異世界日帰り漫遊記!

御結頂戴

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邂逅都市メイガナーダ、月華御寮の遺しもの編

  緑の園に遺された思い2

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   ◆



 俺の可愛くないぶりっこオネガイが効いたのか、それともそもそもデハイアさんが「妹」という存在に非常に弱いのか、たった数時間の妹プレイにも関わらず、相手は俺をすんなりと【緑化曜気充填装置】の所へ案内してくれた。

 ……オッサン三人が「アイツはメス日照りだから気を付けろ」と言っていたが、これがその結果とでもいうのだろうか。

 流石にそれは無いだろうと思いたいが、しかし俺のように全くメスに見えないだろう男のあからさまな演技でこうなるというのは、そういう事なのかも知れない。
 まあ、俺だって……無人島に一か月も一人でいて、ほぼ男の見た目だけど心も体も女の子って子が漂流して来たら、数秒でデレデレになっちゃう可能性もある。

 俺は基本的に男なんてゴメンだし、普通に女の子と恋愛したいとしか思えないので、本来なら男にしか見えない女子にキュンと来るには、その人と仲良くならないとムリそうな気がするんだが、人恋しいとそんなの飛び越えちゃうからな。

 ブラックやクロウとの、その……そ、そういうコトだって、二人が特別なだけで、俺は今も女の子にしか興味湧かないし……そうなったのも、ブラックとずっと一緒に居て、俺がブラックの傍に居たいってお、思った……から、だし……。

 う、ううう……とにかく、例外ってもんかもしれないよな!

 俺とスーリアさんは絶対に似ても似つかないだろうが、この際都合よく妹として甘く扱ってくれるのなら文句は言うまい。
 というワケで、相変わらず腕に乗せられて巨人に運ばれる気分で目的地へと移動させてもらったのだが……――――

「あの……お、俺、部外者なんですけど本宅に入っても良かったんですか」

 そう。
 俺は今、庭園の小道を通って迎賓館の奥――デハイアさんが生活している本宅へと突入していたのだ。しかも、他ならぬデハイアさんの案内で。

 ……確か、デハイアさんはこっちには来るなって言ってなかったっけ……。

 言ってなかった気もするが、そういう空気はビンビンに出していたはず。特に、本来ならソコが実家であろうクロウには敵意と共にそういう視線を送っていたはずだ。

 なのに、たったの数時間で妹認定して貰った俺が入っても良いのだろうか。
 館からすれば一回り小さいが、それでもかなりデカいお宅に堂々と正面から入ってしまって慌てた俺に、デハイアさんは口角を上げて俺の顔を見上げた。

「気にするな妹よ。お前以外は許せんが、お前だけなら喜んで迎えよう。……まあ、薬草園でそのニオイも多少は薄れたしな」
「あ、アハハ……ありがとうございます……」

 ああもう妹呼ばわりされるとケツがむずむずするうう。俺は本来なら弟なのに!
 っていうかニオイが薄れたって何だ。アレか、ブラック達が散々っぱらやったアレで俺にブラック達のニオイが付いたってのか。チクショウ獣人の鼻が恨めしい。

 ケモミミにはキュンと来てしまうが、スケベ方面にも聡い五感だけは勘弁して欲しいんだけども……こんなことを言っても仕方がないか。

 ともかく、デハイアさんの機嫌が良いならよし。
 このまま機嫌を取って行ければ、いずれはクロウの話も少しは聞いてくれるようになると思うし、気を抜かずぶりっこ妹ムーブで頑張らねば。

 ――――そんな事を思いつつ、私宅に入ると……まず気が付いたのは、この世界で見覚えがある構造だなと言うことだった。

 客人を招くあの巨大な館はアラビアンな感じの宮殿だったけど、こっちは洋風だ。
 いや、和洋折衷というか……暑い国の豪華な宮殿っぽさを残しつつ、洋風の感じを取り入れた建物って感じかな。装飾は完全にこっちの感じだけど、二階へと昇る階段が玄関ホールにあって、廊下も開放的な感じではなく、外側の壁にはキチンとした窓が有り、柱と壁が融合した神殿風の壁に近い感じだった。

