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飽食王宮ペリディェーザ、愚かな獣と王の試練編
説教にかこつけて2
しおりを挟む「ほらほら、ツカサ君はやく入って」
後ろから肩を押され、俺はアーチ状の風呂のドアを横に引く。
この世界じゃあまり見かけない引き戸だが、獣人の国では木材を使って家を造る事が難しいらしいので、扉は鉱石や石材で作られていてツルツルだ。
適度に重くて少し苦労するが、水気を逃したくない気候になると密閉出来そうな扉を使った方がいいと考えるんだろう。
四苦八苦して中に入ると、昨日感動した風呂場が広がっていた。
「…………」
客室ごとに一つずつ作られていると言う、獣人からすると「ちょっと手狭」な風呂。
だがその風呂は、あらゆる獣人に対応するためか、人族からすると結構な広さだ。旅館の個室風呂ではなく、ほぼ銭湯や共同浴場レベルじゃなかろうか。
子供用プールほどに広い壁際の浴槽には常にお湯が張られていて、壁のタテガミが生えた牛っぽい獣の口からドバドバ出続けている。
沸かしたお湯はどこぞへ循環しているのか、溢れている様子は無いようだ。
お湯のコックを捻るのも面倒なのか、浴槽から少し離れた場所にはお湯が出続けているシャワーなどもあった。……こんなに水を出しっぱなしにして大丈夫かと思ってしまうが、昔っからコレなら大丈夫なんだろうな。
「まずは体を洗うんだっけ?」
「う、うん……」
ブラックに素肌の肩を掴まれたまま移動し、洗い場まで来る。
滑らかな石の風呂椅子に腰かけると、シャワーのお湯が勝手に体に当たった。少しぬるいが、こちらのほうが獣人にはいいのかもしれない。
こう言う所とか床とか、そういうのでなんとなく文化が違うのが分かるよな。
どこもかしこも石材を使った壁や天井だが、この風呂場は磨かれた石と石膏の床で獣の姿でも転ばないように工夫されているみたいだった。
あと常にお湯が出るからか、天井は水滴を流すために斜めっているし。
それでもあまり水蒸気のような物が無いのは、それほどこの国が乾燥しているって事なんだろうな……うーん、お湯だらけなのに熱気をすぐに感じられないなんて。
……って、そんな事を考えてる暇はなかったよな。
俺も体を洗わなくっちゃ……って下半身だけ服を着たまんまなんだけど、どうすりゃいいの。薄布にシャワーが掛かって足や股間にはりつくのが鬱陶しいんだが。
でも勝手に脱いだら何か言われるよな。困ってしまってブラックの方を見やると――相手は、惜しげもなく全裸を曝したまま、ニコニコとこちらを見ていた。
ひぇえ……い、いつものスケベ顔じゃないぃ……。
「どうしたのツカサ君。体、洗わないの?」
「だ、だって……下、脱いでないし……」
これじゃ湯船につかれないし、体を洗うのにも何かと不都合だ。
股間が隠れるのは良いけど……本当に、なんでこんな格好で風呂に入らせたのか。真意が見えなくて相手を見返すと、ブラックは弧に歪んだ目を細めた。
「ツカサ君さ、指輪どうしたの」
「え?」
思っても見ない短い問いに、俺は目を見開く。
だがブラックは表情を動かさず「どうしたの?」と再度聞いて来た。
……なんか、ちょっとヘンだな。
もしかして、ブラックは俺がキスされたことに怒ってるんじゃなく、首から下げていた指輪をしてないことに怒ってるのか?
