異世界日帰り漫遊記!

御結頂戴

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港地区ディナテイル、情けは人のためならず編

16.種族の違いは認識の違い

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   ◆


 ……いやな事に気が付いたのだが、薬を飲まなければ、俺は回復過多状態で翌日は元気に起きられるんだよな。腰の痛みも無く、だるさも無く、元気全開で。

 まあそれはブラックの気が体内に残ってるって事なので、俺の身体としては正常な状態ではないのだが、アイツにご無体を働かれても動かなきゃ行けない場合は仕方がないと思うんだ。特に、連日研修などに通わなければいけない時は、薬を飲んで休む……なんて事は絶対に出来ないわけだし。

 でも、こんなことしてたらアドニスに怒られるよなあ……。正直に手紙に書かなきゃいけないみたいだし、これを書いたら確実にお叱りのお手紙が帰ってきそう。というか次に会うのが怖い。ああいう美形眼鏡は怒ると怖いんだ。俺は知ってるんだ。

 しかしこの状況じゃしょうがないじゃないか。俺が悪いわけじゃないんだもの!
 俺だって早く普通の体に戻りたいが、ブラックがワケの分からないタイミングで発情して来るんだから、これくらいの特典が無いとやっていけないよ。
 文句が有るならブラックに言ってほしいと思う。ともかく俺はリーブ君の為にも客船で客室係をしなければいけないのだ。失敗しないためにもちゃんと仕事を覚えておかないと……ってあれっ。俺もしかして社畜? シャチク生活始まってる?

 やだな、まだ社会に出ても居ないのに、こんな無理するコトになるなんて……俺は将来適当に楽できるような会社に入りたいのに……。

「ツカサ、考え込んでどうした。何かケンシューで分からない事があったのか?」
「えっ!? あ、何でもない。大丈夫だよクロウ」

 そう言って見上げるのは、俺を迎えに来てくれたクロウだ。
 昨日一昨日とトルベールの商館で「従者用の服」を選んでいたクロウの格好は、既にいつもの服装とは違っていて、なんだか別人のようだった。

 ボサボサでボリュームのある髪の中に隠した熊耳は、民族調の細かい刺繍が目を引くバンダナで固定してあり、人族の耳が有るように見せかけるためか、耳の辺りのモミアゲにはダイヤ型の宝石が吊るされたイヤリングを片方つけている。
 白いシャツの上にはこれまた細かい刺繍の分厚い生地で作られたチョッキを着て、ズボンはいつもの下膨れのアラビアンなズボンではなくスラックスのようなスッキリとした感じのズボンを穿いていた。

 一応、どこかの少数民族のように見せるため、腰には布を巻いていたりと徹底的に部族っぽくみせているので、確かにこれだと「あやしい従僕」に見える。
 しかし……こうしてみると、クロウってホントに足長いしタッパもあるんだなぁ……。
 肩幅広いし胸板も熱そうだし、なんかシャツの腕がむきむきしてるし。どっかの漫画に出て来ましたと言われても「居そう」とか思っちゃうパワータイプな異国の従者だ。
 トルベールもやるなぁ……。

「やはり何か心配事でもあるのか」

 おっといけない、考え込んだ後ですぐクロウの服装をまじまじと見返してしまってたせいで、更に心配されてしまった。
 申し訳ないと謝りつつ、俺は首を振った。

「いや、ちょっと考えごとしてただけ……にしても、クロウってば上手くバケたよなあ。その格好だと本当に忠義の従者って感じするよ」

 そう言いながら、一緒に商館への帰り道を歩く相手に言うと、クロウは複雑そうな顔を少しだけして口をヘの字に曲げる。

「ツカサに褒めて貰えて嬉しいが、従者の変装をするのは好きではないな……。己が弱くなったような気持ちになる」
「従者って、俺の認識じゃ格闘とかバリバリ出来ちゃう有能な人みたいなモンなんだけど……獣人だとそうでもないの?」

 どうもクロウは誰かの下に就いて命令を聞く立場がお気に召さないようだ。
 どうしてなのかと問うと、相手は難しそうな顔で答えた。

「オレの国……ベーマスでは、従者は基本的に主人より弱い。強者が弱者を従えて安寧を与えるのが普通の考えだ。だから、オレは自分が従者だと言う事をあまり人に見せたくはない。群れの二番手として長に従うのとは少し違う感覚なのだ」
「なるほど……そういう考えだと、確かに侮られるみたいでイヤかもなあ」

 主人が従者より強いって、それ従者の意味はあるんか。と思ったが、良く考えたら、この世界の獣人族は俺の常識とはだいぶ異なる部分もあるので、そういう弱肉強食を極めた世界でもおかしくないのかも知れない。
 まあ、漫画でも騎士団のトップが何かしらで一番強いみたいなのは定番だしな。
 クロウの故郷である獣人の国・ベーマスは、徹底的な実力主義なのだろう。

