異世界日帰り漫遊記!

御結頂戴

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邂逅都市メイガナーダ、月華御寮の遺しもの編

24.最悪の予測

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 カチャリ、と音がして、クロウの手が触れていた箱が横からゆっくりと開く。

 まるで本の背表紙が開くみたいに片方が浮き、手を離すと蓋がつられて反対側へと落ちた。まるで機械仕掛けみたいだけど、これもまた曜気に反応する【曜具】なのだろう。もしかしたら、スーリアさんが人族の人から貰ったのかも知れない。

 そんな珍しいものの中に、何を隠しているのか。
 この部屋の中を見て、俺は薄らと予測していたが……不可解な夢のことを知らないデハイアさん達は、中身に驚いたような意外なような声を漏らしていた。

「これは……古い、書籍……人族の書籍か……?」

 崩れないかどうかを確かめてから、クロウがゆっくりと本らしきものを持ち上げる。
 その側面を見て、ブラックが正体を読みとった。

「いや、これは本じゃなくて、ただ皮表紙で紙束を挟んだものだ。本として整えられていないから、これは個人的なものだろう。……しかし、恐らくは古代の物だろうに……そんなものが紙までしっかり残っているのが驚きだね」

 ブラックが言うには、販売される書物や国や偉い人が記すものには長持ちするような処理が施されるのだそうで、そもそも一般的な紙などとは違くなるらしい。
 ……とはいえ、紙を大量に使えるってのは凄く贅沢な事なんだが。

 今の時代だって、この世界では紙はお高いもんな……。
 俺だって、手紙を出す時は廉価な紙もどきというか、とにかく俺の世界でいう白紙とは全く違う。たぶん、ブラックの口ぶりからして……この謎の紙束も、個人用にしては「高級すぎる」みたいだ。ってことは……やっぱり、例の手記だろうか。

「クロウ、ブラック、その中身読める……?」

 一番書物に詳しいだろう二人に問いかけると、ブラックが前に進み出て、クロウと共に中を確認して暫し黙る。――――と。

「これは僕の方が得意だね。……遺跡で見た古代文字と似たような文法なおかげで、すぐに解読できそうだ。ちょっと貸せ」
「む。わ、分かった」

 素直に渡すクロウに例も言わず、ブラックは和綴じのような処理を施された紙束を開いた皮表紙に乗せたまま、ぱらぱらと一度全体を流し見て、改めて一枚目の解読を行い始めた。

 だが、それは数分もしない内に終わる。

「……驚いたね。こりゃ本当に【ソーニオ・ティジェリーの手記】らしい」
「えっ……や、やっぱり……?」

 思わず問いかけると、ブラックは「ツカサ君の夢の通りだったね」と顔をこちらに向けて、ニヤッと笑う。そう、一応ブラックにだけは、あの綺麗なお姉さんが出た夢の事を話しておいたけど……実際に出て来るとなんだか寒気に襲われてしまうな。

 予知夢みたいなものだし、本当なら喜べばいいんだろうけど……でも、俺としては、何か見えざる力に動かされたみたいな、言い知れない恐ろしさがあるというか。
 ……でも今は、喜ぶべきだよな。

 あのお姉さん――――恐らくは……クロウのお母さんが、俺達に対して示してくれた重要なアイテムなんだ。きっと、何かの手掛かりになる。
 俺は冷静さを保ってブラックに頷くと、ブラックに解読を促した。

「それで……何て書いてあるんだ?」

 俺の言葉に、ブラックは「要点だけ抜き出すから、ちょっと待ってね」と手記を手早くめくり始めた。相変わらず黙読速度もハンパなく早いな。歩く図書館というあだ名がぴったりなほどの超記憶力と言い、やっぱりブラックは凄い。

 そんなブラックにはカウルノスもデハイアさんも素直に驚いているみたいで、紙束を調べるブラックの後ろ姿を見て、目を丸くしているみたいだった。

「…………なるほどね」
「読み、終わった……?」

 最後まで読み終えて、紙束の形状を元に戻すブラック。
 顔を見上げると、ブラックは再び俺の方を見て微笑んだ。

「……ちょっと信じられないことが分かったよ」

 その言葉を皮切りにして語られたことは……俺達を驚きで硬直させるほどの威力を持つ、とんでもない事実ばかりだった。

 ……ブラックが、手記の内容を要約して話してくれた内容は、こうだ。



 ――――かつてのソーニオ・ティジェリーは、古代アルカドビア王国で国王夫妻の護衛を任されるほどの、とても優秀な兵士だった。
 少年の頃からその功績は凄まじく、王として立志する前の国王……ネイロウド・グリフィナスの良き親友でもあったらしい。