 ガラスがはめ込まれた窓ってこの国じゃ珍しいんだけど……この果ての地にここの家だけってのは……やっぱり、スーリアさんの趣味だったんだろうか。

 なんか昭和に建てられた洋館みたいなノリで、ちょっと親近感を覚えるな。

「この家って……スーリアさんの御趣味ですか?」
「ほう、良く分かったな。やはり妹同士、繋がる何かがあるということか……。その通り、ここはドービエル陛下に恩賜として給わった屋敷でもあるのだ。その時に、スーリアは人族の賢者に様々な事を教わっていたからな。この国の鉱石が他でも通用するのかと試しに建てて貰ったのだそうだ」
「あっ……そう言えば、獣人の国で採れる鉱石って特殊なものなんですよね。王宮の食料庫も、冷たい鉱石で作られてましたよね」

 この街自体が滝のおかげかかなり涼しかったけど、それでも外と比べて段違いに涼しい館の中を進みつつ、俺は【王宮・ペリディェーザ】での事を思い出す。

 最も重要である食料を守る王宮の食料庫は、厳重に管理されていて「凄く高価だ」と言う冷たい鉱石をふんだんに使われていたんだよな。
 確か【深海石】とかいう名前だった記憶が有るぞ。
 黒髪で口の上のヒゲがダンディな、王族のジェントルおじさんことジャルバさんが、厳重に管理してるんだ。

 あと……獣人の国でしか採れないと言ったら、航海に必要不可欠な【標導石】って言うのもあったな。どれだけ距離が有っても、同じ塊から分かれた石と呼び合う性質があって、その光が示す方を目指して航海するんだ。方位磁石の代わりだな。

 あと【種火石】っていうソレ自体が炭や火種の代わりになる石もあったな。

 ――そんなこんなで、獣人大陸ベーマスには、人族の大陸とは異なる特殊な鉱石が沢山存在するのである。

「ほう……よく知っているではないか。人族は頭も力も脆弱だと聞いていたが、それほどでもないのだな。いや、それともお前が聡いのか? えらいぞ妹よ」
「は、ははは……。えっと、ともかく、涼しいのってそういう鉱石のお蔭なんですか」
「そうだ。王宮にも同じものが使われているが、その鉱石の効果が人族の建物にも有用であるのか検証するために、あえてこういう注文を付けたと言っていた」
「ご褒美のモノなのに、そこまで研究を……」
「……それだけ、スーリアはこの地を救おうと躍起になっていたということだ。そんな妹のことを、俺は誇りに思っている。……ああ、ここだ。地下に降りるぞ」

 話している間に、俺達は何やら厳重に鍵が掛かった鉄扉の前に辿り着いていた。一階の奥まった場所にあるが、扉なんかほとんどつけない獣人の国の建物からすると、凄く物々しい感じがする。

 そんな扉の鍵をデハイアさんは片手で開き、中に入った。

 デハイアさんの体がギリギリ壁に着かない程度の狭い階段。故意に人を侵入させにくくしているその階段を暫く下りて行くと、また扉が有るのが見えた。
 ……なんだか、アルカドアの古代遺跡を思い出すな。

 いや他の地下通路だってそういうモンなんだけど、最近見たのがあの遺跡なもんで、何だか似た感じだなと思ってしまったのだ。
 まあスーリアさんは遺跡を調査してたし、知ってたのかも知れないけど……。

 ともかく、デハイアさんが二つ目の扉を開けるのを見ていると、その先から薄らと光が漏れて来た。ほんのり暖かい色に色付いている、ちょっと弱々しい感じの光だ。
 中に入って、俺は――――思っても見ない物を見て、瞠目してしまった。

「これ、は……」
「スーリアが修理したキカイ……お前が見たいと言った【緑化曜気充填装置】だ」

 ――――倉庫のような、地下空間。
 左右に様々な荷物を追いやって広場のようになった真ん中に鎮座しているのは、天井と地面に数えきれないほどの根を張った巨大な筒のような物だった。

