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豊穣都市ゾリオンヘリア、手を伸ばす闇に金の声編
16.刹那の悪夢を忘れる衝撃
しおりを挟む――――なんだか、見覚えのある場所だ。
壁全体に荘厳な文様が描かれた、円形の部屋。天井など存在しないとでも言うように、上部に行くにつれて小さくなる壁は部屋全体を覆っている。継ぎ目一つないその壁は見ているだけで言い知れぬ不安を煽って来る。
どこかで明かりが灯っているようだが、どことなく薄暗い。
記憶の中にあるぼんやりとした“ここに似た風景”よりも、ここはどうも殺風景だ。何のための場所なんだろう。どういう部屋なのか一見しただけでは解らなかった。
そう思いつつ部屋を見ている自分の口から、妙な言葉が漏れる。
『…………本当に、眠っているみたい』
なんだこのか細くて少しクールな声は。もしかして、女性の声か?
でも、自分が発しているのにそんな感じがしない。確かに自分から出て来た声なのに、不思議な事にそうではないようだった。
でも、違和感が無い。
そんな感覚に浸っていると、横から凛々しい男の声が聞こえてきた。
『そんなに気に病まなくて良い。敵対者に情けをかけることは、私達を信じてくれた人々への侮辱だ。今は、封じる事だけを考えるんだ』
『……そうね。これでようやく、全てが終わるんだもの』
何を封じるんだろう。
視界を下に落とすと、先の方に部屋の中央部が有って、床には円形の魔法陣のような細かい紋様が刻まれていた。だけど、その中央には何か……黒い、影のような物が安置されているみたいだ。形からして……長い髪の、女性だろうか。
シルエットでしか判断が出来ないが、床に広がるウェーブがかった長い髪や胸元の膨らみ、体の形などで簡単に性別は判断がついた。
だけど、生きてるような感じがしない。確かに立体としてそこに安置されていて、ただの影ではない事が分かるんだけど……どうも、現実的な物に思えなかった。
例えるなら、ゲームで言うバグ。
現実世界でありえない、光すら反射しない真っ暗な影が、立体を持ってその場所に置いてある……という風にしか見えなかった。
……なんだか、怖い。
そう思ったけど、俺の意思など関係なく話は進んでいく。
『ここまでしても、この女は生きている。悪魔の力を持った恐ろしい女だ。早く封印して、この国の安寧を取り戻さなければならない』
『…………うん、そうだね。じゃあ、今から封印するよ』
クールな声だが、口調は隣の男の声よりも幾分か軽い。
そう思っていると視界が動いて、目の前に細い両手が現れた。
その片腕には、光る何かが有る。何色かの色に染まった半透明の“小さな石”を繋ぎ合わせて作る、ブレスレットのようなもの。だがこれは石ではないし、宝石などでもない。俺は、この装飾具の事を知っている。
『レーナ……すまないな。お前も辛い時に……』
『……気にしないで。いつまでも悲しんではいられないもの。それに……今後の貴方を支えるのが、あの子と私の約束だから。これも、あの子がやり残した私の仕事』
振り返ったそこには、金色に煌めく髪と青い瞳を持った美形の男。
男の俺ですら一瞬言葉に詰まってしまうほどの美しさだったが、相手は悲しそうな苦しそうな表情で顔を歪めると、小さな声で「すまない」と呟いていた。
……なんだか、とても憔悴しているみたいだ。
だけど、それは俺が見る事の出来ない女性も同じなのかも知れない。
彼女も多分、とてもつらいんだろう。だって、静かな声だけど悲しそうだ。きっと今は、心を押し殺しているのかも知れない。そう思うと、なんだか切なかった。
『…………』
彼女が再び両手を伸ばして、黒い影へと掌を向ける。
と、影が安置されていた円形の紋様に沿って緑色の光が溢れ出し、徐々にそれらが浮き上がって光の壁のように伸び始めた。
まるで、影を光で覆い尽くそうとしているみたいだ。
そう思った途端、光の壁から急に木の枝が伸びて来て、様々な枝が影にぐるぐると巻き付き始めた。そうして、徐々に空中へと引き上げて行く。
影は、ほぼ木の枝に取り込まれてしまい、もうその色も見えない。すると今度は枝がどんどん影の形を取り込み球になっていった。
これは、なんだ。何が起こっているんだ。
分からないけど、酷く気分が悪い。吐きそうだ。
しかし、手は動かない。なにも分からない。自分がどうしているのかも。
どうしよう。何かおかしい気がする。でも、何が。
そう思って――――。
――――――ゆる……さ、ない……。
…………え?
