異世界日帰り漫遊記!

御結頂戴

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豪華商船サービニア、暁光を望んだ落魄者編

23.信頼に必要なモノ

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   ◆



 食料は、幸いな事にまだ余裕がある。
 ……とは言え、不測の事態に配給するものなので安心な量とは言えない。

 そもそも、この船で食堂などを使う人は商人や貴族と言ったいわゆる「お金持ち」達くらいで、一般人は持ち込みで飢えをしのいでいる人がほとんどだ。
 だから客室係の俺達はほとんど一般の人と出会う事が無く、今まで話題にもならなかったんだが……今からその人達に食事を運ぶとなると、少々不安だなぁ……。

「…………いいか、みんな。何事も心配ないって笑顔でお客様に接するんだぞ。特にお前、余計な事を言うんじゃないぞ!」

 船に縦横無尽に走っている従業員用の裏通路を歩きながら、お食事運び隊の暫定リーダーであるウェイター姿のお兄さんが言う。
 最後の「特に」の部分は俺を見て言われたが、俺はそんなに口が軽そうに見えるのだろうか。いやそんなことはないはず。でもまあ、この中では一番ガキっぽいからそう言われるんだろう。俺は大人なのでもうそんな偏見では怒らないが、口が軽そうって思われるのは承服しかねるぞ。

 俺だって口は堅いんだからな、金庫並なんだからな!

 まあでも、このメンツで不安だっていう他の人の気持ちは分からないでもないから、何も言えないんだけどね。
 なんせ、出来るだけ「反感を買わなそうな人」を選んで編成を汲んだもんだから、俺の他って言うと残ってた給仕係の人の中でも温和そうな人ばっかりになって、屈強な奴は誰ひとり残らなかったんだもんな……。

 この世界って、俺の世界と違って欲望や感情が明け透けで強い人ばかりだから、見た目にも屈強で厳つい顔立ちの人だと、不安で気が立ってる相手に何をされるか分かったモンじゃなくて連れて行けなかったんだよなぁ。
 ……にしたって、腕の立つ人が居てくれた方が良いと思うんだけど……でも、今は少しでもお客さんを刺激するようなものは排除しておきたい。

 誰もがそう思ったから、不安だったけどこのメンツで行くしかなかったんだよな。
 しかし……俺以外に腕の立つ人もいないっぽいし……こうなったら、俺がみなさんを守らなきゃな。この中で曜術を使える人がいるっても聞かなかったし、いざとなったらば俺が木属性の曜術で相手を取り押さえるくらいはしなければ。

 俺だってビクビクしてるガキじゃない。立派な冒険者なんだ。
 今のうちに曜気を溜めておいて、有事の際にはすぐに出せるようにしとかないと。

「……よ、よし……いくぞ」

 暫定リーダーの青年が、ゴクリと喉を鳴らしながら扉を開く。
 貴族専用エリアよりもいくらか階下にある一般用船室がある廊下は、研修時に見学した通り、壁も少し薄汚れていて質素な壁が左右に張り付いている。

 治安が悪いのか、それともハナから修復する気が無いのか、壁にはたまに「争った形跡」っぽいヘコみや傷が見られて、そんなに荒々しい人も載っていたりするのかと肝が一気に冷えてしまう。他の人も青ざめているようだ。
 さもありなん。こんなヘコみ、出港前には無かったもんな……。

 ってことは、一般船室……とは名ばかりの広いタコ部屋につめている人達の中には、こういう事が出来る腕っ節の強いヤツか冒険者が乗ってるワケで……い、いや、恐れるな俺。こういう時に俺がしっかりしなくてどうする。
 俺だって、ブラック達みたいにスマートに他人を守るのだ。

 そんな人ばかりだとは思いたくないが、念には念を入れておかないとな……などと思い曜気を溜めつつ、俺達は一般船室の扉を開いた。

「――――――……」

 暗い。
 いや、正確には薄暗いのか。今船室は蝋燭の頼りない明かりで照らされていて、窓のない倉庫のような広間にざっと百人以上が座っている。
 子供の姿は見当たらないけど、座っている女性も「誰かの妻」と言ったようなか弱い風体ではない。船室に居る人達は、どう見ても「一般人」ではなさそうだった。