それなら、と、俺は素直に「脱衣所の方にあるけど」と言い指差す。
指輪は大事だけど、お湯にヘンな成分があって変色したらヤだし……冒険者とか一般人と一緒に入る浴場じゃない限りは、よっぽどの事がなけりゃ濡らさないようにしたいんだ。ブラックも指輪を置いて来てるしそれは解ってるんじゃないのか。
――とまあ、当然の事だと思って答えたつもりだったのだが、ブラックはその返答が何故かお気に召さないようで、急に顔を不機嫌そうに歪める。
正直コッチの方がいつものブラックで安心するのだが、あからさまに不機嫌そうな顔を出して来たってことは我慢出来なくなってきたんだろうか。
頼むから、怒っている理由くらいは説明してくれよ……と思いながらブラックの顔を窺うと、相手は眉根を寄せて口を尖らせる。
「僕との婚約指輪があれば、あのクソ牛からのキスだって避けられたじゃない。……なのに、なんで指輪持ってかなかったの」
そう言われて、俺は自分の行動を振り返る。
あの宴に駆り出され、メス侍従の服を着つけて貰っている時にカーラさんが指輪を首から下げてる事に気付いて「外した方がいい」って言ったんだよな。
だから俺も「それはそうだな」と思って素直に外して預けてたんだ。
ちょっとだけコンビニでバイトした時に、チャラついた先輩が「アクセサリーをつけたまま出るな」と散々怒られてたのを思い出したし……だから、そういうもんだと思って素直に従ってたっていうか……。
それに、あの指輪がもし他の人の目に留まって没収されたりするのはイヤだし。
もし王族の誰かが「あの指輪欲しい!」って言われたら、侍従としてしか出てない俺は渡さないワケにはいかなくなるじゃん。
大事な指輪なのに、そんな事になるのは絶対に避けたかったし……。
でも、それはブラックだって理解してるはずだろ。
俺ですら考えつくことなんだからさ。なのに何で今更怒るんだよ。
まさか、この指輪を見せびらかして欲しい、なんて考えてるワケじゃないだろ。
だってブラックが指輪をくれたのって、こ、婚約の意味もあるけど……それに加えてもう一つ、“護身用の曜具”を身に着けてほしいって気持ちもあるからだろうし。
実際、指輪のおかげで貞操の危機を脱したことだってあるんだもんな。
この世界の住人は、異世界人の俺じゃ到底敵わない腕力を持った人ばかりだし、なんなら俺は純粋なメスたる女の子にも負けてしまうレベルなのだ。
これでオスの男女になんて出会った日には、最早負けは火を見るより明らかだ。
……自分で言うのもなんなんだがな。はぁ。
それを考えれば、指輪を身に着けてない事に不満があるのは分かるけど。
でも、規則なんだから仕方ないじゃないか。俺だって手放したくは無かったよ。それに、もしあの場で指輪を身に着けてたら別の意味でヤバかったろうし……。
一旦、保管しておくのは仕方ないじゃないか。
「……何で持ってなかったのって言われても、規則で身に着けられなかったし……。誰かに目を付けられたら困るだろ。それに、もしあの時身に着けてたら……どのみちヤバかったぞ。ナントカ牛王サマを吹っ飛ばすところだったじゃねーか」
「吹っ飛ばせば良かったじゃないか!」
「ヘソ曲げられて怒りんぼ殿下の試練がフイになったらどーすんだよ!」
だーもーこのオッサンはすぐに過剰な正当防衛をしようとすんだからなあ!
