異世界日帰り漫遊記!

御結頂戴

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豊穣都市ゾリオンヘリア、手を伸ばす闇に金の声編

  格差は己の物差しが決める2

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 ――――ローレンスさんが何かを言うと、すぐに朗らかな笑い声が響く。

 貴族の人達は笑い上戸のようで、ローレンスさんが何かをいう旅にニコニコして、何が楽しみだアレが良いだの実に仲が良さそうに話し合っていた。
 その間にブラックやクロウ、アドニスへの興味がそこかしこにちりばめられて、食事の時間だというのに、目の前の料理はあんまり減らない。

 いや、このお城の料理は凄く美味しいし、俺は黙々と食べたいんだけど、こういう時は目上の人と一緒のペースで食べなきゃ行けないらしいから、普段だとついガツガツ行ってしまう健康優良児の俺としては物凄くつらい。
 というか、人の分量をチラチラ見て食べるのが意外とキツいのだ。

 改めて、普段ローレンスさんが「気を楽にして~、たくさん食べていいからね~」と俺達に気を使ってくれていた事を思い知り感謝してしまうが、それはともかく。
 どれだけ気まずかろうが食事のペースが乱れようが、俺は静かにしていなければいけないのだ。……だって、俺の話題は全然ないワケだし。

 …………いや、まあ、ローレンスさんやブラック達に話題が集中するのは分かるよ。
 だって相手はこの国の王様だし、アドニスだって世界一番と謳われる薬師だ。
 それに、ブラックとクロウは静かにしてマナーよくしていたら、それだけでどこぞの超一流貴族みたいなんだもん。美形でマナー完璧で物腰柔らかとくれば、そりゃあ貴族じゃなくたってお近づきになりたいと話しかけて来る人はいるわな。

 そこってえと俺は……まあ……金髪のヅラが本当に似合ってるか怪しい変な化粧のガキだしな。旅芸人一座というどっかで聞いたような偽称も手伝ってか、貴族の皆さんは俺の事を「まあ一座の子供だろう」としか思っていないみたいだし……。

 いや、それは良いんだ。そうやって侮られるほうが動きやすいし、警戒されるよりもずっと自由度が広がる。だから、俺が注目されないのはかえってありがたいんだが。
 しかし。
 それでもやっぱり……注目されもせずポツンってのは、やっぱ寂しいワケで。

 ……自分が美形でいけめんだと自惚れてるワケじゃないんだが、そりゃ俺だって人並みに注目されたいとかチヤホヤされたいとは思うワケで、人が人気だからそれで俺は満足だと言えるほどこっちは聖人でも無いのだ。
 だからやっぱり……ちょっと落ち込んでしまう。

 俺ってば化粧してもこの程度なんだな……はぁ……可愛い女の子か美人なお姉様にいつか童貞を貰って欲しいと常々思っているが、こんなレベルで寄って来てくれる子は居るんだろうか。男も化粧する時代と言っても、モトがこれじゃあなってのもあるよなぁ。やっぱ爽やかさかな……美形でなくても爽やかさなら今からなんとか……。

「それで……普段は母子の彼が父子の役を……うーむ、女性ばかりの劇団ならば、そう言う事もよくありますが……母子がそうとは珍しいですなあ」

 ハハゴ。えーと、いつも言われるメスだのオスだのの丁寧語だかだっけ。
 シアンさんも言ってたけど、いつ聞いても不思議な言い方だよなぁ。まあ、この世界では「男の子」や「女の子」だけじゃ性別を括れないから、肉体的な男女という言い方の他に、母親になる方を「母子」父親を「父子」と言うんだっけな。

 俺やブラックは普通にオスメスと言うので、どうも古くて丁寧な言い方らしい。
 そこの感覚は俺にはちょっと分からないんだけど、フォーマルな場では俺もオスだのメスだのと言わないようにしないとな。うむ。

 …………って、今のハハゴがなんたらって、もしや俺の事か?
 なに、いつそんな話に。つーか俺メスって言われてんの? 誰が気付いた?
 ローレンスさんが言ったのかな。ハハハ、なにバラしてくれちゃってんの。

 そのまま黙っていてくれれば俺は普通に男に見られていたのに……などと思ってふと周囲を見やると――何故か、視線が急にこちらに向いているのを感じた。
 あれっ、な、なんですか急に。

「なるほどねえ……」
「確かに、この子の愛らしい顔立ちは父子ではないとは思っておりましたが……」

 あっ、今貴族のお姉さんに褒められた。俺の地獄耳はしっかり聞き取ったぞ。
 ナニコレ、まさか春が、春が来てるのか。
 俺ってばまさかの貴族のお姉さまに寵愛されちゃう!?
 いや落ち着け俺、そんなことはない、現実を見るんだ。

