異世界日帰り漫遊記!

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慈雨泉山アーグネス、雨音に啼く石の唄編

21.天才の発想(?)

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   ◆



 後にゼリーもどきシャーベットを食べながら聞いた話だが、どうやらブラックとクロウは二人とも違う理由で森を彷徨っていたらしい。

 らしい、というのは、俺が前後不覚からまだ完全に復活できず、ブラックの膝の上でボケーッとしながら聞いたからだ。なので詳しい所はほぼ覚えていない。まあ要点は抑えていると思うから、勘弁して欲しいと思う。

 つーか聞けなくたって仕方ないんだからな。どんだけ絞られたと思ってんだ。
 俺もわからんけど、とにかくヤバかった。

 外なのにワケわかんなくなってて、本当に意識が飛んでたんだぞ。
 そこから復帰しての話し合いなんだから、難しい内容が理解出来なくたって許して欲しいと思う。もう正直ガクガクだったんだって。

 しかもワケわかんなくなってるってのに、ブラックが俺の顔をゴシゴシ拭うわ物凄いキスしてくるわで正直三途の川がほんのり見えたんだからな。別の意味で天国にイくところだったんだからな!?

 そんなヘロヘロの状態なのを良いことに、ブラックはクロウを宝剣でぶった切ろうとするし踏みつけようとするし……いやもう説明するだけで疲れる。勘弁してくれ。

 ……ゴホン。
 ともかく、俺がやっとボヤけつつも意識を取り戻したので、夕飯などを済ませ、今の状態になっているんだが……話が終わった今もブラックの膝の上に拘束されたままなのは何故だろうな。
 まあ考えるとまた頭が沸騰しそうなので置いておく。

 えーと……なんだったっけ。
 ああそうだ、二人は森を彷徨ってたけど、実はブラックは違ったって話か。
 俺がアグネスさんと話している間、二人は別々の理由で森を彷徨っていたのだ。

 クロウの場合は、普通にアグネスさんの術中にハマっていたらしい。
 というのも、獣人は基本的に優れた五感で周囲を探るので、それ以外の探し方をあまり知らない。なので、アグネスさんが操る雨の力のせいで逆に前後不覚に陥り迷ってしまっていたのである。

 まあ……獣人族って鼻をクンクンするだけで色々解っちゃうんだもんな。
 そもそも彼らは曜術が使えなくて、モンスターと同じように何らかの特殊能力が有るくらいで、曜術を使えるクロウが特別なんだ。
 だから獣人族が人族よりも優れた感覚に頼ってしまうのは仕方が無い。
 大体それで不自由はなかったワケだし、むしろ優位に立てたワケだしな。

 ……それゆえ、クロウは術にまんまとハマってしまったのだ。

 アグネスさんの雨を操る術は、彼女の意識や気のようなものを含んだ雨を降らせる妖精独特の特殊な【幻惑術】らしく、その範囲の中では【索敵】や追跡などが出来なくなるんだとか。それに加え、方向感覚も狂い迷い続けてしまうんだって。

 当然ながら、これだけの大規模な術は妖精でも滅多に使えない術なのだそうな。
 だからブラック達が油断してしまっていたのも仕方が無い。

 人族にも出来ない芸当だが、数百年以上生きてたっぷりと水の曜気を浴び続けている凄い妖精のアグネスさんになら可能だったんだよな。
 しかも、この世界では魔族と違う自然から生まれる妖精(元素妖精とも呼ばれる)は、滅多にお目に掛かれないワケだし……。

 だからクロウは五感を完全に塞がれてしまい、雨に惑わされて森の中をぐるぐると彷徨い歩いていたのだ。

 まあ元々雨の日はハナが鈍くなるって言ってたもんな。
 獣人族には効果抜群の術だったようだ。
 それを考えると申し訳ない気持ちでいっぱいだが、俺の背後で太腿を好き放題に揉んでいるこのオッサンは別である。

 おいコラ揉むな。
 人がうまく動けない状態なのをいいことに好き放題しやがって。

「イデデ、ごめんごめんツカサ君。抓らないで~」

 頭の上で何か言ってるが、ゴメンと言うなら再度すぐ揉むんじゃねえ。
 謝って一秒も経たないのに内腿まで張って来るこのオッサンくさい手はなんだ。

 ブラックの野郎、調子に乗りやがって……でもコイツは紛うことなき玄人冒険者なんだよなあ……はぁ……。でもムカつく。
 なんでムカつくかって、コイツはアグネスさんの術をすぐに看破していたからだ。

