異世界日帰り漫遊記!

御結頂戴

文字の大きさ
上 下
413 / 957
港地区ディナテイル、情けは人のためならず編

17.穏やかな言葉を盾にして

しおりを挟む
 
 
   ◆



「おい、ツカサ。おいって」
「ンゴ……ふごご……」

 なんか体が揺れている気がする。でも眠くて頭が働かない。
 ブラックかクロウがベッドに入って来たのかな……もーやめてくれよ、昨日だって散々構ったのに。寝る時ぐらいはせめて起こさないようにしてくれ。

 そんな事を思いつつ寝返りを打とうとするが、肩を何かに掴まれたような感じがして元の位置に引き戻される。

「ツカサ、帰る時間になってんぞ!」
「ふごっ……? んぉ……おお……きゅーま……」
「おおキュウマじゃねえよボケナス、もうアッチに帰らないとそろそろ怪しまれるぞ」

 キュウマがいる。ええと、夢じゃないよな。
 ってことは……あっ、そうか。もうアッチの世界に帰る時間になったから、分身体を使って呼びに来てくれたんだな。そうだそうだ、忘れていた。

 俺はシベの家の車に乗せて貰って帰る途中で神社に寄ったんだよな。だから、今こっちの世界に居られる時間は長くても二週間かそこら……アッチの世界の時間で言うと、二十分ぐらいしかない。長いようで短い時間だ。
 だが、さすがにボロボロの神社に二十分も居たら怪しまれるだろう。

 こちらの世界で一日経過する時、あっちでは一分ほど経過するようになってるとは言え、俺の世界じゃその「一分」って結構バカにならないしなあ。
 車で待ってくれている運転手さんにも申し訳ないし、いったん帰らないとな。

 そう思い、気怠い体をなんとか起こそうとする、が、なんか腰のあたりが重たい。
 何が乗っかっているんだと鷲掴むと……がっしりとした硬い筋肉の丸太……もといオッサンの腕が釣れた。おかしいな、昨日は別々のベッドに寝たはずなんだが。

「お前らホント気持ち悪いほど仲良いよな……」
「ち、ちがっ、これはブラックが勝手に入って来て……」

 これは何かの間違いだ。というか、い、いつも二人で寝てる訳じゃないってば。
 そりゃ、まあ、いっ、一緒に寝たりする時も有るけど……でも、いつもはちゃんと一人で寝てるし、これはいつもみたいにブラックが勝手に入って来ただけで……っ。

「うにゃ~……つかしゃくぅ~……」
「ってわーっ、抱き着くなあっ!!」
「マジで鬱陶しいな……殴ってもいいんじゃないかそのオッサン」
「人の仲間だと思って簡単に殴るとかいわんといて!」

 まあ俺が殴ったってブラックはダメージゼロなんだろうけどさ、でも殴った後のことが怖すぎて殴りたくない。お前は俺と言う弱者を更に追い詰めようと言うのかコラ。
 勘弁してくれと必死にブラックの腕から逃れる俺に、キュウマはハァと溜息を吐いてこれみよがしに眼鏡をクイッと指で押し上げた。

「まあそれはともかく……」
「言いだしっぺが話題変え始めた」
「うるさい赤点常習犯。……ともかく、帰るから早く支度しろ。どうせすぐ戻って来るんだから別れの挨拶なんていらねーだろ」
「ちょ、ちょっと待ってよ。黙って帰れるわけないだろ……支度するから……」

 なんとかブラックを引き剥がしてベッドから降りると、俺はみんなを起こさないようにいつもの服を着る。が、やっぱりなんかドタバタしてたみたいでブラック達のみならずロクまで起きてしまった。ああ、健やかな眠りを邪魔してしまってごめん……。

「うぅー……ツカサくんどしたのぉ……」
「ぐぅ……」

 俺が寝ていたベッドが軋み、でっかい図体が起き上がる。何故か床に転がっていたらしいクロウも、唸るような声を上げてのったりと体を起こしてしまった。
 その動きに遅れて、綺麗に編まれた籐の籠の中で寝ていたロクまで起きてしまう。
 可愛いクッションの上でとぐろを巻……こうとして巻けてないヘビトカゲちゃんの体をゆったりと起こしてふらふらと頭を揺らしている。

「ロク起こしちゃったか……ごめんなあ……」
「ンキュ……キュゥウ……?」
「ちょっと出かけて来るから、ロクはブラック達と一緒に待っててくれるかな? すぐに戻って来るから」

 ロクは頭を小さくて短い手の所までおろして、寝ぼけまなこをくしくしと擦ると、まだ眠たそうな顔ながらも俺の近くにぱたぱたと飛んでくる。
 ちょっと軌道がおぼつかないのが可愛らしい……と和んだ俺の手の上に降り、それから「いってらっしゃい」と言うように俺の頬に頭をすりすりとこすりつけてくれた。

「う、うぅっ、なんて可愛いご挨拶……ッ!! 今この瞬間間違いなく俺が一番幸せに違いない……っ」

 ロクが聞き分けの良い子でとても助かるが、しかし相棒心としては少し寂しい。
 というか間違いなくロクに寂しい思いをさせると言うのが申し訳ない。ああっ、今がテスト期間や研修中じゃなかったらロクと一日中イチャイチャしたいのにいっ。

