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豊穣都市ゾリオンヘリア、手を伸ばす闇に金の声編
18.不可解な進化*
しおりを挟む走る前に「アドニスになるべく見えないようにすること」と「えっちな飲ませ方をしないこと」を何とかブラックに確約させて、俺は理不尽な長距離走を始めた。
……アドニスには「いや、君の体を診察するので見えないと困るんですが」とか色々と言われたが、なんとか俺が恥ずかしくないようにしてくれるらしい。
これで貸しがまた一つ増えてしまったが、もう仕方が無い。俺はそういうところを他の人に見られたくないのだ。クロウは……まあ……その、アレだが、とにかくこれ以上被害者を増やすワケにはいかない。俺を加害者にしないでくれ。
…………閑話休題。
ともかく、おっさん達には固くそう約束させて、やっとこさ走り出したのだが……俺は元から短距離走向けのタイプで、長距離はハッキリ言って得意ではない。
学校でやらされる長距離走で死にかけるレベルなのに、同じ所を、しかも結構広い庭園を、一人っきりで走らされるのはかなりつらい。
しかも十周。十周だぞ。
二三周目だとまだなんとかなったし、ブラックやクロウも「頑張れ頑張れ」と俺の事を応援してくれていたが、スタミナが切れた五週目になると「あらぁ、大丈夫?」などという、俺を心配するような哀れむような声ばっかりになって来たんだぞ。
もう最後の十周目ともなれば、声も無く心配されるだけだ。それはもう深刻に。
それは俺だってつらい、つらいがこれが俺の実力なので仕方が無いのだ。
だけど走り切らないと、あのドSのアドニスは絶対に許してくれない。途中でやめたら「はい、もう一周追加です」とか言われるに決まっている。
そんなことになるくらいなら、肺がはち切れても走るしかない。
……が、当然、根性だけで走ったら最後には倒れ込むわけで。
「はぁ゛っ、ッぁ゛っ、ゲホッ、ぇほっ、ゲホッ……!」
「まさかここまで持久力が無いとは……ツカサ君、キミという子は本当に体力も低級モンスター以下ですね……成長がまるで感じられない……」
「う゛ぐぅううっ、げほっゴホッ」
いっそ貶すように言ってくれえ。なんだその憐れむような声は。
まあ確かに今の俺はゼヒュゼヒュ言いながらレンガの地面に突っ伏してる間抜けな姿ですけど、でもマジで憐れむように驚かれると傷付くからやめて。
ああ、ツッコミを入れたいけど心臓がばくばく言ってて辛いし、息も全然できないし、肺もうまく空気が取り込めなくて喉が締まってるような気さえして来る。
久しぶりの持久走はキツすぎて、とてもじゃないが呼吸を整えられない。
こ、これは、最近アッチの世界では車で送り迎えして貰ってたせいか……そういや体育だって目につくからって体育館での運動以外は出来なかったし……。
ハッ、もしや俺の太腿がムニついてるのは太ったからなのか。
く、くそう、夏前に女子にいっそう振り向かれなくなる体型になるのは勘弁だ。
でも今はもうキツくて、それ以上考えられない。
結局俺は数分地面に突っ伏した後、ようやく息が整って体を起こした。
「ツカサ君大丈夫?」
「ムゥ、水でも持って来るか」
「だ……だい、じょうぶ……少し楽になったから……」
しゃがんで俺の顔色を窺いながら心配してくれるブラックとクロウは、何だかんだやっぱり優しい。侮られてんのはムカつくが、二人からすりゃその通りだしな。
それでも俺を励ましてくれてるんだから、仲間って言うのはやっぱりありがたい。
……が、仲間であるはずのアドニスは飴より鞭なようで。
「よし、大地の気はかなり消耗していますね。では、自然回復する前に実験を始めましょう。さあ早く。そこの中年も準備してください」
だーっ、こ、このド鬼畜サイエンティストー!!
