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飽食王宮ペリディェーザ、愚かな獣と王の試練編
1.爛れた朝食
しおりを挟む「つっかっさくんっ。ほらほら僕にあ~んして~、あ~んってぇ」
「…………お前な、いくら他人の目が無いからってはしゃぎすぎだぞ……」
明けて翌日、今日も砂漠はビカビカと太陽が照っていて熱熱しい。
でも、砂漠のオアシスである王都・アーカディアの王宮ペリディェーザは、どういう事か太陽が昇っても涼しくて快適なままだった。
なんだかよく分からないけど、この王宮にはクーラーでもあるんだろうか。それとも、王都に植物を根付かせていると言う“特殊な鉱石”みたいなものがあって、そういうのが王宮を冷やしてくれているんだろうか?
良く分からないけど、まあ今の状況で考えていても仕方ないか。
なんせ今の俺の状況っつったら……。
「ツカサくぅ~ん、はやくぅ」
「だーもーはいはいあーん!」
丸いバナナみたいな果実……マルムーサの皮をむいて、隣に座っているオッサンの口にそれを放り込む。豪奢な刺繍のクッションが沢山置かれている、アラビアンな王様が座る所みたいな絨毯の上でこんなことをしているとは……俺は一体何をしてるんだろうか。なんか王様に侍るナニカみたいじゃないかコレ。
いやでも、昨日ブラックは気を利かせてくれたんだし、朝から早々甘えられても仕方ないって言うか……。
「ブラックばかりずるいぞ……。ツカサ、オレにもあーんしてくれ、あーん」
「はいはい!」
反対側からも声が聞こえて、俺は同じ物をクロウの口に放り込む。
……位置的に俺が王様の位置なんだけど、どうして両隣のオッサンの世話を細めにやらなきゃいけないんでしょうね。俺が接待される席なのでは、これ。
でもなあ、二人とも昨日から何か様子がおかしいし……クロウもそうだけどブラックだっていつもと少し違う気がして、突っぱねられなくてなぁ……。
そのせいでこんな両手にオッサン状態になってるんだが、まあ今日の俺達は何にも予定が無いし、いつもの調子じゃない二人を喜ばせるくらいは、まあ。
…………ひ、人が居たら絶対にこんなこと出来ないけどな!
「もーツカサ君っ、コイツは昨日散々甘やかしたんだろ!? だったら今日は僕の事をドロドロに甘やかしてくれなきゃ! そう言う約束なんだからっ」
「いや約束してませんけど!?」
思わず振り返ると、ブラックは無精髭だらけな頬を子供のようにぷくーっと膨らませながら、俺に対してとんでもない事を言って来る。
「おかげで昨日はツカサ君の使用済みシャツの匂いを嗅ぎながら寂しく一人寝してたんだからねっ。シャツだけドロドロになっても意味ないんだよ!? もうっ」
「まっ……いや待てお前ドロドロ!? 俺のシャツドロドロって言った!?」
「ヌゥ。朝起きたら遠くから酷いにおいがしたぞ」
「なんのニオイぃ!?」
いや言うな、聞きたくない。口を開こうとするんじゃないクロウ!
ヘンな事を言う前に口にバナナブロックだ!!
「むぐ」
「と、ともかく! 甘やかすっつったって、ここはドアもない開放的なトコなんだぞ!? そんなところでいっ……いつも、みたいにするのはちょっと……」
うう……こ、恋人だし、何度もやってることなのに、なんでこう口に出すと段々声が小さくなっていってしまうんだろうか。
でもダメじゃん、そういうところ見たくないじゃん!? 人の!
俺だって男二人がイチャついてるのなんて見たくないよ!
他人の目線になると居た堪れないよ! そっとしておいてあげたいよ!
なのにこのブラックのコンチクショウ、俺の気まずさを理解してくれないのか、何でそんなに嫌がるのとばかりに首を傾げやがる。
「人に見られるのがヤなの? いいじゃない、見せつけてやろうよ」
「客人がイチャイチャしてんのとか家主的にはツラいだろ普通に!」
仮に俺の家にバカップルが泊まりに来たとして、その二人が朝も昼も夜もこっちに見せつけるようにイチャイチャしてたら、話し掛け難いしイラッともするだろう。
俺はする。絶対にする。俺の目の前で女とイチャつきやがってチャラ男が……的な嫉妬の炎で、たぶん一番余ってる入浴剤とか風呂に入れるかもしれん。
お前らなんか「良い匂いだけど……なんかピンとこないな……」みたいな入浴剤で微妙な雰囲気になって家に帰るまでご無沙汰になってしまえ。
……ご、ゴホン。
ともかく、そういうのは家主には失礼だと思うんだよ俺は。
夜はともかく昼間にイチャコラってのはちょっと……。
「なんだ、ブラックはツカサとイチャイチャしたいのか」
「お前のせいで昨日は一人寝だったからなクソ甘え熊」
「安心しろツカサ、獣人は“匂いづけ”が普通と言っただろう。自分のメスによからぬ輩が近付かないように、見せつけるのは当然の事だ。それを咎める者などいない」
だ、だけどクロウ達の言う“匂いづけ”ってアレじゃん。
イチャイチャとかだけじゃなくて、えっちなことも含んでるじゃん!
