異世界日帰り漫遊記!

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港地区ディナテイル、情けは人のためならず編

12.二度ある事は三度も四度もある

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 港湾地区ディナテイルの商館が並ぶ大通りには、当然ながら商館だけでなく色々な事務所や宿屋、ちゃんとしたレストランっぽいところもある。

 ここにある食事処は俺達が普段行くような酒場とは違って、俺の世界で言うところの高級レストランのような感じだ。そんなレストランに、何故だか俺とリーブ君は集合させられていた。美少年のリーブ君はともかく、俺には分不相応な場所なのに。

「…………ここで、何やるんだろうね?」

 リーブ君に言うが、彼はノホホンとして暢気に「さ~、なんでしょうね」と言う。
 借金返済のための仕事だし、ミスも出来ないんじゃなかろうかと戦々恐々している俺とは違い、すごい胆力だ。漫画とかでよく居る細身の金髪美少年なのに、これほどの胆力をしているとはさすがこの世界の住人だ……。

 いや、細腕と言ってもこの世界の人達は俺の世界の人より確実に腕力が強いから、細腕の女の人にも俺は負けちゃうんだけどな……情けない……。

 なんとも言えない気持ちになりつつ開店前のレストランで待っていると、店の奥から見知らぬ女性がやってきた。女性。えっ、綺麗なおねーさんっ!?

「いやあすまないね、急に来て貰っちゃって……。本当に人が居なくて困ってたところだったんだ。引き受けてくれて助かったよ」

 そう言いながら俺とリーブ君に近付いて来たのは、飾り気のないシンプルな赤色のドレスに身を包んだ女性。年頃はたぶん俺の母さんより上っぽいけど、鎖骨と豊満な胸の谷間を見せるセクシーすぎるドレスが似合い過ぎてて、熟女属性の無い俺でもドキドキしてしまう。大胆なスリットが入った赤いシンプルなドレスからは、網タイツのお、お、おみ足が……。い、いやイカンイカン。
 えっちな格好に興奮している場合ではないのだ。気をしっかりもたねば。

 いくら相手が美しくてボインバインなおばさまと言えど、俺はリーブ君の為に借金を返済するお仕事をしなければならないのだ。浮かれていてはいけない……っ・
 と、思っていた所に、美しいおばさまが俺の顔を覗き込んできた。

 あーっ、やめてくださいっ、丸っこくて愛嬌のある萌黄色の目で俺を見ないで下さいドキドキしてしまいますからーっ!

「ほお……君はメスだね? ディッキンゲンの話では、成人していると聞いたが……リーブと変わらないくらいの体型なんて凄く珍しい……うん、いいね。君みたいな子も居てくれればとても助かるよ」

 あっ、このおばさまは俺をメスだって見抜いた。
 ってことは……少なくとも手練れな人ってことなのかな。まあでも、見た目からしてそんな感じだよな……やっぱり経験豊富な人には見破られちゃうんだなあ。

「へー、お兄さんってメスだったんだ……まあでも、確かに言われてみれば……」
「り、リーブ君……」

 そんなマジマジと見て来ないでくれえ。
 俺だってメスとか言われるのは未だに違和感が有るんだから。

 思わず視線を避けるように身を捩ってしまうと、おばさまは朗らかに笑った。

「おや君も知らなかったのかい。ははは、まだまだ青いね。大人になれば君にも一目で分かるようになるさ。……ともかく、二人には期待しているよ。ああでも、初めての君達に難しい仕事はさせないから安心してくれ」

 中性的な喋り方のおばさまは、そう言って優しく俺達の肩を叩いてくれる。
 思わずキュンとしてしまったが必死に心を抑えて俺は頷いた。う、うう、慈雨泉山でアグネスさんと別れたあとはずっと男だらけだったから、ついつい反応してしまうう。

 ああでも、セクシーなおばさまのお名前はなんて言うんだろう。
 【桃乳香】の所有者である小太りのおじさんをディッキンゲンと親しげに言っていたので、その口ぶりからして彼女はあのおじさんと仲が良いんだろうけど……豪華商船の関係者ということは、位の高い人かもしれないし……俺から名前を聞いても良いんだろうか。そう思って悩んでいると、彼女は察してくれたのか自己紹介してくれた。

「ああ、すまなかったね。雇い主の名前も知らされないのでは、仕事も不安だろう。私は商船【サービニア号】の共同支配人が一人、クレスタリア・ハルマイザーだ。主に、船の人事と宴に関することを司っている。二人ともよろしく頼むよ」

 そう言って、俺達のような従業員(予定)にも握手をしてくれるクレスタリアさん。
 「気軽にクレスと呼んでくれ」とも言われて、その口調も相まって俺は思わず赤面を禁じ得なかった。ああっ、女性に耐性が無い自分が憎いっ。

「じゃあクレスさま、僕達は何をすればいいんですか?」

 リーブ君、金髪緑眼キラキラ美少年なのに本当に物怖じしないな……。
 その胆力が有るからグイグイ行けたのかなと思っていると、クレス様は「良い質問だね」とニッコリ笑って人差し指を立てた。