 ……クロウを探しに出たはずのブラックは、森の中に入った時から何か異様な敵意のような物を感じていたらしい。だもんで、お得意の炎の曜術で水の曜気を散らし、水気を避けながらしっかりと方向を確認して森を探索していたんだと。

 どうも、限定解除級……とは行かずとも、一級の曜術師だと、大妖精の高位の術も破ってしまえるらしい。特に、相克の属性だとガードも可能なのだそうで……。
 だからブラックは炎を纏いながら水の曜術を軽々と弾き、惑わされる事も無く探していたようで……クロウではなく、よからぬことをしているアグネスさんを。

 …………そう。
 ブラックは、自分を罠にハメた彼女を退治するために森を彷徨っていたのだ。
 ああ本当にアグネスさんと鉢合わせしなくて良かった。

 今は、俺の話を聞いて多少納得してくれたみたいだが……早く出発しないと、いつアグネスさんに迷惑をかけるかわからん。
 そらやられたことはムカつくだろうけど、退治は無いだろ退治は。アグネスさんは、俺の体を心配してやってしまったワケだしさ。それに危ない事もしなかったし……。

「つーか、結局アンタらがサカり過ぎるからアグネスさんが勘違いしたんだろ!?」

 そもそもの原因は、慈雨街道に来てからほぼ毎日オッサン二人のブツを握らされているからだろ。そうでなければ俺もあんな事にはなってなかったぞ。
 この事を度外視してアグネスさんを罰するのはイカン、と、顔を上げてセクハラ三昧のオッサンの顔を見やるが、相手は心外だと言わんばかりに顔を歪める。

「ええ~!? 酷いよぉっ、ツカサ君だって僕がお願いしたら僕の勃起ペニスを優しくシコシコしてくれてたじゃないか! ツカサ君だって悪いんだからね!?」
「お前らが強引に頷かせるからだろうがああああ」

 そらアンタらが苦しいなら仕方ないししますよ、俺だって非が無いわけじゃない……らしいし。でもそれは二人が節操を持っていてくれてたら、もっと少ない回数で済んだはずだろう。いくらえっちな事が好きだからって、そ、そもそも外であんな……。

「あ……! う、うへへ……ツカサ君のぷにぷにの股間がちょっと温かくなったよぉ。もしかして、ここでシた色んなセックスを思い出して興奮しちゃったぁ?」
「ばっ……ん、んなわけないだろおバカ!」
「また勃起するのか? オレが食うぞ、六回絞ったがまだ食える」
「クロウまで!!」

 だから頼むから話の腰をスケベな方向に折り曲げるのはやめてください。
 あと俺から何回絞ったとかいう報告はいらない。マジでいらない。

 そして今日は文字通り精も根も尽き果ててるので勘弁して……。

「あはは、冗談冗談。まあツカサ君が良いなら何度でもセックスしちゃうけど……」
「マジで今日は寝かせて……薬も飲みたいし……」

 そう言うと、ブラックは少し真面目な顔をする。
 急に態度が変わったなと少し驚くと、相手は俺を安心させるように笑った。

「今日はホントに我慢するから安心してよ。……僕だって、ツカサ君と愛し合いたいんであって、支配したいワケじゃないんだからさ」
「ぶ……ブラック……」

 思わず名前を呼ぶと、相手は目を細めて俺の額を優しく撫でて来た。

「体のこと、正直に話してくれて良かったよ。このまま好き放題にツカサ君を滅茶苦茶にしてたら、取り返しのつない事になる所だった。……ごめんねツカサ君……君は、僕の大事な唯一無二の恋人で婚約者なのに、この街道でなら誰にも邪魔されないからって浮かれちゃって……」
「う……うう……」

 いつもなら、強引に迫って来てもおかしくないのに……そんな、こ……恋人っぽい事を至近距離で言われたら、どう返事して良いのか分からなくなる。
 指輪だって貰ったし、恋人、だし、こ、こんにゃ……婚約者、なのに、いつまで経ってもブラックに見つめられると変にドキドキしてしまって、自分が恥ずかしい。

 でも、仕方ないじゃん。慣れないんだよいつまで経っても。
 綺麗な菫色の瞳が俺をぼんやり映してて、そのせいで自分がどんな情けない顔でいるのか薄ら解ってしまいそうになるのが居た堪れないんだ。
 それに、か、顔がやっぱ美形なせいで、真剣に見つめられると、俺がドキドキしてるのまで見透かされてるんじゃないかって思えて来て、余計に恥ずかしくなってしまって今すぐ逃げ出したくなるんだよ。

