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飽食王宮ペリディェーザ、愚かな獣と王の試練編
15.海征神牛王
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武神獣王国・アルクーダの王は、建国してから“三人目の王”までは普通に試練も何も無く“武力”が最も優れた王族の一人が排出されていたらしい。
だが、その三人目からは何かが起こり、三つの試練が追加されたのだと言う。
それが“三王の試練”と呼ばれる「アルクーダの王として認められるためのテスト」で、八十六代……いや、怒りんぼ殿下ことカウルノス・カンバカラン殿下の八十七代まで延々と続いて来た伝統なのだ。
……でも、その“最も古き群れ”の三人の王ってどんな人なんだろう?
ドービエル爺ちゃんの話では、この世界にはクロウ達“二角神熊族”――クロウ達が自称する名前は“ディオケロス・アルクーダ”――の他にも、普通の獣人族よりももっと長生きする獣人族がいて、その幾つかの群れの中で、もっとも古く“神”の意を含む名を持つ一部の種族が“最も古き群れ”と呼ばれるのだと言う。
もちろん、クロウ達アルクーダの王もこの“最も古き群れ”の一種族だ。
三王と呼ばれる三種族の他にも古き群れってのは存在するらしいが、その中でも特に権威ある存在が三王ってことで……うーん……。
「三王がどんだけ古くて凄いかって説明は聞いてるけど、その三人の王様がどんな人なのかは教えて貰ってないんだよなぁ……」
一応、名前は聞いているが、耳慣れたような違うような何とも微妙な名だった。
「……まあ、何か言われるまで喋るなってアンノーネさんには言われてるし、名前を覚えておく程度でいいのかもな……俺は賑やかし担当みたいだし」
そんな事をブツブツ言いつつ、宴の料理を整える控えの間で俺は色とりどりの果物を綺麗に山盛りにしながら足を少し動かす。
…………やっぱり、この素肌の感じには慣れない。
膝下に膨れた提灯みたいな布のスネガードみたいなモノを付けさせるワリに、何故ケツと股間を隠すのは垂れ布だけなのだろう。
おかげで歩いたら足は全部出ちゃうわヘタに動くと素っ裸の下半身が見えるわで、男の俺でもお上品なお嬢様みたいに歩くしかない。エッチで素敵なお姉さん達は、俺に優しく「内股で片足ずつ出せばいいのよ」と教えてくれたが、時代劇でよく見かける“すり足”もネコみたいなモデル歩きも冗談でしかやった事が無い俺には難しい。
前回の時も相当気を使ったけど……これから臣下の人も王宮に居る王族も殆どが出席する宴会に出て行くなんて、もうポカやらかす気しかしないぞ。
ここで大コケして下半身丸出しになるのもヤだし、注目を集めてヘンなことになるのもイヤだ。こんな格好正直あんまり人に見せたくない。
前に踊り子として女装した時よりヒドいんだぞこんなん。
胸のクロスした布も男の俺じゃぺったんこだし、マジで滑稽でしかない。こんな姿を大勢に見られるってだけでもマジで苦痛だ。珍しいモノとして賑やかし担当になるにしても、早く裏へひっこみたい。
笑いものになる覚悟は出来てるが、ヘマをして注目を集めた時がもう怖い。ああ、どうかメシを出す時くらいは上手くやれますように……。
宴会の時って、俺の親戚もそうだけどみんな酒が入って悪乗りするからなあ。
大人のああいうノリってヤなんだよなあ。絶対からかわれるし。
……獣人達がそういうノリじゃないと良いんだが……。
「ツカサちゃん、海征神牛王陛下がいらしたわ。一緒に行きましょう」
「あっ、は、はい!」
俺をお世話してくれてる、ふわふわした山吹色の長い髪が綺麗なセクシーお姉さんに誘われ、慌てて仕事を済ませると俺はお姉さんの後に続く。
俺とほぼ同じ格好をしたこのセクシーお姉さんは、名前をサーラさんと言い、殿下の取り巻きをしている侍従さんの一人だ。ワオキツネザルみたいな原始猿類のモサモサの獣耳とシッポを持つ、ボンキュッポンの猿の獣人さんである。
胸もお尻も見事で、腰から垂れる飾り布から出ちゃうんじゃないかと色んな意味でハラハラしてしまうほどだが、長年王宮に仕えているからなのか見事に股間の布をさばき切っている。見えそうで見えない完璧なチラリズムだが、その分刺激が強くて俺のような女体に神秘を感じるヤツには目の毒……ってそれはともかく。
そんな魅力的なナイスバディ美女サーラさんだが、さきほど紹介された時に聞いた話はかなり衝撃的だった。
アンノーネさんとサーラさん本人曰く、彼女は元々ドービエル爺ちゃんの側女……つまり「お妾さん」の一人で、今は怒りんぼカウルノス殿下を“お慰めする”侍従として殿下のおそばにいる……らしい。
しかもそれは爺ちゃんも臣下の人達もみんな了承済みで喜んでいて、サーラさんも「お慰めいたしますわ!」と乗り気なようで……。
つまり、えーと…………。
……ともかく、なんか、獣人の文化ってすげえなってことだな!