 その仲の良さは、前半の彼の手記のほとんどを占める“王国の最盛期”の記述に頻出しており、彼自身国王ネイロウドの事を尊敬していたようだった。

 良き政治を行い、弱き獣を受け入れて己の一族として守る。
 ……今までの殺伐とした獣人の世界ではありえないことをし、平和と言う概念すら無かった獣人達に、真の安息を与えた。その安息で花開いた文化を愛でる彼らに対して、ソーニオは驚きながらも心底傾倒していたらしい。



「……って、ちょ、ちょっと待って。ブラック、それホントなのか!? アルカドアの書庫で見た“アルカドビア盛衰記”ってのだと、長く続いた凄い時代をネイロウドって最後の王様が台無しにしたって話じゃなかった?」

 あんまりにあんまりな話で、俺ですら良く覚えている。
 マハさんが襲われる前の【古都・アルカドア】で、俺はブラックと一緒に書庫で古代の王国の歴史書を見たんだ。その中に、ネイロウドという王が国を滅ぼしたから……そうだ、そこで俺は初めてソーニオの名前を見た。

 彼は【寝返りのソーニオ】――――国母と言われたネイロウド王の母親に寝返り、戦を起こして王を討伐した側になっていたじゃないか。
 そんな彼が、元々はネイロウド国王を尊敬していたなんて、どういうことなんだよ。

 ワケが分からなくて目を瞬かせていると、クロウが俺の疑問に肩を竦めた。

「…………裏切り者になるというのは……そう難しい事ではない。どれだけ信頼していても、その気持ちが地に落ちるのは一瞬だ。切っ掛けが些細な事だったとしても、その信頼が深ければ深いほど、そのぶん強い憎しみに反転する事は珍しくない」
「ソーニオも、そうだってこと……?」

 そんな俺の予想に、ブラックも「そうだね」と肯定した。
 ということは……続きは、やはり憎しみに満ちているのだろうか。聞くのが嫌だなと思ったけど、ここまでくれば聞かざるを得ない。

「……そうだね。途中で、ソーニオが国母ジュリア・グリフィナスにネイロウド王の裏での悪行を訴えられて、苦しんだ末に寝返った事が記されてる。彼は国防の要だった事も有って、ネイロウドの軍は根絶やしにされたみたい」

 俺に答えてくれたブラックの言葉に、意外にもカウルノスが舌打ちをする。

「……悪行? それがなんだと言うのだ。己が認めた長であれば、例え悪行を働いた者であろうが、忠義を尽くすのが群れのオスだろうが。群れというものは、そうでなくてはならない。その獣人としての誇りをないがしろにする事をしている時点で、寝返りという不名誉な二つ名に相応しいな、そやつは」
「仰る通りですな。寝返りなどという二つ名を貰うなど、恥以外の何物でもない」

 デハイアさんまで……。
 でも、そうか。獣人って武人であることを大事にする種族なんだもんな。
 そりゃ武人として大事な要素であろう「忠義」を疑うような行為をされたら、普通の獣人は嫌悪感を抱くだろう。

 群れを作って行動するのが当然である獣人からすれば、群れている種族なのに長を見捨てて殺そうとするというのが信じられないようだ。

 たぶん、下剋上ってんなら二人ともアッパレって感じだったんだろうけど、これは長を裏切って他の長の下に入ったって事だしなぁ。そういう裏切りは、獣人としては何も名誉な事じゃないんだろう。例え、正義の名の下に行われるとしても。