 さもありなん。獣王国ベーマスに向かう船は、基本的に一般船室でも高価だ。
 俺の世界なら「移民」という話もあっただろうが、こちらの場合そう言う理由は皆無。戦争も恐慌も起きていない平和な大陸なのに、そこからわざわざ出て行く一般人が大勢いるワケなんてないし、そもそも向こう側は人族がすむ大陸とは比べ物にならぬほどの「弱肉強食の国」なのだ。
 一般人が居たとしても、その人達は途中の島で下船する人達くらいだろう。

 そうなると、一般船室を使うような人ってのは……限られてくるワケで……。

「あ、あの、皆様……このたびは、船の不具合で大変なご迷惑をおかけしてしまい、大変もうしわけありません。……つきましては、停泊している間の食事は船のほうでご用意させて頂きますので、ご不便おかけしますが、どうかご容赦ください……」

 必死に声を絞り出している暫定リーダーのお兄さんは、眼光鋭い筋骨隆々のカタギじゃない人たちに凝視されてガクブルしている。
 顔が青くなりすぎて今にも倒れちゃうんじゃないかと心配だったが、必死に定型文を復唱して頭を下げる。それに合わせて俺達も頭を下げると――――薄暗い部屋の中で黙っていた屈強な人達が動く音が聞こえた。

 ヒッ、ひぃい……鎧がガチャって言う音が聞こえる、剣の鞘を支える金属が擦れてチャリって音が聞こえるぅう! まさか剣を抜き出してねーよな!?
 そんなの勘弁だぞと俺も青ざめつつ、みんなで恐る恐る顔を上げると。

「……食事を用意している、だとぉ?」

 ガタイのいい顔が怖いおじさんが、近寄ってくる。明らかに怒っている。これは絶対にヤバい。もう暫定リーダーは顔面蒼白で絶句している。
 どんだけ怖がってるんだと思ったが、そもそも食堂なんかの接客係はこういう人に接していないので仕方ないのかも知れない。だとすると……ヤバいのでは。

「この船は【不沈船】だっつうから高けぇ金払って乗ったんだろうがァ!! テメェらの責任果たせねえでスンマセンでしたなんて、どの口が言いやがるんだ、あ゛ぁ?」
「そうだそうだ! 俺らにだって予定があんだぞ!!」
「先方に切られたら船代どうしてくれんだコルァア!」

 強面のおじさんの怒鳴り声が口火を切って、冒険者たちがわあわあと騒ぎ出す。
 そうなってしまえば、もう俺達サイドにはどうすることも出来なかった。

「責任者呼べ責任者ァ!!」
「くいもんだけで足りるか! 金よこせ!!」
「どうせテメェらは何とも思ってねえんだろ綺麗な服してすまし顔しやがってよ!」

 何かもう、それは別の不満じゃないかとツッコミたくなることまで言い出す人がいて、収拾がつかない感じになってきた。
 このままヒートアップすると、暴動まで起こりかねない。だけど俺達接客係だけでは彼らを抑えることが出来ない。やっぱり支配人が来るべきだったのに、共同も厨房もどっかに行っちまったんだもんな……こんなのムリゲーだよ。

 ああどうしよう、みんな青ざめて震えてる。配膳どころの話じゃない。
 どうにかしないと。曜術を使うべきだろうか。いやでも、この人達を【グロウ・レイン】で作り出した蔓で一斉に拘束したって、何の解決にもならないよな。
 寧ろ火に油を注いで彼らを余計に怒らせてしまうかも。

 そうならないためには、どうすれば。
 彼らを一先ず落ち着けさせるには、冒険者のゴツいオッサン達を…………。

 ――――――そうだ。
 イチかバチかだけど……やってみるしか、ない。
 この場を何とか納めなければ。それが出来るのは、強面のオッサン達を見慣れている俺しかいないんだ。何としてでも、従業員達に被害が及ばないようにしないと。

 でも大丈夫かな、乗ってくれるかな……って考えてるヒマもない!
 ええい、ままよ!

