異世界日帰り漫遊記!

御結頂戴

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豊穣都市ゾリオンヘリア、手を伸ばす闇に金の声編

  何気ない積み重ね2

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「えへへ……ツカサ君、背中流しあいっこしようね」
「良いけど……それオッサンが言う台詞せりふかなぁ……」

 二人で並んで脱衣所で服を脱ぎつつ、くだらない話をする。
 毎度ながらブラックの言う事はオッサンらしくないなぁと思ってしまうが、しかし別に違和感があるというワケでもない。

 最初に会った時は、こんな甘えたオッサンとは思わなかったんだけども……まあ、二度目に遭遇した時からこんな感じだったので、慣れてしまったのかも知れない。
 いや、あの頃はもうちょっと大人だったような気もするが、今更いまさらな話か。

 ともかく、こういう時のブラックはスケベよりも甘えたい気持ちの方が強いみたいだから、俺としては多少オッサンらしくなかろうがコッチのが良いと思う。
 それにブラックはこっちの方が楽みたいだし、ムリさせて大人らしくして貰うよりブラックが楽しそうな方が俺としても……。

 ご、ゴホン。
 まあ、ヘンと言えばヘンだけど、これが普通だからそれでいいのだ。
 今日は珍しくジロジロ見て来ようともしないし、普通に風呂に入れるかな。
 カゴに脱いだ上着をポイポイ入れていると、ズボンのベルトを外しているブラックが不意に問いかけて来た。

「ところでツカサ君、ちゃんと演技出来そうだった?」
「えっ。演技? ……うーん……正直まだ全然自信ない、かも……」

 俺もズボンに手を掛けつつ、今日遭遇した苦労話を話して聞かせると、ブラックはほおをポリポリといて首をかしげた。

「うーん……抱き支える場面ねえ……。あのクソ眼鏡の事だから何か考えてるのかと思ったけど、特に何も考えてなかったのか。これだから頭でっかちのクソ学者はイヤになるんだまったく……」
「いやいや、アイツも人族だらけの世界は浅いんだから仕方ないんじゃないかなぁ。人とあんまり関わらなかったから、つい妖精の尺度で考えちゃうのかも」
「まあそりゃ、妖精って魔族の方も普通の妖精も魂だけの存在みたいなモンだから、重さなんて関係ないけどさ……。アイツの場合人族の血が入ってるんだから、自分の体重ぐらい気付かないかな? フツー……」

 ブツブツと言っているが、まあでも一応は納得してくれたらしい。
 悪態あくたいばっかりついてるけど、ブラックは歩く百科事典かってレベルで物知りだし、ある程度ていど人族以外の種族の事も知ってるから、そこまでつっこまないんだろうな。

 どんな種族にも得手不得手や常識はあるもんだし、俺の世界でだってお辞儀で挨拶あいさつするんじゃなくて手をにぎって挨拶あいさつする国もあるんだ。ブラックは恐らくそう言う事も知っているんだろう。そういや獣人の事も詳しいしなぁ。

 うーむ、基礎の知識量と長年の冒険者としての見識……見習いたい……。

 でも俺がソレを見に付けるまでに何年かかるだろうな……なんて遠い目をしていると、隣に居たブラックがズボンごと下着をずり下げて脱いだ。

「………………」

 …………相変わらず……その……デカいな……通常でも……。
 なんでこう、神様ってのは“ソコ”にも差を作ってしまったんだろうか……。

 シラフの時にあらためてブラックのを見やると、自分の持ち物を思って心が沈んでしまうが、これは年齢の違いというか体格の違いなので仕方ない。
 俺は成長期だし、大人になればブラックぐらいには成れるはず……いや、ちょっと待てよ。良く考えたらこのデカさは嫌だな……ただでさえ最近なんでか太腿ふとももんとこがキツくなってズボンが穿きづらいってのに、これでチンコもブラックみたいな規格外になったら新しいズボンになるじゃねーか。

 デカいと歩きにくいって言うし、尾井川達にからかわれるのもヤだ。
 ただでさえ「お前よく昔のズボン穿けるな」て言われていぶかしがられてんのに……。
 こう……ほどほど、ほどほどに立派なイチモツをだな……。