冷静なんだかブッ飛んでるんだか本当によくわかんないぞ。
怒って貰えるだけありがたい事だとは思うけど、それにしたって毎回過激すぎる。
そんなの無理だってブラックも知ってるくせに、どうしてこうワガママをいうのか。
「もぉ……なんでアンタってそんなことばっか言うんだよ……。思い通りに出来る時とそうじゃない時があるって、アンタも分かるだろ」
「だけどさあ……ツカサ君には見せつけてやるぅって気概は無いの」
今度は拗ねた顔で口を尖らせる。
だからオッサンがやっても可愛く……可愛くないぞ。鬱陶しいだけなんだからな。
でもまあ、贈り物を付けて貰えないって悲しむ気持ちは分かるし、俺だって……もうブラックの左手の指に指輪が嵌ってないと……なんか、そわそわするし……。
…………ご、ごほん。
その、えっと、つ、つまりだな。その。
「……あの指輪……王様とかに取られるの……ヤだし……」
「え?」
……あ。つ、つい口から考えてる事が。
ぐわあああチクショウ恥ずかしいいっ! だけどもう聞かれたらおしまいだ。コイツはハーレム漫画の難聴主人公じゃないんだ、しくじったああああ。
「つ、つまりっ」
「え? ツカサ君もしかして、あの指輪盗られちゃうかもって思ったの? 王様が指輪を欲しがっちゃうって思ったの? あの指輪を?」
「ぎぎぎ疑問符いっぱいの台詞を言うな!」
「ねえねえ、どうなの? ね~」
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「ツカサくぅん。ねっ、ツカサ君は僕が作った指輪を、そんなに高く見積もってくれてたの~? 答えてよぉねーねー」
「だーもーウルサイっ! だ、だってあんな高そうな綺麗な指輪、誰だって欲しがるに決まってるじゃんか! それに凄い【曜具】だし、あっ、アンタが……」
アンタが一生懸命作ったモン、だし……う、うううう恥ずかしくなってきたもうやだ。
ただの事実ってダケなのに、なんでこんな恥ずかしくなるんだ。
俺もなんかヘンなんじゃないのか、も、もっと男らしくなれ俺っ。男らしく……
「あっ、ぁあ……っ」
「…………え?」
な、なに。
何で急に震えながら喘いだのこの人。
意味が解らなくて硬直してしまったが、ブラックは恍惚の表情を浮かべると――俺に、思いっきり抱き付いて来た。
あばばば強い強い強い骨がっ、骨が折れ゛る゛っ。素肌同士なせいで余計に腕力がダイレクトに肌にぃいっ。
「あぁああツカサ君好きっ、スキスキ大好き好きぃいっ!」
「ぐええな゛、な゛ん゛れ゛っ」
なんでそんな話になってるんですか意味がわからない。
今の会話の中に何を「スキ」と思える部分があったんだ、謎過ぎる。
ってかもう頼むから抱き締めて頬擦りするのやめて。顔がオッサンの無精髭で猛烈に痛痒いし体は手加減なしで抱き締められててもうすぐ出る。ミが出る。死ぬ。
「んんんお、お仕置きするつもりだったのにたっ、たまんないっ。ツカサ君の、ツカサ君のせいだからねっ、ツカサ君が僕を煽るから悪いんだからね!」
なんの話ですか、頼むから説明してくれ。
つーか怒ってる感じの流れだったのに何でこう話が変わるんだ。
毎回思う事だけど、アンタがドコで感情昂ぶらせてるのかマジでまったくわからん。
今の事実の羅列のナニがアンタを駆り立てたってんだ。そりゃ、まあ、価値がある指輪だって事をブラックに改めて伝えるのは恥ずかしいと思ったけど……まさかその程度の俺の恥じらいで興奮したってのか。そんなバカな。
……いや、この数日はえっちな事してなかったし、もしかしたらそのせいでブラックの沸点が極限まで下がってしまった可能性もあるぞ。
だとしたら、こ、この状況は俺にも一ミリくらい原因があると言え……ああもうだめだ苦し過ぎて考えるより口から何かでそう。し、死ぐ。
「て、てんごくのかいだんがみえる」
「っはぁあ……これじゃお仕置きできないよぉ……せっかく王様ごっこしてツカサ君をいっぱい恥ずかしがらせようと思ったのにぃっ。ああもう今すぐ挿れたいっ、ツカサ君のお尻にいっぱい射精したいよぉ」
これ以上俺を死なす気か。
ただでさえ骨が軋んでるってのに、これでガンガンやられたら戦いでもないのに俺はマジで一回死んでしまうぞ。そんな不名誉な事になってたまるか。
腹上死は羨ましいと思った事があるが、こんなところで死にたくない。あと俺はヤるなら女子と腹上死したい。夢くらいせめて抱かせてくれ頼むから。
「わ゛っ、わがっだ、する゛っ、ごっこ、す、するっ、がらっ」
「ツカサ君、王様ごっこしてくれるの? わあっ、これだからツカサ君好きぃ」
「ぐええええ」
だから腕の力を強めるなあああああ!