 だけど、ブラックにぎゅって抱き締められてると、女々しいけど……素直に嬉しいと思う自分も居て。ブラックの「好き」が伝わって来るので、胸がいっぱいになって。
 だ、だから恥ずかしいんだけど……でも、今だって大人っぽくて優しい言葉を相手から向けられたらもう怒りも収まってしまい……う、ううう……。

「早く薬を飲んで、効き目を試さなくっちゃね。ツカサ君の体は、僕にとっても大事な体なんだから」
「う……ぅ……ん…………」

 わーもー大事な体とか言うのやめろって、か、顔が熱くて痛いんだって!
 なんでそう膝に抱っこして至近距離になってる時にそんな事言うかな。
 クロウだって真向いでこっち見てるのに、そ、そんな歯の浮くような、大事だとか僕の唯一無二とか……っ。

「あっ、そうだ! 薬の効き目がハッキリ解るかどうか確かめる間は、中出ししなきゃ良いんじゃないかな!? だってホラ、精液って一番気が籠ってるわけだし!」
「…………え?」

 急になに言ってんのこのオッサン。
 なに……薬の効き目がハッキリするまでは、何だって?
 な……中……?

「ムゥ、それは名案かもしれんな……。体液の中でも特に気が籠められている精液は、人族なら曜気を扱う性質も有って他の種族よりも量が多いだろう。それを考えると体内より外に出す方が相手を犯す気が少ないのは当然だな」
「いやあのクロウ、ナニ同意してんの」
「だろ? これならツカサ君とセックス出来るし、なんなら顔射とか色んな所にかけてツカサ君を僕の精液で真っ白……っ、ふふ……ふふふふふ」

 おい、なに笑ろてんねん。

 もうその発言からして嫌な予感しかしないんだけど。
 真っ白ってなに。何するつもりなんだお前は!!

「なにって、ナニだよ、恋人イチャイチャセックスに決まってるでしょ!」
「人の心を中途半端に読むなーーーー!!」

 つーかお前らは俺の為にえっちなコトは自重しますって考えはないのか!
 ないか! 今までも危ないってのに散々弄り回してきたしなコイツら!

 ああもう今さっきの発言でドキドキしちまった俺がバカみたいだ。
 いやブラックがえっちな行為を我慢出来るとは思ってないけどさ、でも少しの間だけでもポーッとしていた自分が憎らしい。その幻想をぶち壊すビンタしたい。

 何故にコイツらはこうもスケベに余念がないのか。
 俺だってもうちょっと慎ましく、女子に対しては紳士を貫くつもりだったのに……。

「ねっ、ツカサ君! 体調が落ち着いたら今度は外で出す訓練セックスしようねっ! 僕も頑張るけど、ツカサ君のナカが僕のペニスを大好き過ぎて最初は中々出来ないかも知れないし……でもこれもツカサ君の為だから僕我慢するよ! 体調が落ち着くまでは一緒に頑張ろうね!」
「ム、オレも協力するぞ」

 いや……うん……。
 うん……?

 何か色々間違っていると言うか、丸め込もうとしている圧力を感じるんだが、これは俺の気のせいだろうか。いや違うよな。絶対頷かせようとしてるよなコレ。
 何が何でもえっちしたいのかお前は。そうまでしてヤりたいのか。

 そら、まあ、相手が俺であると言う事を度外視すれば、いっぱいえっちしたいってのは俺も理解出来る衝動ではあるけど。
 でもな、アンタの場合回数と発想が異次元過ぎるんだよ!!
 あとさりげなく俺がアンタのペ……い、イチモツを好いてる設定にするな!!

 こ、こいつやっぱり反省してないのでは……。
 ああもう正直に話してショックを受けないか心配していた時間がバカみたいだ。
 ……そんだけ俺との関係が崩れないって信じてくれているんだろうし、それは……まあ、嬉しくはあるけど……でも限度ってもんがあんだよ!

 やっぱコイツは変態だ。アグネスさんが怒って当然なのだ。
 ああ、まさかこの会話まで外の小雨が聞き取ってやしないだろうな。
 ……そうじゃなくても明日顔を合わせるのが気まずいってのに、もうどうしよう。

 どうかアグネスさんにブラックの斜め上な思考が届いていませんように……。












 
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