649 / 952
亡国古都アルカドア、黒き守護者の動乱編
30.てのなるほうへ
しおりを挟む狭い視界の中で周囲を見渡し、俺は人の気配が無い事を再度確認する。
ブラックが【索敵】で小刻みに周囲を探ってくれているけど、この【付加術】を使う時に使用する“大地の気”は、人族の冒険者なら感知出来ちまうからな。
まあブラックより上の術者ぐらいしか【索敵】の気配は分からないそうだけど、それでも用心に越したことはないだろう。
この城の内部を把握するまでは、気が抜けないからな!
なので、ブラックの後に続いて俺も周囲を警戒しながら、にじりにじりと歩き城の中の探索をしているのだが。
「ツカサ君……ねえ、その……やっぱりその兜は要らないんじゃない……?」
このオッサンは、まーたこんな事を言う。
だが俺は毅然とした態度で、自分の顔を覆っている兜を動かした。
「何言ってんだよ、コレは絶対必要だろ! お前はともかく、俺はケシスさん達に顔をバッチリ覚えられちゃってるし、それに傭兵ってどこいっても兜を被ってるもんだろ? だったら俺だけでも被ってなきゃ!」
ふふん、俺だってゲームとかで傭兵の事はしってるんだからな。
なんかよくわからないけど、彼らはパンツ一丁でも兜を外さないのだ。多くのゲームで、彼らは頑なに兜だけは守り続けているのである。
多分アレは、顔を隠し敵に表情を読まれないようにして、そこから一矢報いるという冷静沈着な判断をしているからなのだろう。
なので俺も兜は外さないようにしたのだ。パンツ一丁になっても外さないからな!
……とはブラックにも一度説明したはずなのだが、全然響いていないようだ。
「ねえツカサ君。下着一丁で兜被ってる傭兵って、それただの変態だからね? 普通に警備兵に通報した方がいいヤツだからね……?」
「戦場に警備兵なんていないだろ」
「戦場で下着一枚とかもっとナイから!! どんな性的な戦場!?」
なんでそんなツッコむんだよお前は。
まったく分からん奴だなぁ。
ともかく、俺は顔が割れてるんだから隠すに越したことはない。
そんな俺の弁舌にブラックは最後まで嫌そうに顔を歪めていたが、兜の重要性は理解してくれたのか、ハァと溜息を吐きつつ作業を再開した。
「そんで……どんな感じ? 今のところ人の気配は全然ないっぽいけど……」
「うーん……なんか、なんだろうね……不自然なくらい人がいないんだよねえ。変な気配もしないし……ツカサ君も一応【曜気】を探ってくれてはいるんでしょ?」
「う、うん……どの属性も変な動きをしてる感じの奴は無いかな……」
以前俺達はサービニア号という船で、あまりにもデタラメな術を目の当たりにした。
それは「船体となる金属を曜術で支配し、船内のありとあらゆる情報を傍受する」という手法だ。それによって、俺もかなり苦しい思いをしたのである。
今回はソレを警戒して、俺も「全属性の曜気を使える」という【黒曜の使者】の能力で、周囲の気の動きを確認しているのだ。
……まあ、あんな物凄い術はさすがにそう無いと思うし、仮に【黒い犬】の派閥の中の誰かが、彼……【金のアルスノートリア】ほどの力を持っていて、城を形作る石や土を支配できたとしても、占拠して二日三日では支配も不完全だろう。
それに、リメインは……巨大な船を支配したせいで、苦しんでたし……。
………………。
万が一ってこともあるし、まあ……用心するに越したことはないからな。
けど、今のところ変な気の動きは見えない。
だから何か変な事が起こってるってワケでもないんだろうけど……。
「……それにしても、ホントに曜気が少ないんだなぁ……でも、曜気って無くなったらその物質が脆くなっちゃうんだろ? よくこんなガチガチな城を作れたもんだ」
石が剥き出しになっている壁をぺちぺちと叩くが、全然崩れる感じはしない。
これで土の曜気がほぼゼロなんだから驚きだ。
「大地……土や岩だけは特別なんだよ。ソレそのものが強固っていうか、この世界の土台になる存在だからなのか、それともどこに在ろうが自然と繋がってるからなのか、流動する土の曜気がほとんどなくても壊れず存在して居られるんだ」
「やっぱ、大地と接触してるから?」
この世界の土の曜気って、絶えず流れ続けてるんだよな。だから土の曜術師達は基本的にその曜気を捕えるのが難しくて、戦闘にもあまり出てこないんだ。
そのせいで、一番不遇だと言われていたりして地位が低い。……俺としては、家を造ったりしてくれる凄い人達だと思うんだが、現実は世知辛い。
あっ、クロウも強力な土属性の曜術を使えるけど、例外中の例外だな。
獣人は曜術を使えないはずなのに、クロウの特殊技能のおかげなのか唯一曜術を使えるみたいだし、しかもソレも普通の人族よりかなり強力だし。
……クロウも、自然の岩や土みたいに大地と接触する力が強いんだろうか?