ブラックだってそのことは聞いちゃってるし、だとしたら絶対ロクなことにならん。
人がいるのにセクハラされたらごめんなんだって。
普段は「相手にそんな事を思うのは失礼」とか思っちゃうけど、ブラックの場合は別だから、コイツ本当にやりかねないから怖いんだよ!
「ほらほら、イチャつくのは普通の事なんだってよぉツカサ君」
「だ、だけど……」
「それともツカサ君、えっちなことされるかも……なんて考えてるの?」
「ばっ……ンなワケないだろおバカ!」
思わず言い返すと――――
ブラックの顔が、ニタァといやらしい笑みに歪んだ。
「じゃあ僕の膝の上に来てくれるよね? イチャつくだけなんだし……ね?」
…………アカン、これは完全に敗北ルートだ。
これで俺が拒否したら「えっちなんだね」なんてイジられるに決まってる。だけど、俺がブラックの言う通りにしたら……い、いやそんな風に考えるからダメなんだよな。
相手が山賊みたいな笑みでニヤニヤしてたって、そうなるとは限らないじゃないか。もしかすると本当にただイチャコラやりたいだけかも知れない。
ブラックの場合、いつもモブおじさんみたいにニヤつくから勘違いするんだよ。
だから、た……たぶん、大丈夫なはず……。
そんなまさか、ブラックだって朝から変な事はしないよな。
甘えさせろって言ってるんだから、それだけだろうし。クロウやロクショウもいるんだから、滅多な事はしない……と思う。
毎度の事とはいえ、何でもかんでもスケベな方向に考えるのも悪いよな。
一々恥ずかしがる俺も悪いんだし……。
………………。
よ、よしっ。膝に乗るくらいはやってるし……今は、食事を運んで来てくれた給仕の人達もいなくて三人と一匹だけなんだから大丈夫な、はず。
そんなに言うんならやってやろうじゃないか。
拒否し続けるとブラックも何するか解らんしな。うむ。
「……ひ……膝に乗ればいいのか」
「おっ! そうそうそうだよ~! さっ、ツカサ君ほらここっ、早く早くぅ」
俺が窺うと、すぐに嬉しそうな顔をして足を胡坐に組むブラック。
待ってましたと言わんばかりの行動にちょっとヒいたものの、俺は重い腰を上げてブラックの膝の上に……おいこらケツを変な笑みで見るな!
「ったく……なんで朝からこんな……」
「ふ、ふへへ……ほらほらツカサ君、この果物美味しいよぉ」
背後で変な声を出しているブラックが、腕を伸ばし果物が盛られた大皿から赤色で楕円形の果物をつまむ。ちょっと酸っぱいけど後味が甘くて美味しい果物だ。
ここで初めて食べたけど、俺けっこうコレ好きなんだよなぁ。
あんまり美味しかったから、イチゴみたいな味でこっそり多めに食べてたんだけど、ブラックに気付かれていたんだろうか。そう思うと恥ずかしかったが、まあ食べさせてくれるのは嬉しい。
礼を言って果物を指で受け取ろうとする、が……手は逃げてしまう。
どうしたのかと振り返ると、ブラックは目を細めて笑った。
「さっきツカサ君があ~んってしてくれたから、今度は僕がしてあげる」
「そ、そんなの別に……」
「良いから良いから。ほら、あーんして」
……こ、これがブラックのやりたいイチャイチャなんだろうか……。
クロウが見てて恥ずかしいんだが、し、仕方ないか……ロクが果物に夢中で可愛くムシャムシャし続けてて、こっちを見てないのが救いだな。
あーんくらい、その、素早く終らせればいいんだし。
そう思って口を開くと。
「んぐっ……んんん゛っ!?」
楕円の実を口に半分押し込まれた、と、思った瞬間。
ブラックの顔がすぐ間近にあって――――俺は、口を塞がれてしまった。
「んっぅ、んん……っ!」
「はぁっ……は……お、美味しいねぇツカサ君……っ」
口の中に果実を押し込められて、舌まで強引に入ってくる。
思わず体を強張らせて舌を押し返そうとするけど、ブラックは果実の壁をうまく利用して舌を奥まで差し込んできた。
果実の皮の冷たくて弾力がある感触と、生温くてぬめった大きな舌が交互に俺の舌をなぶってきて体がビクリと震える。
そんな俺の口の中で、ブラックの舌は果実を押し潰した。
「ん゛っ、ぐ……っ」
さわやかな酸味と甘い味がする果汁が、口の中に溢れて来る。だけどブラックの舌が飲み下そうとする俺の舌に絡みついて来て、口の端からぽたぽたと果汁が漏れてしまった。これじゃシャツに染みこんでしまう。
ただでさえ息苦しくて体がゾクゾクしてるのに、甘い味を染みこませるように大きな舌で俺のを絡め取って弄り回してくるなんて酷い。
