異世界日帰り漫遊記!

御結頂戴

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邂逅都市メイガナーダ、月華御寮の遺しもの編

4.貴方を心配しているから1

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 見覚えのない中庭が見える。

 ……いつの間にここに居たのかは分からないが、俺は気が付いたら見知らぬ場所にボーッと突っ立っていた。

 何だかよく分からないけど、こんな事が前にもあった気がする。
 ええと……ああ、そうだ。夢だ。

 こんな風に妙に頭がボーッとしてて、それでいて自分が今まで何をしていたのかも分からなくなるような時は、大抵が夢の中なんだ。
 普通はただの夢だと考えるんだけど、ここは異世界だからな。しかも、俺は結構な回数こういう不思議な夢を見ている。その時は、大抵が現在の自分達が巻き込まれていることに関係することを見ることが多い。

 だけど、こんな風に動ける……っていうか、自分が「潜祇司」の姿のままでこんな風に“夢の中の知らない場所”を動くのは、初めてかも知れない。

 …………うん、手も俺の手だし、服も……いつもの服だな。
 でもなんかちょっと透けてる気がする。

 大理石みたいな白いタイル敷きの床に、俺の体の色が透けてるみたいな――
 ともかく、妙な夢ではあるが、何か意味が有る夢なんだよな。
 でもここはどこだろう。

 改めて見渡してみると……おお、なんかすっごく綺麗なお城だ……。

 中庭を望む回廊は、庭に面した壁が全て柱のみになっていて、どこからでも庭へと駆け出す事が出来る。クロウ達の王宮もこんな感じだったけど、こっちは落ち着いた黄金色をした柱でちょっと豪華だ。

 よくよく見れば壁や天井なんかも金の紋様が入ってて凄いな。
 こんなに黄金を使ってたら普通は下品になるもんなんだけど、他の部分との調和が取れているのか、それとも庭の緑が中和しているのか、不思議と上品に見える。

 けど……やっぱり見た事が無いんだよなぁこの場所……。
 最初に城っぽいと思ったけど、本当にお城なんだろうか。

 うーん、なんか古代の豪華なお城に来たって感じなのはちょっと嬉しいけど……夢の中ってんなら、俺の妄想の可能性も有るよな……。
 やっぱこれは明晰夢ってヤツなんだろうか。というかどうやって覚めるんだこれ。

 どうしようかと困っていると、遠くの方から足音が聞こえてきた。
 それは、自分が今いる回廊のずっと奥の方。横に中庭を見ながら先を睨むと、そこからは背の高い二人の人物が歩いて来た。

 ――――俺には気付いていないようだ。

 けれど、俺は彼らの姿を見て思わず息を飲んでしまった。

 いや、なんというか……凄かったんだ。

 純白の服に鮮やかな文様を流し込んだ服は古代ローマを思わせるが、鮮やかさのせいか民族調の豪奢な服にも思える。
 それに、そんな服に合わせるように黄金を基調とした装飾品をたくさん身に着けていて、あまりの圧倒的な煌びやかさについ言葉を失ってしまった。

 黄金ジャラジャラなんて、悪くすると成金みたいに見えるのに……あの堂々とした姿勢と雰囲気がそう感じさせないんだろうか。
 それとも……彼らの種族が、あの姿を許容させるのか。

 ――――黄金に煌めく、大きな三角の立て耳。そして、豊かに膨らんだ尻尾。

 庭から漏れてくる光にキラキラと輪郭が光るその様は、金毛の狐そのものだ。
 あの姿があるから似合うんだろうか。それとも、彼らがそもそも美しいから何を着ても似合うというのか……何にせよ、高貴な感じがする人たちだった。

 男の人と女の人……同じ種族かな?
 いや、でも、女の人の方は少し耳が違うみたい。古代ローマのご婦人みたいに金色の髪を纏めているが、毛並みが白銀っぽい。ほっそりとした姿が魅力的だけど……横に居る立派な男の人と比べると、少しか弱そうで心配に見えた。

 …………近付いても良いのかな。

 あんだけの美男美女のカップルなんだから、どうせ夢ならじっくり見たいな。
 そう思い、そっと近づくと――なにやら声が聞こえてきた。彼らの会話だろうか。

『……あの男は、本当に信用出来るのかしら……』

 心配そうな声で、中庭を見つめる女性が言う。
 そんな彼女を見て、横に居た男が優しく肩を抱いた。

『母上は、彼を信頼している。それに……私達も彼らの仲間に充分過ぎるほど恩恵を受けて来た。母上が望むというのなら、どのような思想であれ受け入れるのは仕方のないことだろう。……彼らの望みも、たまには聞いてやるべきだ』

 小さな声でもしっかりと響く、凛々しくて格好いい声。
 そんな男性に彼女は頷いて、肩を抱かれたまま彼の方へ頭を寄せた。

『そうね……お義母さまには、私達の結婚を許して頂いたご恩が有るもの。それに、あの子達にもガイウス様という立派な教育者をつけていただけたのだし……』
『ああ。君のようにメスの中でも特に立派で聡明な方だ。……そう、聡明すぎるほどに…………だから、心が休まるのならば、私は何だって手に入れてあげたい』
『あなた……』
『ポーラエナ、私の前の妻に遠慮する事は無い。彼女もまた、母上や君のように聡明で美しいメスだった。きっと、悪いようにはならないさ』

 整った顔で微笑む男性に、彼女は何とも言えないような顔をしたが、何とか微笑むように表情を取り繕った。不安がぬぐえない表情だったのは相手も分かったみたいだけど、よほどその「おかあさま」を信用しているのか、それ以上は何も言わなかった。

 よく分からないけど……彼らの母親が、何かしでかしたんだろうか。
 「彼」という何かを隣に置いているという事か。ってことは……恋人とか?
 うーん、母親に恋人が出来て悩んでるってことなんだろうか。

 ……まあ、ありえない話じゃないよな。
 俺だってもし、父さんがいなくなって、そんで母さんが新しい恋人を連れて来たら、俺だって凄く複雑だもん。けど、それをお嫁さんが言うのってちょっと変だな。

 女の人から見てよっぽど変な人だったのかな?
 そ、それは……この話だけじゃちょっと測りきれないな……。

『……ええ……』
『とにかく今は、母上の好きにさせてみよう。……私達がこの国を栄えさせようとしてあらゆる種族を囲い込み、海の向こうの民とすら腕を組んだのは、きっと他の獣人達にとってはおぞましい事だろう。……だが、私はこの国のやり方が……人族達のこのやりかたこそが、大陸を和平で統一する唯一の道だと思っている』

 男が、中庭を見つめる。
 色とりどりの花が咲き乱れ、緑がまぶしい不思議な庭。

 本来ならこの砂漠の大陸に存在しない穏やかな草原が、そこに広がっている。
 幼い子のためのささやかな遊具すら、なんだか夢のような光景だ。
 その穏やかな庭を見て、男はもう一度傍らの女性に顔を向けた。

『獣人に必要なのは、無秩序な闘争ではない。名誉ある戦いと、それ以外の平和な暮らしだ。なにも、我々まで魔物に堕ちることは無いのだ。……我々はヒト……本来は、話し合えば誰もが理解しあえる存在なのだから』
『ええ……ええ、そうね……そうよね、ネイロウド……』

 少し泣きそうな、彼女の声。
 ポーラエナと呼ばれていた彼女の肩を、ネイロウドという男が強く抱き寄せる。
 彼女が何を思って悲しんでいるのか、彼は理解しているのだろうか。それとも、何も理解せずただ慰めているのか。それは、外野の俺には分からなかった。

 だけど、なんだか二人とも悲しそうで。

 …………そんな彼らを、何も言えずにただ見つめていると――――また、回廊の奥の方から何かが近付いてくる音が聞こえた。

 だけどこの足音は軽く、パタパタと忙しない。
 そして、楽しそうに笑う二つの幼い声がどんどん近付いて来る。

 間違いなく、子供だ。
 それに気付いたかのように、男女が顔を上げる。その方向から、手を繋いだ二人の少女が楽しそうに中庭に突っ込んでいった。

 ――――あ……。あの姿って……!

『こら、クラウディア、アクティー! はしたないわよ!』

 今まで弱い部分を見せていたポーラエナが、すぐに母親の顔になる。
 庭に迷わず進んでいった彼女を見て、ネイロウドは苦笑しながら後に続いた。

『はわ……ごめんなさーい、おかあさまぁ』
『ご、ごめんなさい、です……』

 ぽやんとした口調で、花びらを頭に乗せているのは――――ふわふわとした金の髪が綺麗な、キツネ耳の女の子。
 あれは、間違いなくクラウディアちゃんだ。俺が知っているあの子より少し幼いけど、間違いなく彼女だった。でも……もう一人は……誰だ……?

