異世界日帰り漫遊記!

御結頂戴

文字の大きさ
622 / 1,098
亡国古都アルカドア、黒き守護者の動乱編

10.格好つけられない男ども

しおりを挟む
 
 
「それで……状況はどうだ。何か崩せそうな部分は見つかったのか?」

 シーバさんの声は、ちょっと固い。「ザンス」口調を封印しているのとは別に、どうも緊張しているらしい。たぶん、もしかしなくても俺が居るからだよな。

 だから、自分の言葉に気を使って、ナルラトさんに「なに」を協力させていたのかをなるべく話さないようにしようとしてるっぽい。
 まあそれは当然か。俺は部外者だし、シーバさんとしては、時が来るまでクロウに謀反の計画を知られたくはないだろうしな。
 この感じで来られたら、ナルラトさんも直接的な言葉には出せないだろう。

 諜報暗殺を請け負っていた“根無し草”のナルラトさんだ。シーバさんの意図を汲み取って、俺に分かりにくいようにふんわりした言い方で話すはず。そのくらいの気遣いが無ければ、信用も諜報もされないだろうしな。
 ……でも、そうなると……俺が聞き取れるか不安になってきた。

 いや、別に聞けなくたって後でナルラトさん本人に聞けばいいんだけどさ、でも何かが起こって聞けなくなっちゃったなんて事は往々にしてあるし……。
 ともかく、なんとかして二人の会話について行かなければ。持ってくれよ俺の理解力と脳みその記憶容量! あと俺の氷を抱えた腹!

「…………正直に言えば、五つの家の関係はそれほど親密な物ではない。神獣族は、聖獣ベーマスにその力を与えられた特別な獣達だが……だからといって他の獣と違って清廉だと言うワケではない。驕りも有れば野心も有る」
「ほう?」
「俺がそれぞれの家を回って得た情報は、大まかに言えばこういう感じだ」

 そう言って、とても簡単にナルラトさんは「五つの家」とやらの特徴を説明した。

 最初は財力の家、これは重要な役職についているため現状に満足している。だが各家の中では家として誕生した時期が短いため、そこに劣等感を抱いている分家なども珍しくない。それゆえ、勤勉で実直ではあるがいつも四番手に甘んじている。
 五つの家の中で最も人数が多く、その多くが文官として働く。

 次に勇猛の家。こちらは既に目的も名誉ある権威も達成しており、不満が無い。が、それゆえに傲慢な者も多く見受けられ、首が変われば総崩れになる可能性もある。特に今は、一番の出世頭が失態を犯して過敏になっている。そこを口さがない他の家に突かれて不満が溜まっているようだ。

 三番目は聡明の家。古い分家であり、歴代の王を補佐する役目に幾度も選ばれるほどに思慮深い物が多い。今でも、調停役や参謀としても活躍している。それゆえ、他の家に一目置かれる事が多く、過去の王を見れば「聡明の家」から輩出された王が、一番神獣たる特別な力を備えていたという。

 四番目は統率の家。真祖の直系と言われており、最も多く王を輩出する。現在の王は元々がこの家の出身であり、最も武力に優れた家である。当然発言権も強く、王の権力を使い好き放題にする者もいるが、大半は兵士として仕えている。

 五番目は守護の家。これといった特徴も無く、熊族の元々の性質を色濃く受け継ぎ臆病で前に出ない。五つの家の中ではもっとも数が少ないがゆえに、他の四つの家には軽んじられている傾向が有る。だが固く約束を守り熱心な傾向が有るため、衛兵や宝物の守り手として重宝されている。

 ――――ナルラトさんの説明は、こんなところだ。

 ……これって……やっぱクロウんとこの王族の話だよな。
 確か、王族は「五候」ってのに分かれてるらしいし、勇猛の家なんて言い方はモロにマハさんや怒りんぼ殿下の【カンバカラン】そのものだ。

