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飽食王宮ペリディェーザ、愚かな獣と王の試練編
独断と偏見2
しおりを挟むどこに連れて行かれるのかは知らないが、なんだかイヤな予感はする。
これは逃げた方がいいんじゃないか。何か知らんが俺の第六感的なモノが全力で「逃げましょうよ~」って言ってる気がするんだが。
いやでもこのマッチョ腕はビクともしないしな。ヒトの足だとは思えない速さで荒野を突っ切って既に砂漠を走っているが、この人は本当にどこに行く気なのだろう。
まさか一足先に王都に帰ろうとしているのか……なんて思ってたら、俺のその予想は大当たりだったようで、怒りんぼ殿下は王都に戻るなり、門番の兵士達への挨拶も適当に王都を囲う防壁に駆け上り、てっぺんにある通路を駆ける。
本来なら外敵に向けて矢や大砲を放つための場所だろうに、怒りんぼ殿下は都民に見つからない通路だとでも言わんばかりに進んでいった。
まあそりゃ、アンタは元々王様なんだから顔が割れてるし、一般人に見つかったら色々面倒なんでしょうけど、わざわざ防壁の上の通路を走るくらいなら、ブラック達と一緒に帰れば良かったのになあ……。
にしても、どこに連れて行こうとしてるんだろう。
どうも王宮とは違う、少し離れた場所っぽいけど……。
「あの……一体どこに行こうって言うんです……?」
チラチラと壁の下に広がる王都をみやると、碁盤の目のように美しく建物や家屋が並んでいて、高い場所から見ると全体が王宮の庭にも見える。
黄土色の家屋を色とりどりの日よけ布や家紋らしき模様が入った布が飾り、目にも艶やかな風景が広がっている様は、毎日がお祭りみたいでとても綺麗だ。
思わず見とれてしまうくらい、王都の街並みは美しい物だった。
そんな建造物群から少し離れた、門から一直線に伸びる大通りの終点にある建物。たしか……あそこは、獣人族の貴族的な人達が住む区域だっけ。
国を守る人達、つまり他の獣人よりも強い軍人や守備隊の人達は、人族の世界で言う貴族のような位を授けられていて、だから普通の獣人の居住区と分けられてるんだ。そういう場所を、守備隊の獣人お兄さん達は【高等民居住区】とか言っていたような気がする。まあ国を守ってくれてるんだから、それくらいは当たり前だよな。
あ、でも、そこは守備隊の人達や“護国武令軍”の軍人さん達の家の他にも、軍の簡易訓練所とかもあると聞いたが……もしかしてそこに行くのだろうか。
しかし俺を連れて行ってどうするんだ?
「あ、あの、訓練所にでも行くんですか?!」
オッサンのハンドバッグみたいに脇に挟まないでほしい、と思いつつも、落ちるのが怖いので丁寧に問いかけると、怒りんぼ殿下はフンと鼻を鳴らす。
「人族のメスごときを訓練所に連れて行って何になる。お前が行くのは治療院だ」
「あ……じゃあ、もしかして俺に看護を?」
いつもやっているからか、すぐにピンと来てしまい答える。
それならば、まだ回復薬のストックもあるし協力できるぞ。……そっか、殿下は俺に負傷兵の世話をさせて試そうってんだな。
……あれ、でもそれって、俺が殿下の復活に有用って判別つくのかな?
ただ世話してるだけじゃ何も分からないんじゃないのか。
いや、もしかするとこれは……負傷兵を手当てする時に「気を与えて」兵士を元気にしてみろ、という事なのかも知れない。
それなら何となく納得できる。相手が何を求めているのかは分からないけど、俺が兵士達の怪我をなんとか出来れば殿下も納得できるはずだ。
よーし、そういう事ならやってやろう。
そんな事を思っていると――――どうやら【高等民居住区】に入ったようだ。
家が普通の物よりも大きく、三階建てくらいになっている物も多い。土壁だけの一般の建物とは違い、恐らく別の石材や鉱石などで壁を白くしたり補強もしているようで、
まあ飾り布みたいな装飾が有るので、近くで見ると絶対に違うだろうけども。
にしても、人族の大陸は西洋風だったけど……やっぱり独特な建物なんだなぁ。
そんなことを思いつつ見ていると、奥の方に運動場のような広場があり、その周辺に一際大きな建物が幾つか建てられていた。
なんか小学校とか病院とかに似てるけど……あそこのどれかが治療院なのか?
