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古代要塞アルカドビア、古からの慟哭編
ハイテク機器は突然に2
しおりを挟む「うわっ!! いっぱいいる!!」
「なにこれ虫? 木のウロで冬を越す虫の大群か何か?」
「ヌゥ……残念ながら害虫ではなく粘着狼どもだ」
なんかオッサン二人が辛辣な事を言っているが、詳しく聞いている場合ではない。
ボードに映し出された防壁の外の光景は、さきほど見た王宮側の防壁の映像とは全く違い――――数百の獣人が群れて、こちらを睨みつけている様子だった。
防壁の上から撮影しているものなので、さすがに一人一人の詳しい顔などは判らないけど……それでも彼らには皆おなじ耳と尻尾がついていることが見て取れる。
クロウが「粘着狼」と言っていたが、あれが“嵐天角狼族”なのだろうか。
そう言われてみれば、あの【古都・アルカドビア】の地下牢前で出会った同種族の「頭の息子」と名乗ったヤツの恰好に良く似ている。
耳はワイルドに毛が逆立つ感じの狼耳で、尻尾は意外にもモフモフしている。
冬毛でも無いのにと思ったけど、そういう種族なのかも知れない。なんせ、神獣とも呼ばれる“二角神熊族”と争うくらい武力のある一族だもんな。
みんな揃ってガタイも良いし、男女ともになんか毛皮でうまいこと山賊スタイルの服を作ってて、荒事が得意そうな筋肉集団と言ういでたちだ。
……普通、筋肉ムキムキマッチョマンな山賊っぽい獣人って、熊さんの方じゃないかと思うんだけど……ま、まあそこは俺の偏見ってヤツだな。
ともかく、嵐天角狼族は、王都の門から数百メートル離れた場所で雑に広がり、門に向かって睨みを利かせているような状況だった。
これはまあ、よくある威嚇行為ではあるけど……。
「……なんで門の前だけなんだろう。強い種族だったら、王宮に近い壁の方からソッと登って来て奇襲を掛けたりしないのかな」
こういう場面じゃよくある手だよな。
ハデに真正面からぶち当たり、敵がその対処に追われているスキに、少数精鋭が他の場所から侵入して敵を倒す……みたいな作戦が。
……良く考えたら厄介にもほどがあるんだけど、こういう作戦って主人公側の方がよく使うんだよな。今となってはちょっと何とも言えない気分だ……。
でも、俺だって思いつくんだから敵も普通に思い付いているはず。
なのにそういう事をしてないってのが不思議だ、と俺は思ったんだが。
「えっ……ツカサ君でもさすがにそういう案は浮かぶんだ……?」
「バカにしてんのかバカにしてんなテメーぶっとばすぞ」
このオッサンはすぐこうやって俺をナチュラルにコケにするうううう。
なんでお前はそう俺をザコ扱いすんだよっ! いやまあ仕方ないトコもあるけど!
「イヘヘヘヘ、つかしゃふふ、ほっへひっはうほやめへ~」
「微塵も痛いと思ってない癖にぃいいい」
「どうどう、ツカサどうどう。……ともかく、確かにツカサの言う通りだ。普通なら、本気で国を盗りに来ようとする輩はそのような搦手も使う」
ぐうう、クロウに窘められてしまった。
でもまあ仕方ない。こんな状況で喧嘩してる場合じゃないもんな。
ブラックのほっぺを引き延ばすのをやめて映像に向き直ると、クロウはゴホンと咳を漏らして腕を組んだ。
「……だが、その予測には一つ問題があるのだ」
「問題?」
「まあ、簡単に言えば……あいつらが、想像以上のアホという問題だ」
…………。
…………うん?