色々考えたくなってしまい内心頭を抱えたが、きっと今はあまり掘り下げない方が身のためだろう。ともかく、今から王様がいらっしゃるんだから、目立たないように俺もちゃんと控えておかないとな。
それにしても……さっきのすげえ仰々しい名前はなんだったんだろうか。
「あの、サーラさん……さっきのぎゅう……陛下って、お名前なんですか?」
豪華な廊下をしずしずと、それでも早足で進みながら問いかけると、目の前で綺麗な背中と髪を見せてくれているサーラさんは少し振り向きながら答えてくれた。
「ああ、ツカサちゃんは三王様にお会いしたことがなかったのよね。三王様は、名の通り三人の古き群れの王なんだけど……三王様達も、私達の敬愛する陛下のように“神”の名の付く種族なの。だから、名を呼ぶことを許されるまでは、お名前ではなく種族の名でお呼びするのが礼儀なのよ」
人間の耳と同じ位置にある珍しい獣耳のサーラさんは、もっふりした猿耳をぴるんと動かしウフフと小さく笑う。
俺はそのお耳に付けられたイヤリングになりたい。
「じゃ、じゃあ……えーと……ぎゅう……」
「海征神牛王陛下よ、ツカサちゃん」
「そ、そうお呼びした方が良いんですね。ありがとうございます」
なんかクロウ達の一般的な種族名より覚えるのが難しいな。
カイセーシンギューオーって何か競馬のお馬さんの名前のようだ。カタカナにすると何か格好良くなるな。でも馬は牛じゃないか……。
「ハレムじゃなく王宮の方の宴の間は、正門からまっすぐ伸びる廊下にあるの。私達は、廊下の左右の端にそれぞれ並んで、位の高い人を歓迎するのよ。これはまあ、お祭りと一緒ね。だから、ツカサちゃんも派手に歓迎して欲しいの」
私達には花かごが渡されるから、それを王様が来る時にバラまいてねと言われて、確かにこれはお祭りのようだと頷いた。
バージンロードじゃないけど、この砂漠の国じゃ花だって貴重なものだろうし、それを歓迎の花道で豪勢に撒かれれば相手も悪い気はしないだろう。ようするに祝福のシャワーみたいな物なのかも知れない。
俺の世界じゃ偉い人を歓迎するのに花を撒く事は少ないと思うが、ホントこういう時に違う風習の国なんだなあと思わされるよ。
……まあ、俺がメス扱いな時点でもうちょっとアレなんだけども。
「さ、凱旋廊に着いたわ。ツカサちゃんは私と一緒に並びましょうね」
「はい!」
優しいサーラさんは、侍従が並ぶ場所を教えてくれて俺もそこに収まる。
連れて来られた“凱旋廊”と呼ばれる廊下は、確かに大扉から一直線に伸びる通路で、美しい柱とアーチによっていくつかの区画に区切られている。
正門と呼ばれた扉から宴の間までは扉が無いので、間違いなく廊下なのだが……綺麗な装飾がされたアーチで区切られているからか、廊下と言う感じもしない。
とはいえ、柱も通路もデカくて巨人の通り道かよと思う程なので、区切られていてもそれほど閉塞感は無いんだが。柱は半分壁に埋め込まれてるしな。
それに……このアーチの区切りは、それとなく王宮の役職を訪問者に教える役目も有るのかも知れない。
だって、横目でちょろっと全体を覗いた限りでは、偉そうな感じの人が正門の扉の前にいて、そこが終わると使用人の列……って感じになってったもんな。