「えっ、でも、じゃあ……国の正式な文書っぽい“盛衰記”に【寝返りのソーニオ】とか書かれるってことは……かなり不名誉な事だよな。救国の騎士が、それでいいの」

 民衆からすればいわばヒーローだろうに、呼び方がなんか釈然としない。
 もしかして、自分がやってしまった事を悔やんで自らそう名乗ってたんだろうか。

 そんな俺の疑問を解消するように、ブラックが再び手記の続きを語り出した。



 ――――国母にネイロウドの悪事を明かされたソーニオは、悩み苦しんだ。
 だが、彼はネイロウドの母親である国母に説得されて、民のためならばと王を討つ決心を固めた。そうして……――――国王一家を、断罪したのだ。

 ……その時の話は、非常に簡素で文字が乱れていたという。
 ただ『国王一家を討伐した。もう民が苦しむ事は無い』とだけ、ぐちゃぐちゃの文字で記されていた。「全ては終わったのだ」という文字とともに。



「あとは……前半の饒舌さが嘘みたいな簡素な手記だね。国母ジュリアの下で国を盛り立てようとしたことや、日に日に悪化して行く治安……それに……」

 ……うん、それに?
 なんでそこで言葉を切るんだと思って目を瞬かせると、ブラックは己の背後に居るデハイアさんとカウルノスを一瞥して、俺に目をやる。そうして、やっと続けた。

「それに、自分は間違った事をしたのではないかという後悔の念ばかりだ。……その懸念が当たってしまったのか、最後は盛衰記の通りの道をたどったみたいだね」

 ブラックが詳しく言わないってことは、重要な情報が無かったって事か。
 それとも……この場じゃ言えない情報が含まれていたのかな。

 意図を読み切れず黙っていると、思わぬ方向から声が聞こえてきた。

「……国母ジュリア、政を取り仕切る長老衆、そして“寝返りのソーニオ”――彼らは民に讃えられ、彼らはアルカドビアを取り戻そうとした。だがそれは叶わず、ジュリアは息子を殺した自責の念から発狂して自殺、その後、長老衆もソーニオも次々に没し、ついに国を動かすものは消えた。これが、国の決定的な瓦解である……か」

 それは、まさしく盛衰記の一文じゃないか。
 あれっ……デハイアさん、もしかして盛衰記を読んだ事が有るのかな。それとも、昔スーリアさんが言っていたのを覚えていたんだろうか。

 ともかく意外な人からの言葉に驚いていると、ブラックは紙束を閉じて、皮の表紙で挟む。もう得る物は何も無いと言いたげな動きをして、ハァと息を吐いた。

「それで……結局、手がかりとはなんだったんだ」

 カウルノスが問う。
 確かに尤もな質問だ。今のはソーニオの生涯を手記で改めて辿ったようなモンであって、別に今起こってる問題に通じるものではないよな。

 けど……スーリアさんらしきお姉さんは、これを見つけてくれと言った。
 だとしたら、なんらかの手がかりが有るはずなんだけど……。

「手がかり? ああ……ソーニオが殺した王の家族の中に、クラウディア・グリフィナスという少女が居たってことかな」
「えっ?」

 胸の奥が、ざわっと蠢いたような気がする。
 つい、首から下がっている指輪と一緒に己のシャツの胸元を掴むと、ブラックは俺の胸の部分をじっと見つめながら続けた。

「国王ネイロウド・グリフィナスが王妃ポーラエナともうけた唯一の子供、それがまだ幼い少女だったクラウディア・グリフィナス。……何の因果か、黒い犬のクラウディアと……同じだね」

 その「同じだね」は……俺の中に居る、彼女にも掛かっている。
 ああ。そうか。やっぱりあの子は、かつてあの場所に……古代は王城だったあの城に暮らしていた、何の罪も無い純粋な少女だったのか。

 納得する、と、同時に……妙な違和感が生まれる。

 …………俺の中に居るのが、本物のクラウディア・グリフィナスだとすると。

「……アルカドアの城を理由不明のまま占拠してる【黒い犬のクラウディア】って……一体、なんなんだ……?」

 偶然にも“クラウディア”という女性名を名乗るあの人が、狐と言うよりもアヌビスにも似た黒い犬である“あの人”が、妙に一致した名を持ちあの城に執着して「王国を滅ぼす」と言っているのは、どういうことなんだろうか。