 となると、恐らく「財力の家」は俺にも優しくしてくれた、食料庫の鍵を管理する黒髪フサ熊耳のヒゲおじさま――ジャルバさんの家【ナーランディカ】だろう。

 じゃあ、後は……えーと……賢竜殿下ことルードさんの苗字は確か【アーティカヤ】だから、雰囲気的に聡明の家……かな……?
 だとするとあとの二つは……。

「お前ッ、クロウクルワッハ様のご生家を軽んじられているとは何事だ!!」

 アッ……シーバさんが自らバラしちゃった。でもこれで後二つはハッキリしたな。
 五番目の「守護の家」が、クロウの家である【メイガナーダ】だろう。確かにナルラトさんの報告には文句を言いたくなるかもしれない。軽んじられてるって、そりゃないよな……まあ、本当の事なんだから仕方ないんだろうけど。
 でも……あと一つが分かんないな。

 多分、ドービエル爺ちゃんの家だったんだろうけど、俺は名前を知らないぞ。
 確か、爺ちゃん苗字は王様だからクロウとは全く違うって話だったはず。なら、多分アーカディアじゃないよな。……まあそこは後でクロウに聞いてみるとするか。

 今はともかく話の続きだ。
 冷える腹を顔を顰めつつ抑えていると、文句を言ったシーバさんにナルラトさんはハァと溜息を吐いた。

「別に俺はお前の主君とやらを貶めたいワケじゃない。実際、そう言われていたって話を正直に伝えているだけだ。……五候は、結束が固いわけじゃないって事だよ」

 ハッキリ「五候」って言っちゃったけど、シーバさんは気付かずグヌヌと言わんばかりに顔を歪めてナルラトさんを睨んでいる。
 どうやらカッとなってしまって、言葉を取り繕う余裕も無いらしい。
 だがそれは俺にとってチャンスだな。でもそろそろ腹がヤバい。頑張れ俺。

「ぐっ……」
「そもそも、お前はそこから戦竜殿下を完全に引きずりおろす糸口を見つけて、賢竜殿下をも失脚させようとしていたんだろ。むしろ五候の足並みが揃っていない状況を喜ぶべきなんじゃないのか?」
「……だが……っ」
「俺はお前に多少の恩が有る。だから協力しているが、そんな風に一々貶めるような言葉に反応して居たら、謀反どころか考えなしに突っ込んで討ち死にしかねんぞ。狼族が群れを大事に考えるのは俺も知らんでもないが、お前の場合は行き過ぎだ」

 自分が仕えていた者を少しでも馬鹿にされたら怒るなんて、敵に自ら隙を見せつけているようなものだ。呆れたように言うナルラトさんに、シーバさんは歯噛みする。
 多分、理解はしていても我慢が出来ないんだろうな。

 狼の聖地【タバヤ】で乱入して来た時だって、怒りんぼ殿下に対抗心バチバチって感じだったし、クロウの素質を認めさせたいって感じバリバリだったもんな。
 クロウのことを心酔レベルで尊敬してるからこそ、謀反なんて考えたんだろうし。

 ……人を信じ抜くのは悪い事じゃないけど、その献身の方向性が間違っていたら、相手を悲しませる事にしかならないんだよな……。
 クロウだって、慕われて嬉しいだろうけど、謀反してくれとは思ってないだろうし。

 だから、なんとかここでシーバさんの野望を止めて、明確に何をしたかったのかも問い詰めておかないと……うう、上手くいくかなぁ。なんか別の意味でもお腹が冷え冷えになって痛くなってきた。

 っていうか、ちょっとヤバい。マジで寒くて腹がギリギリして来た。

「協力させたお前には申し訳ないと思っている……だが、こうでもしないとクロウクルワッハ様の名誉は取り戻せんのだ! あの腐った兄弟どもに虐げられ傷付けられた我らが長の復讐を果たすとしたら、もう、この機会しか……!」

 シーバさんが悔しそうに唇をかみしめる。
 額を横一線に走る傷が、その悔しさにじりじりと歪んでいるような感じがした。

 ゆ、歪んで……ぐうう、だめだ、なんか本格的に俺も腹の具合が悪くなってきた。腹に氷を抱えてるせいで熱いのに寒いし汗がだらだら出てくる。や、やばい。
 頼む、話が終わるまで持ってくれ俺の腹。