 しかし、今回は従者でも我慢して貰わないとな。
 目立ちたくないっていうんなら、獣人の国では良い顔をされないだろう従者に変装するってのも有効な手段だろうし。
 そんな俺の考えが透けたのか、クロウは目に見えてしょぼんと肩を落とした。

「ツカサは……オレが従者にぴったりに見えるか……?」

 あ、これ、ちょっと拗ねてるヤツだ。
 俺の眼には見えない熊耳がぺそ……っとかなってるのが見えるぞ。
 目がおかしいのは自覚しているが、そんな風にショボンとされたらいつもみたいに熊耳が見えてしまうんだから仕方ない。キュンとしちゃうのもパブロフの犬なのだ。
 決してオッサン自体にキュンとしてるワケじゃないんだからな、俺は。いや誰に主張してるんだかわからんが。

 ともかく、自分の嫌な事を我慢して受け入れているのは偉いので、俺はクロウの頭――――を天下の往来で撫でるのはちょっと憚られたので、ポンポンと労わるように広い背中を叩いてニコッと笑って見せた。

「クロウは間違いなく強いんだから、変装なんて関係ないって。それにさ、俺の世界じゃあ、普段は敢えて正体を隠していざって時に強さを見せるヤツもカッコいいって言われてるんだぜ。だからクロウも今は力を隠してる設定ってことにしようよ」

 変装しなきゃ行けないのは確かなんだし、他人に力を見せないと言う部分では同じだろう。仮面をつけた色んなヒーローも大体は普段普通の人に見せてるんだし、俺の世界じゃそういう人は今も昔も大人気だからな。
 従者だけどめっちゃ強いっていうのは、逆に強みなんだ。クロウの国では理解しがたいかもしれないけど、少なくとも俺はそういうのも格好いいなと思っている。

 そう説明すると、クロウは急に機嫌がよくなったのか雰囲気を明るくした。
 ……バンダナの中でモコモコと何か動いているが、熊耳が出てこないだろうか。
 なんか今から心配になって来たな。

「ムゥ……! ツカサがそう言うのなら、俺は今から隠者を装ったひーろーというヤツになるのだな! ツカサが格好いいと思うものになれて嬉しいぞ」
「クロウ、耳っ、耳出ちゃうっ」
「おっと危ない……すまん、ツカサに褒められてつい舞い上がってしまったぞ」

 今笑ったカラスがもう泣いたと思ってしまうが、まあクロウも色々我慢しているんだから、このくらいは許容範囲内だろう。というか熊耳をギュッと固定させてるつらさを考えれば、充分褒めて良いくらいだ。
 しかも、これから二週間くらい、ずっとこの格好で従者のふりをしてなきゃいけないワケだし……。

 うーん……なんかクロウばっかり大変なことになってる気がして来た。
 俺だってずっと耳をギュッと固定されてたら絶対イヤになりそうだし……これは、今から頑張って貰えるようにご褒美をあげないといけないんじゃなかろうか。

「うーむ……そうだ、クロウおやつほしくないか?」
「むっ、おやつ……! ツカサ、けんしゅーとやらで何か作ったのか?」
「ふふふ、今日は研修でおやつを貰ったんだよ。これだ!」

 そう言ってバッグから取り出したのは、ほのかに黄色くて丸い果実を蜂蜜で漬けた甘い甘い瓶詰めだ。何を隠そう、これは今日船のコックさん達に貰ったのだ。

 今日の研修は、料理を覚えるために船で出てくるお高い料理を一通り試食させて貰うというもので、俺の良い食べっぷりがコックさん達にウケたのか、それとも素直に褒めたことが嬉しかったのか、コックさん達がお土産をくれたのだ。

 そのご褒美と言うのが、南国の島で取れるという【マルムーサ】という果実を蜂蜜に漬けた保存食で、お貴族様のおやつにするという逸品だ。南国でならそれほど珍しくは無いと言うことで、豪華に一瓶貰ってしまった。
 あとでロクと他三人を加えて全員で食べようと思っていたのだが、これほど大量に漬けてあるんだから少しくらいは苦労にご褒美をあげても良いよな。

 そういうと、クロウは嬉しそうな雰囲気を無表情でめいっぱい醸し出した。たぶん、熊耳と熊尻尾はバッタンバッタンと動いている事だろう。
 それを想像すると笑みが込み上げてしまうが、ぐっと堪えて俺はクロウより一歩先へ足を進めた。

「さ、早く帰ろうぜ! ロクとブラックが待ってるだろうし」
「うむっ」

 さきほどのションボリはどこへやらで、クロウはフンフンと鼻息荒く足を踏み出す。
 そういうところが大人げなくて、つい笑ってしまうんだよなと微笑ましく思いつつ、俺はクロウの後を追った。











※だいぶ遅れました(;´Д`)すみませぬ…
 今漫画にかかりきりなので、前から修正めっちゃたまってます!!
 六月~七月ちょいちょいやって行きますので、よろしくお願いします…!
 
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