今一瞬耳を疑ったが、再度クロウを見ても訂正してくれない。
ということは……俺がさっき聞き取った言葉は間違いじゃないのか。
アホか。本当に彼らはアホだとでもいうのか。確かにあの息子は凄くカンタンそうな感じだったけど、いやしかし全員がアホってわけじゃないはず……。
だが、クロウはそんな俺の予想を裏切り呆れたような鼻息を漏らす。
「嵐天角狼族は、確かにデイェル……特殊技能も武力も神獣に次ぐ実力があるが、自惚れがちで相手を見下し慢心する事が多く……品性が下劣なのだ」
「そ、そんなメチャクチャに貶さなくても……」
「事実だから仕方あるまい」
う、ううん……まあでも、クロウがハッキリとこんな事を言うんだから、嵐天角狼族は色々と言いたい部分がある一族では有るんだろう。
そういえば、自称ライバルだとか国をしょっちゅう奪おうとしてくるけど毎回返り討ちだとか色々言われてたしなぁ……。
クロウ達王族からすれば鬱陶しい敵だろうし、まあ辛辣になっちゃうか。
「でも、それだけで断定しちゃっていいの? アイツら多分【黒い犬のクラウディア】の手下として動いてるし、そもそも王都を奪おうと何度も仕掛けて来てるんだろ? それなら、入れ知恵されたりしてるかも……」
「そういう懸念も無くは無いが……あいつらは恐らく、囮かオレ達が万が一外に出た時のための引き留め役だろう。もしくは……大将が来るための、時間稼ぎか」
「どういうこと……?」
囮か引き留め役って、やっぱり狙いは別に存在するんだろうか。
首を傾げた俺に、横からブラックが口を挟んできた。
「要するに、あの黒い犬たちがこっちにやって来るまでの時間稼ぎさ。何を用意して来るのかはナゾだけど……まあ、何にせよ迂闊には動けないだろうね。なにせ――こちらが何をしようが“この場に縛り付けておけば完成する”作戦なんだろうし」
「え……それ、どういう……」
時間稼ぎ、ならまだ判るけど。
でも、こちらを王都に縛り付けておけば完成する作戦って、なんだ?
ブラックは既に何かを理解しているんだろうか。
なんだかよく分からなくて眉根を寄せると、ブラックは俺にニコッと笑った。
「相手が攻撃を既に仕掛けて来てるってことだよ」
「ふむ……確かに、この不自然な膠着状態を作り出すのは、あいつらの過去の行動からすると奇妙に思える。だとすると、やはり、黒い犬の一味が裏で動いているのだろうな。……しかし、何をするつもりだ?」
クロウも、狼達が今みたいな状態で待っているのはおかしいと思っているらしい。
いつもならすぐ戦を仕掛けて来るんだっけか。確かにヘンだよな。
そうなると、やっぱり嵐天角狼族は【黒い犬のクラウディア】達に、なんらかの指示をされて、いつもとは違う行動を起こしている事になるけど……。
でも、それでどうするというのだろうか。
「援軍が到着するのを待つ」という簡単な作戦でもなさそうだし、彼らが陽動してる隙に背後から回り込むって感じでもなさそうだ。
いや待てよ、これも漫画とかアニメでよくある展開のような気が。
……だったら……もしかして、だけど……。
「もしかして……殺戮兵器とか、そういうのを起動させてこっちに寄越す時間稼ぎをしている……とか……?」
――――古今東西、ファンタジーな戦争モノによくある展開はコレだ。
敵を足止めしている間に決戦兵器がそこに到着し、一騎当千の戦いを見せて味方の軍の劣勢を覆すのだ。主人公がやるとカタルシスがハンパなくて、思わずオオッと興奮してしまう王道のシチュエーションだけど……考えてみれば、そういう展開は敵でもあり得るモノなんだよな。
こちらを混乱させて時間を稼ぎ、とんでもないモノをお出しして来る……なんてのは、主人公の専売特許ではないのだ。
思い付けば誰だってやることでしかない。
それは俺だって分かってるんだけど……いざ自分がそんな場面に出くわしてしまうと、本当にそんな事が起こっているのかと疑いたくなってくる。
だけど、俺の疑いは無残にもスパッと切り捨てられた。
「まあ、その可能性が高いだろうね。……相手の望みからすれば、すぐに攻撃して僕達を殺すような事はしないだろうけど、恐らくは神獣に対抗できるほどの何かをココに持ち出してくるつもりなんだろう」
「そんなもの、他の神獣でも難しいぞ。唯一オレ達が完全に負ける相手がいるとすれば、筆頭に海征神牛王陛下が挙げられる“三王”だけだ。しかし、彼らは獣人同士の戦いには絶対に手を出す事は無い。狼ども一万匹でも王族数匹に叶わないと思うのだが……」
確かに、デタラメな力で「獣人最強」とまで言われるチャラ牛王……海征神牛王なら“二角神熊族”を殲滅する事も出来るだろう。
でも、彼らは戦いに直接手を出す事は無いのだから、ありえない話だ。
……もしかするとそうでもないのかも知れないが、今は置いておこう。
とにかく、クロウからすると自分達に叶う獣人族はいないとのことだった。