 いや、筒と言うか……タイル張りの柱、と言う感じだろうか。
 その柱の上下から、細かく分かれる根のような光がわんさか伸びているのだ。

 橙色の温かい光は、その“根”が放っているのだが……半透明な感じがハッキリと見えて、弱々しいような印象が有った。

 あれって……曜気の光が根っこや枝みたいになってるのかな。
 橙色は土の曜気だけど、あれが“土の曜気を留めた状態”で、この館一帯の植物を育成する手助けをしているんだろうか。だとしたら、すごい技術だ。

「お前にもあの夕陽色の光が見えるか。メイガナーダ家と同じだな」
「えっ……デハイアさんも見えるんですか」
「……」
「お、おにいちゃんも見えるの?」
「ああ。皮肉なことに、メイガナーダは最も“二角神熊族”としての血が濃い。優秀な者であればオスが父とて娘と契り、良い母体であれば母だろうが息子と契る。……血族以外の者は、領地にほとんどいなかったからな。そうして辺境で百年以上生き抜いてきた我々は、古の血を呼び覚ます存在になったのだ」

 この世界では“気”が混ざり合って子供を作ることから、近親相姦はほぼタブーでは無いんだっけ。それでも人族は、宗教的倫理観からなのかはたまた法律が有るからなのか、親子同士ってのは避ける人が多いそうだが……獣人からすると、これも種族を絶やさない手段だから、更に忌避感は薄かったんだろうな。

 それでも、デハイアさんの顔は少し苦そうだったけど。

「……ん……? 古の血って……おにいちゃんの種族は、本来なら全員が土の曜気を見る事が出来たんですか。……獣人は曜術を使わないのに?」
「うむ。スーリアはコレを“先祖返り”と言っていたな。ドービエル陛下ですらこの目は開眼しなかったそうだから、俺達の血は余程濃いのだろう。……何故、我々がその“曜気”とやらを視認できるのかは、スーリアも分からずじまいだったが。しかし、目が良いお蔭で、スーリアはこのキカイを修復出来たのだ」

 もちろん、人族に手を貸して貰った所もあるが……と言いつつ、デハイアさんの目はしっかりと半透明で弱々しい光を放つ橙色の根と枝を見つめている。
 間違いなく、彼も見えているのだ。

 何故獣人が土の曜気を見る事が出来るのか、というのは俺も謎だったけど、それは恐らくクロウが“強力な土の曜術を使えること”の謎と同じものなのだろう。

 詳しく聞きたいところだったが、今は時間が惜しい。
 俺は知識の誘惑を振りほどくと、デハイアさんに降ろしてもらって装置に近付いた。
 ……うん、やっぱりこれは“曜具”のようなものだ。

 この柱のようなものは彫刻が施されたタイルを張り付けてあるが、その内の幾つかのタイルは、スイッチのように押し込める構造をしている。
 俺には古代語は判らないけど、彫り込まれている絵で何となく「開始」だとか「調整」みたいな意味が読み取れた。柱の上下は石の蓋のようなものが取り付けられているが、それらは曜気の光を透かしていて、気の残量を示す役割なのが見て取れた。

 たぶん、万が一の場合を考えて、文字を持たない獣人でも理解出来るように色々と分かりやすく作ってあるんだろう。
 古代アルカドビアの人達は、やっぱりかなりの先進性を持つ人達だったんだな。
 曜気を活用するだけじゃなくて、こんな風にユーザビリティってヤツもあるなんて。

 けど……分かりやすくして貰うと、その分やはりダイレクトに問題が見えてくる。

 丈夫で光る残量ゲージは、かなり弱々しい光を訴えていた。

「…………おにいちゃんが言っていた通り、あまり猶予は無さそうですね」
「スーリア亡き後、この装置を復活させられるようなものはもういない。……我々では、仕組みすら理解出来んのだ。……もう、その時を座して待つしかあるまい」