そんな疑問に、ブラックは少し真面目な顔をして軽く天井を見た。
「うーん……そこは学者連中の間でも長年研究されてるみたいだね。神様の力って
言っちゃったらそれまでだけど、この世界の初期の神ってのはだいぶ面倒臭い性格ばっかりだったみたいだし……もしかすると、なんらかの作用が証明される日が来るのかも知れない。曜術だって、そういう積み重ねの歴史で出来ているからね」
ブラックの表情がほんのり楽しそうで、俺もちょっと笑ってしまう。
知識欲が凄いのか、こういう話が結構好きなんだよなブラックって。
深い所まで行くと俺はついて行けなくなっちゃうけど……敵地なのについこうして顔を明るくするブラックを見るのは、嫌いじゃない。
ホントは、こういう風にもっと気兼ねなく好きな話をさせてあげたいんだけどな。
【銹地の書】を譲り受けて人族の大陸に帰ったら、ちょっとくらいそんなヒマを貰えるだろうか。……あいつらが……【アルスノートリア】がいるうちは、無理かな……。
そもそも、獣人大陸に居るうちは難しいか。
「ツカサ君?」
「あ、いや、なんでもない。……これでこの階は調べ終ったかな?」
「うん。隠し通路とかもないみたいだし、ここは出歩いても大丈夫そうだ」
とはいえ、ここは厨房や訓練場、それと兵士や使用人の部屋しかないフロアなので、ここを探っても何か重要な物が有るとは言えないのだが。
……いや、重要っちゃ重要だよな。だって、この階に俺達二人以外の誰もいないんだもん。さすがに厨房まで無人ってのはおかしすぎるもんな。
「なあブラック……やっぱこの城の人達って、全員纏めてどこかに監禁されちゃってるのかな。この階に誰も居ないって、どう考えてもおかしいよな……」
「さすがに城の料理人全員が厨房を留守にするのはね。……だけど、この上の階にも人の気配はなさそうだしなぁ……やっぱり地下なんだろうか」
あ、そっか。全ての術は基本的に地中は探れないけど、上空は妨害されてなきゃ一緒に探れるんだっけ。まあそんな芸当出来るのはブラックくらいだろうけども。
「ここは一階……もし地下への隠し通路が有るなら、ここが一番可能性が高いと思うんだけどなぁ。でも、そんな感じはしないし……やっぱり丁寧に探すしかないか。まあ三階には【蔵書保管庫】があったし、この城の事をもう一度調べてみるのもアリかも知れないね」
「あ、そっか! そういうのもあったな!」
あの時はザッと見ただけだったし、もう少し詳しく探せば城の見取り図が見つかるかも知れない。そしたら、そし……たら……――――
………………あれ……なんか、視界が急になんか、かすんで……。
……え……なんか、全部滲んだみたいな……あれ……。
「ツカサ君?」
目の前にはブラックがいる。俺の顔を覗き込んでいる……はず……なのに、何故かその姿が見えない。目の前にある色のついた影がスッと溶けて、そしたら、ブラックの体に隠れていたはずの廊下が見えて来て。
そこには。
『――――こっち』
そこには――――砂色の大きな三角耳と、ふわふわした金色の髪の、不思議な女の子が立っていた。
……あれ……って……クラウディア、ちゃん……?
あれ、変だな……でも、裸足の小さな女の子の、クラウディアちゃんだ……。
どうしてこんな所に……。
『おしろ、変わっちゃったんだね。でも、大丈夫……』
金色の綺麗な光に包まれてふわふわとした光の粒を散らす彼女は、愛らしい容姿が更に強調されて見える。
ふんわりした尻尾は……ああ、そうだ、あの尻尾は、熊じゃなくて……。
『あのお姉さんに、教えて貰ったの。だから、わたしがお兄ちゃんを助けるね』
そう言って、クラウディアちゃんは手招きをする。
彼女が俺に手を動かす度に金色の不思議な光が散って、頭がぼんやりしてくる。
……なんだろう。どうしてこんな感じになるのか、不思議だ。
でも悪い気分じゃなくて、そうしてもいいかって思えてくる。
気が付くと俺は歩いていて……ただ、彼女に招かれるまま進んでいった。
→
※ツイ…Xで言ってた通り遅れました(;´Д`)
残暑がまだまだキツイですね…
10
お気に入りに追加
1,010
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。

その男、有能につき……
大和撫子
BL
俺はその日最高に落ち込んでいた。このまま死んで異世界に転生。チート能力を手に入れて最高にリア充な人生を……なんてことが現実に起こる筈もなく。奇しくもその日は俺の二十歳の誕生日だった。初めて飲む酒はヤケ酒で。簡単に酒に呑まれちまった俺はフラフラと渋谷の繁華街を彷徨い歩いた。ふと気づいたら、全く知らない路地(?)に立っていたんだ。そうだな、辺りの建物や雰囲気でいったら……ビクトリア調時代風? て、まさかなぁ。俺、さっきいつもの道を歩いていた筈だよな? どこだよ、ここ。酔いつぶれて寝ちまったのか?