『あらあら、アクティーは良いのよ。どうせクラウディアが引っ張ってきたんでしょ。イヤだったら、遠慮せずに言って良いのだからね』
『えと……ィ、イヤじゃないです……楽しかった、から……』

 たどたどしく言葉を呟くのは……黒い髪に黒い垂れ耳の、少女。
 肌の色は白いが、明らかにネイロウド達夫婦やクラウディアちゃんとは全く違う髪色と耳に、俺は妙な感覚を覚えた。……彼らは親子のように接しているが……明らかに、彼ら夫婦から生まれる確率が低い特徴を彼女は持っている。

 下衆な妄想だと自分でも思ってしまうけど、でも……アクティーと呼ばれた少女は、顔立ちから何から、クラウディアちゃん達とはまるで違っていた。

 似ているとすれば、そう、まるで――――

『あらあら、アクティーったら本当に良いお姉さんなんだから……クラウディア、少しはアクティーを見習っておしとやかにしないとだめよ』
『はぁい……でも、ガイおじちゃんのお話むずかしんだも……ですもの……』
『クラウディアには、ガイウス先生のお話は少し早すぎるのかな、って……。あの、だから……楽しいお話で、お勉強できないかなって言ったら、ガイウス先生がちょっと悩み始めちゃって……だから、退屈で二人で出てきたんです』

 クラウディアちゃんとそう変わらない歳だろうアクティーという彼女は、垂れた黒い耳を時折パタンと動かしながら、照れたような感じで話す。
 そんな彼女に、ポーラエナは嬉しそうに笑い頭を優しく撫でていた。

『そう……! だったら、ガイウス先生は明日には何か作ってくれるかもしれないわね。あの方は、口下手だけど貴方達の事を大事に思っているもの』
『おかあさまほんとう!? わあっ、たのしみ! ね、あくてぃー!』

 キャッキャと笑って、アクティーという少女に抱き着くクラウディアちゃん。
 その姿は本当に天使みたいで可愛くて、その場の誰もが微笑んだ。

 アクティーという恥ずかしがり屋の少女も、そんな彼女を抱き返していた。

 ――――すごく、幸せな光景だ。

 なんだかつい、こんな光景がずっと続いて欲しいなと思ってしまう。
 でも……きっとこの光景は、いつか終わってしまうのだろう。

 だって、クラウディアちゃんはもうこの世界に実体がない。彼女が幸せそうに笑顔を向けていたこの場の人達は、もう存在しないのだ。
 それを思うとなんだか悲しくなってしまって、俺は目の奥からじわじわ迫る熱に喉を詰まらせて、顔をごしごしと手の甲で痛めつけてしまった。

 そうでもしないと、泣いてしまいそうだったから。








「……サ……ツカサく…………ツカサ君……」
「――――――……ぁ……」

 よく知っている声に呼ばれたような気がして、目を開ける。
 すると目の前にぼんやりと色が滲んで見えてきた。……寝ぼけ眼のせいで、何が何だか分からない。肌色と、赤い色と、綺麗な菫色が徐々に輪郭を持って来て……それが、ようやくブラックの顔だと分かる。

 ……あ、そうだ……あの後俺はブラックに強引にベッドに落とされたんだっけ。
 陸揚げされたマグロみたいな勢いで放られたもんだから、ベッドの上で盛大に跳ねちゃって、逃げられずにそのまま抱え込まれてK.Oされたのだ。

 まあ、お、俺も疲れてたし、そのまま眠っちゃったのは仕方ない。
 体に違和感も無いので、ブラックも俺が寝たら眠っちゃったんだろう。

 いや、もしかして寝ていた俺をずっと見てたのかな。
 ブラックは眠れなかったんだろうか。

 そう思うと少し心配になって、俺は目を擦ると間近にある顔を見た。
 無精髭がもっと濃くなっている、男前が台無しの顔。

 だけど俺にとってはいつもの顔で、間近にあるのがちょっと恥ずかしくなった。

「ツカサ君、起きた?」
「う……うん……」

 まだ周囲は薄暗い。
 でも、ちょっと明るくも思える。

 ……そういえば、俺達がこの【王宮・ペリディェーザ】に帰って来たのは明け方の事だった。ということは、そんなに寝ていなかったんだろうか。
 目を擦ると、ブラックは忍び笑いをする。

「もう夕方だよ。いっぱい寝てたね」
「え……えぇ……!?」

 う、嘘。俺ってばそんなに寝ちゃってたの。
 思わず天井や周囲を見やると、確かに何だか変だ。朝焼けにしては色がオレンジすぎるし、強めな感じがする。ってことはマジで夕方なのか。

 俺ってば夕方まで寝ちゃったのか……今は緊急事態だってのに……!

