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古代要塞アルカドビア、古からの慟哭編
2.風呂場で慰労はいけません1
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何故だろう。
どうして俺は、こんな場所に居るのだろうか。
「おい愚弟、お前何故筋肉を腕しか出さない? せっかくそこまで鍛わっている体だと言うのに、なにを服ごときで見せないようにしている。出さんから余計に弱小家畜だと思われるんだぞ。もっと頭を使えバカめ」
「ム……いえ、あの……兄上、人族の大陸を旅するにはこの程度の露出でないと、警備兵に捕まる恐れがあるので……」
「そんなバカなことがあるかこの愚弟が。おい赤モジャ人族、お前のような半端な体毛なら隠すのも仕方ないが、愚弟の肉体で隠せなんてことはあるまい」
「お前も人族の大陸に来たら迷わず殺す程度には猥褻罪になりますよバカ殿下」
「ぶぶぶブラックの旦那ちょっ、ちょおいっ、ちょっ、ちょぉおおっ!!」
半裸のオッサンどもが、そろって脱衣所でズボンを脱ごうとしている。
そのちょっと後ろで、腰にタオルを巻いた素っ裸のナルラトさんが、ネズミの尻尾をシビビと恐怖に震わせながら丁度全裸になったブラックを窘めていた。
脱ぐだの裸だの全裸だの、もう俺は何を見ているんだろうか。
どうしてオッサンどもの脱衣をちょっと離れた場所で見てるんだろうか。
そういうビデオがあったらマニアに売れるのだろうか……などと現実逃避で変な事を考えてしまうが、もうこの状況を理解するのが嫌になってるので仕方ない。
こういうイメージビデオですとか言われた方がまだマシな状況だった。
そのうえ……。
「…………何故私もここにいるんですかね」
「そ、それはあの……エスレーンさんが、おすすめして下さったんで……」
そう。この広い脱衣所にはもう一人。
俺の横でドッと疲れたような顔をしているルードルドーナが呆然と立っている。
もう何度目かの「何故」だが、それでもまた「何故」と言ってしまうくらい「何故か」彼もお風呂に呼ばれてしまっていたのだった。
……っていうかもう、こんな状況でむさくるしい男が揃いも揃って一緒に風呂に入るように仕向けられてるってのが地獄だ。
ドービエル爺ちゃんとエスレーンさんが勧めてなければ、絶対にこんな事にはならなかっただろう。カウルノスはどうか分からないけど、少なくともナルラトさんとルードルドーナは絶対に一緒に入浴しなかったに違いない。
だけど、王命。
これは爺ちゃんの王命で決められてしまった事なのだ。
そして、ルードルドーナは最愛なのだろうお母さん……エスレーンさんに言われたのだから、逃げられようはずもない。
王命とお母さんからのお願い。武人的思考大好きな獣人と、両親が大好きな息子が、拒否する隙なんてミリ単位も無かったのである。
……だから、誰かと一緒に風呂に入ら無さそうな二人が俺達と一緒に風呂に入ろうとしているんだろうけど……正直ルードルドーナは居づらいのではなかろうか。
この人未だにクロウの事を許してないし、そもそも暗殺計画からイチ抜けしちゃったカウルノスに対しても良い感情を抱いてないだろうしな……。
それに、俺達に対しても人族への見下し感情バリバリだし。
まあ最後の点は典型的獣人思考だから良いんだけど、前の二点は現在進行中の件だし、恨み骨髄になっちゃってる可能性がある。
そんな状況なのに、一緒に風呂で汗を流そうぜってのは……爺ちゃんとエスレーンさん、いくらなんでもそりゃ酷ってモンですよ……。
でも……エスレーンさんからのオネガイだし、そうなると少なくとも風呂場では無茶な事はしないと思っていい……よな?