「あ、あの! みなさんお待ちください!」

 一歩踏み出して前に出た俺に、冒険者たちが一瞬静まりかえる。
 だが一斉に鋭い視線が向かって来て、俺は背中に凄まじい鳥肌が立ちながらも、なんとか全員を見回しながら言葉を続けた。

「その……っ、ふ……船からは、清潔な水の提供と……それと、あの……私が薬師ですので……回復薬を皆様にそれぞれ五本ほどお詫びのしるしとして、受け取って頂ければと……」
「…………なにぃ?」

 強面のおじさんや、どう見ても悪人面の男が俺の方へ近づいてくる。
 その動きに、背後にいた従業員達が「ひぃっ」と声を上げたが、俺は何とか悲鳴を漏らさずに直立して二人を見上げた。

「材料はどうすんだよ嬢ちゃん、それにお前の作る回復薬がクズみてぇな回復量とは違うとどう証明する? 俺らも迷惑かけられて我慢してんだ、今度クソ掴まされたら、どうなるかわかってんのか。あ゛?」
「そ、それは、後から試供品をお持ちします。だから、どなたか信用出来る方に飲んで頂ければと……。材料は、あの島に存在するそうなのでそれを使います」

 出来るだけ事を荒立てないように穏やかな言葉を選ぶ俺に、悪人面のほっそりした顔立ちの男が俺を下から睨めつけてくる。

「ほーう? 随分な自信だなァ……度胸がアンのか、それともお仲間を守りたーいって言うけなげな使命感かぁ? それっぽい顔してんなぁお前……へへへ……」
「な……納得して、矛を収めて頂けないでしょうか……」

 どうも蜥蜴のような顔つきの悪人ぽい男は、長そうな舌をチロリと見せて俺の事を頭からつま先まで見やる。そうして、何をするかと思ったら……囁いて来た。

「…………え?」
「出来たら、オレサマが協力してやんよ。お仲間サンを守りてぇんだろォ? だったらソレくらい……ワケねえよな?」
「ぁ……え……」
「おい、なに吹き込んだんだ」

 強面のおじさんが言うのに、蜥蜴っぽい悪人面の男はニタリと笑って「まあ見てな」と言うばかりだ。俺に囁いた「できるだろ?」という命令のような台詞は、俺がソレを行うまで周囲をとことんまで煽ってやろうと言うハラなのだ。

 でも……確かに、この人の囁いた通りのことぐらいしないと……信用して貰えないのかも知れない。冒険者は荒くれ者の集団だが、彼らはただの暴れ者ではない。
 人々の依頼をこなすという役割も担っている以上は、以来をして来た相手が信頼に足るものかどうかを見極める目も必要になる。

 それを全員が持っている……とは言わないけど……たぶん、俺を冷静に見続けている数人は、そういった「パーティーの頭脳」と言える人達なのだろう。
 その人達と、このリーダーのように俺達につっかかってきた二人は、信用出来なくなった「船側」の俺達に対して要求しているのだ。

 こちらに我慢させたいのなら、その対価を必ず用意できると言う証拠を見せろ。
 自分達を騙しているのではないと言う、体を張った意思を見せろ、と。

 だけど…………ソレを見せるのに、その……。

「ん? なんだァ。デキねえのかぁ? じゃあお前は信用ならねえなぁ」

 そうだ。やっぱりこの人は、俺が「いやがるだろうこと」を何となく察して、その行為を敢えて要求する事で、俺が本心からそう言っているのか試しているのだ。
 だと、したら……恥ずかしいけど……でも…………やるしか、ない……。

「っ……い、いま……やります……っ」

 迷っている暇はない。さっさとやればいい。
 だけど、両手が震える。目の前に人が沢山いて、後ろにも俺を知っている人がいる事を感じると、どうしても体も足も震えてしまう。
 自分が今から行う事に顔が熱くなって、そんな気なんてないのに目の奥が泣き出しそうにじわじわして来た。けれど、もう「やらない」という選択肢は無いのだ。

「ほらほら、早くやれよォ」
「っ、は……はい……っ……どうか……し、信じて……ください……」

 声まで震えて来た。治まれ、あからさまに恥ずかしがっているのなんて見せるな。
 そんな自分が情けなくて、余計に体が熱くなってくる。

 でも、必死に手を伸ばして、スカートのすそにまで手を伸ばす。
 そのまま裾を掴んで、そうして俺は――――

 スカートの前の方を持って、ゆっくりと上にあげて中を露わにした。

「お、おいお前……っ」
「ヒューッ、色気のねえ下着だ! ほらほら皆さん、真面目子ちゃんがここまでして、オレサマ達に信用して欲しいんですってよぉ!」
「っ……ぅ……うう……」

