異世界日帰り漫遊記!

御結頂戴

文字の大きさ
上 下
536 / 952
飽食王宮ペリディェーザ、愚かな獣と王の試練編

24.月明かりの寝室1

しおりを挟む
 
 
 誰かに認められれば……みたいな話はよく聞くけど、それもやっぱり状況と事情によるよなとつくづく思う。
 「強さ」や「昔と変わった」という評価なんかはその最たる例だ。

 いくら命を預けるくらいの大事な仲間であっても、俺達はクロウのことを正当に評価してあげられない。――いや、仲間だからこそ、今まで見て来た相手の良い所を過分に評価してしまって、甘っちょろいことを言ってしまうんだ。
 それに、俺らはクロウの過去の事も知らないしな……。

 そんな状態で「認めた」って、クロウの心の傷には届くはずもない。
 だから、俺達がクロウを励ましてもどうにもならなかったんだ。

 そもそも、俺が何を「認めた」としても対外的な評価は変わらないし……俺は中年二人に対して甘すぎるから、厳しい事は言えないしな。
 まあ強さとかも、ザコの俺が何か言える立場じゃないですし……はは……。

 ご、ゴホン。それはともかく。

 「仲間」の言葉だけじゃ、どうにもならない事があるのだ。
 ……それに、仲間だと思っているからこそ、その相手に励まされると余計に悔しいんだよな。自分の中の卑屈な部分が「励ましてくれているだけでは?」とか思っちゃうし、俺は強いはずだと思えば思うほど期待に応えきれない自分が恥ずかしくて、情けなくて、余計にドツボにはまっちまうんだ。
 「自分は出来るはずの男だ」って自尊心があるから余計に。

 だからこそ、仲間ではなく他人に認めて貰う事こそが必要な時もあるんだ。
 他人の……しかも、自分をかつて遠くから見ていたような人に。

 ――その点、チャラ牛王こと海征神牛王陛下は適任だった。

 現在の王宮において最も一目置かれる人物で、その威光は父親であるドービエル爺ちゃんよりも強い。しかも、クロウの兄のカウルノス殿下も頭があがらないのだ。
 それに……牛王は、誰にも忖度なんてしない。

 だからこそ、クロウにとってはあの一言がかなりの衝撃だったんだろう。

 口ぶりからして、かつては「卑屈の塊」とクロウを見下していたっぽいのに……今は「お前すごいじゃないか」って認めてくれたんだもんな。
 かつて自分を見下していた強者が、ちゃんと見て判断してくれたんだ。
 そんなの、ホントに信じられないくらいの衝撃だよな。

 しかも牛王は、依然としてクロウを見下しているカウルノス殿下への、ちょっとした毒舌もセットにして発言したんだ。少々性格が悪いとは俺も思うが、あの殿下の目の前で牛王がクロウを褒めてくれたのは正直爽快だったぜ。ふふふ。

 やっぱり、不遇の人が認められるのってハタからみても嬉しいモンだよな。
 まあ、他人から認められて……ってのはちょっと消極的かも知れないけど、クロウの場合はトラウマで力を発揮できなかったんだから仕方ない。

 ともかく、夕食後のクロウは少し元気が出てきたみたいで喜ばしい限りだった。
 やっぱりクロウは無表情でフンスフンスしてる方が良いよ。

 オッサンだろうが何だろうが、ともかく元気なのが一番だ。
 ……とは、思うんだが……。

「ツカサ、寝るぞ」

 先にベッドへと上がり、ココに来いと言わんばかりに手でベッドをポンポンする熊耳中年に、どうしたもんかと俺は眉間に皺を寄せる。
 うん。いや、元気になったのは喜ばしい事ですよ。無表情ながらも、周囲の空気が完全に嬉しそうになってふわふわしてるのも良いと思いますよ。

 でもね、なんかこう……コレは違うと思うんですよ俺は。
 元気になったのは良いけど、元気が無い時の約束を引き継いで一緒に寝ようってのは、なんだか色々違う気がしないかいクロウさんや。

 お前さん今元気じゃないのよ。
 フンスフンスしながらベッドをポンポンして俺を呼んでるじゃないのよ。

「あのー……クロウ、もう俺が慰めなくてもよくない……?」

 ブラックに「王宮から出たら覚悟してね」と恐ろしい事を言われながらも、やっとの事で許可を貰ったが、これなら一人寝でも大丈夫なのでは。
 そう思って辞退を申し出たが、クロウは口だけをへの字に歪めて鼻息を噴く。

「本当にそう見えるか」
「えっ……」

 嬉しそうな雰囲気が一瞬にして消えた相手に、俺は息を呑む

 ――――まさか、これは空元気だとでもいうのか?