 浮かれた気持ちを叱咤して頭の中で自分の頬をひっぱたくが、その間にも会話はどんどん進んでいく。

「うーむ、今回の祝宴は主題と同じように一風変わっておりますなあ」
「そういえば、ハーリ地方の若者が何とかという話でしたね」

 おっと、なんだか知らない話になって来たぞ。
 沈黙を崩さず黙ったままの俺に構わず、貴族達は話を続けた。

「アランベール帝国の学術院で、最優秀学士賞を獲得したとかで……。うーむ、己の土地から学者が出たとなると、ハーリ卿は鼻が高いでしょうなあ」
「どんな自慢話を聞かされるかと思うと、少々大変ですわね」

 そう言いながらクスクスと笑う彼らは、一見すると仲が良さそうだ。
 この大陸では小国とされるアコール卿国だけど、それでも結構広いので各地方を治める貴族もそれなりにいるんだよな。

 そうなると、普通裏で暗躍するナントカっていう黒い話題が出そうなモンなんだけども……この状態だと、別に仲が悪そうには見えないな。
 でも、それは場の事を考えて今は敢えて仲良くしてるだとか、それか本心を隠して円滑な会話ってのを頑張っているだけかも知れない。

 こういう時、ブラック達ならピンと来るんだろうけどなぁ……俺には普通に仲が良い人達にしか見えないから、なんとも難しい。
 でも仲が良いに越したことはないよな。ローレンスさんだって人が争うところなんて見たくないだろうし、出来れば部下には仲良くして居て欲しいと思うだろう。

 俺に対してアマイアや黒髪の乙女の本当の姿を見せてくれたのは、そういう誰かに対する優しさの表れだと俺は思う。
 なので、俺としては貴族達のこの仲の良さは本物であってほしいんだが……。
 うーむしかし、ローレンスさんて本当人望も厚そうだよなぁ。

 なんて思っていたら、そのローレンスさんが上座で苦笑した。

「いやぁ……私の娘も修練の為にと入れてはみたものの、どうも研究などの分野には気が向かないらしくてねえ……。君達の子供や領地の子達が羨ましいよ」
「なにを仰います陛下! 姫様は一級の曜術師ではないですか」
「しかも、ギルドの判定では、限定解除級にも手が届くとのこと……」
「そうそう。それに賢王と名高い陛下の血を受け継がれて、姫は賢く美しく……それでいて剣術も並の男では敵わぬ腕前! むしろ一つ身の入らぬ物が有るという方が親しみもわくというものです」
「ええ~? そうかなぁ~……ふふふ、まあでも私の娘は本当に可愛いからねえ」

 …………ローレンスさん、意外と親ばかだな。
 まあでも自分の娘ってんならデレデレしたって仕方ないか。実際、物凄く有能で美形なお姫様みたいだし。……しかしそこまで自慢されるお姫様……ものすっっごく会ってみたかったな……剣術も上手っていうんなら姫騎士とかそういうタイプ?
 いや、意外とクール系の美女かも……あっやばい興奮して来た。

「にしても、姫が御帰還なさらないとは至極残念です」
「あの子も学術院では色々仕事が有って大変らしいからねえ。……でもまあ、年末にでも帰って来てくれるだろう。今は、ハーリの英雄を祝わないとね」

 そう言いつつ、ローレンスさんは少し寂しそうに笑う。
 ワインを優雅に口に含んでいるが、やっぱり親としては寂しい物なんだろうか。
 ……他人の親だけど、こういう姿を見ると少しだけ自分の親の事を考えてしまう。

 あっちに戻ればたった数時間の事だけど、でも俺は既に何十日もこの世界に居て、ほぼ長い旅行をしているような感じだ。そりゃホームシックにもなるけど……でも、俺はマシな方なんだよな。……学校の寮生活とかってこんな感じになるんだろうか。
 親もやっぱ寂しいモンなんだな。

「…………さて、そろそろ最後の料理かな。みな、この後はゆっくりしておくれ」

 考えている間に、ローレンスさんと貴族達の話は終わってしまったらしい。
 ブラック達を見ると、いつの間にか食事を終えていて、俺は急いでほんのわずかの残りを口に運ぶ。最後はデザートってのはどこも同じらしい。

 マナーよく食事をしながら会話って、案外難しいモンなんだなぁ……。
 はあ、なんか大人の世界って大変だ。ブラックが「貴族は面倒臭い」と常々言ってたけど、その意味が少しわかったような気がする。

 そんな事を思いつつ、俺は運ばれてきたデザートに手を付けたのだった。












※ちょっと体調が悪くて遅れました(;´Д`)モウシワケナイ…
 修正が終わったらこの一文は消えます!

 
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