「はいはい混乱しないで落ち着いて。まだ何も呼ばれてないから。大丈夫だから」
「う……だ、だって……」
「あいつらだって、休ませた方がいいと思ったから起こしに来なかったんだよ。ホラ、僕らみたいな遊撃できるヤツが潰れちゃ元も子もないだろ? だから、ここで今までの疲れを解消して貰おうってことで、誰も何も言わなかったんだよ」

 寝起きの頭で良く分からないが、気を使って貰ったって事なのかな。
 だとしたら申し訳ないが、しかし疲れたままだと迷惑をかける可能性も有るし……ぐっすり眠らせて貰えて良かったと思うべきなのかも知れない。

 けど……。

「……アンタも……ちゃんと寝たの……?」

 まさか、ずっと起きて何か仕事をしていたんじゃないだろうか。
 心配になって、ハッキリしてきたブラックの顔を見ると、相手はすぐに表情をデレッと緩めてさらに距離を詰めて来た。

 グッ……こ、腰と背中を抱き寄せられて動けん……っ。

「えへ……ツカサ君、僕のこと心配してくれたのぅ?」
「う……そ、そりゃ……アンタだって、疲れただろうし……」
「んあぁああもうツカサ君たらっ、もう僕が我慢してるのにそんな可愛いコト言うから僕が我慢出来なくなっちゃうんでしょぉっ!? こらっ、この煽り上手! 第一級ペニス勃起させ屋!」
「変な単語を爆誕させんな!! も、もう起きるっ、起きるから離せ~っ!」

 このままだと本当に勃起されて責任を取らされそうだと思い、なんとか腕から抜け出そうとする。が、やっぱり俺の力ではそれも敵わない。

 どうしたものかと焦るが、そんな俺をブラックは嬉しそうにニマニマした顔で見つめて……また、顔を近付けて来た。

 まったく整えられていない、濃くなった無精髭だらけの顔。
 そんな顔を向けられても普通は鬱陶しいか怖いだけなはずなのに、嬉しそうに目を細めて口をだらしなく緩めている表情をみると、変に意識してしまう。

 こ、この顔は普通に好色な盗賊みたいな感じなのに。
 だってのに、近付いて来られると胸が苦しくなる。何もされてないのに、体がもじもじしてきて、つい足を閉じて力を籠めてしまう。

 そんな自分が恥ずかしくて硬直してしまう俺に、ブラックは上機嫌で眉を上げた。

「ツカサ君、こんな僕でもドキドキしちゃうんだもんね。へへ……嬉しい……」
「う、うぅう~……」

 ああ、頬を寄せられる。めっちゃチクチクする。痛痒いっていうかもう痛い。
 そんくらいヒゲが汚く育ってるのに、ブラックの吐息や髪の毛のふわっとした感触が触れて来るたびに、もう心臓がきゅってなって、どうしようもなくなる。

 逃げられないせいで余計に顔が熱くなって、息が詰まって。

「お外でイチャイチャするのも良いけど……やっぱ、ベッドの上で誰にも邪魔されずにこうするのが、一番イイなぁ……」
「~~~~っ」

 だ、だから、声……っ。
 低くて渋い声を間近で囁くなってば。その声だめ、ダメなんだって。

 近くでそんな熱っぽい声で生き吹きかけられたら、背筋がぞくぞくして、お腹の奥が熱くなってぎゅうってなるから。変な感じになるから……っ。
 なのに、なんでアンタは俺がやめて欲しいってことをやるんだ。

「ね、ツカサ君……ちょっとだけ、セックスしたくなってきた? きたよね……?」
「ぅ……ち、違……」
「隠したってだーめ……ふ、ふへっ……へへ……ね……この際、セックスしてもっと元気になろうよ……ね……? ツカサ君は僕の濃い精液で、いっぱい元気になれちゃうんでしょ? だったらしようよ……ね……僕も、ツカサ君とセックスしていっぱい元気になりたいんだよぉ……ね……?」

 ねぇねぇうるさい!
 し、しない。こんな状況で出来るワケがない。えっちしないってばっ。

 そもそも今は緊急事態なんだぞ、いつ戦が始まっても変じゃないんだぞ。
 なのに、こんな状況でえっちするなんて、絶対駄目だって。
 寝ただけでも元気になるじゃないか。つーか元気になりたいなら寝ろ!
 あといっぱい食べろ!