人が呼吸停止しそうなくらい疲れてるのに、も、もう何もかも面倒臭いくらいに頭が働いてないのに、どうしてお前はそう実験になると目を輝かせるんだっ。
「ふ、ふへへ……つ、ツカサ君直接口をつけて飲みたい? それとも顔にかける?」
「嫌ならコップを持って来てやるぞツカサ」
「ゲホッ、ぉえ゛っ、ぉお゛……お、おまえ、ら……他人事だと、思ってえ゛ぇ……っ」
やっと整ってきそうになったが、途中でとんでもない事を言われて呼吸が詰まる。
しかしブラックとクロウは俺の苦しみなど関係なく立ち上がると、ボソボソと何事か話し合って「あそこ」とか「いやあっち」とか話しているようだった。
ようやく息が整って上を向いた頃には話が纏まっていたらしく、二人でうんうんと頷き合っていた。何だ、何を話してたんだ。
「おいクソ眼鏡、観察には不自由ないよな?」
「ハァ……多少は見づらいですが……ま、よしとしましょう」
「そう言うことだから……ツカサ君、いこっか」
「え……えぇ?」
どういう事だと目を丸くする俺を尻目に、オッサンは有無を言わさず俺を抱き上げ広場の隅の方へと向かっていく。移動してどうするのかと思ってたら、今度はクロウとアドニスを背にして俺を下ろした。
目の前にブラックの体があって向こう側が見えないが……こ、これってもしや。
「ほ、ほらっ、ツカサ君しゃがんで……っ」
「ひっ」
待て、待つんだ。お前、俺を地面に座らせて何する気だ。
めっちゃベルトカチャカチャ言わせて外してるやんけ、待て、それ以上や……あっ、バカ目の前で合わせの部分を解く奴があるか!
「おっ、おいブラック、待てそれ以上は……ッ」
「だっだっ大丈夫っ、し、下着はずらすだけだから……っ」
止める俺の言葉も聞かず、ブラックは走った後のような荒い息をハァハァと盛大に漏らしながら……ズボンの前を大きく寛げて、下着を下にずらした。
途端、少し時間をかけて、その……な、なんというか……ブラックの、半勃ちしたのが、ゆっくり現れ……って、んな光景見てる場合じゃないんだよ!
まさかこの状況でお前っ、な、なんかしてくる気じゃ……っ。
「あは……あ、安心して、ツカサ君……今日は見てるだけでいいから……そ、そう、そうやってペニス越しに僕を……うっ」
「さ、早速反応すんのやめろよ!」
でろんって出てきた奴が、なんかぴくぴくしてるんだけど。お、おい……目の前で他人の勃起を見てろってどういう拷問なんだよ、やめろマジでやめろ。
思わず血の気が引いてしまったが、しかしブラックは今の状況に何の興奮を感じているのか、ハァハァと息を漏らしながらデカいイチモツを握って、俺が見ているのに堂々とソレを扱きだす。
「んもぅ……ツカサ君は、今まで散々僕のペニス見て来たじゃないか……だ、だからさぁ……文句っんん……とか、言わないで、我慢して……?」
これは実験なんだよ、と言われるけども、しかし目と鼻の先でシコシコやられたら俺とて居た堪れなくなってしまうワケで。
しかもその後には更にとんでもない事が控えてるんだから、こんな反応になっても仕方ないだろう。
こんな場所で人の精液を飲めとか言われてんだぞ。もうそれからして非常にイヤな気分なんだけども、原因をハッキリさせないと俺だって困るワケで……ぐ、ぐぅう……仕方ない……こんな所をアドニスに観察されていると思うと恥ずかしくて仕方なかったが、放っておいたら何か困った事になるかも知れないからな……。アドニスに診て貰わねば……。
で、でも、だからって俺がブラックのコレを見る必要はないと思うんですが!
疲れた俺がブラックのせっ、精液を、その……せ、摂取したら、いいだけなんじゃないかって思うんですが!!