「ツカサ君、脱がないの?」
「わっ、そ、そうだなっ、待て待てすぐ脱ぐっ」

 まさか「お前のブツをまじまじと見てました」なんて言えるはずもなく、俺はあわてながらズボンと下着を脱ぎタオルを取った。
 すぐに下へ巻こうかと思ったのだが、その手をつかまれる。

「二人っきりだし、別に隠さなくてもいいでしょ? さ、行こ行こっ」
「え、う……うん……」

 そう言われると、全裸なんて今更いまさらな気もするけど……まあブラックが気にしてないなら良いか。ここで俺が変な事を言えば、すぐスケベにつなげるかも知れないし。
 ソレはさすがにゴメンだと思いつつ、俺はブラックと一緒に風呂場に入った。

「おお、やっぱり良いなぁ源泉かけ流し……」

 ローレンスさんが俺達に貸してくれたお風呂は、大浴場と言うにはせまいが俺ら三人が入っても充分じゅうぶんに広い。いわゆる家族風呂みたいな感じかな。
 でも、壁には綺麗な花の模様が描かれているし、タイルも薄桃色で目に優しい。
 風呂桶ふろおけは、なんだか外国の古い噴水ふんすいみたいだが、お湯がつねに湧き出る仕様みたいで綺麗な薄緑のお湯をなみなみとたたえていた。

「ん~、ヨモギみたいなにおいで良い感じ」

 ペタペタと近寄って湯船を見る俺に、ブラックが背後から声を掛けて来る。

「たぶん薬湯なんだろうね。自然にわき出ているモノじゃなくて、曜術か何かのちからで薬になる植物を混ぜ合わせてしたお湯なんだろう」
「へ~……でも曜具ようぐとかじゃないんだ?」
「そもそも、常冬とこふゆの国以外で風呂に頻繁ひんぱんに入るのなんて、貴族かそれ以上のヤツらだからねえ。花とか泡を散らす事は有っても基本ものは考えないんだよ。まずお湯が貴重だから、お湯そのままの方が感動するみたいだね」

 確か前に、そんな話を聞いたような気がする。
 常冬とこふゆの国に住む人達や貴族以外は基本的に行水ぎょうずいで済ませるし、そう言えば風呂付きの宿はどこもグレードが高くてお値段もかなりのモノだったな。でも、ああいう場所では混ぜ物はしてなかった。

 薬湯なんてまさに宿のウリになりそうなのに、そう言う事をしないってことは……そもそも「お湯に入る」という事が特別な行為だから、あまり物を混ぜると言う発想に行かないんだろうな。
 それか、色が付いた水ってこの世界の人には毒の沼かと思われそうとか。

 色付きだと、王宮の風呂でもなけりゃ警戒して入ってくれないのかも知れない。
 そう考えたら、曜具を使うほど「混ぜ湯」がない理由も分かるな。

「やっぱ……色が付いてると、毒が入ってるとか思っちゃうの?」
「何も知らなければそう思うかもね。実際、普通の泥水以外は何のモンスターの体液で染まってるか分かったモンじゃないって認識だから。……ってワケで、こういった事に関する曜具は無いのさ」
「なるほど……」

 モンスターの体液、そういうのもあるのか。
 日常的にモンスターが出てくる世界だと、そりゃ色味のある水面は警戒するよな。
 しかも自分じゃなくて他人が沸かしたモンなんて、何が入ってるかわからないし。

 そういうモノを想起させるから避けるってのは当然だし、だったら曜具も需要ないよな。魔導具に限らず、道具ってのは日常的な行動をより便利にするために作られるモンなんだから。
 まあ、何事も例外はあるだろうが。

 俺が内心で付け加えた言葉を補足するように、ブラックが言葉を継いだ。

「……とはいえ、薬湯に関しては、温泉が湧き出る所にある一部の街や村なんかが、何とかして作ってるみたいだけどね」
「じゃあこういうお湯自体も珍しいのか……」

 そう言えば、ゴシキ温泉郷でもこういうのは見た事が無かった気がする。
 俺の異世界での初友達であるマグナって奴も、湯沸かし器みたいな曜具を作ってたし……お風呂に入るとは言っても、まだこういう方法は一般化してないようだ。

 少しビジネスチャンスを感じたが、物を売るつっても今の状況じゃ難しいな。
 そもそも今はお城に釘づけだし……いやでも路銀をかせぐのは需要だし、何でも人に用意して貰うってのも何かなぁ。