そう思っていると、殿下が近場にあった降り口から階段を駆け下りて、やっと下界へと戻って来る事が出来た。……おお、地上に降りたらまた見る角度が違うな。
しっかりと石材が敷き詰められた地面は象が通ってもビクともしなさそうだし、植物も一般区画よりも枝葉の広い物が植わっている。
確かになんか……露骨に高級住宅街な雰囲気だ。
「おお……」
「お前はこっちだ」
そう言いながら俺を運動場の手前のデカい建物に連れて行く。
眩いばかりに白くて目立つ建物だが、やはりここが治療院だったか。これで十字架のマークが付いていればすぐに分かったんだがなぁ。
抱えられたままで治療院に入ると、即座に目の前を白い服の白兎美女が横切る。
頭には古い時代の看護婦さんがつけていた、コックさんの帽子を短くしたような白帽子を被っていて、服は不思議な事にその時代の女性の服と同じだった。
くるぶしくらいまであるスカートが膨らんでいて、走る度にふわふわしているのが、何だかレトロな感じでキュンキュンしてしまうが……そんな場合ではない。
どうやら彼女達は患者が大勢来て慌てているようだった。
まあそりゃ慌てるよな……負傷者二百人以上いるんだし……。
だが、その中でも、長く働いているのだろう綺麗な虎のおばさまが俺達に気付いてくれたようで、慌てて軍隊式の敬礼をして頭を下げた。
「これは戦竜殿下、このようなところにわざわざお越しいただいて……」
「礼儀は不要だ。それより、お前に案内して欲しい所がある。精鋭軍の中でも軽症者が集められている部屋があるだろう。そこに行きたい」
「はっ。こちらでございます」
きびきびした動作で、虎のおばさまが案内してくれる。
治療院の内部は石造りでひんやりしているが、地面が石材で、照明設備が電灯ではない所を除けば、俺の世界の治療院とさほど変わりないように見える。
建物が四角いからかな?
どっちかっていうと、木材をふんだんに使っている人族の大陸の治療院の方が、俺の世界よりファンタジーな感じだったな。
そんな違いに驚きながらキョロキョロと見回していると、俺を抱えたままの殿下は、一階にある大部屋の前に辿り着いた。
治療院にはどうやら扉があるらしく、虎のおばさまが扉を横に流して開ける。
するとそこには、ずらりと並んだ敷き布の上に転がっている数十人の人々が……。
…………って、あれ……なんかこの光景、デジャブだな……。
前にも、怪我したモンスターちゃん達をお世話した事があるような……って、アレもシーバさんやスクリープさんっていうマジの獣人族だったんだっけ。
あの時は酷い状況だと思ったのだが、いざ人型だと酷いって言うかなんか普通に戦の後の治療って感じでそこまで悲惨さが無いな。
いや、軽症者の部屋だからそう思うのは当然なんだろうけど。
ここの人達を俺に治せと言うのだろうか?
そう思い殿下を見た俺に、相手は見下すような視線を返して目を細めた。
「俺の力を元に戻すほどの“旨味”がお前にあるというのなら、ここの軟弱者どもの傷を全員完治させられて当然だ」
「は、はぁ」
「お前のその体を以って、証明してみせろ」
……ん?
体をもって――って、どういうこと?