それなのに、ブラックの野郎はニヤついた顔で俺を見ながら、半勃ちの黒光りするデカブツを熱心に手で扱いて完全に勃たせようとしている。
……な、なんで。野外で一人だけそんな恥ずかしい格好をしてるのに、なんで嬉しそうなニヤけた顔してんだよ。天井から見えるガラス越しの空は良い天気なのに、外からの太陽の光できらきら光る赤い髪が見えるのに、俺を見てニヤついてるオッサンの顔も前髪も影が掛かってて何だか……変に、やらしくて。
「っ……」
「あはっ、つ、ツカサ君、顔真っ赤……っ! でもっ、ほらぁっ、ツカサくっ、が……ぼ、僕の方を……ハァッ、は……向いてくれなきゃ……は、早く射精出来ない……っ、よぉ……! ほら、ちゃ、ちゃんと……っは……見てぇ……」
「う、うぅ……」
ブラックの顔と俺の顔を隔てるように、完全に勃起したソレが目の前にある。
相手の顔を見ようと思う前に欲望の権化を突きつけられて、反射的に視線が目の前の凶悪なモノに向いてしまって。
「ぅ……な……なんで、こんな……」
そう呟いてしまうくらい、ブラックのモノは……すごく、張りつめている。
先走りのカウパーをだらだら垂らして、裏筋の動きがハッキリ見えるほど膨張したソレは、血管を浮き上がらせてひくひくと脈動している。
こんな、こんなものが目の前にあるのが、なんだか信じられない。
自分も確かに所持しているモノのはずなのに、あまりにも違い過ぎて現実的な物じゃないようにも思えてくる。なのに、顔に伝わってくるほどの熱や扱くたび耳に入ってくる水音が、現実だと訴えて来て。
その事に息を呑むと、熱に漂う独特なオスのにおいが強引に混じってきて体が反応してしまう。まるで、興奮してるみたいに。
それが恥ずかしくて、つらい。
出来るだけ相手の熱を感じたくないと思っているのに、肌も目も鼻も、どうしようもなく目の前のグロテスクな大人のモノに支配されてしまっていて、俺はもう逃げる事すら出来なかった。
あまりにも、近い。
目の前で見ているだけなのに、頬が熱くなってくる。
ブラックのモノが刺激を受けると、次々に溢れて来る液体の出口まで明確に見えて、それが他人の興奮したモノだと思えば何故か自分のほうが動揺してしまって。
俺は見てるだけなのに、ブラックのを見上げているだけなのに、こんな外みたいな場所でも関係なくオナニーしているブラックを見ていると、相手が満足そうにする顔を見るたびに顔が熱くなる気がして、泣きたくなった。
だけど、ブラックは構わず俺の目の前で手を動かし続ける。
顔なんてもう涎を垂らして愉悦に酔う獣みたいな顔になっていて、荒い息のさなかに俺の名前を呼んで来るもんだから、その……も、もういいから早くイってほしい。
ちゃんとやるから、飲むからもう見せるなっ、頼むからもう勘弁してくれ!
「あはっ、あっ、ああぁ……つ、ツカサ君の恥ずかしがる顔っ、さ、最高ぉ……!」
「もっ、バカ、早く終らせろってば!」
「んへへぇっ、そ、そんなコト言って、ツカサ君も足閉じてモジモジしてるよぉっ」
「そんなワケ……ッ」
あるか、と、反論しようとしたところで、ブラックの体が唐突に止まった。
「あっ、出るっ出るよぉツカサ君っ! 両手出してぇっ」
「ええっ!?」
なに、両手を出してどうすりゃいいの。こ、こうか?