変な事して変な空気に成ったら、エスレーンさんだって気付くだろうし、占いをする人って雰囲気を読むカンが鋭いって言うし……多分、ヤバいことはしないはず。
そもそも、エスレーンさんと爺ちゃんは、不仲な三兄弟が仲良くなるようにと思ってルードルドーナを強引に風呂メンバーに加えたに違いないのだ。
この末っ子三男坊だってもう大人なんだから、きっと両親の意図は判るはず。
そう信じて……俺も、風呂に入るしかないか……。
いつまでもここで突っ立っていても、風呂は終わらないしな……。
「あの……ルードさんも、遠慮なく……。あ、もしかして、色んな人と風呂に入るのって苦手ですか? なら……」
「い、いや、そんなことはない。……行軍した時は、水が勿体ないから集団で水浴びをしたりするし……」
おお、意外と男らしい。
まあ腹筋丸出しの微妙に露出した獣人式文官服を着てるから当然か。
っていうかライムグリーンの長髪で大人しい感じだけど、この人も軍を率いる大将の一人で普通に武闘派なんだもんな。そら男らしいことくらいするか。
いかんいかん、ルードルドーナってアドニスと雰囲気が似てるから、ついつい一匹狼みたいなイメージしちゃうんだよな。相手は獣人なんだから認識を改めねば。
「ツカサくーん、早くおいでよー! ほらっここ、僕の横で脱いでっ。僕が全身でツカサ君を隠してあげるから!」
「いや風呂に入ったら隠すもへったくれもないんだって……」
まあでも、脱ぐのをジッと見られるのは何故か恥ずかしいので、隠してくれるというのなら良いか。ブラックとクロウだったら、何回も見られてるワケだし。
……にしてもなんか不安だな。ホントに俺も一緒に入って大丈夫だろうか。
ロクが居てくれたら少しは安心だったんだけど、いっぱいお仕事したせいか、ロクは既におねむになっちゃったからな……寝てるロクも可愛いから良いんだけど。
ああでも癒してくれる相棒がいないと不安だ。
ブラックもこの状況ならさすがにセクハラはしてこないと思うけど、変な事にならないように気を付けなければ。
俺は並んだ脱衣籠の前で素っ裸で待つブラックに近寄って、そそくさと服を脱いだ。
……姿を隠してやると言っていた本人が、俺の体を視線でべろべろ舐めるように見まくっていたが、今回は不問にする。
「あっ、ツカサ君腰に布を巻いて。布を取っちゃ駄目だよ」
「いやなんで今更腰にタオルを……」
「シッ!! あいつら全員ケモノなんだから警戒しないとダメだよ! こんな状況で、ツカサ君のむっちり太腿や咥えやすくて一生しゃぶりたくなる子供おちんちんなんか見せつけたら、どうなるか分かったもんじゃないでしょっ!」
「お前が一番どうなるか分かったモンじゃないんだが」
テメー毎度毎度風呂に入るたびに俺にナニしてるか忘れとるんかオイ。
久し振りにどつきまわしてやろうかと思ったが、話がこんがらがるので我慢する。
俺は大人だ。このオッサンどもの誰よりもオトナだからな!
だから、ここは平常心でいないと……あっ、そうだ忘れてた。
「ん? ツカサ君なにその妙な革袋」
服の中からちょうど俺の掌に乗るくらいの革袋を取り出すと、ブラックが不思議そうに覗きこんでくる。だが、今その中身を明かす事はヤバい。
俺は不自然にならないようにニコッと笑って答えた。
「あ、これ……エスレーンさんに貰ったんだ。その……これで……」
「これで?」
「……と、ともかく、早く風呂に行こう。さっさと済ませちゃおうよ」
「えぇ~? なーんか怪しい……」
「そ、れ、よ、り! ほら、髪紐解いて。後ろ向いて!」
少々強引に話をそらしてしまったが、ブラックは「後で見られるから良いや」と思ったのか、それとも髪紐を解くという行為が優先事項になったのか、すぐさまくるりと体を反転させて、俺に従った。
……俺に髪を扱わせるのが好きなんだよなあ、ブラック……。ま、まあ……正直なところ、俺も嫌いじゃないというか、結構好きなんだけど……ご、ゴホンゴホン。
「ルードさんも、はやいところ済ませちゃいましょう。ねっ」
ずっと入り口で突っ立っている相手にそう呼びかけると、相手は渋々空いている籠の前にやって来て、もぞもぞと装飾品を解いて服を脱ぎ始めた。
「ほいっ、髪紐おわり。さっさと風呂場に行こうぜ」
「うん!」
髪紐を解いた途端に背中にぶわっと広がる赤い髪。
ゆるくウェーブがかった髪は、緩い明かりの下でもキラキラと光っていて、ついジッと見つめてしまう。砂を含んだ今ですら、充分に綺麗だ。
その髪が濡れると、本当にびっくりするくらい鮮やかになるんだよな。
いつも綺麗な赤い色だけど、しっとり濡れた髪色は更につやがあるというか、そんな髪を掻き上げるブラックの姿は、その……か……格好いいと、いうか……。
「ツカサ君、なんで顔が赤いの?」
「ンゴッ、ななななんでもないっ。早く入るぞ!」
変な声が出てしまった恥ずかしい。
その恥ずかしさを隠すためにそそくさと風呂場に入ると、お湯の熱気が一気にムッと体に張り付いて来た。外は乾いた気候だから、余計に湿気が感じられる。
不思議と滑らない石材で造られた広い風呂場は、客間にあったものよりも広くて、湯張りした風呂は少し浅めなものの、クロウが熊の姿になっても余裕で寝そべる事が出来るほどの広さを備えていた。
「さすがはハレムの風呂……広いし設備も整ってるし、本当に凄いな……」
「ここは人族風っぽいね。色々洗うのに好都合だからかな?」
ブラックに言われて洗い場を見ると、確かに風呂椅子があったり石鹸などの小物を置くための台などが取り付けられていて、俺の世界の公衆浴場っぽい感じだ。
しかも、マッサージを受けるための台とか洗い場、なんなら水気を浴びるためなのかデッキチェア的なものも並んでいた。
……大理石的な石材で造られた豪華な風呂場に、色んなものが置かれているので、何だかゴチャついてるように見えるが……まあ、このハレムのお風呂はここだけじゃないらしいし、ここは集団で入るための所なのかも知れない。
この王宮って、砂漠と荒野の国の獣人にしては物凄く風呂場が多いんだよな。
やっぱそれも枯れないオアシスを抱えてるからなんだろうか。
ともかく驚きだけど、まあここは貸切りなワケだし遠慮なく使わせて貰おう。
そんなことを思いながら、ふと洗い場を見やると――既に入城して洗い場に座っているオッサン二人とナルラトさんが、何やら体を洗っていた。
……いや、うん、洗ってるんだけど、ナルラトさんは洗っているというかカウルノスの背中を洗わされているというか……。
「って、ちょっとちょっと! カウルノスってば何やらせてんだよ!」
「ぬう? 何って、決まっているだろう。大将の背中を洗うのは部下の役目だ。上下をしっかり示しておかないと、後で下剋上が起きやすくなるからな」
「ちーがーうーだーろー!! 今日はナルラトさんもちゃんと風呂に入って休めって、爺ちゃんが王命出してただろー!?」
「ハッ……そ、そうだった……」
なにがそうだっただこのナチュラルパワハラ筋肉王子が!!
まったくもう、生まれてこのかた王子一筋のヤツはこれだから……隣にナルラトさんを置いておかない方が良いかも知れないなコレは。
俺はナルラトさんの手首を掴むと、強引に俺達の方へと連れて来る事にした。
「あっ、ああぁっ、な、なんばしょっとなツカサっ、ああっ!」
「なんで照れてるのさもう……とりあえず体洗おう。な、ブラック」
「ツカサ君の無防備さが憎い……」
「なんで急に憎まれてんの俺……」
兄の隣に座って真面目に体を洗っていたクロウも、ぬれそぼった姿で俺をうらめしげに見ているような気がする。何で二人してそんな目をするんだ。
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思わず暗澹たる気持ちになってしまったが、いつものことなので捨て置く。
俺みたいなのの裸に秒で興奮するのなんて、アンタたちくらいなんだってば。それを証拠にカウルノスなんて全然俺の事を気にしてないってのに。
ナルラトさんだって、普通の反応をする……。
「……ナルラトさん、なんでめっちゃ顔背けてんの?」
「………………訊かんといてくれ……」
よくわからんが、とりあえず体を洗ってくれないと困る。
とりあえず隣の椅子に座らせると、俺は横で殺意の籠った視線を向けて来る中年の防波堤になりながら、出来るだけ大きな動きをしないようにして体を洗った。
大きな動きをすると、股間のタオルが剥がれるからな。
とにかく周囲を見ずにそそくさと自分の体を洗い終えると、俺はタオルを洗ってから改めてブラック達が洗い終えたかを確認した。
いつの間にかルードルドーナがカウルノスの向こう側に座っていたが、どうやら彼もそそくさと体を洗ったらしい。……となると、あやつも勘定に入れないといけなくなるのだが……しかしこれは、可愛い人妻エスレーンさんの頼みだ。
俺も恥を忍んで宣言せねばなるまい。
そう思うと恥ずかしさよりも女子に頼られた興奮が勝り、俺は腰のタオルを巻き直して落ちないようにすると、勢いよく立ち上がった。
「ツカサ君?」
不思議そうに俺を見るブラックを「まあ待て」と掌を見せて制し、俺は洗い場から数歩離れると、みんなが見える所まで移動する。
そうして、目を瞬かせながら俺を見やる五人の男達に革袋を見せた。
「実は、エスレーンさんが俺達を思いやって“とある品”をくれたんだ。なんでも、これを体に塗ってやると筋肉を労わる効果があるらしい」
「ホント? でも、それでどうするの?」
キョトンとして俺を見るブラックの言葉に、つい口がわななきそうになるが……俺はグッと堪えて、エスレーンさんが「やってほしいこと」を告げた。
「そ、それは……その、アレだ! 今から俺が、アンタら全員に塗ってやる……のが、良いって……エスレーンさんが言ってたから……その……だ、だから、この台の上に一人ずつ乗れ! 俺がやってやるからっ」
今からやることを考えると、つい気恥ずかしくなってくる。
だが、やるしかないのだ。
……だ、大丈夫。
ブラック達を「マッサージ」した時よりは、恥ずかしくない行為なのだ。
ただこの革袋の中のモノを、ブラック達の背中とかに塗ってやればいい。
ようするに日焼け止めを塗ってやるみたいなヤツなのだ。そこにはいやらしい事は何も無い。だから、は、恥ずかしがることなんて何も無いんだからな。
どんとこい、と、ブラック達の前で仁王立ちしてみせるが、何故か五人の視線は変な感じに歪んで届いて来る。
ブラックとクロウは元々スケベなのでいいとしても、その……な、ナルラトさん。
お願いですから変に照れて真っ赤になるのやめてくれませんかね!
俺もなんか意識しちゃうので!
→
※ツイッ…エックスで言っていた通り遅くなりました
:(;゙゚'ω゚'):ううう……思ったより長くなった
続きますうう
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