 ――という切なる思いを俺がロクと噛み締め合っていると言うのに、背後のうるさいオッサンと眼鏡はというと。

「ヘビ相手になに言ってんだアイツ」
「いつものことだから、いつもの。……つーか何でお前がここに居るんだクソ眼鏡神」
「うるさい変質者。時間だからツカサを迎えに来たんだよ死ね」
「お前が死ね」
「頼むからロクの前で物騒なこと言わないでくれってば!」
「ウキュー……」

 ほらロクも呆れちゃってるじゃないか。クロウまでワンちゃんが嫌いな食べ物見た時みたいな嫌そうな顔してるし……いや珍しいなクロウのそんな顔。
 と、ともかく、こんな夜中に言い合いなんて不毛だ。

 俺はロクの頭を撫でて優しく籠の中に戻すと、キュウマの所へ戻った。

「と、とにかく、すぐ戻ってくるんだから落ち着いてくれよ。……な?」

 あちらで一日を過ごすと、こちらでは一時間が経過する。
 だから三日程度ならブラック達も寝ている間に戻って来られるはず。そうは言うが、ブラックは俺が向こうの世界に戻るのが不満なようで、ぶすっと顔を歪める。
 毎回、あっちに帰る時はこんな感じだけど、時間が真夜中と言う事も有ってか、今は特に不機嫌なようだった。

「ムゥ……ツカサはすぐに戻ってくると言っているのに、毎回ブラックは不機嫌になるな。もうすこし長の余裕を持って欲しいぞ」
「うるさい駄熊っ! ねえ、ツカサ君ほんとに行くのぉ……?」

 縋りついて来るブラックは、寝起きも相まってボサボサの髪をしている。そんな状態で情けない顔をするもんだから、少し良心が疼いてしまう。でも帰らないとアッチでも大騒ぎになっちゃうしな……ここは心を鬼にしないと。
 毎度毎度ブラックの「ツカサくぅん」にはつい負けてしまうが、俺は恋人として、毅然とした態度でブラックにノーを言える対等な存在になってやるのだ。こういう時にも、ブラックを納得させられるのがオトナってもんだよな。

 だから、叱られたわんこみたいなブラックにも、優しく……。

「ツカサくぅん……僕ツカサ君と一緒に寝たいよぉ……」
「…………す、すぐ帰って来るから……」

 そう言って、気が付いたら俺はブラックの頭を慰めるように撫でてしまっていた。
 ……ってバカーッ! なんで俺はそうやってブラックを甘やかすんだよっ。
 ブラックだってこんな事をしても引き下がらいだろうに……

「ほんとだよ? 朝になったら戻って来てね?」
「お、おう……」

 以外にも引き下がってくれた。でも、その……こうやって菫色の瞳で見つめられると妙に引き締めた心が緩んじまって、なんというか……。

「ツカサ君、顔が真っ赤……か、可愛いっ! ちゅーしてちゅー! また戻ってくるよのキスしてくれたら大人しく待ってるからっ!」
「ちょ、調子に乗りすぎだってば!!」
「だーもーうるせえなこの変態オヤジ! おいさっさと帰るぞツカサ!」

 俺に追い縋って来るブラックをキュウマは簡単に引き剥がして、有無を言わさず俺を空中に空いた穴に放り込む。同じ世界の同年代なのに、なんで俺とお前で腕力がこうも違うのか。これが数千年の差ってことなのか恐ろしい。

「てめこのクソ眼鏡!! ツカサ君を返せっ!」
「るっせクズ一人でマス掻いてろ!」

 なんか背後で凄い罵倒が聞こえたが、俺が振り返る前に穴が閉じてしまった。
 後には白い空間が広がるばかりだ。慌てて前方を向くと、本体のキュウマがいつもの和室スペースでウンザリした顔をして横臥していた。

「あ゛~……ほんっとに面倒くせえわあのオヤジ……。お前がなんでアイツを選んだのか意味がわからん……殺してえ……」
「神様なんだから簡単に殺すとか言わんといてください! ……ってか、本当にお前とブラックって仲悪いよな……なんでそうなるの?」

 仲良くしてくれればいいのに……っていうか、出来ればブラックに対しての容赦ない暴言も少し抑えてくれたら嬉しいんだけども……。
 そう思って相手をの顔色を窺うと、キュウマはブスッとした顔で眉を顰める。

「何でも何も、客観的に見てクズだろアイツ。お前がザコだからってヤりたい放題して大人の責任ゼロで甘えまくってんだぞ。アレのどこを好けっつーんだ。チート小説なら二分で蒸発してるレベルの当て馬悪党だろアレ」
「そ、さ、さすがにブラックならラスボスくらいだと思うけど!?」
「誰が強さの話をした色ボケザル! ……ったく……一々見せつけられる俺の身にもなってみろってんだ。つーか、何でよりにもよってあんな納得いかんオッサンとあんな関係になるかなお前は……」
「い、いやその……すんません……」

 見せつけるって、あれだよな。どう考えてもイチャイチャしてるヤツだよな。
 ……まあ、そりゃ、考えてみれば俺と同じで女の子が好きなキュウマじゃあ、普通に耐えがたい光景にしか見えないよな……コイツが【黒曜の使者】だった時は、女子ばっかりだったらしいしハーレムだったらしいし。
 あれ、良く考えたら俺の方がキュウマに怒る権利ない?