掌を上に向けて両手をくっつけ、とりあえず手で皿を作ってみる。
するとブラックは竿を持って照準を合わせるように少しイチモツを下げると――――唐突に、音を立てそうなくらいの量の精液を掌にぶちまけやがった。
「ぎゃあああああ!!」
「はっ……はふ……あふぅう……」
「ちょっ、まっ、おいっまだ出るのかよ! 溢れるバカッ、溢れるってば!!」
「ん~、待って、あ、あぅ…………ん……。んー……」
ひえぇ……目の前で扱かれて、残りまでしっかりと手に……。
う、うわ……ちょっとこれは初めての経験過ぎて気が遠くなるんだけど……あの、人の精液を手で受け止めるってあの……正直ちょっとショックが……。
「はー、スッキリした。ツカサ君のえっちな顔ってやっぱりいっぱい出ちゃうね!」
「ねっ、じゃねええええよ! どうすんだよこれ!」
「そりゃツカサ君が飲むに決まってるじゃないか。本当なら、口に直接注ぎ込んでも良かったんだよ? 今からそうする?」
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「ツカサ君、早くしないと気が放出され切ってしまいますよ」
「あーもーはいはい! やりゃいいんでしょもー!!」
くそう、アドニスめ、ブラックの体で隠れてるのにきちんと見てやがった。
いやでも恥ずかしいと言うのならブラックの方が恥ずかしいだろうし、元はと言えばコイツは俺の体の異常を解き明かすために協力してくれてるって立場なんだから、俺が嫌がってたら失礼なんだよな……。
そもそも、俺が逆の立場だったら、こうも簡単に野外で勃起できるはずが無い。
他人が見ている前で緊張もせずすぐに出せるってのは、それだけ肝が据わってないと出来ない事なんだ。つーかコレを二度もやれってのは流石に可哀想。
俺なら絶対無理なんだから、そこは俺も我慢しないと。
が、我慢……我慢して……。
「じゃ…じゃあ、飲むぞ……」
「早くしてください」
「わーったよもう!!」
「ツカサ君頑張って!」
ああ、こういう時のブラックの気楽な声が救いに思えるなんてな。酷い状況だ。
掌にたっぷりと満ちた白濁液を見ると、一気にテンションが下がってしまうけど……ええいっ、ブラックが壁になって誰にも見えないんだから、やるしかない!
今ほど相手のデカい体に感謝した事は無いな、と思いつつ、俺は覚悟を決めるように唾をゴクリと飲み込み、掌を口へと傾けた。
「うぐっ……」
満ち満ちていた液体が、傾いた掌からゆっくりと口へ動く。
濃さが解るくらいの粘度だったが、今更拒否するワケにもいかない。
オドオドするよりも、こういうのは一気に行った方が良いだろう。そう思った俺は、喉を曝しながら一気に掌の液体を口に入れた。
「ん゛ぐっ、う゛……ッ、ごっ……」
「ツカサ君がんばれっ、がんばれっ」
ブラックの声が聞こえるが、さすがに口の中にドロッと入って来た生温い独特の味がする物体をすぐに飲み下す事は難しい。
自然と喉が拒否してしまって、どんどん流れ込んでくる液体で口の中がいっぱいになりかけたが、なんとか零さないようにと俺は必死に口を閉じた。
その様子を見ていたブラックは、俺を補助しようとしてなのか、下顎と頭をグッと手で押さえて、強引に飲ませようとして来る。
「ん゛ん゛ッ、ぐっ、ん゛ぅう゛う゛……っ!」
「ほ、ほぉらツカサ君っ、の、の、飲まないと駄目だよぉっ」
「~~~~~~ッ……!」
いつもなら苦しい感覚も次第に薄れて行くのに、ずっと口の中にあるせいなのか、少しもすっきりしない。なのに、吐き出す事も出来ず口を強引に閉じられ、もう鼻に逆流するんじゃないかというぐらい我慢出来なくなった俺は、なんとか、濃ゆ過ぎる精液を必死に飲み下した。
「う゛ぅ゛、ぐ……ッ」
どろりとしてねばつく感覚が喉を通って行く。
先に唾液を飲み込んでしまったせいか酷く生々しく感じられて、俺は思わず自分の口を閉じるブラックの手を掴んで暴れてしまったが……やっとのことで、口の中の物を全部飲み下した。
はぁっ、は、はぁあ……の、喉がイガイガする……もうヤだ……。
「あはぁ……つ、ツカサ君のその顔ずるい……っ、も、もっかい勃っちゃいそ……」
「ば、ばがぁ……っ」