 後ろから、俺のやっていることに対する声が聞こえる。
 蜥蜴っぽい悪人面の男が囃し立てる事で辛うじて耐えられているけど、恥ずかしい物だと散々ブラックに言われたせいか、このかぼちゃパンツですら他人の視線が突き刺さることに羞恥を覚えてしまって、足が自然と内側に寄ってしまう。

 自分がどれほどいやらしい事をしているのかと思えば、体ががくがくと震えた。
 もうスカートを降ろしたい。視線から逃れたい。
 でも、冒険者の男はいつまでたっても「もう良い」なんて言ってくれなくて。

 恥ずかしい場所に、数えきれないくらいの視線が集まっていることが、もう、どうにも耐えられなくて……――――

「も……もう、許してくださぃ……っ」

 これ以上見られていたら、本当に情けない事になってしまう。
 痛くなってくる喉をなんとか締めて、泣き声にならないように男に懇願する。そんな俺を、相手は上機嫌でじろじろ見ながら、悪人らしい笑みをニタリと浮かべた。

「おほっ、イイ顔してんじゃ~ん。マジでイヤなんだねえメイドちゃん!」
「ああもう分かった分かった、もういい! ……一度だ。一度だけ信用してやる。だが、クズみてえな品質の回復薬を持って来たら終わりだからな!」

 強面のおじさんが、俺の手を強引に掴んでスカートを降ろさせる。
 そうして、蜥蜴顔の男の頭をパコンと叩くと、それで良いなと他の冒険者達に有無を言わさないような声を放った。

 ……反対の声は、ない。
 どうしてだか不思議なくらいに、彼らからは否の声は出なかった。

「おいメシだメシ! メシ用意しろ!!」
「はっ、はいい! み、みんな食器を出して用意して! ほらお前も!」

 強面のおじさんの怒鳴り声に触発されてか、暫定リーダーが声を出す。
 そうして俺の腕を引っ掴むと、従業員が固まっている所に戻してくれた。
 だけど、みんなの顔が見られなくて、俺はカッカと熱くなる頬をぎゅっと引き締めて俯いてしまう。でも、それも仕方ないよな。無理ないよな?

 だって俺、あ……あんなこと……あんな恥ずかしいカッコしたの、一緒に働いているみんなの前でして……そんなの見たら、絶対、みんな余計に俺のことを……。

「……大丈夫だった……?」
「え……」

 思っても見ない声をかけられて顔を上げると、そこには。

「ごめん、俺達なにも出来なくて……」
「つらかったでしょ? ごめん、ホントにごめんね、クグルギくん……」
「今度はアタシ達が頑張るから休んでて! もうあいつら近付けさせないから!」
「ぇ……あ……」

 さっきまで俺の事を遠巻きに見ていた給仕係の人達が、俺に対して次々と労いの言葉を掛けて、俺を自分達が壁になって守ってくれようとしていた。
 ……これ……えっと……どういう、こと。
 あんな恥ずかしいカッコ見せたのに、みんな……俺のこと、恥ずかしいと思わないのか? ぱんつ見せ男だぞ? どんだけ優しいんだよ。

 いや……むしろ、今までが今までだったから……俺が頑張った事に対して、何かの納得をして受け入れてくれたって事なのかな。
 それがパンツ見せってのがイヤすぎるが、でも……ちょっと、嬉しい。

「おい早くしろ給仕係ども!」
「はい、かしこまりました!」

 さっきとは打って変わって、みんないつもの調子でハキハキと喋り、冒険者たちへ次々に配膳を行っていく。俺は彼らの背に守られてそれを見ながら、どうしてだか妙に安心したような気持ちを覚えていた。

 かっこつかない好感度のあがりかただけど、仲良くなれたし……まあ、いいよな。
 とにかく、冒険者の人達の怒りは収まったみたいだし。











※ちょと遅れました…(;´Д`)スミマセン…

 
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