一瞬どういう意味か分からなくて顔を歪めた俺を、殿下は乱暴に落として捨てる。
何をするんだとびっくりしたが、殿下はそんな俺のベストの襟首を掴み、いきなり俺の服を強引に脱がし始めた。
「ぎゃーっ!! な、なにするんですかっ、ちょっ、やっ、やめっ!」
「だから言っただろうが、力を見せろと! ええい煩いっ、こんな服なんぞ引き裂いてやってもいいんだぞ!! さっさと脱いであいつらに“食われ”ろ!」
「でっ、でも、そういうのって神獣だけなんじゃ!?」
クロウは、自分の種族を特殊だと言っていた。
体液を舐めるだけで相手の気を摂取する事が出来る種族で、クロウ達にとってはそれが極上のご飯になる。だから、クロウは俺の汗とか、せ……精液……ともかく、体液を摂取して満腹になる事が出来ている訳だが……それって、クロウが“神獣”という特別な分類の獣人族だからだよな?
普通の獣人は、そういうモノだけでは満足できないはず。
っていうか……そもそも、普通の獣人って曜気とか摂取する存在なのか?
人族は体内に曜気を蓄積しているから、曜気が含まれる食物を食べる。だから、俺が“大地の気”を流せば自己治癒力が高まって傷が言えるんだ。
でも……獣人って、モンスターのような“特殊技能”というスキルがあるんだろ?
だとしたら曜気や大地の気を摂取する事なんて関係が無いのでは。
今更ながらに疑問が思い浮かんだが、俺がその事を知っていると殿下は理解していたのか、俺の服を剥ぎながら疑問に答えた。
「あいつらは俺の“眷属”になっている。だから、食ってまで滋養を蓄える必要なんぞない! 何も血肉まで与えろなどとは言っていない、わかったらさっさと脱げ!」
「で、殿下、お手伝いしましょうか」
「ん? おお、ならお前らで剥いて食え。だが肉を千切るなよ」
ひえええっ!!
ちょっ、わっ、な、投げないでうべっ、う、ううう、じべんにぶづがっだ。
思いっきり鼻が潰れてしまい蹲ったが、そんな俺を誰かが引き上げる。
……いや、誰かではない。俺の両腕を、何本もの手が掴んでいる。肉に食い込む指の強さがそれぞれ違う。そもそも、一人の手ならこの数の指はありえない。
「あっ……!」
無理矢理立たされて、ようやく周囲が見える。
放り込まれて腕を掴まれた時から嫌な予感はしていたが……――――
「…………」
俺の目の前には、もう……その場にいた獣人の男達が集まってしまっていた。
「殿下の命令だ、さっさと脱げ」
「お前、その耳……人族か。人族を喰うのは初めてだな」
「俺も俺も。肉はダメってのが残念だが、まあ味見くらいは話のタネだな」
そう言いながら、様々な獣の耳を持った男達が俺のシャツを脱がし、ウェストバッグを固定していたベルトを外していく。
抵抗する間も無く上半身が裸になって、外と違いひんやりとした部屋の空気に体が震えたが、兵士達はそれだけでなくズボンにも手をかけ始めた。
「っ、あ……あの……下は……」
「お前のちっこい体で全員満足させられるワケねーだろ。さっさと裸になれって」
「殿下の命令だぞ、お前罰されたいのか」
「わっ、や……や、やだ……っ!」
ズボンの留め具を外そうとする武骨な手を抑えようとしたが、全然動いてくれない。
これは俺の力じゃムリだ。思わず振り返って怒りんぼ殿下を見たが……相手は、俺の姿をつまらなさそうに見て腕を組んでいた。
まるで、早く裸になってしまえとでもいうように。
虎のおばさまも、忙しいのかもうどこかへ行ってしまっているようだった。
……助けてくれそうな人は、ココには居ない。
その事が、今更ながらに裸の背中を冷やした。
「おらっ、早く脱げよ!」
「っ……!」
乱暴な声で言われて、体が硬直する。
その隙を狙ったかのように、無数の大きな手がズボンと素肌の間に手を突っ込み下着ごと俺のズボンを下にずり降ろしてしまった。
「おお……」
「ぁ……あぁ……っ!」
恥ずかしくなって、手で股間を隠そうとする。
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