化ギャップだこれ!
「も、もうその話は……っていうか、お兄ちゃんはどうしてここに……」
こうなったら話題をガラッと変えるしかない。
そう思って素朴な疑問を問いかけた俺に、デハイアさんは何のために来たのかを思い出したようで「おおそうだ」と話し始めた。
「クロウクルワッハ、お前は土の曜術が使えたな。そして妹よ、お前も薬品の調合が出来るらしいな? そのことで少し頼みがあると、ジャルバが言っていたのだ。それで俺がお前達を呼びに来たというわけだ。俺は王宮での目立った役職がないゆえ、食客のような扱いでだいぶん暇だからな」
「ジャルバさんが……?」
「それは、オレ達にできることであれば……。いいか、ツカサ」
少し戸惑ったように言いつつ問いかけてくるクロウに、俺は頷く。
元から役に立ちたいと思っていたところだ。彼らが俺に何かをしてほしいと思うのであれば、俺が拒否する理由もない。俺だって協力したいからな。
「二人とも異論はないようだな。では、ジャルバのところへいくぞ」
言って踵を返し歩き出すデハイアさんに、クロウが慌ててついてくる。
そうして隣につくと、どこか少し拗ねたようにデハイアさんと俺を見た。
「……ところで叔父上、どうせならツカサはオレが抱えたいのですが……」
クロウがそんなことを言うと、デハイアさんは甥を一瞥してハッハと笑った。
「好きなメスについ情欲をぶつけてしまうような青いオスには、今の妹のニオイなど刺激が強すぎるわ! 少しは頭を冷やせ。……お前も、犯されつくして動けなくなるのは避けたいだろう、ツカサよ」
「は、はい……」
「グゥ……」
クロウは残念そうに唸るが、俺としては物凄く助かった。
……やはり、デハイアさんにもクロウが興奮しているように見えたということなのだろうか。そんだけダダ漏れだったなら、本当にブラックが帰ってくるまで股間から顔を離して貰えなかったかも……う、うう、背筋が冷えてきた。
いくら大事な相手でも、狂うまで気持ち良くさせられるのは怖すぎる……。
今日は力で押し負けてしまったが、自分でなんとか自制させられるようにしないと、このままだといつかマジで頭をおかしくされるかもしれない。
そうならないように、俺も頑張らないとな。
……まあ、その前にまず筋肉をつけろって話なんだが……。
…………はぁ……道は遠い……。
今はせめて少しでも誰かの役に立てるように頑張ろう。
→
※ちょっと遅れました(;´Д`)スミマセン
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