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飽食王宮ペリディェーザ、愚かな獣と王の試練編
21.頼むから落ち着け
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「クッ……この気高き俺が、何故このような魅力もクソもない人族のメスに引きずられねばならんのだ……ッ!!」
その台詞、そっくりそのままお返しします……とは、モチロン言えない。
だって、相手は獣の国の王子様だもの。
――ってなワケで、俺は今不満タラタラのオッサンを背後に従えながら、ブラック達が待つ客室へと帰還しようとしていた。
…………うん、いや、本当は帰りたくないんだよ。
ブラックと……特にクロウが過敏に反応するだろう、この怒りんぼ殿下を引き連れて帰るなんて、何が起こるか分かったもんじゃない。
ロクショウの事だって話さなきゃ行けないし、ああ本当に面倒臭い。何故俺がこの迷惑おじさんと一緒に被害を被らねばならんのだろうか……理不尽過ぎる……。
それもこれも、殿下の回復を待つのが面倒臭いというチャラ牛王のせいだ。
アイツが変な契約をしさえしなきゃ、この怒り顔の近寄りたくないオッサンを背後に引き連れて帰らなくても済んだのに……もー、どう説明すりゃいいんだっての!
チャラ牛王サマのワガママで、俺が殿下を完全回復させるまで殿下と一定の距離で一緒に居ることになってしまいましたってか!?
そんなの説明したって絶対ブラックが怒るってー!
だーもー何で俺ばっかりこんな役割をおおおおお……。
はあ……。
でも、話さなきゃクロウもブラックも納得してくれないだろうし。
いや多分納得してくれないだろうけど、ワンクッション置く事は大事だ。
ともかく……まずは、このオッサンに限界まで離れてて貰って、ブラックとクロウ達に今の状況を説明しないと。
「あの……とりあえずブラック達に現状の事を話すので、部屋の外で待ってて貰って良いですか?」
背後を振り返り、恐る恐る殿下に言うと……相手は片眉を上げて目を細め、いかにも「下賤な輩が俺サマに指図するな」と言わんばかりにフンと鼻息を漏らす。
「俺に指図するとは見上げた根性だな、人族のメス風情が」
「根性も何もそうしなきゃ余計に話がこじれるんですよ! お願いしますから……殿下だって、クロウとはあまり顔を合わせたく無いんでしょう?」
俺を見下す態度にはイラッとするが、まあでも耐え切れない程ではない。
ラスターやアドニスも最初は何じゃコイツはって感じだったしな。変人を相手にして来た俺くらいになると、この程度の見下しじゃ動じないんだからな。
まあ……毎回、色んな人に侮られまくってるし、そもそもチート能力以外の俺の実力は本当にヘッポコなので仕方ないと言うか……そ、それはそれとして。
頼むから少し待っていてください、と手を合わせて頼み込むと、相手は「ケッ」とか言いつつも渋々従ってくれた。いや、アンタのせいでこうなってんですけどね。
だが溜息を吐く事も出来ず、とりあえず殿下には部屋から見える中庭で待っていて貰うことにして、俺は服装が乱れていない事を確認すると部屋の中に入った。
「あっ、ツカサ君やっと帰って来た! どうしたのさ、いつもより遅かったよ!?」
もうすっかり定番の場所になった、壁際のクッション山盛りなアラビアン寛ぎ空間。そこで胡坐をかいていたブラックが、いの一番に俺に反応して立ち上がる。
だが、クロウは相変わらずちょっと大人しい感じで熊耳も元気がない。恐らく、俺に怒りんぼ殿下のニオイを少し感じているからだろう。一緒の空間に居るってだけでもほんのりと感じるんだから、獣人も大変だよなあ。
けれども、いつもよりは少し元気を取り戻したようで、クロウは俺を見てちょっぴり耳を反応してくれた。ああもうオッサンなのに何でこうこのオッサンはあざとい仕草を。
「キュキューッ」
「わはっ、ロクただいま!」
俺の可愛い相棒ことロクショウも、俺に「おかえり」と飛びついて来てくれる。
素肌の肩なので乗ってはくれないものの、黒くてツヤツヤの小さなお顔を俺の頬にスリスリしてくれるので最高だ。くううっ、今朝の疲れも吹っ飛ぶ可愛さ……っ!
「ねえツカサ君、部屋に入って来た時なんか憂鬱そうな顔してたけど……何かあったの? もしかしてあのクソ殿下に何か言われた? 夜伽でも頼まれた?」
「んなワケないだろおバカ……」
と言って、俺は「待てよ」と腕を組んで悩む。
確かに頼まれてはいない。頼まれてはいないが、しかしチャラ牛王の言った事は、ほぼ「俺を喰って体力回復しろ」みたいな話だったよな。……だとすると……あの牛は、間接的に俺と怒りんぼ殿下に夜伽をしろと言っているのでは……。
か、考えたくない。
だけどそうだとすると、頼まれた事になるのか?
「……いや、えーと……」
「たっ、頼まれたのか!?」
どう返答したらいいのか迷っていると、意外にもクロウが声を上げた。
あれっ、いつもの無表情で冷静な感じの声じゃない。焦る心が籠ってるぞ。
それだけクロウにとっては衝撃的だったのかと目を丸くすると、ブラックも俺の様子が変だという事を察したのか、横からグイグイ距離を詰めて来る。
「もしかして本当なの!? ねえねえねえツカサ君ねえホントなのねえってば!」
「だーっうるさい! 今から説明するから!!」
頼むからまず話をさせてくれ、と抱き着いて来ようとするブラックを引き剥がし、俺はとりあえず靴を脱いで絨毯にあがった。
ブラックは不満げでクロウは不安げ……という、字面的には似ているようで似ていない様子だが、どっちにしろ俺には不利な状況でしかない。この感じで話して、理解して貰えるかなとは思うが、もう決まってしまった事だし仕方ないもんな……。
せめてブラックが激昂しませんようにと願いながら、俺はとりあえず事のあらましを簡単にブラック達に説明した。
…………ホントに冷静に、誤解のないようにかいつまんで説明したのだ。
俺はそのつもりだったのだが……何故か、話の後半あたりになるとブラックの表情が般若のような顔になり、クロウは褐色の肌でも分かるくらいに青ざめていて……。ああぁ、もう絶対こうなるじゃん。俺がどうやってもこうなるんじゃかあああもおおお!
「それで……それで、あのクソ殿下熊が、ツカサ君の近くにいる呪いをぉお……?」
「お、俺に当たるなよ!? 俺だって寝耳に水なんだから!」
「水でもミミズでもどうでもいいよ! どこっ、どこだあのクソ熊!! もういいから早くアイツに僕の炎の曜気の塊をぶち込んでここから出ようよツカサ君!」
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「ぐあああああだから王族なんて大嫌いなんだ殺すコロスコロスうううう!!」
ああもうこうなったらブラックは止められない。
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間に入った後の事が憂鬱だったが、とにかくクロウを介抱するためには先に二人に落ち着いて貰わなければと思い、俺は意を決してむさくるしいオッサン達の間に割り込んだのだった。
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