 諦めているかのような言葉。
 装置を手入れする方法すら分からないまま妹さんを失くしてしまったが故に、この館の全員が「もう眺めているしかない」と思ってしまっているんだろう。

 けど、それは責められないことだ。

 下手に触って壊したら、それこそ申し訳なさすぎるもんな。
 それに大事な人の置き土産を弄繰り回すなんて、そんなの決意するのも難しい。

 デハイアさん達の行動を「男らしくない」と責める事は、俺には出来なかった。
 けど……。

「……おにいちゃん」
「なんだ」

 俺は振り返って、はるか上にある相手の顔を見上げる。
 そうして、視線を合わせたまま真剣に問いかけた。

「もし、この装置を止めずに済む方法があるって言ったら……聞いてくれる?」
「なっ……そ、そんなものがあるというのか!?」

 驚きながら思わず俺の両肩を掴む相手に、俺は躊躇わず頷く。
 ここが正念場だ。

 決しておためごかしの方法なんかじゃないと相手を強く見詰めつつ、俺は、真剣な声でその方法を伝えた。

「あります。……ただし、ブラックと……クロウが居れば、ですけど」
「ッ……!!」

 俺が口にした名前に、デハイアさんの顔が心底嫌そうに歪む。
 だけど、俺の事はそれなりに認めてくれているのか、怒鳴るのは我慢している。
 やはりメスだと思っている相手には強く出られないのだなと確信しつつ、俺は視線を逸らさないように相手の顔を見ながら続けた。

「ブラックはこの柱の構造を調べる術が使えます。クロウは……授かった“土の曜気を操る力”を、昔よりもっと強力に使えるようになりました。今なら、この機械に曜気を与える事が出来ます。だから……二人を、ここに呼ぶのを許してくれませんか」

 デハイアさんは、本宅に来るなと俺達を拒否した。
 きっと、クロウをこの家に入らせたくないのだろう。

 だけど、スーリアさんが遺した物を守り続けるためには、二人の力が必要だ。
 それを懇切丁寧に説明して、再度デハイアさんに合否を促す。

 彼女の思いを無にするか、それとも意地を通すのか。

「ぐっ……」

 かなり揺らいでいるのか、デハイアさんは苦しそうに顔を歪める。
 最初はあれほど冷やかにクロウを無視していたけど、今はクロウの事を考えて苦い顔になっているんだろう。けど、それは良い傾向だ。

 ちょっとでもクロウの事を考えてくれたら、今の冷静な状態で振り返ってくれるなら、まだ救いはある。クロウの事を考えてくれるだけの心の余地があるのなら。
 だから、今のこのチャンスを逃す訳にはいかない。

 クロウと顔を合わせるきっかけを、なんとしてでも作り出す。
 その一心で、俺は――――恥を忍び、トドメとばかりにデハイアさんの胸に縋って、わざとらしく目をうるうると潤ませた。

「俺は、植物が好きです。あの庭園を守っていたスーリアさんのことも、とても凄い人だと思ってます。……思惑とは別に、植物を守りたい。それは、確かです。だから、今は……二人と協力して欲しいんです」
「だ……だが……」

 あともうひと押し。
 こんな時は、もうアレをやるしかない。

 後でトイレに駆け込んで自己嫌悪の塊となるだろう、諸刃の剣を。

 ……俺は、引きつりそうになる顔を必死で“ぶりっこの顔”に押さえつけつつ――


 デハイアさんに、最後の一押しをするセリフを……カワイコぶった声で告げた。

「お願い……おにいちゃん……!」
「……よし、わかった。やろう。お前は俺の妹だからな」

 ………………。

 つらい。

 俺の必死の懇願も、妹と言う属性の前では無意味なのだろうか。

 そんな暗澹たる気持ちを隠しつつも、俺は「やったぁ、おにいちゃんだ~い好き!」などと漫画のテンプレのような事を言いつつ、荒れ狂う心の中の自分を押し込んで、デハイアさんに抱き着いたのだった。










※ツイ……エックスで言っていた通り朝方になりました
 ぎ、ギリギリ……:(;゙゚'ω゚'):

 
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