なんだ、この声は。どうしたんだろう、どうしてこんな声が。
わからないけど妙に心がざわざわする。
――――レイ、ナ……ゆる、さない……許さない……許さない……!!
声がハッキリして来る。そう感じた刹那。
俺は自分でも気が付かない内に視界を旋回させて、いつのまにか別の視界に移動していた。こちらへ掌を向ける人が見える視界へ。
誰のものか判らない……掌を向ける黒髪の少女と収縮する木の球を見る視界に。
…………すると、声が。声が……聞こえた。
さっきの、苦しそうな声。憎しみが重なり合って憎悪を増した、声が。
――――許さない……。
――――そうよ、許さない……私は、私も、許さない……。
――――悲しい……憎い……どうして、どうして裏切られた……
――――レイナ……許さない……この国も、王子も、全てを許さない……
――――呪う……全てを、この世界の全てを呪う……世界……? そう、世界を、この国……この国を呪う……共に呪う……全てを、全てを…………!!
混乱しているように言葉を繰り返し、何度も何度も呪うという声。
その苦しさに息が詰まるが、俺には手も足も無い。動かせる体も無く、ただ視界が、顔を暗く隠す黒髪の乙女と王子……それに、小さくなる木の球を見る事しか。
『…………これでようやく、全てが終わる』
長く美しい黒髪の乙女が、小さく整った口を動かす。
だが、それに挑発されたかのように、徐々に緑色の光へと飲まれていく木の球からどす黒い影が湧き出て来た。
黒く伸び、うねる髪を靡かせた…………女性の人影のような、黒いものが。
『レイ……ナ……ゆる、さない……滅ぼす……この国を……全てを……!』
まだうら若い女の子の声。大人の女性の声、混ざってよくわからない。
だが、木の球が完全な緑色の光の球になるにつれて影は掠れたように消えて行き――部屋全体も、影を掻き消すように光に飲まれていった。
ああ、全て消える。見えなくなる。
そう思って、最後に黒い髪の乙女を見やると――――
『バイバイ、もう二度と蘇って来ないでね? グズ子……――――』
……彼女の唇は、笑ったように歪んでいた。
「…………ぐ、ず子……?」
「え、クズ粉? 粉が欲しいのツカサ君」
なに、なんだって。粉がなんだって。
ちょっとまて、何が起こったのか解らんぞ。
ええと、ココはどこだ。なんか天井があるのは分かる。じゃあ、ここは、いや、ちょっと待てよ目の前に何か赤くてうねうねした物が……いやコレ髪の毛じゃん。
そう言えば背中が柔らかい。気持ちが良い。これはベッドか。
ということは……ここは、寝室?
「はへ……」
「ムゥ、ようやく気が付いたのかツカサ。体は大丈夫か」
「おいコラ寄ってくんなクソ熊ッ」
目の前で顔が歪んだのが解る。ああそうか、これはブラックの顔だ。
今更気が付いた俺の顔を何かが掴んで、強引に横へ向ける。そこには、心配そうな雰囲気の無表情でこちらを見つめて来るクロウがいた。
そこで、ようやく俺は部屋に戻って来たのだと理解する。
どうやら夢のせいで頭がボケてしまっていたようだが、しかしアレも非常にリアルな夢だったので、混同しても仕方が無い。
たまにこういう変にリアルな夢を見るけど、いっつも現実と夢が曖昧になるぐらいバッチリな解像度なので、個人的にはもうちょっと夢っぽくして欲しい……。それにしても今回の夢は何と言うか……お、オバケな感じで怖かったな……。
あと、何か最後に黒髪の乙女っぽい人が何か妙なことを……。
「んも~ツカサくぅん! そんな熊公に構ってないで僕の事構ってよぉ!」
そう言いながら懐いて来るブラックは、俺の上半身をムリヤリに起き上がらせて腕で拘束して来た。逃がすまいと言う意志を感じるが、今までの事を段々と思い出して来た俺としては構う選択肢など考えつかない。
だ、だって、このオッサンは風呂場でさんざんに俺を……っ。
「ぐうぅう離せスケベオヤジぃいいい! なんであんな事するんだよ、俺達は大事な劇の練習中なんだぞ!? それなのにお前ってヤツは疲れるようなコトを俺に強要して……っ。頭の中の台詞が全部飛んだらどーすんだ!!」
「だってぇ、ずぅううっと我慢してたんだもんっ。二人っきりの時ならセックスして良いって約束したんだもん! だから仕方ないじゃないかぁ」
「俺は約束してねええええ!!」
何を言ってるんだ、と思わず怒鳴るが、腰の奥に鈍痛が走って思わず停止する。
だが、不思議な事に……何故か、症状がいつもより軽い気がした。
なんだこれ、どういうことだ。回復薬でも使ったのか?