つ、つーか、えっちなことしないって言ってたのに……っ。
「ん゛ん゛ん゛~……っ!」
「っふ、ふふっ……美味しいねツカサ君……他に食べたい物ある?」
口が離れたと思ったら、またとんでもない事を言いやがる。
このっ、う、ううぅ……息がうまく吸えなかったせいでハァハァいう事しか出来ん。
だけど意思表示しておかないと大変な事になる。そう思って必死に首を振るが、目の前のオッサンはニタニタしながら口をだらしなく緩めるだけで。
「何でも言っていいよ? 僕が全部食べさせてあげるから……それともぉ……ふっ、ふへへっ、ツカサ君の体がもっと喜んじゃうもの食べようか……?」
「っ、ぁ……や、ぁ……っ」
ブラックの手が、俺の太腿に張り付いて来る。
その大人の手がじわりと付け根に動いて来ているのが解って、俺は身を捩った。
だけど、ブラックは止まってくれない。元気に拒否できればいいのに、あんなエグいキス一つで俺はもう動けなくなってしまっていた。
や、やばい、お腹の奥が熱くてぎゅうってなってる。ブラックが変なキスして変な風に触るから、体がまたおかしくなってるんだ。このままだとまたヤバい事になる。
「これは“匂いづけ”じゃなくて交尾の準備だろう。ブラックお前と言うヤツは」
「うるさいな駄熊のくせにっ! もう何日ツカサ君とセックスしてないと思ってんだ、僕の股間ももう我慢の限界なんだよ!!」
ぐ、ぐうう、コンチクショウ本音が出やがった……。
動け、動くんだ俺の体。ブラックの頬を思いっきり抓れ。
「…………あの、色んな意味でお食事中のところ失礼します」
「ッ!?」
ブラック達と明らかに違う声が急に聞こえて、俺は慌てて声がした方を見る。
と、そこには……昨日ドービエル爺ちゃんの横にいた象耳眼鏡お兄さんが……って見られたっ、こんな恥ずかしい所見られたああああああ!! あああああ!
「おいこらデカ耳! ツカサ君が恥ずかしがってるだろ、どうせなら全部終わってから入ってこいよ!」
「やりはじめたのはブラックだろうにな」
「キュゥ~」
ギャッ、ろ、ロクショウまでもうご飯食べるのやめてる。
うわーもう見ないで見ないで頼むから俺の存在を消してくれぇええっ。
「ほら見ろツカサ君が恥ずかし過ぎて顔を覆っちゃっただろうが」
「それは……申し訳ありません……?」
「謝罪はいいから何の用か話せ。そのために来たのだろう」
クロウの冷静な言葉に、象耳眼鏡お兄さんは頷いたようだった。
俺には何も見えないが話が終わってくれるならそれに越したことはない。
「陛下から言伝を預かっております。朝食がお済になりましたら、謁見の間まで来て欲しい……とのことです」
「ハァ? またかよ」
「ぅ……あ、あの……何か用事があるんですよね……?」
指の間から相手を見ながら言うと、象耳お兄さんは眼鏡を直しながら頷いた。
「貴方がたを呼んでいらっしゃるのですから、そうでしょうね。……では私はこれで」
そう言うと、お兄さんはさっさと行ってしまった。
……随分シンプルな言伝だったな。
「なんだあのデカ耳、イヤミな言い方してきやがって」
「アンノーネは少し言い方がキツいから仕方がない。それに、他の獣人と同じく人族の事を見下しているからな。ああなるのは仕方ないだろう」
「あの人、アンノーネさんって言うのか」
やっと顔から手を離してクロウを見やると、クロウは少しだけ耳を前に倒す。
あ……ちょっと落ちこんでる……。
「……そうだ。アンノーネは“鎧象族”と呼ばれる強く巨大な一族の出だからな。実力で言えば、この王宮でも十指の内に入る」
「そんなに強いんだ……」
俺の言葉に、クロウは何故か目を伏せて頷いた。
「強い者、武を示した者だけが人の上に立つ事が出来る。それが獣人族だからな」
……昨日よりは持ち直したけど、やっぱりクロウの雰囲気は暗い。
一緒に連れていくよりも休ませた方がいいんじゃないかと心配になったが、クロウは「ここで待っている」とは言わなかった。
→
※いつも読んで下さってありがとうございます!(*´ω`*)
かなり前のリクエスト【クロウがツカサと初めて出会っていたら】を
大幅バージョンアップした【砂海渡るは獣王の喊声】という
長編番外編を今日別枠、同時更新で開始しました!
ベーマス編とも関わったりしてるので、こちらも同時に
楽しんで頂けたら嬉しいです!
あちらは、三日に一話の更新です(`・ω・´)
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