俺達メスっ子侍従は宴の間の扉の前だ。
となると、俺達は位が低いのかなと考えたが、サーラさんは爺ちゃんのお付きだし、そんな事は無いよな。たぶん最後の華って感じなのかも知れない。
……サーラさんは良いけど、やっぱ俺場違いじゃないかなぁ……。
ゲンナリしつつ、下男のお兄さんから花がたくさん入った籠を受け取ると――唐突に正門が開いた。驚いてそちらのほうを向いた途端、大きな歓声が耳を震わせる。
獣の咆哮にも似た声に思わず耳を塞ぎそうになるが、必死にこらえて大きな音を立てて開いた正門の扉を見やる。
するとそこには、二頭の角が立派な黒い牛……恐らくは水牛に牽かせた牛車の上に乗る人物が見えた。絢爛豪華な牛車に一人で乗っている相手は、水牛と同じツノを頭から生やしていて、自信満々な感じで腕を組んでいる。
最初は逆光でその姿が良く分からなかったが、近付いて来ると次第に相手の姿がどんな感じなのか解って来る。
「さあ、お花を撒きましょうね、ツカサちゃん。陛下が通り過ぎるまでは、カゴのお花を切らさないように注意しましょう」
「わかりました!」
どんどん牛車が近付いて来る。
立派なツノを持つ水牛がチラリと侍従たちを一瞥しながらゆっくり歩み、俺達のすぐそばにある宴の間の扉が開く。
俺は色とりどりの綺麗な花を巻きながら、牛車に乗る相手を見た。
「…………」
肩まで伸びる黒い髪を額の真ん中で分けた、なんだか挑戦的な顔をした青年。
クロウや殿下よりも年下の若い青年だが、堂々と座る様は王と言われてすんなりと納得できる。そんな相手だった。
……こういう黒い髪の獣人もいるんだなあ。
珍しくて、機械的に花を撒きながらじーっと相手が通り過ぎるのを見ていると――
「ッ!」
ちら、と、一瞬だけ相手と目があった。
光っている目は、漆黒。……漆黒の瞳だ。
その珍しい目に驚き、俺は一瞬硬直してしまった。
するとナントカ陛下は一瞬だけ驚いて俺を見て。そうして、ニヤリと笑う。
「…………え?」
どういう意味だろうかと考えるが、もう牛車は通り過ぎてしまった。
慌てて目で後を追うが、ナントカ陛下が乗った牛車は既に宴の間に到着したようだ。
俺の位置からでは、もう牛車の後ろ姿しか確認できなかった。
……今の、なんだったんだろう?
「さ、ツカサちゃん、控えの間に戻りましょう。みなさまにお料理を出さなくちゃね。これから忙しくなるわよ~」
俺が緊張していると勘違いしたのか、優しいカーラさんは、ちょっとおどけた感じで緊張を解そうとしてくれる。
そのおちゃめな感じと大人の美女ならではの可愛さについデレッと頬を緩めてしまうと、カーラさんはウフフと笑って俺の頭を撫でてくれた。
「緊張しないで大丈夫よ。カーラお姉さんがツカサちゃんを守ってあげますからね」
なんか、気になった気がしたけどまあいいか!
わーいわーい、守って下さいカーラさーん!
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いやカーラさんなら撫でてくれるはず。俺を可愛がってくれるはず!
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