違和感に眉根を寄せていると、ブラックは急にニヤニヤしながらキスをして来た。
わっ、やめろバカ。ヒゲがチクチクするんだって!
「ふへへ……でも楽でしょ? 僕のおかげだよ、ツカサ君」
「な、なんだと……いや、でも、確かにいつもよりは楽……。なんか、特別な薬とか使ってくれたのか?」
あの時、俺が気を失う前まで確実に二回はヤられてた気がするんだが、それ以上にズコバコやられてたと考えるとしたら、こんなに軽い症状は考えられない。
いつもなら起き上がるのもキツいのに、全然苦しくないし……むしろ、腹が減ったくらいの元気さが有る。前は食欲なかったりしたのにな。
こんな楽な薬が有るのなら、早く使っておけばよかった。
そう思うくらいだったので、素直にブラックを見上げて薬の事を聞くと……相手は、調子に乗ったような顔でニタリと笑うと、鼻の下を伸ばしやがった。
「ふへへぇ……そ、それはねえっ、僕の愛の力だよぉ~! 僕とツカサ君の愛あるセックスが、ツカサ君の体を癒したんだよ!」
「…………教える気がないんだな?」
さすがにその冗談は笑えないぞ、と冷ややかな目を送るが、ブラックは俺が怒っている事なんて気にもせず、またもや頬に吸い付いて来る。
わっ、バカッ、そ、そんな事したって俺は許さないんだからな!?
そんな、そっ……ええいもう鬱陶しい、離れんかいっ!!
「ああんツカサ君のいじわるぅ」
「う、る、さ、い……っ!! とにかく、薬で元気にしたんだろ!?」
「違うよぉ。……まあ、あのクソ眼鏡が何か飲ませたのはそうだけど」
「……アドニスに診せたのか……俺を……」
ブラックに何度もヤられまくったせいで、なんとも直視しがたい状態になっていたであろう、ぐちゃぐちゃ状態の俺を。
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「あ……そう言えばそうだったな……」
俺ってば、前にブラックとえっちして気絶できないことが怖くなってたんだっけ。
だから最近は体の変化が不安でえっちしてなかったんだったな……。いや、そんな状態の俺に何をさせとんねんお前は。はったおすぞ。
まあ忘れてた俺も俺なんですけどね!
「睨むツカサ君も可愛いなぁ……こ、興奮しちゃう」
「だーっとれい! そんでどうしたんだよ!」
「一応、それらしい見解は得たけど……でもねツカサ君、あいつこう言うんだよ」
「は?」
何を言ったんだよ、と片眉を吊り上げて問い返すと、ブラックは再度いやらしげな笑みでニタニタと笑って見せた。
「それがさぁ……予測は立てられるけど、実証して見ないと解らないってぇ」
「実証、って……」
まて、何か嫌な予感がするぞ。
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「あああああああああああ!!」
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「んふふ……可愛いねえツカサ君……いっぱい見せてやろうねっ」
「ばかー!!」
アドニスの事を考えると、もう罵倒の言葉すら思い浮かばない。
ちくしょうっ、どうしてこうなるんだ!
劇もあるのに、も、もう、えっちとか、もう……どうすりゃいいんだよー!!
→
※むろん冗談です。スケベな事はしますが
(ブラックの性格的に挿入まではムリ)
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