「ツカサ君、体冷えちゃうよぉ。お風呂入ろう……?」
「わ゛ッ」

 ぎゃあっ、な、なんか背後からもしゃっとして生温かい感触がっ。
 何だこれは、うわっ、なんか横から赤いの……ってブラックの髪か。つーかコレ、もしかして抱き着かれてるのでは。じゃあこの、背中にぴったりくっついて、妙にっとしてるのって……ぶ、ブラックの……。

「……あは。ツカサ君、なに赤くなっちゃってるの~? 僕達恋人同士で婚約者なんだから……別に恥ずかしがることないでしょ……?」
「う……その……それは、そうだけど……」

 でも、なんていうか……こ、こうやって素肌で密着されると生々しいっていうか、そういう雰囲気じゃないから気になるっていうか……その……。
 ……い、いや、あの、俺が気にするから行けないんだな、こっ、恋人だし、ここここんにゃくしゃだからも、もういい加減こう言うのにも慣れないとなっ!!

 だ、大丈夫、大丈夫。これはスキンシップだ。スケベなアレじゃない……ってか、スケベとか考えてる時点で俺の方が気にしすぎてるのでは。
 ちっ、違う、そうじゃないっ、俺はそう言うんじゃないんだ!
 ああもうソレもコレも全部ブラック達が変なタイミングで発情するからああああ!

「んもー、ドギマギしてないで早く背中流しあいっこしようよぉ」
「そ、そう、だな」

 ぐぎぎぎ……じ、自分の声が上擦うわずっててにくらしい。
 なんでこう格好がつかないかな俺ってヤツは……。

「じゃあ一緒に……」
「ぎゃあっ!? ちょっ、す、すっぱだかの時にかかげるのやめろよ!」
「良いじゃない~。ほらほら、洗い場に行こうねえ」
「うぅううう」

 両腕にがっちりと拘束されて体が浮く。でも、いつもと違って今日はお互いに裸で素肌と素肌のぶつかりあいだ。
 そのせいで、みぞおちだか何だか分からない所に食い込む太い腕の感触をがっつり感じてしまい、変にたまれなくなった。
 同じ種族の腕のはずなのに、なんか硬い。硬いしさわさわしてる。
 それに、その……肌の感触とか筋肉とか……。

「っ……ぅ、うう……」
「……ふふ……。ね、ツカサ君最初は僕から洗ってくれる?」
「う、うん……」

 頷くと、体が離れて背中がちょっと冷たくなる。
 自分の吐息が勝手に熱くなっているような気がしたが、これは湿気があるからで、俺が何か変な感じになったわけじゃない、はず……。

「ツカサ君?」
「あ、うん、じゃあその……背中よりまず頭からな」
「えー? 昨日も洗ったしもう別にいいよぉ」

 俺が背後に移動すると、ブラックは嫌そうに振り向いて来る。
 元々、風呂が好きだという性格でもないからか、相手としては頻繁ひんぱんに体を洗うのが面倒臭いらしい。だが俺と風呂に入っている以上は、俺のルールに従って貰うぞ。

 湯船に入る前にはキッチリ体のあかを落とすのだ。そうでないと湯船に失礼!
 ここは一歩も引く者かと重い、俺は眉を引き締めてブラックに説教した。

「四の五の言わないっ! 風呂を掃除するのって大変だし、そもそもココは人の家の風呂なんだぞ。出来るだけ綺麗に使うのがマナーってもんだろうが! それに、人に会う以上は身だしなみは大切なんだからなっ。解ったら観念せい!」
「ぶー……。じゃあ、髪もツカサ君が洗ってくれる……?」
「アンタが洗うと適当になりそうだから、もちろんそのつもりだけど」

 そう言うと、急にブラックは機嫌が良さそうな顔をしてニンマリと笑う。
 俺が痛くないよう丁寧ていねいに髪をあつかってやるからか、ブラックは俺が自分の髪をさわるのは結構好きみたいで、こういう時は無条件で機嫌がよくなる。

 面倒ではあるけど、素直に従ってくれるので悪い気はしない。
 それに……ブラックの髪って、リボンを解いたら男らしいうねった髪が広がるし、その姿を見るのは……まあ、何か自分がキモい気もするけど、結構好きだし。
 歴戦の勇者って感じのもさもさした髪を触れるって、何気に無い事だろうしなぁ。