 ……なんだか、理解出来るような部分まで来ている気がするのに、頭がうまいこと働かない。あと一歩の所で色んな事がつっかえて、全然納得出来なかった。

 そんな俺の苦しさを知ってか知らずか、ブラックはフッと笑う。

「……この手記には、盛衰記にもなかった記述があるんだ。それは――――


 【アクティー】という元は奴隷だった黒い犬の少女が、クラウディアの護衛として城に招き入れられて……ずっと、彼女と一緒に居たという記述だよ」


 黒い犬の、少女。
 それ……は……それって……。

「あ……」

 ――――夢の中の光景が、一気に頭の中で蘇る。

 そう。
 そうだよ。俺、見たんだ。綺麗な狐の耳と尻尾を持つ優しそうな夫婦が、まだ歩くのもおぼつかない可愛い女の子と、そんな彼女の後を必死についていく黒い犬の少女が……とても幸せそうに……緑いっぱいの城の中庭で、笑ってる光景を……。

「お、おい……ちょっと待て。黒い犬ということは……まさかあのクラウディアは、過去に存在した【太陽国アルカドビア】の民の末裔とでもいうのか?!」
「しかも、王族にごく近しい一族……だとしたら……あの男の恨みは、ただ単に我々の国を潰したいというだけではないということか……? だが、それならば……」

 驚くカウルノスに、何か察したらしく考え込むデハイアさん。
 それぞれ異なる反応だったけど、でも彼らの言いたい事は何となく理解出来た。

 もしあの【黒い犬のクラウディア】が“アクティー”という少女の末裔なら、彼……いやなんて言うか……あの人が、躍起になって国を目の敵にするのも仕方ない。

 その理由は、様々なものが考えられるけど。
 でも……今までのぼんやりした「弱い者を虐げるから」という理由よりも、ずっと納得できるような気がしていた。

 復讐だとしても逆恨みだとしても、無残に殺された仲間や先祖を思ってずっと怨みを抱いている一族なんて人間でも珍しくは無い。
 語り継がれることが全て「生きるため」の知恵である獣人達からすれば、過去の話も彼らの生きる糧になったに違いない。憎しみだって、生きるための力なのだ。

 ……もしそれを、よからぬ人族に利用されたのだとすれば……あのクラウディアが、あれほどまでにあやふやな意志で戦っているのも……納得できるかもしれない。

「あの男がアルカドビアの末裔なら、アルカドアに執着する理由も分かる。それに、国を瓦解させようとする理由も忠義のためならなんら違和感はない」
「これは急いで陛下に報告せねばならんな……根無し草に文を持たせねば……! 戦竜殿下、申し訳ありませんが執務室までご同行ください」

 デハイアさんは険しい顔をして、カウルノスに頼む。
 恐らく、急ぎの用事だからとすぐに書簡を見て貰えるように、カウルノスにそういう印を捺して貰うのだろう。だが、余程慌てていたのか、二人は俺達を置いてさっさと部屋を出て行ってしまった。……あれほど守りを固めていた部屋だというのに。

 でもまあ、仕方ないか……相手の目的が何となく分かったワケだし。
 ……いや正直、俺は全然納得出来てないんだけども。

「なあ、ブラック……相手の正体は何となくつかめたけど……目的としては、以前ボンヤリしたまんまじゃない? ホントに判明したって言っていいのかな」
「オレもそう思うぞ。忠義のためにしては、行動が一貫していない。城が欲しいだけと言うなら、もう既に目的は達成されて挑発する必要も無いはずだ。人族が唆しているとしても行動に荒が多過ぎて、憎しみで動くヤツの動きとも思えん」

 今まで黙っていたクロウも同じ事を考えていたようだ。
 お、俺はそこまで細かく考えてなかったけど……ま、まあ、そういうコトだよ!

 俺もそういう事を言いたかったんですよ。ホントですよ。
 おい疑わしげな目で俺を見るなブラック。

「……まあ、疑問はごもっとも。でもさ、こう考えたら……アイツらの目的が歯切れの悪い言葉でしか言えないのも、国民を煽るのも納得出来ない?