 そっか……それも、ありえなくもない……のか……。
 クロウは普段あまり表情を変えないけど、気を使わないタイプってワケでもないし、寧ろブラックよりも大人として周囲に気を配れるタイプだもんな

 それを考えると、今のクロウは少し元気が出て来たっていうのを大げさに表現して、周囲を安心させようとしているだけなのかも知れない。
 そう考えると、確かにちょっと心配だけど……。

「ツカサ……オレが元気だと、一緒に寝てくれないのか?」
「う、え……ええと……」
「……ダメか? ツカサ……」
「ぐ……うう……ああもうっ、わーったよ! アンタがそう言うんなら寝るよっ」

 くそう、クロウに「ダメか?」と言われると弱い自分が憎らしい。
 でもしょうがないじゃん、クロウが委縮してたのは確かだし、兄貴と相対して失神もしちゃったし、元気になったとはいえ過去の事はそのままだろうし……。

 だったら、望まれるなら一緒に寝るしかないじゃないか。
 オッサンを安心させるために添い寝するとか、明らかに普通じゃないってのは俺も解ってるんだけど……今更過ぎて問答のしようも無い。

 なにより、クロウが“こういうこと”をマジで喜んでるってもう分かっちゃってるから、俺もやらざるをえないのだ。……こう言う所はブラックと似てるんだよなぁ。はあ。

「ツカサ、早く寝よう」
「はいはい……。ちょっと待ってろ、着替えて来るから」

 ついさっきまで殿下達と一緒の部屋にいたので、実は俺の服は今でもメス侍従のままなのだ。こんな格好で寝たら、マジであられもない姿になってしまう。
 せめて寝る時くらいは普通にパンツを穿きたい……と思ったのだが。

「そのままでいい」

 ぎし、と、ベッドから降りる音がして、間も無く腕を掴まれる。
 いつの間にかすぐ傍にクロウが立っていて、顔を見上げるとすぐ腕を引かれた。

「わっ、ちょっ、く、クロウっ」

 あまりにも強引に引っ張られたもんだから、宙に浮くように跳んでそのままベッドへと放り出される。スプリングもないのにポンと体が浮き上がってしまうが、そんな俺の姿を見ながらクロウは平然とベッドに上がって来た。

「子熊のように甘やかしてくれる、と約束しただろう」

 そう言いながら、クロウは俺の肩を掴んでしっかりベッドに押し付けると、俺の体に覆い被さって来る。客室と同じようにドアのない部屋の中、外からの月明かりだけで相手を見ると、なんだか妙に心臓の鼓動が早くなるみたいで居た堪れなかった。

 な、なんか変だ。
 何度も同じようなコトをされてるんだから、こういうのには慣れてるはずなのに……天蓋付きの「ハレムの部屋」だと思うと、変な気持ちになって来る。

 考えてみればクロウって王子様も同然なんだし、こ、これって逆千夜一夜では……いや、お互い男だしなにが千夜一夜なんだ。
 つーかこれ別にえっちするワケじゃないからな、添い寝だけだからな!?
 な、なにドキドキしてんだ俺っ、いやでも、外からの月明かりでクロウの褐色の肌や橙色の瞳が照らされるのって、な、なんか、部屋の雰囲気も相まって、その。

「ツカサ……オレにもっと、自信を付けさせてくれ……」

 そう言いながら、クロウは徐々に体を近付けて来る。
 俺に覆い被さっておいて何が「自信を付けさせてくれ」だと思ったが……。

「…………えっちなことすんなよ」

 近くの部屋には、アンタと同じで耳の良い兄貴が寝てるんだからな。

 ――そう言いたくて相手の目を見返すと、クロウは表情を和らげて薄く笑った。

「子熊がそんなことすると思うか」

 問われたが、俺は素直に「ハイ」とは言えなかった。

 だって、相手はブラックに負けず劣らずのスケベなオッサンだからな!!










 
しおりを挟む
感想 1,046

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

義兄の愛が重すぎて、悪役令息できないのですが…!

