異世界日帰り漫遊記!

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古代要塞アルカドビア、古からの慟哭編

  風呂場で慰労はいけません3

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「ほら、座って。手早くパパッとやるから」
「えぇ~……僕だけは全身くまなく塗ってくれても良いじゃないかぁ」
「アンタの目からはよこしまな企みを感じるから嫌だ」

 ていうか絶対何かしようとしてただろ。俺を丸め込もうったってそうは行かないんだからな。今回こそは、えっちなことも無く普通にマッサージを終わらせるんだ。
 ブラックの思うようにはならないからな!

 と、俺がせっかく気合を入れたのに、ブラックはニヤニヤしながら俺を見て来る。

「え? 僕は別にそんなこと考えてないけど……あぁ~っ、ツカサ君ってばもしかして期待しちゃってるのかなぁっ!?」
「バッ……ち、違うっつーの! アンタが毎回変なことするから警戒してるんだよ!」
「またまたそんなこと言って~」

 だーもーなんでコイツはこう俺の言葉を逆手に取るんだっ。
 俺は期待なんてしてないし、そもそもアンタが毎回毎回変な事をするから……ああもうニヤニヤするなってば!

 やめんかと背中をバチンと叩くが、ブラックへのダメージはゼロだ。
 チクショウ。戒めの意味も込めて力を籠めた張り手を贈ったというのに、レベル差が有り過ぎて全然効いてねえ。

 この世界にレベルの概念が有ったら、俺はせいぜいレベル二桁で、ブラックは三桁とか行ってそうだからな……ぐうう……勝てる所が若さしかねえ。
 でもだからってパワーも圧倒的に負けてるからな……この場合俺はどうやってこの強いオッサンに勝てばいいのだろうか。知識も全然敵わないし。

 いや、でも、アレだ。女性への優しさでは俺の圧勝のはず。
 そこだけは負けない……って何を考えてるんだ俺は。

「あーもー、いいからさっさとやるぞ!」

 とにかく話のコシを折る事には成功したのでそう言うと、ブラックは不貞腐れたように口を尖らせてぶーぶーと不満を漏らした。

「んもう、ツカサ君たらノリが悪いなぁ」
「この状況で変な事を言えるアンタが豪胆すぎるんだよ……」

 まあ、それくらいじゃないと長年冒険者なんて出来ないんだろうし、ブラックみたいに強くなれないんだろうけども。
 しかし、おちょくるにしても時と場合を考えて欲しいもんだよまったく……。

 ともかくやるぞ、と、謎鉱物を取り出した俺だったが、そういえばブラックの背中には長い髪が張り付いている事に気付いた。
 クロウとルードルドーナは自分から髪を除けてくれたし、残り二人は短髪だったから気にならなかったんだけど……そういえばブラックって髪の毛に無頓着だったな。

 だから今まで伸ばし放題で、髪の毛も今よりボサボサしてたし。
 ……思えば、せっかく似合ってる赤い髪なのにそんな事になってるのが勿体なくて、俺が自らブラックの髪のお世話をし始めたんだっけ。

 そのおかげで今じゃブラックの髪はウェーブがかった髪でも指通りが良いし、するっと流れる感じの艶やかさを手に入れたんだけど……さすがにこのヌルヌルの液体に触れさせたら、髪に悪いかもしれないな。

「ブラック、髪をちょっと上げるかよけてくれる?」
「ん~……面倒臭いなぁ~……こう?」

 面倒だと言いつつも渋々やるのがブラックらしい。
 ちょっと笑いつつ、その様を見守っていると……――――

「……どう? 髪の毛残ってない?」

 何故か少し面白そうに言いつつ、こちらを軽く振り返ってくるブラック。
 両手を後ろにして髪の毛を纏めて掴み、ゆっくりと後頭部に上げているそのポーズを見て、俺はつい息を飲んでしまった。

 だ、だって、その……。
 髪を上げたブラックのその背中が、なんというか……あ、あんまりにも、男らしいって言うか……その……その状態でこっちを見られると、なんか、なんというか……っ。

「う……ぅ、ぁ……えと……」
「ツカサ君?」
「あっ……あ、あっ、えっと、な、なんでもない……っ! そう、そのまま前に逃すか、手で持ってて……」

 咄嗟に声が出たので、なんとか何でもないような雰囲気で返す。
 だけど、正直胸がばくばくしていた。

 何でって、その……別に、色っぽいとか、えっちだとか思ってたわけじゃないのに、ブラックが髪を上げてる背中を見たら……あの……ど、ドキッと、しちゃって……。

 …………べ、べつに、えっちな気分になったワケじゃないぞ!?