「本当にこんな方法しかないのか? そもそも国家転覆まがいのことなんぞ、本当にお前の上司が望んでると思うのかよ。ここまで調査に付き合っておいてなんだがよ、やらねばやらねばってお前の勇み足に見えるぞ。空回りしてるんじゃねえのか」
「う、煩い……!! 俺はどうしてもやりとげなきゃいけないんだ! お、お前に……お前にッ、なにが分かる! 俺達が、はぐれの半端者だった俺達が今日まで生きて来られたのは誰のおかげだと思ってる!! 全部、クロウクルワッハ様のおかげだ、あの人だけが俺達を見捨てなかったんだ、だから……!」

 叫ぶような、独白。
 クロウだけがシーバさん達を見捨てなかった……とは、どういうことなのか。
 もしかして、クロウが率いていた大隊――今はもう存在しないその隊の人達は、シーバさんが言うように見捨てられた人たちだったんだろうか。

 人族の大陸でシーバさんと一緒に居たスクリープさんもタオウーさんも、シーバさんと似たような境遇だったとすれば、彼らがクロウに心酔する理由も解かった。
 クロウは優しいから、人の心に寄り添えるから、シーバさんみたいに見捨てられたと思っている人を放っておけなかったんだろう。

 だから、クロウが率いていた隊員たちはクロウと共に人族の大陸へと渡って来たに違いない。それだけ心酔するような思いやりを、クロウは彼らに与えていたんだ。
 その優しさは、シーバさんには計り知れないものだったんだろう。だから、こんなにクロウの凄さを認めさせたくて、焦って、謀反なんて……――――

「ぐうぅっ」
「つ、ツカサ。どうした」
「えっ、つ、ツカサさん……うわっ、顔が青い……っ」

 う、うう、真面目に考えてたのに、ヤバい。腹がもう持たなくなってきた。
 キリキリ痛いし上か下かわかんないものが込み上げてくる。このままだと、確実に俺は醜態を曝してしまう。ああでもこんな所で元気に動くワケには……っ。

「あ゛あ゛ぁあ」
「ちょっ、だ、大丈夫なんザンスかツカサさんは!?」
「大丈夫なはずだったんだけど……ちょ、お、おいツカサ、お前……」

 い、いだだだだ。ハラ痛い。
 もう我慢出来ないぃ……っ!!

「ぐあああああごめんトイレぇええええ!!」

 自分でも驚くほどの動きでバッと起き上がり、俺は裸足のままで部屋に併設されている手洗い場にダッシュする。
 背後で「と、といれ?」と半疑問調の声が聞こえた気がしたが、もう構ってられん。
 己の顔が青ざめて冷たくなっているのを感じつつも、俺は氷でじっとりと濡れて凄く冷たくなっている腹を抑えながら、トイレ、いや厠にバタンと駆け込んだ。

 ――その、直後。

 バンと大きな音がして、扉の向こうの方から叫び声が聞こえてきた。

 …………あ……これ、もしかしなくてもクロウが飛び込んできた……?

「な、何故貴方がここに!?」
「シーバ大人しくしろ! でねえとふんじばるぞ!」

 ああ、ナルラトさんの威勢のいい声が聞こえる。
 たぶんクロウがシーバさんを抑え込んでいるに違いない。

 そうか、このタイミングで部屋を探り当てて乗り込んで来てくれたのか、クロウ。

 ………………俺、なんちゅう大事な場面でトイレに籠っちゃってんの……。

「う、うう……これは怪我の功名、怪我の功名……」

 そうは言っても、この状況で個室にこもっちゃってる自分が情けない。
 せめて他の方法で具合が悪いように装えばよかったなぁ……なんて思いつつ、俺は己の腹の具合が収まるまで、顔を覆って恥ずかしさに耐えるしかなかった。










 
しおりを挟む
感想 1,219

あなたにおすすめの小説

【完結】異世界に転移しましたら、四人の夫に溺愛されることになりました(笑)