ずー子
BL
戦争に負けた貴族の子息であるレイナードは、人質として異国のアドラー家に送り込まれる。彼の使命は内情を探り、敗戦国として奪われたものを取り返すこと。アドラー家が更なる力を付けないように監視を託されたレイナード。まずは好かれようと努力した結果は実を結び、新しい家族から絶大な信頼を得て、特に気難しいと言われている長男ヴィルヘルムからは「右腕」と言われるように。だけど、内心罪悪感が募る日々。正直「もう楽になりたい」と思っているのに。 「安心しろ。結婚なんかしない。僕が一番大切なのはお前だよ」 なんだか義兄の様子がおかしいのですが…? このままじゃ、スパイも悪役令息も出来そうにないよ! ファンタジーラブコメBLです。 平日毎日更新を目標に頑張ってます。応援や感想頂けると励みになります♡ 【登場人物】 攻→ヴィルヘルム 完璧超人。真面目で自信家。良き跡継ぎ、良き兄、良き息子であろうとし続ける、実直な男だが、興味関心がない相手にはどこまでも無関心で辛辣。当初は異国の使者だと思っていたレイナードを警戒していたが… 受→レイナード 和平交渉の一環で異国のアドラー家に人質として出された。主人公。立ち位置をよく理解しており、計算せずとも人から好かれる。常に兄を立てて陰で支える立場にいる。課せられた使命と現状に悩みつつある上に、義兄の様子もおかしくて、いろんな意味で気苦労の絶えない。

吊るされた少年は惨めな絶頂を繰り返す

五月雨時雨
BL
ブログに掲載した短編です。

飼われる側って案外良いらしい。

なつ
BL
20XX年。人間と人外は共存することとなった。そう、僕は朝のニュースで見て知った。 なんでも、向こうが地球の平和と引き換えに、僕達の中から選んで1匹につき1人、人間を飼うとかいう巫山戯た法を提案したようだけれど。 「まあ何も変わらない、はず…」 ちょっと視界に映る生き物の種類が増えるだけ。そう思ってた。 ほんとに。ほんとうに。 紫ヶ崎 那津(しがさき なつ)(22) ブラック企業で働く最下層の男。悪くない顔立ちをしているが、不摂生で見る影もない。 変化を嫌い、現状維持を好む。 タルア=ミース(347) 職業不詳の人外、Swis(スウィズ)。お金持ち。 最初は可愛いペットとしか見ていなかったものの…?

久々に幼なじみの家に遊びに行ったら、寝ている間に…

しゅうじつ
BL
俺の隣の家に住んでいる有沢は幼なじみだ。 高校に入ってからは、学校で話したり遊んだりするくらいの仲だったが、今日数人の友達と彼の家に遊びに行くことになった。 数年ぶりの幼なじみの家を懐かしんでいる中、いつの間にか友人たちは帰っており、幼なじみと2人きりに。 そこで俺は彼の部屋であるものを見つけてしまい、部屋に来た有沢に咄嗟に寝たフリをするが…

ある日、人気俳優の弟になりました。

雪 いつき
BL
母の再婚を期に、立花優斗は人気若手俳優、橘直柾の弟になった。顔良し性格良し真面目で穏やかで王子様のような人。そんな評判だったはずが……。 「俺の命は、君のものだよ」 初顔合わせの日、兄になる人はそう言って綺麗に笑った。とんでもない人が兄になってしまった……と思ったら、何故か大学の先輩も優斗を可愛いと言い出して……? 平凡に生きたい19歳大学生と、24歳人気若手俳優、21歳文武両道大学生の三角関係のお話。

○○に求婚されたおっさん、逃げる・・

相沢京
BL
小さな町でギルドに所属していた30過ぎのおっさんのオレに王都のギルマスから招集命令が下される。 といっても、何か罪を犯したからとかではなくてオレに会いたい人がいるらしい。そいつは事情があって王都から出れないとか、特に何の用事もなかったオレは承諾して王都へと向かうのだった。 しかし、そこに待ち受けていたのは―――・・

異世界転生して病んじゃったコの話

るて
BL
突然ですが、僕、異世界転生しちゃったみたいです。 これからどうしよう… あれ、僕嫌われてる…? あ、れ…? もう、わかんないや。 ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ 異世界転生して、病んじゃったコの話 嫌われ→総愛され 性癖バンバン入れるので、ごちゃごちゃするかも…

処理中です...