「君、どうかしたのかい?」
その時、背後にフルートみたいに澄んだ柔らかい声が響いた。突然、そう話しかけてくる声に振り向いた。そこにいたのは……。
黄金の髪、真珠の肌、ピンクサファイアの唇、そして光の加減によって深紅からロイヤルブルーに変化する瞳を持った、まるで全身が宝石で出来ているような超絶美形男子だった。えーと、確か電気の光と太陽光で色が変わって見える宝石、あったような……。後で聞いたら、そんな風に光によって赤から青に変化する宝石は『ベキリーブルーガーネット』と言うらしい。何でも、翠から赤に変化するアレキサンドライトよりも非常に希少な代物だそうだ。
彼は|Radius《ラディウス》~ラテン語で「光源」の意味を持つ、|Eternal《エターナル》王家の次男らしい。何だか分からない内に彼に気に入られた俺は、エターナル王家第二王子の専属侍従として仕える事になっちまったんだ! しかもゆくゆくは執事になって欲しいんだとか。
だけど彼は第二王子。専属についている秘書を始め護衛役や美容師、マッサージ師などなど。数多く王子と密に接する男たちは沢山いる。そんな訳で、まずは見習いから、と彼らの指導のもと、仕事を覚えていく訳だけど……。皆、王子の寵愛を独占しようと日々蹴落としあって熾烈な争いは日常茶飯事だった。そんな中、得体の知れない俺が王子直々で専属侍従にする、なんていうもんだから、そいつらから様々な嫌がらせを受けたりするようになっちまって。それは日増しにエスカレートしていく。
大丈夫か? こんな「ムササビの五能」な俺……果たしてこのまま皇子の寵愛を受け続ける事が出来るんだろうか?
更には、第一王子も登場。まるで第二王子に対抗するかのように俺を引き抜こうとしてみたり、波乱の予感しかしない。どうなる? 俺?!
俺だけ永久リジェネな件 〜パーティーを追放されたポーション生成師の俺、ポーションがぶ飲みで得た無限回復スキルを何故かみんなに狙われてます!〜
早見羽流
ファンタジー
ポーション生成師のリックは、回復魔法使いのアリシアがパーティーに加入したことで、役たたずだと追放されてしまう。
食い物に困って余ったポーションを飲みまくっていたら、気づくとHPが自動で回復する「リジェネレーション」というユニークスキルを発現した!
しかし、そんな便利なスキルが放っておかれるわけもなく、はぐれ者の魔女、孤高の天才幼女、マッドサイエンティスト、魔女狩り集団、最強の仮面騎士、深窓の令嬢、王族、謎の巨乳魔術師、エルフetc、ヤバい奴らに狙われることに……。挙句の果てには人助けのために、危険な組織と対決することになって……?
「俺はただ平和に暮らしたいだけなんだぁぁぁぁぁ!!!」
そんなリックの叫びも虚しく、王国中を巻き込んだ動乱に巻き込まれていく。
無双あり、ざまぁあり、ハーレムあり、戦闘あり、友情も恋愛もありのドタバタファンタジー!

【完結】魔王を倒してスキルを失ったら「用済み」と国を追放された勇者、数年後に里帰りしてみると既に祖国が滅んでいた
きなこもちこ
ファンタジー
🌟某小説投稿サイトにて月間3位(異ファン)獲得しました!
「勇者カナタよ、お前はもう用済みだ。この国から追放する」
魔王討伐後一年振りに目を覚ますと、突然王にそう告げられた。
魔王を倒したことで、俺は「勇者」のスキルを失っていた。
信頼していたパーティメンバーには蔑まれ、二度と国の土を踏まないように察知魔法までかけられた。
悔しさをバネに隣国で再起すること十数年……俺は結婚して妻子を持ち、大臣にまで昇り詰めた。
かつてのパーティメンバー達に「スキルが無くても幸せになった姿」を見せるため、里帰りした俺は……祖国の惨状を目にすることになる。
※ハピエン・善人しか書いたことのない作者が、「追放」をテーマにして実験的に書いてみた作品です。普段の作風とは異なります。
※小説家になろう、カクヨムさんで同一名義にて掲載予定です

久々に幼なじみの家に遊びに行ったら、寝ている間に…
しゅうじつ
BL
俺の隣の家に住んでいる有沢は幼なじみだ。
高校に入ってからは、学校で話したり遊んだりするくらいの仲だったが、今日数人の友達と彼の家に遊びに行くことになった。
数年ぶりの幼なじみの家を懐かしんでいる中、いつの間にか友人たちは帰っており、幼なじみと2人きりに。
そこで俺は彼の部屋であるものを見つけてしまい、部屋に来た有沢に咄嗟に寝たフリをするが…


性悪なお嬢様に命令されて泣く泣く恋敵を殺りにいったらヤられました
まりも13
BL
フワフワとした酩酊状態が薄れ、僕は気がつくとパンパンパン、ズチュッと卑猥な音をたてて激しく誰かと交わっていた。
性悪なお嬢様の命令で恋敵を泣く泣く殺りに行ったら逆にヤラれちゃった、ちょっとアホな子の話です。
(ムーンライトノベルにも掲載しています)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる