異世界日帰り漫遊記!

御結頂戴

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亡国古都アルカドア、黒き守護者の動乱編

4.王宮への帰還1

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   ◆



 【準飛竜・ザッハーク】
 ――準竜は、モンスターの中でも最も竜に近いと言われている。
 力をつけ進化するモンスター達は例外なく最終的には【竜】になると言われているが、その【竜】になった“もの”は数多の獣の中でも一握りしかいないという。

 無論、最終到達地点に近い進化をした物も、滅多に現れない。
 だから、人族からしても竜は伝説上の存在として扱われる事が多いのだ。

 ……そもそも、この世界では鳥よりも高い空を飛ぶモンスター自体あまり生息していないらしい。【竜】や【龍】ほどの巨体が空を飛ぶこともないそうだ。
 しかも、そういう類のモンスターは、例外なく上位種らしい。

 高く飛べる時点で、相当強いモンスターってことだな。
 だけど、そういうヤツは絶対数が少なく人里に出てくる事も稀なんだって。魔族の国【オリクト】でも、魔族以外の“高く飛ぶけもの”は珍しいのだそうな。
 その中でも「竜に近い姿のモンスター」となれば、尚更。

 それくらい、モンスターの最終進化形である【竜】はスゴイってことなんだな。
 でも、そんな珍しい【竜】の話を、実物なんて見た事も無いだろう獣人が連綿と語り継ぎ、傅くべき物だと考えているのはちょっと驚きだ。見た事も無いのに、彼らは今も【竜】を敬い自分達が至るべき存在だと思ってるんだぜ?

 まあ俺の世界でも「麒麟児」だとか「鯉の滝登り」とか、伝説上のモノを言い伝えて尊んでいるので、人の事は言えないかもだけど……でも、書物が無く言葉だけで竜の偉大さを伝えてきたのに、その感覚が変質せずに残ってるのは不思議だ。

 いくら伝えてるとは言っても、知らないものへの尊敬とか畏怖って意識は失われていくもんなのにな。

 でもそうなっていないのは……もしかしたら、獣人達が持つモンスターとしての血が無意識に作用しているからなのかも知れない。
 モンスターとして至るべき道が【竜】であると知っているから、無意識に尊敬する念を抱き続けている……とか。


 それとも……その【竜】がデタラメな強さであると知った
 “恐怖”を、
 遺伝子レベルで刻み込まれているからなのか。


 ……ともかく、そんなワケで獣人族は【竜】というものを信奉しているのだ。

「一説によると、竜系信仰は聖獣ベーマスが竜の姿をしていたからと言われている。各部族の言い伝えを集め編纂した古代の書物では、多種多様な姿の口伝が記されているが、その中でも一番多かったのが『竜らしき姿』という伝聞だったそうだ」

 ――カチコチに冷えるほど寒い、砂漠の夜。
 綺麗な星が瞬く空を、漆黒の準飛竜の背中に乗って俺達は進んでいる。そんな夜を飛ぶ最中に、背後に居るクロウが「何故これほど獣人が竜を信奉するのか」ということを解説してくれていた。

 それというのも、ロクショウを紹介した時のマハさんや守備隊長さんが、五体投地的なレベルでロクに平伏して大変だったからなのだが……怒りんぼ殿下やマハさん達が何故竜という単語を尊称に含めて崇めるのかを知ると、増々不思議な感じだなと思ってしまう。

 だって、獣人族って基本的に弱い物は見下すし、そもそもモンスターも見下しているような感じなんだもの。怒りんぼ殿下も、ロクショウの正体を知るまで「うわっ、こいつの戦闘力……弱すぎ……」みたいな態度だったしさ。

 マジで遺伝子レベルで【竜】を恐れてるから、あんな風に敬っちゃうのかな。
 俺としてはちょっと態度が変わり過ぎて怖いぞ。

 ……まあでも、俺も有無を言わさぬほどの美形には、平伏しちゃう可能性あるしな。絶対的なチカラってヤツには、誰もが畏れてしまうものなのかもしれない。
 そんなことを思いつつ、俺は背後の声に答えた。

「なるほどなあ……でも、あくまでも伝承って感じなのに、あんな即座に崇める態度になっちゃうってのはもう神様と同格扱いだよな……擦り込みがすごい……」

 そりゃ俺だって神様仏様が出たら五体投地はしちゃうけど、でもそれってガキの頃から教えられてきたからだし、色んなものを見聞きして知ってるからだもの。
 でも、獣人は口伝だけだし目に見えて強い人がいっぱいいるじゃん。なのに、それを投げ捨てるレベルで即座に初対面のロクに頭下げちゃうんだもん。

 これはちょっと、その……擦り込みとはいうけど、それ越えてるような……。

「だけど、口伝程度の擦り込みでそこまでなるもんかね? ソコの脳筋三流バカ王子みたいになるほど」
「オイ、口を慎め浮浪者面中年」
「ブラックの言う通り、言い伝えは若い獣にはあまり作用しない。だから、これはオレ達の中のモンスターの本能がそうさせているというのに近いかも知れん」

 クロウ、せめて口喧嘩止めてあげて。
 気安くなってからちょっと兄上の扱いぞんざいになって来たなアンタ。

「ええと……じゃあ、やっぱロクショウを崇めるのは理屈じゃないんだ」
「ウム。とは言え、凶暴性が強い者には本能も負けるかも知れんがな」
「獣人は、理性が本能に負けるんじゃなくて、本能が凶暴に負けるのか……」

 まあ弱肉強食の世界だから、そっちの方がしっくりくるのかも知れんが。
 というか、俺を抱っこしたまま殿下と言い合いするんじゃないブラック。殿下との間に挟まれたのがクロウじゃなかったら泣いてるぞオイ。

「と、ともかく……ロクショウの姿を王族に見られても、攻撃される心配はないって事だよな? 守備隊の人達も大丈夫なんだよな……?」
「ウム。少なくともアーカディアの王都守備隊はモンスターの種類を学ぶ時に【竜】の伝承について学ぶはず。見つかってもすぐに襲って来る事は無かろう」
「そっか……良かったな、ロク!」
「グオォ!」

 王都に向かうにあたって少し心配だったけど、そういうことなら安心だ。
 俺達にとっては最強に可愛くて愛らしいロクだけど、準飛竜なんて珍しい存在では怯えちゃう人も出るかも知れないからな。

 それに、怒りんぼ殿下みたいな急変を見て、何か怪しい術を使ってるのかと俺達を敵認定しちゃう人もいるだろうし……。
 でも王都の人が【竜】について知ってるなら安心だ。

 ホッと胸を撫で下ろしていると、最後尾からなんか声が聞こえてきた。

「尊竜様の話だと? なんだそれは、聞いた事が無い」
「……兄上も彼も、必要以上の書物は読まないので知らないのでは」
「グッ……」

 ああ、ここで知識量の差が出るのか……。
 彼ってのは多分弟のルードルドーナだよな。まだ距離が有る言い方だけど、クロウは二人の子供の頃も知ってるからハッキリ言えるのだろう。

 何で王族が書物をほぼ読まないんだと思ったけど、そういやこの国は弱肉強食で強い物は相手の種族とか関係なしにねじ伏せられるんだっけな。
 だから、そういう小手先の情報とか全然いらないんだろう。

 …………いや、まあ、実際それで回ってるから問題ないんだろうが、それでいいのだろうか王族。知識とか重要じゃないから良いんだろうな……。

「クロウは物知りだな」

 そう言うと、背後から「むふん」と自信満々な鼻息が聞こえた。
 くそっ、ちょっと可愛いと思っちゃったのがつらい。

「ツカサ君、僕も! 僕も物知りだよっ!?」
「わーってるっての! 一々張り合うんじゃないよ!」
「んぐぅうう」

 クロウばかり褒められるのが気に入らなかったのか、マントの中で俺を抱き締めているブラックがダダをこねる。
 面倒臭いオッサンとはいえ、俺を温めつつ落ちないように支えていてくれているので、前方を見ながら両手を上げてブラックの頭をわしゃわしゃと撫でてやった。

「ムゥ……ずるいぞブラック」
「んへへぇ……お前は散々ツカサ君補給しただろ! これからは婚約者の僕の番! っていうかずっと僕の番なんだよ!」

 これはいわゆる「ずっと俺のターン」てヤツか。
 いや、ネットスラングに毒されてるな俺。言ってる場合か。

 ともかく、今は一刻も早く王都に到着しなければ……と思っていると、ロクショウがグルルと喉を鳴らした。どうやら前を見て欲しいらしい。
 その唸りの通りに真正面を見やると――――薄暗い地上に、煌々とした明かりが輪郭を形作っている物体が見えた。

 いや、あれは物体ではなく……集合体。
 どの街よりも大きく素晴らしい、様々な種族が集う獣人の王都だ。

「おおっ……! もう王都があんなに近く……さすがは尊竜様の翼……凡百の獣どもとは一線を画す能力に、敬服するばかりだ……」
「いやもう本当気持ち悪いな」
「ブラック! ……でも、ロクに乗ったままいきなり王都の中に着陸するのは怖いし、ちょっと遠い所で降りようか。ロク、砂漠に降りても大丈夫?」
「グォォン」

 任せなさい、と言わんばかりの声が頼もしい。
 うーん、やっぱりロクは可愛い上に強くて格好いいなあ。

 これは後でいっぱい感謝のおやつを作ってあげねば……などと思いつつ、俺達は夜の砂漠に慎重に降り、再び可愛さ最強のヘビトカゲちゃんに変化したロクと共に、王都へと近付いたのだった。

 寒いけど、地上の方がまだ温かい。
 それに、歩いたほうが体もあったまるからな。

 ざくざくと砂漠を進み、王都の門がハッキリ見え始めると――遠くの方の空は、もう薄ら白む時刻になっていた。
 ロクが本気で飛ぶと、半日で何とか王都に辿り着けるらしい。
 ……でも、ロクもだいぶ疲れておねむみたいだし、今回みたいな超特急はそうそう頼めないな……。便利だけど、ロクの体の方が大事だ。

 今後は気を付けないと……などと思いつつ、俺達は難なく王都へと入った。
 一般人は色々面倒臭いけど、今回は怒りんぼ殿下がいるから顔パスなのだ。

 守備隊の兵士さん達にお供して貰い、まだ獣人達もいない朝の静かな街を通って王宮【ペリディェーザ】の門を叩く。
 ――本来なら、きちんと「帰ります」って事前に伝えて、戦竜殿下の帰還ってことで大々的にお迎えして貰えたんだろうけど……今回は、兵士さん達だけだ。

 それを考えると、怒りんぼ殿下に寂しい思いをさせたんじゃないかと少し申し訳なく思ってしまうが、殿下も今は緊急事態だと思っているのか何も言わなかった。
 こう言う所は、みんな大人で偉い。

 ……いやまあ、実際殿下もブラック達も大人なんだけどさ。
 でも全員ロクでもないこと言うからな……。

 ご、ゴホン。
 ともかく、やっと王宮に帰ってきた俺達は、さっそく色んな事を報告すべく代理国王として頑張っているドービエル爺ちゃんの所へ行くことになった。










 
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