 …………別に、ブラックの髪をいじるのが好きとかではないからな。

「えへへ……ツカサ君早く早くぅ」
「わかったわかった、リボン取るからな」

 そういえば、コイツまた髪を縛ったまま風呂に入ったな。
 もしや昨日も髪を洗わなかったのでは……いやまあ良いか。

 リボンが濡れないように乾いた場所へ置き、俺はブラックのかたまった赤い髪を丁寧ていねいに背中に広げた。痛くないように手できながらほぐして、それからお湯を掛けてやる。ブラックの髪はうねうねしててクセッ毛だけど、髪質はそれなりに柔らかだし、ちゃんと手入れしてやれば指通りもなめらかになるんだよな。

 だから、俺としても手入れするのは結構楽しくも有る。

「ふぅ……やっぱりツカサ君に髪をいて貰うのって気持ち良いねえ……」
「んふふ……まあな、俺は神の手ってヤツよ」

 められると良い気分になるモンで、俺はブラックの髪を整え終えるとお湯を手桶ておけんで、何度か頭を湿しめらせた。
 そうして、軽石のような楕円形の形の何かで泡を立てる。

 この淡いミルク色の石は、その名も【泡立石あわだていし】というモノらしく、この世界で言う石鹸せっけんの一種だ。貴族様に人気な植物の石鹸である【サボンの実】が育てられない地域は、こすると泡が立ち汚れた物を洗うのに役立つこの石が使われるのだと言う。

 緑ゆたかなこの場所で何故にいしの石鹸……とは思ったが、とりあえず手で泡立てて、その泡を鮮やかな赤い髪へと馴染ませていく。
 充分な量になったら、爪を立てないように指の腹でさらに泡立てながら、ブラックの髪を洗ってやった。

「んあ~~~……き、気持ちいぃ……」
「ふっふっふ、そうだろうそうだろう。どうだ俺の超絶指テクは」

 何を言っているか分からないとは思うけど、俺が満足なのでそれで良いのだ。
 ブラックの頭を頭皮マッサージするかのごとくわしゃわしゃとやって、ゆっくりとお湯で頭をすすいでやる。多少は頭を洗っていたのか、それほど汚れも無くブラックの赤い髪は本来の目を見張る輝きを取り戻した。

 うーむ……ほんとブラックの赤い髪って凄い色だよな……。
 この世界でも赤髪の人はたくさんいるけど、ブラックほど綺麗な色をした赤い髪は見た事が無い。普段は汚れてくすんでるんだけど、この髪色は勿体もったいないよな。
 ほんと、毎日風呂に入ってくれたらみんなにも綺麗だろって自慢できるんだけど。

「…………うん、いや、俺が何で自慢するんだ」
「え? なに? おしまい?」
「あっ、おうっ、終わりだ」
「じゃあ今度は僕が髪を洗ってあげる! いつもツカサ君にして貰ってばっかだし」
「マジ? まあでも……たまにはいいか」

 考えてみれば、俺が髪を洗って貰う事って無かったな。
 子供みたいにしてほしいワケじゃないけど、ブラックが上機嫌で「そうしたい」と言うのなら、乗ってやるのも良いだろう。
 髪を洗って貰うのも、ガキん時以来だし……たまにはいいかもな。

「じゃあ今度はツカサ君が椅子に座ってねっ。よーし、泡立ててあげるよ~」
「はいはい」

 いつになくやる気な背後の声に思わず笑ってしまうが、ブラックは楽しげな様子をくずすことなく、笑いながらお湯をんでいるようだった。
 いきなり脳天から薬湯を掛けられたのは少しびっくりしたが、まあこういうことは不器用だからなコイツ……大目に見てやろう。

 そんな事を考えつつ目を閉じていると、俺の髪の中に太い指が入って来た。

「じゃあ、洗っちゃうね」

 くしゅくしゅと泡を立てる音がして、何本もの指がゆっくりと動き出す。

「っ…………」

 本当に久しぶりだからだろうか。
 他人に触られる事の無い髪の根本や頭を触られると、変にゾクゾクしてしまう。
 もしかして、ブラックもこういう妙な感覚を味わっていたんだろうか。

 そう思うと……何故か体の奥までぞわっとして、無意識に足を閉じてしまった。












※なんかちょっと次回ソープっぽい?(雰囲気だけですが)かも
 攻めがねちねちそう言う事するの苦手な方はご注意をば…
 
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