 あいつらは再び――――
 あの場所で【太陽国・アルカドビア】を復活させようとしている……って」

「…………!!」
「そっ……そん、な……まさか……」

 だけど、ブラックがこうして明確に予測を言う時は、半ば確信を得ている時だ。
 俺達が気付かないような事に気付いて、それを確かだと思ってから、ブラックは俺達にこういうことを言うのだ。なら、たぶんそれは……核心に近い話ってことで。

「なんか、そう思うだけのことが在ったのか……?」

 問いかけると、ブラックは口だけを笑ませた。

「この手記、実はアイツらにまだ言ってない事が残ってるんだ」
「ちょっ……お、おいっ、この状況でなにしてんのアンタっ!?」
「まあまあ落ち着いて。……正直別に、コレがなくてもアイツらが考える事は変わらなかったと思うし」
「……どんな事が書いてあったんだ、ブラック」

 静かに問うクロウに、ブラックはチラリと目を向けてから眉を軽く上げる。
 そうして、手記を見せつけるように軽く振った。

「――あの時の光景が、悪夢として襲ってくる。番人であろうとした黒い犬の少女の亡霊が、夜ごと俺の喉笛を噛み切ろうと襲ってくる。

 『かえせ。私の居場所を返せ。許さない。私達を殺しておいて、幸せな居場所を奪っておいて、嘘つき達が私達の上に国を建てるなんて。許さない。弱きものを騙し欺瞞の国などを作ろうとするお前達は、絶対に許さない』――――毎晩、一言一句違わぬ言葉で、俺の頭を狂わせようとして来る。これは、呪いだ。簒奪者である自分達への呪いなのだ。

 許してくれ、アクティー。頼む、俺が悪かった……」

 ――――弱きものを騙し、欺瞞の国を作ろうとする。
 確かにそれは、あの【黒い犬のクラウディア】がアルクーダの国民に向けて語った事を、強い言葉に直したようなものだった。

 ……でも……なんだろう……。
 胸の奥の、なんだか曖昧な部分が痛む。違うのだと言っているような気がする。
 そうだけど、でも、違うんだって……。

「……色々と気にはなるが……国母やソーニオが無様に死んだ時点で、アクティーの呪いとやらは成就していたのではないか? それが今関係あるのか」
「どうかな。他の知識をほぼ取り入れることなく口伝を続ける獣人族なら、その怨みが消えるような事は無いんじゃないかな。もし、あのクラウディアがアクティーの子孫か血族だとすれば……だけど」

 うん……?
 なんだか、自信満々に言ったとしてはブラックの言葉の歯切れが悪い。

 いつもならハッキリとした理由を言って来るはずなのに……なんで、今回に限っては変に否定できるような事ばかり言うんだろう。
 なんというか……ブラックらしくない。

 そこが気になってしまって、俺はついブラックの袖を引いてしまった。

「……なあ、ブラック……もしかして、他になんか気にかかる事が有るのか?」

 俺にはブラックの真意は良く分からないけど……でも、そんな気がする。
 その事に何故か不安になって来てしまい、情けなく袖を引いたまま相手を見上げてしまうと――ブラックは、顔を緩めて微笑むと、俺を抱き締めて来た。

「ツカサ君たら……ホントに僕のこと大好きなんだから……」

 嬉しそうに言いやがるけど、俺は流されないぞ。
 そんな恥ずかしいことを言ってまた煙に巻こうとするんだから……やっぱりまだ何かを隠してやがるなコイツ。俺だってアンタのことずっと見てるんだからな、そういうのも分かるんだからな!

 こっ……恋人だからとか、そういうんじゃなくて、その……ずっと一緒に居たから、俺にも分かる変化が有るっていうことで……ともかく分かるんだよ。

 だから、不安な事が有るなら言って欲しい。
 そんな俺の願いを知ってか知らずか、ブラックは俺を抱き締めたままじっと見つめて……何だか、ちょっと苦しそうな感じがする笑みを見せて来て。

「ブラック……?」
「…………本当は、僕の予想が全部当たらなけりゃいいんだけどね」
「……?」

 それは……今語った事を言っているんだろうか。
 それとも、俺達に話してくれない別の不安の事を言っているのか。

 ハッキリとは分からなかったけど……
 多分それは、ブラックが「言いたくない」予想の方なんだろうなと、俺は思った。











※遅れちゃいました…:(;゙゚'ω゚'):スミマセン
 今回のは寝落ちとキリのいいとこ…て彷徨った挙句に
 長くなって時間オーバーした感じです……
 
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