「げ、元気になるなら、睡眠と食事……」
「とセックスだよね! うんうん、さすがだねツカサ君、僕のこと解ってるぅ」
「お前は俺のこと解ってねーなあ!」

 いや分かってるんだろうけど、絶対コレ知らないフリをしてるんだ。
 ブラックの野郎はいっつもこうなんだ。俺がイヤって言ってるのに、こんな風にして俺を手練手管で籠絡して強引に事を進めようとしてくる。

 大人のテクニックに、生まれてこの方彼女なんて居た事のない俺じゃどうしたって敵うワケがない。それなのに、このオッサンは……!

「えへへ~。分かってる分かってるぅ、ツカサ君は強引に迫られたいんだもんね? 僕に、このちっちゃなおちんちんをた~っぷりと撫でられて、勃起したどうにもならない状態に持ち込まれないと、自分からえっちしたいって言えないんだ。分かってるよぉ、今からちゃんとツカサ君をたっぷり気持ち良くさせてあげるから……」
「ぐわぁああああ」

 だからそんなこと思ってないってのにいいいいい!!

 誰が撫でられたいだ俺は痴女……いや違った痴漢か!
 いやちょっと待って痴漢ってこういう時にそんな風に言って良いんだっけ!?

 ああもう分からん、わ、分からんっ、だからキスしてくるな、腰を押し付けて来るな、抱いてる手をじわじわケツに降ろしてくるなああああ!

「…………あの、匂いづけは良いんですけどね……もうちょっと適切な時間にやって貰えませんかね御二方」
「ぎゃ――――!!」
「うわぁ! つ、ツカサ君が跳んだ!」

 だだだだだ誰だ誰がうぎゃっ、べ、ベッドに倒れ込んじまった。
 ……じゃなくて、お、落ち着け。お落ち着くんだ俺。思っても見ない声が聞こえてきて思わず飛び上がってしまったが、まだスケベなことはしていない。落ち着け。

 はー、はぁー……よ、よし……ブラックの腕からも運よく逃げられたし、まだセーフ。というか「匂いづけ」と言ってたって事は、この声は……。

「あ、アンノーネさん……」

 振り向きたくなかったが振り向いてみると、そこには部屋の入口で所在無げに立ち尽くす、象耳の青年アンノーネさんがいた。
 夕日のせいなのか、なんか呆れ顔がちょっと赤く見える。
 なんかその……お見苦しい所を見せてしまって申し訳ありません。

 つい軽く頭を下げると、相手はゴホンと咳を一つし、改めて俺達を見た。

「よく眠れたようで何よりです。……やっと今後の方針がまとまりましたので、貴方達も話を聞きに来て下さい。今回は陛下と“根無し草”達だけですので、気負う必要は何もありませんからご安心を」
「根無し草って……ナルラトさん……?」
「そんな日陰者ばっかり集めてどうすんだい」

 思い通りに出来なかったので拗ねたのか、ブラックがベッドに肘をついて仏陀のように寝転がっている。
 そんな姿に冷ややかな視線を送りつつ、アンノーネさんは続けた。

「……決まっているでしょう。【五候】の方々には関係のない話と言う事ですよ」

 早く支度をしてついて来て下さい、と吐息を漏らすアンノーネさんに、俺とブラックは顔を見合わせる。
 ……なんだか、のっぴきならない話のような気がするのだが……行かないワケにもいくまい。どの道、乗りかかった船なのだから。

「あーあ……まーた面倒な事になりそうだなぁ……」

 ブラックがボヤくが、今回ばかりは俺もその言葉に同意してしまいそうだった。










※遅れてしまいました(;´・ω・`)スミマセン…
 もうちょっとでクロウと合流
 
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