「なに、簡単なことさ。まずリーブ君は、お客様のテーブルへ料理を運んでくれ。君は容姿も美しいし何より一般的な髪色だからね。それに接客も物怖じしなさそうだし、上手くすればお客様からおこづかいを貰えるかもしれないよ」
「ホントですか!」

 にわかに顔を輝かせるリーブ君。うーむやっぱりそう言う所は十歳だな。
 体格は俺とほぼ変わらなくても、無邪気で素直な所は一緒か……俺もリーブ君の事は年上として守れるようにならなくては……。

「そしてツカサ君。残念なことなのだが、今回は黒髪を忌避するお客様も乗船する事になっている……気立てが良さそうな君を貴族の接客に回せないのは残念だが……もしよければ、客室に食事や注文された品物を運ぶ仕事をしてくれないか?」
「あっ……そういう仕事もあるんですか?」
「うむ。ただ、客室で食事をとるお客様は、大体が事情のある客だ。少し難しい仕事になるかも知れないが……キミの優しさを見込んで、頼みたい」

 なるほど、要するに気難しいお客さんだったりするかもしれないって事か。
 そうだよな……さっきトルベールが話してたけど、最高級の旅券を持っている人はパーティーに出たり、専用の食堂で食事しないといけないみたいだし……それをパス出来るような人って事はかなり色々事情があるって事になるよな。

 そう考えると、俺には荷が重いのではないかと思ったが……クレス様が俺に対して手を合わせてくれているんだから、やらないわけにはいかない。
 自分から言い出した事なんだし、仕事をくれるのならやるしかないよな。

「分かりました、俺にどこまで出来るか分かりませんが……とにかくやってみます!」

 任せて下さいと胸を叩いて見せると、クレス様は分かりやすく顔を輝かせて再度俺の手を取ると何度もぶんぶんと振った。

「ありがとう、本当にありがとう……! 実はこっちの仕事をやってくれる子が本当に見つからなくてね……これで私の首も繋がったよ」
「そ、そんな大げさな……」
「本当のことさ。可愛らしいツカサ君に客室係をやって貰えるなんて、百人力だ! よーし、そうとなったら、早速制服を支給しよう!」

 へへへ、き、綺麗なおばさまにそんなに感謝して貰えるなんて照れるなぁ。
 嬉しくてついニヨニヨしていると、クレス様はお店の奥から高級そうな感じの平たい箱を二つ持って来た。どうやらこれに制服が入っているらしい。
 どういうものなのだろうと思い、リーブ君と一緒に箱のふたを開いた。
 と、そこには……

「ゲッ」
「ええ? 僕男なんだけど、女性用の制服着るんですか?」

 俺がカエルみたいな声を出したのと同時に、リーブ君がまたもや直球で言う。
 そう。そうなのだ。俺達が開けた箱に入っていた制服は……白いエプロンドレスが眩しい、黒を基調とした詰襟半袖のメイド服だったのだ……。

「可愛い子は基本的に女性服だよ。男性服は露出が少ないからね」
「なんで足とか手とか出すんですかー。メスが着るならまだしも、スースーして気持ち悪いですよスカートなんてぇ」
「そこが難しいところでねえ。両性同じように露出が有る女性服で喜ぶ人の方が多いんだよ。まあ私も可愛い顔立ちの子の露出が多いのは嫌いじゃないしね」
「うーん、大人の考える事はよくわかんないなぁ」

 その意見には全く同意ですリーブ君。
 つーか可愛い子が女性服なら、俺は男性服でも良いのでは。

「あの……じゃあ俺は、男性服の方が……」
「何言ってるんだい、君みたいな子こそこの服を着ないと! 客室留まりのお客様は気難しい方が多いんだから、少しでも相手が動揺する色気を出さなきゃ! ね!」

 何故力説するんですかクレス様。
 もしかして……クレス様って、オスなのだろうか……。いやでもオスでもこんな風な美熟女おばさまになら……!
 って、いやいやいや、何を考えてるんだ俺は。いかん、女性と話すと毎回頭の中がピンクになってしまう……冷静になるんだ俺。

「ともかく……制服と体格が合わない場合もあるから、ちゃんと着てみて、大丈夫かどうか確かめてみてくれ。幸いここは我々が経営している店の一つだ。制服は様々な大きさを揃えて保管してあるからな。それから研修をしよう」
「はぁーい。……お兄さん、着替えよっか。制服っていうならしょーがないし」
「そ、そうだね……」

 ……リーブ君は、メイド服に対してなんとも思っていないようだ。
 しかし、ここまで素直だと……俺がなんだか大人げないみたいじゃないか。

 やっぱこの世界じゃ女装を恥ずかしがってる俺の方がおかしいのかな。ああでも、普通に俺に女装とか似合わないと思うんですけど。
 何度かやらされてるが、その度に鏡で似合わねえと思い直してるんですけど!

 クレス様は可愛いとか言ってくれてるけど、ドンビキされないといいなあ……。

 そう考えて、何故か手放しで俺の事を褒めてくれるブラックの事が頭に浮かび……俺は妙に恥ずかしくなり、必死に頭を振ったのだった。












 
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