お前のガチガチの腕が肌に食い込むから裸だと二倍骨が軋むんだよおおお!
「ふ、ふふふ……まあでもアレだよね。ツカサ君だっていつクソ王族に強引に部屋に連れ込まれるか解らないんだし、そういう時に僕専用のココを守るためのセックスをしない回避方法を知っておくべきだよねっ」
はぁ、はぁっ、や、やっと拘束が緩んだ……。
…………な、なんだっけ。今なんつってたっけ。
えーと、王様に連れ込まれた時にえっちしないで済む方法?
……まあ、確かに……知っておけば、ブラックを悲しませないかもしれない。
「ごっこ」ってのが何かイヤだが、教えてくれるなら知っていて損はないか。侍従をしていれば、今回みたいに変わり者の変態王族が変な気を起こしても背後だけは死守できるもんな。ブラックが一番嫌がるのってそこだし。
…………ブラックは他人とのキスとかは良くて、えっちはダメなんだよな……。
「ケツ以外なら、恋人が他人に触れられても平気」というのが男として正解の思想なのかちょっと悩んでしまうが、まあクロウとヘンな事をしている俺が言えた義理ではないな。そもそも、ピンチになるのなんて今更だし。
よ、よし。ともかく「ごっこ」遊びなら今みたいに死を感じることも無いだろうし、勉強にもなるっぽいからヤッて損はないだろう。相手もブラックだしな。
それになにより、ブラックが上機嫌でいる。
幸い牛王がやった事に対してブラックは怒ってないみたいだから、更に怒らせる事が無いよう、俺も真面目に「ごっこ」に励むか。
ブラックだって、自分がやりたいから「王様ごっこ」したかったワケじゃなかろう。俺が今後危険な事に陥らないように、こうして自分も楽しめる方法でレクチャーしてくれるつもりなのだ。きっとそうに違いない。
……た、たぶん。
「えへへ、じゃあ早速やろう! 僕が王様になるから、ツカサ君は湯殿の洗い女ね! 僕が教えてあげるから……その通り、ちゃんと僕を気持ち良くしてね」
「…………お、おう……」
最初の怖い笑顔が嘘みたいにウキウキしているブラックの姿を見て、俺は「やっぱこのオッサン、イメクラしたかっただけじゃねーのか」と思ってしまったが、そこを突くとまたヤブヘビになりそうだったので、グッと言葉を飲み込んだ。
ともかく、ブラックが指輪の件にやるせない不満を持って拗ねていたのは確かなんだから、それを軽減して飲み込んで貰うためにも……今日くらいは、ブラックがしたいようにさせるべきだよな。
最近は、クロウに大しても遠慮させてたし。
……ブラックも、ブラックなりに気を使ってたせいで我慢出来なくなったんだろう。
なら……俺だって、ちょっとぐらいは頑張って、ぶ、ブラックに喜んで貰いたいなとは思う、わけで……。と、ともかく、イメクラしたいってんならやったろうじゃないか。
王族相手じゃ何がどうなるかも分からないし、万が一そうなった時に相手をあしらう方法をしっかり学んでおかないとな。
頼むからちゃんとソコんとこ教えてくれよな、ブラック。
俺だって、指輪の片方を持ってるアンタを悲しませたくないんだから。
→
※諸事情で更新がめちゃくちゃ遅れて申し訳ないです…
しかもスケベ回のつもりだったんですがラブラブしすぎて
ぜんぜんチンチンが入らなかった(´・ω・`)
次はちゃんとスケベします。ブラック視点もあるよ
スケベが長くなるけど久しぶりなので許してくだせえ
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