かのん
恋愛
 気が付けば、喧騒など全く聞こえない、鳥のさえずりが穏やかに聞こえる森にいました。  わぁ、こんな静かなところ初めて~なんて、のんびりしていたら、目の前に麗しの美形達が現れて・・・  これは、女性が少ない世界に転移した二十九歳独身女性が、あれよあれよという間に精霊の愛し子として囲われ、いつのまにか四人の男性と結婚し、あれよあれよという間に溺愛される物語。 あっさりめのお話です。それでもよろしければどうぞ! 本日だけ、二話更新。毎日朝10時に更新します。 完結しておりますので、安心してお読みください。

魔王の息子を育てることになった俺の話

お鮫
BL
俺が18歳の時森で少年を拾った。その子が将来魔王になることを知りながら俺は今日も息子としてこの子を育てる。そう決意してはや数年。 「今なんつった?よっぽど死にたいんだね。そんなに俺と離れたい?」 現在俺はかわいい息子に殺害予告を受けている。あれ、魔王は?旅に出なくていいの?とりあえず放してくれません? 魔王になる予定の男と育て親のヤンデレBL BLは初めて書きます。見ずらい点多々あるかと思いますが、もしありましたら指摘くださるとありがたいです。 BL大賞エントリー中です。

臣下が王の乳首を吸って服従の意を示す儀式の話

八億児
BL
架空の国と儀式の、真面目騎士×どスケベビッチ王。 古代アイルランドには臣下が王の乳首を吸って服従の意を示す儀式があったそうで、それはよいものだと思いましたので古代アイルランドとは特に関係なく王の乳首を吸ってもらいました。

一人の騎士に群がる飢えた(性的)エルフ達

ミクリ21
BL
エルフ達が一人の騎士に群がってえちえちする話。

性悪なお嬢様に命令されて泣く泣く恋敵を殺りにいったらヤられました

まりも13
BL
フワフワとした酩酊状態が薄れ、僕は気がつくとパンパンパン、ズチュッと卑猥な音をたてて激しく誰かと交わっていた。 性悪なお嬢様の命令で恋敵を泣く泣く殺りに行ったら逆にヤラれちゃった、ちょっとアホな子の話です。 (ムーンライトノベルにも掲載しています)

異世界に転移したら、孤児院でごはん係になりました

雪月夜狐
ファンタジー
ある日突然、異世界に転移してしまったユウ。 気がつけば、そこは辺境にある小さな孤児院だった。 剣も魔法も使えないユウにできるのは、 子供たちのごはんを作り、洗濯をして、寝かしつけをすることだけ。 ……のはずが、なぜか料理や家事といった 日常のことだけが、やたらとうまくいく。 無口な男の子、甘えん坊の女の子、元気いっぱいな年長組。 個性豊かな子供たちに囲まれて、 ユウは孤児院の「ごはん係」として、毎日を過ごしていく。 やがて、かつてこの孤児院で育った冒険者や商人たちも顔を出し、 孤児院は少しずつ、人が集まる場所になっていく。 戦わない、争わない。 ただ、ごはんを作って、今日をちゃんと暮らすだけ。 ほんわか天然な世話係と子供たちの日常を描く、 やさしい異世界孤児院ファンタジー。

【本編完結】転生したら、チートな僕が世界の男たちに溺愛される件

表示されませんでした
BL
ごく普通のサラリーマンだった織田悠真は、不慮の事故で命を落とし、ファンタジー世界の男爵家の三男ユウマとして生まれ変わる。 病弱だった前世のユウマとは違い、転生した彼は「創造魔法」というチート能力を手にしていた。 この魔法は、ありとあらゆるものを生み出す究極の力。 しかし、その力を使うたび、ユウマの体からは、男たちを狂おしいほどに惹きつける特殊なフェロモンが放出されるようになる。 ユウマの前に現れるのは、冷酷な魔王、忠実な騎士団長、天才魔法使い、ミステリアスな獣人族の王子、そして実の兄と弟。 強大な力と魅惑のフェロモンに翻弄されるユウマは、彼らの熱い視線と独占欲に囲まれ、愛と欲望が渦巻くハーレムの中心に立つことになる。 これは、転生した少年が、最強のチート能力と最強の愛を手に入れるまでの物語。 甘く、激しく、そして少しだけ危険な、ユウマのハーレム生活が今、始まる――。 本編完結しました。 続いて閑話などを書いているので良かったら引き続きお読みください

処理中です...