 何て言うか、て、手をあげると背中の筋肉や肩甲骨が浮き上がって、男らしい背中が強調されてしまったというか……。
 それに、その……なんか……うなじと、横顔になんか、心臓がギュッとして、何にも言えなくなってしまったというか……。
 …………う、ううう……治まれ、なんか変になった俺の心臓治まれ!

「ねえねえ、これで良い? ツカサくーん」
「ッは! お、おう良い良いそれで良い! 大丈夫!!」

 い、いつの間にか、ブラックは髪の毛を一纏めにして前の方に逃していたようだ。
 何だかドギマギしてしまったが、大人しく協力してくれてるんだ。変な事を言われる前に、さっさと作業を終えてしまおう。

 さっきの俺は、忘れよう。
 俺は別にドキドキなんてしてない。ポーズのせいで筋肉が強調された背中とか、髪の毛を上げる仕草にドキッとかしてないからな!!

 はー、はー……。の、脳内で自分に言い聞かせても虚しい。
 変な事してないで、さっさと液体を塗ってしまおう。

 俺は深呼吸をして冷静さを取り戻すと、さっきと同じ手順でピンクの液体をブラックの背中に貼りつけた。

「あっ。ツカサ君、ぬるぬるしてるよぉ」
「変な声出すなっ!」

 なんでそうお前はわざとらしい声を出すかなホントにもう。
 そんなんじゃ、俺は動揺しないんだからな。

 思わず熱くなる頬に騒ぎ出したくなるのを堪えつつ、俺はブラックの背中に液体をまんべんなく塗り始めた。

「はぁ~……これは結構イイねえ……。ツカサ君の小さな可愛い手が、背中を撫で回してくれるなんて……これはクセになりそう」
「表現も変な感じにするなってば……。気持ち良いのは鉱石の癒し効果だよ!」

 ぬめる手で液体をまんべんなく背中に広げつつ――うなじにも、ちょっと回す。
 太くてしっかりした首の根に思わず息を飲んでしまったが、何とか動揺を隠して俺は第一段階を終えた。

 ……そ、それにしても……やっぱりブラックの背中って、広い。

 俺が両手を広げて抱き着いたって、囲う事は出来ないのだ。
 でも、ブラックはいつも、この背中で俺を守ってくれる。こうなる前はちょっと怖いとも思ったけど、今となっては頼もしくて、何度見たとも知れない背中だ。

 広さならカウルノスに負けているし、大きさはドービエル爺ちゃんの方が大きいのに――それでも何故か、ブラックの背中を見ていると……心の奥がじんわり温かくなるような、むず痒くなるような不思議な気持ちになって来て。

 他の人の背中じゃこんな事感じないのに、どうしてかブラックの背中を間近で見ると、さっきの動揺とは違う感覚で胸が苦しくなってしまうのだ。

 ――――それが何か、なんて、恥ずかしくて言える訳がない。

 だけど、それだけ自分がブラックに対して“何か”を思っているんだと自覚してしまうと、どうしても顔が熱くなるのだけは止められなかった。

 ……うう……こ、こんな顔じゃ、ブラックの目の前に行けないよ……。

「ツカサ君、次は腕? ねえねえ、早くこっちきてよ~。見つめ合いっこしよ?」
「ぅ……ま、またアンタは変なコト言って……」

 ああもう、顔が見られない。
 もしかして、もう知られてしまってるんだろうか。だとするとヤバい。

 こんなの絶対にからかわれるのに……。

「あは……ツカサ君、ねっ、ほら……こっち来て?」
「ぅ、あ、ちょ、ちょっと……っ」

 引っ張られて、前髪から雫が飛ぶ。
 そう言えば俺は風呂場に居るんだった。今更そう思ってしまうほど、目の前の状況に気を取られてしまっていたようで、それに気が付く頃には……もうブラックの真正面へと連れ出されてしまっていた。

「ツカサ君っ」

 恥ずかしくて目を逸らそうとしたのに、ちらりと見えた相手の顔にまた息が止まる。

 なんとも、嬉しそうな……――

 表現してしまうと、俺が自惚れてるように思われてしまうような、表情。

 ブラック相手じゃないとそう思えないような、幸せそうな顔で、俺を見つめて来る。
 それが余計に恥ずかしさを煽るというのに、知ってか知らずかブラックは俺の腕を拘束したまま、俺をそんな表情で見つめ続けた。

「えへ……ツカサ君、いま僕のことすっごい好きって思ってるでしょ」
「ッ……! べ、べっ、別にっ、そんなの思って……」
「分かってる分かってる。ふへへ……ツカサ君は僕の恋人で、婚約者だもんねっ! だから、好き過ぎるのが恥ずかしくて意地を張っちゃうんだよねぇ」
「~~~ッ!? ちっ、違っ、俺は……っ」

 そうじゃない。ただ、ブラックの体に対して何故か急にドキッとしちゃった自分に恥ずかしさを覚えているだけで、すっ好き過ぎるとかじゃ……!