「真のチーレム主人公のお前なら俺が一発殴っても許されますよね……?」
「なにラノベのタイトルみたいなこと言ってんだよ。……ともかく、あっちの世界に返す前に、テスト予習と復習するぞ。お前、一日目のテストはちゃんとやれたよな?」
「えっ。………………あ……あ~……はい」
「よし、とりあえずゲンコツ一回な」

 ……正直なところ、キュウマもブラックの事を悪く言えないぐらい傍若無人だと思うのだが、そんな事を言ったら絶対にロクな事にならないと俺は理解していたので、口をギュッと引き締めて俺はキュウマのありがたい教えをご教授頂いたのだった。














 
しおりを挟む
感想 1,052

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

無名の三流テイマーは王都のはずれでのんびり暮らす~でも、国家の要職に就く弟子たちがなぜか頼ってきます~

鈴木竜一
ファンタジー
※本作の書籍化が決定いたしました!  詳細は近況ボードに載せていきます! 「もうおまえたちに教えることは何もない――いや、マジで!」 特にこれといった功績を挙げず、ダラダラと冒険者生活を続けてきた無名冒険者兼テイマーのバーツ。今日も危険とは無縁の安全な採集クエストをこなして飯代を稼げたことを喜ぶ彼の前に、自分を「師匠」と呼ぶ若い女性・ノエリ―が現れる。弟子をとった記憶のないバーツだったが、十年ほど前に当時惚れていた女性にいいところを見せようと、彼女が運営する施設の子どもたちにテイマーとしての心得を説いたことを思い出す。ノエリ―はその時にいた子どものひとりだったのだ。彼女曰く、師匠であるバーツの教えを守って修行を続けた結果、あの時の弟子たちはみんな国にとって欠かせない重要な役職に就いて繁栄に貢献しているという。すべては師匠であるバーツのおかげだと信じるノエリ―は、彼に王都へと移り住んでもらい、その教えを広めてほしいとお願いに来たのだ。 しかし、自身をただのしがない無名の三流冒険者だと思っているバーツは、そんな指導力はないと語る――が、そう思っているのは本人のみで、実はバーツはテイマーとしてだけでなく、【育成者】としてもとんでもない資質を持っていた。 バーツはノエリ―に押し切られる形で王都へと出向くことになるのだが、そこで立派に成長した弟子たちと再会。さらに、かつてテイムしていたが、諸事情で契約を解除した魔獣たちも、いつかバーツに再会することを夢見て自主的に鍛錬を続けており、気がつけばSランクを越える神獣へと進化していて―― こうして、無名のテイマー・バーツは慕ってくれる可愛い弟子や懐いている神獣たちとともにさまざまな国家絡みのトラブルを解決していき、気づけば国家の重要ポストの候補にまで名を連ねるが、当人は「勘弁してくれ」と困惑気味。そんなバーツは今日も王都のはずれにある運河のほとりに建てられた小屋を拠点に畑をしたり釣りをしたり、今日ものんびり暮らしつつ、弟子たちからの依頼をこなすのだった。

聖女召喚されて『お前なんか聖女じゃない』って断罪されているけど、そんなことよりこの国が私を召喚したせいで滅びそうなのがこわい

金田のん
恋愛
自室で普通にお茶をしていたら、聖女召喚されました。 私と一緒に聖女召喚されたのは、若くてかわいい女の子。 勝手に召喚しといて「平凡顔の年増」とかいう王族の暴言はこの際、置いておこう。 なぜなら、この国・・・・私を召喚したせいで・・・・いまにも滅びそうだから・・・・・。 ※小説家になろうさんにも投稿しています。

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

ある少年の体調不良について

雨水林檎
BL
皆に好かれるいつもにこやかな少年新島陽(にいじまはる)と幼馴染で親友の薬師寺優巳(やくしじまさみ)。高校に入学してしばらく陽は風邪をひいたことをきっかけにひどく体調を崩して行く……。 BLもしくはブロマンス小説。 体調不良描写があります。

兄たちが弟を可愛がりすぎです

クロユキ
BL
俺が風邪で寝ていた目が覚めたら異世界!? メイド、王子って、俺も王子!? おっと、俺の自己紹介忘れてた!俺の、名前は坂田春人高校二年、別世界にウィル王子の身体に入っていたんだ!兄王子に振り回されて、俺大丈夫か?! 涙脆く可愛い系に弱い春人の兄王子達に振り回され護衛騎士に迫って慌てていっもハラハラドキドキたまにはバカな事を言ったりとしている主人公春人の話を楽しんでくれたら嬉しいです。 1日の話しが長い物語です。 誤字脱字には気をつけてはいますが、余り気にしないよ~と言う方がいましたら嬉しいです。

処理中です...