もうちゃんと喋れもしねえ。水、早く水が飲みたいぃい。
やっと手を離してくれたブラックから逃げるように動こうとすると、たちはだかるように何者かの足が視界を塞いでくる。見上げると、そこにはアドニスがいた。
「はいはい、水の前に診察ですよ。しばらくじっとしててください」
「み、みず……」
「他の曜気が入るとややこしくなるので、水はおあずけです」
「ぐえぇ……」
勘弁してくれ、このイガイガ状態で診察とか軽く拷問なんだが。
頼むから早くと顔を歪めた俺に、アドニスは呆れたように眉を上げた。
「まったく……何度も性行為をしているだろうに、本当に君は未熟ですねえ」
「そこが良いんじゃないか」
「少年に常に発情している変態は黙っててください」
こらブラック、カジュアルに「殺すぞ」とか言わない。
というか本来ならこの状況ですぐに勃起出来る方がおかしいんだからな。
お前も精力絶倫なことに少し自覚を持てよなマジで。いつか死ぬぞ、俺が。
そんな風にブラックを窘めつつ、イガイガちくちくする不快な喉を持て余したまま診察を受けていた俺だったのだが……俺の胸に手を置いて数分黙っていたアドニスが軽く頷くのを見て、おやと片眉を上げた。
「な゛、なに、わかっだ?」
「まだ調子がおかしいなら、喋らなくていいですから。……ええ、そうですね。私が予想した通り、確かに君の中の通常の気の流れが増加しています。今日ここに来た時の流れと比べても増加していますから、この中年の精気を摂取する行為によって君が相手の気を獲得すると言うのは確かな事でしょう」
「そうなのか」
これにはさすがに驚いたのか、クロウも意外そうな声を漏らす。
けれども、それに合わせる事無く、アドニスは冷静に「ですが」と付け加えた。
「そう……なんですが、どうも不可解な点が多いですね。通常、オスから摂取した“気”は、メスが受容する事無く体内を流れて放出されるんですが……しかし君の場合は、オスの気が体内で融合している。認識できる程度にオスの気が残されたままで。これは……なんとも妙なことになってますね……人に気を与える能力が関係しているのか……それとも【グリモア】と関係があるのか」
「ふ、ふづうは……違うの……?」
アドニスは「当たり前」の事のように言うもんだから、俺には少々理解しづらい。
それに気付いたのか、アドニスは説明してくれた。
――この世界のメスは“器”が小さいから、他人の曜気を受け入れる隙間が無い。
だから、オスに注いで貰った曜気を拒絶する事なく子供の方へと受け流して、両親の力を受け継がせることが出来る……らしいのだが、それはあくまでも自分の“気”に融合させて流すのではなく、オスの気をまるごと流す、という事らしい。
いうなれば、水に油を流し込むようなもので、決して交わる事は無いらしい。
そうして自然と体外へ放出されていくらしいのだが……俺の場合は、その体外へと流れて行くはずの気がほぼ融合してしまっているのだという。
俺には詳しい事情はよく分からないが、人の“気”が混ざった曜気は、本来他人には受け入れられないのだという。だから、人に曜気を受け渡せないのだそうで。
……でも、俺は【黒曜の使者】なので、他人に気を渡すことが出来る。
そして、ブラックのような【グリモア】しか俺を殺せない。彼らに殺されなければ、いくら死んでも再生する、神様に近いデタラメな存在。だからこそ相手の気を「相手の気の特性のままで」受け入れる事が出来るのでは。
――――アドニスの説明では、そういうことだった。
「しかし、君達の間だけでは説明が不十分かもしれません。君が急にそういう体質になった事も理由が不明ですし、まだ色々調べないといけませんね」
問診もまだ十分ではありませんし。
アドニスはそう呟く。
「…………結局、詳しい事はわかんなかったってことか?」
ブラックが呆れたようにそう言うが、アドニスはただ頷くだけだ。
「とりあえず、練習を続けましょう。……君に関しては、わからない事が多過ぎる。相手の気を取り込めることが、他にどんな症状を生むのかも未知数ですからね」
その言葉は、何故かとても重いもののような気がした。
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