「えへへ……嬉しいなぁ……ねえ、ほら、早く僕の腕に塗って?」
「う、うぅうう……っ」

 なんとか反論しようと思ったけど、この状態じゃなんにも思いつかない。
 こうなったらもう、早く塗り終えてブラックを湯船にダイブさせる方が良いだろう。

 俺は熱でふやける頭で必死にそう考えて、ブラックの腕に液体を塗り始めた。

「ツカサ君にマッサージして貰うの、これで何度目かなぁ。へへ……この前のみたいな気持ち良いマッサージも良いけど……これも、ツカサ君がえっちなことしてくれてるみたいで興奮するなぁ……」
「ばっ……お、お前、こんなとこで興奮すんなよ! 他にもヒトが居るんだぞ!?」

 クロウだけならまだしも、カウルノスやルードルドーナも居るってのに、こんな状況で興奮するヤツがあるか。
 ヤメロと小声で諌めるが、ブラックは何がそんなに嬉しいのか浮かれ顔をして、俺が作業するところを見つめて来る。

「でも、ホントに気持ち良かったんだもん。ツカサ君が全身で僕の体を癒してくれるの……今度は、こういうぬるぬるを使ってもっとえっちなマッサージしようよ。ね?」

 こ、こんにゃろ、小声でまた変なこと囁いて来て……っ。
 だが我慢、我慢だ俺。もう残りは腕一本なのだ。ここは冷静に駆け抜ける!

「前は回復薬とか使ってたけど、こういう時に使うセックス専用の薬も有るってツカサ君知ってた? まあ、蔓屋行った事有るし知ってるよねっ。だからさ、今度は回復薬とぬるぬるした薬を使って、いつも以上に濡れ濡れのセックスを……」
「だーっ、もう終わり終わり! お湯でも被って頭冷やせコラーッ!!」
「ぶばぁっ。づ、づかじゃぐん、おゆじゃ頭は冷えない……」
「良いから黙ってろい!! ったくもう……!」

 こ、コイツはホントにもう……。
 小声だからギリギリ耐えられたけど、こんなヤバいこと人前でべらべら喋ってたら、俺の方が憤死してたぞマジで。何でコイツはこんな恥ずかしい事を恥ずかしげもなく宣言出来るんだ。なんだよ濡れ濡れって!

 ……ま、まあ……これで全部終わったし、もう憂いは無いはず。
 後は俺も体を一度流してお風呂に入るだけだ。

 そう思い、くるりと浴槽の方を振り返ると。

「………………」
「……コイツら全員、獣耳をこっち向けてやがる……」

 そう。
 ブラックの声の通り、四人ともこちらに背を向けてはいるが、その頭の上の獣耳を、ピンと揃えてこっちの方へ向け……む、向けて……。

 ちょっ……い、いや、待て、いくら獣人の聴力が優れていると言っても、流石にこの水音が耐えない大きなお風呂場なら、ブラックのさっきの小声も……。

「ツカサ君、あのネズミ野郎だけめちゃくちゃ体が赤くなってるんだけど」
「わーーーーっ!! 違います違います旦那ッ、おおおおオレ俺は何も聞いてないんですだからこれは湯あたりで!」
「なんだケチくさいな。睦言ぐらい野次馬させんか。どうせ交尾も匂いづけも見せる気なんぞ無いくせに」
「ムゥ……ブラックだけずるいぞ……」
「…………全く、これだから人族は……」

 あっ。
 こ……これ……やっぱり、全員聞いて…………。

「ツカサ君? あっ、つ、ツカサ君! わーっ、倒れちゃだめー!」
「ツカサ!」

 なんか、ざばーっと音が聞こえるけどもう視界がぼやけて判らない。
 あれ……なんで俺は天井を見ているんだろうか。頭の後ろがずきずきするが、もう何故そうなったのかすら分からない。

 ともかく恥ずかし過ぎて、もう目の前が真っ白になってしまった。











※ちょっと遅れちゃいました:(;゙゚'ω゚'):スミマセン
 スケベ入れたかったけど、流石にデバガメ五人は
 文字数が足りなくて断念……
 久しぶりにツカサがブラックにキュンキュンするとこかけて満足です

 
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