随分と自分達の強さを信じているが、これはクロウが実際に感じている事だろうし、それに……俺もドービエル爺ちゃんの事を考えると、あの巨体と強さに対抗できる獣が居るとは思えない。
だから、クロウの話は恐らく確かな事なのだ。
けれども……じゃあ、ホントにこれは時間稼ぎなのかって問題が出てくるわけで。
そんな俺の疑問を、再びブラックが読み取ったように答える。
「獣人に、お前達を殺せる存在が居ない……ってのは自惚れも良い所だが、まあソレが本当だとしても……お前は、僕に勝てないだろう?」
そう言いながら、ブラックはクロウをジッと見つめる。
菫色の綺麗な瞳に、橙色の宝石みたいな瞳がかち合って、暫し沈黙が訪れる。
真剣に視線を交わす二人の間に居る俺は、緊張するばかりだったが――クロウは、ブラックが何を言わんとしているのか解ったのかハッとして目を見開いた。
「そうか、あの【教導】どもが何か曜術で……!」
「気付くの遅すぎだろ駄熊が。……相手の物資がどのくらい残ってるのかは不明だけど、もし獣人を簡単に殺す事が出来る方法があるとすれば……それは、人族が使う【曜術】しかないだろう」
何故そう断言できるのか。
他にも特殊技能とか色々と不思議なの力は有るというのに。
「だがブラック、曜術で簡単にオレ達が死ぬと思うか?」
そう。クロウも言う通り、人族の【曜術】は彼らの特殊技能と同じような者なんだから、弱点って言えるほど簡単に殺すほどの威力は無いと思うんだが。
いやまあ、術者にもよるだろうし、ブラックのように“限定解除級”という最高位の力を持っているなら、そら誰にだって脅威になるだろうけども……。
一緒に首を傾げる俺とクロウに、ブラックはハァと溜息を吐いて指をさした。
「お前ら、半分はモンスターだろうが。そんな事も忘れてるのか? 自分達じゃ気付いてないかも知れないが、モンスターにとっては【曜気】はエサかもしれないが【曜術】は弱点なんだよ! 武器での攻撃と違って、体の修復が大幅に遅れるからな!」
「……!?」
初耳だ、と言わんばかりに目を丸くするクロウ。
いや、あの、俺も初耳なんですけど。
……でも言われてみれば、曜術師がどんだけ性格最悪でも冒険者ギルドでは引く手あまたな理由に納得がいくな。
遠距離攻撃や様々な後方支援をしてくれるから重宝される面もあるんだろうけど、それ以外でも攻撃手段として優秀すぎるから、仕事が途切れないのだろう。
【曜術】がモンスターを確実に弱らせる方法なら、そら人気者になるよな。
この世界の曜術師って、強くなればなるほど性格がヤバいらしいんだけど……そう言う認識が有っても敬われたり人気者だったりするのは、やっぱりモンスターと戦う者としての能力が優れているってのが理由だったのか。
今更ながら初めて知ったが、しかしそうなると……――――
「ぶ、ブラック、じゃあクラウディア達は……クロウ達を確実に殺すための曜具を用意してるってことなのか……?」
「ありえない話じゃないよ。……まあ、予想でしかないけどね。でも、相手は恐らく、何らかの巨大な術を使用して来るだろう」
まるで予言めいた言葉だ。
どうしてそこまで予想できるのかと少し不安になった俺に、ブラックは落ち着かせるためか微笑み、横から体をぎゅっと押し付けてくる。
「ちょっ、お……おいっ……」
「んも~ツカサ君心配しないでっ。相手もすぐに仕掛けて来る事は無いさ。あの黒い犬の思想を【教導】達があくまでも尊重するなら、ここに到着したら先日みたいに王都の国民達に対して何か言うだろうしさ」
「あ……そ……そう、だな……」
ちょっと気になる部分がある話だが、しかしあの【黒い犬のクラウディア】が本当に国を滅ぼしたいだけで国民は殺したくないと思っているなら、そういう命乞いタイムも当然作ってくれるはずだよな。
真面目そうな感じだったし、洗脳されていなければ……たぶん……。
「だからさ、とりあえずは……こっちも偵察して見てとりあえず様子を見てみよう。この狼どもの肉壁に惑わされずにさ」
またとんでもない暴言を吐くが、そんなブラックのいつもの態度を見ていると、俺も緊張するのが馬鹿馬鹿しくなってくる。
……うん。そうだよな。
ブラックがいつもの調子なんだから、俺が慌ててたってどうしようもない。
ここは冷静になって、事の成り行きを見定めよう。
「だが、とりあえずこのことは父上に報告しておかねばならんな。ツカサ、ブラック、朝から面倒をかけるがついて来てくれ」
「おうっ!」
「はぁ~……しょうがないなぁ……」
こんなやりとりも、いつもの調子だ。
朝から全く焦りもしない二人のオッサンに、俺はつい軽く笑ってしまった。
→
※ちと遅れましたスミマセン…(;´Д`)
思ったより長くなっちゃった
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