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豊穣都市ゾリオンヘリア、手を伸ばす闇に金の声編
8.どうせやるならちゃんとしろ
しおりを挟む「ふひっ、つ、ツカサ君安心してよぉっ、ヘンなことはしないからぁ」
「フヒフヒ言うとる時点で下心丸出しなんですけど!?」
しかもそんなえげつない顔をしておいて「変な事はしない」なんて、百歩譲っても信用出来ない。こういう時のブラックはやばい。俺は知ってるんだ。
だが、ブラックは俺に乗り上げたまま顔を近付けて来る。
思わず相手の胸を押して退かせようと手を動かしたが――――珍しくヒゲのないオッサンの顔は、指が二三本入るほどの隙間をあけて止まった。
「ホントだよ。だから、僕に体を任せてツカサ君」
「う゛……」
たったの数時間前に剃られたせいか、ブラックの顔にはヒゲの芽生えは未だない。無いけど、でも、何だかそれが居た堪れなくて俺は逃げ出したくなった。
自分でも変だとは思うんだけど、その、なんというか……無精髭だらけのブラックが普通の姿だから、こうもスッキリされると変に意識しちゃうと言うか……。
…………だ、だって……ムカつくけど、ブラックだってヒゲを剃ったら普通に格好良い顔だし、昼間の衣装はともかくそんな顔で近付かれたら誰だって、ど、ドキドキしても仕方ないって言うか、お、俺は別にそういうんじゃないからな!? いやでもいつもと違う相手に至近距離に来られたらそうなるだろ! なっ! そうだよな!!
「あは……ツカサ君たらヒゲ剃った僕の顔、そんなに好きなの?」
「ん゛ぐ!?」
「だって顔真っ赤だし、目だって全然合わせてくれないじゃないか。ふっ、ふへへ……そんなに僕のこと好きぃ? う、うふっ、嬉しいよぉツカサくぅ~ん」
何を考えているのか、俺が照れていると思ったらしい。
違う、俺は別にそんな事を思ってたんじゃなくて、なんかこう、居た堪れなかったんだってばっ。……しかし、そう反論しようにも、口をゆるゆるに歪めたと思ったらすぐに窄めて近付いて来る露骨なオッサンには馬耳東風だった。
俺を逃がさないように体で跨いで、肩を掴みながらタコみたいな顔で顔を寄せて、あんまりにもあんまりな格好だというのに気にせずにき、キスを……っ。
「わああっ、なっ、懐いて来るなっ、キスだめっダメだってっ!」
「良いじゃないか二人きりなんだし。それに今日はツカサ君から恋人キスしてくれてないでしょ~? だから、練習する前にイチャイチャしようよぉ。ねっ、ねぇツカサくぅうん。 ほら、ちゅ~っ」
「も、ばか、バカあぁあっ!」
熱も冷めるようなあんまりな顔のはずなのに、近付いて来られるとドキドキして、胸がぎゅっとなって、声が出て来なくなる。
ブラックはブラックだし、中身も行動も普段と変わりがないはずなのに。それでも何故だか何も言えなくなってしまって、俺はもどかしさに足でシーツを掻きながら、ブラックの顔を必死に手で押し退けようとしてしまった。
そんな事をしたら、ブラックの顔のいつもと違うチクリともしない肌の感触を直で感じてしまうのに。なのに、俺は自分から地雷を踏んでしまい、顔がカンカンに痛くなるほど熱を上げてしまった。
「んん~、ツカサ君ちゅっちゅ」
「す、するまえにくちでい゛うにゃあ゛っ」
「ツカサ君……んふっ、ふぅうっ、駄目だよぉそんな可愛い声だしたら……が、我慢が出来なくなっちゃうっ……」
「う゛、ぃ……い゛ぅ……っ!」
何を我慢出来なくなるんだ、と言いたいのに、もう声も出ない。そんな俺を嘲笑うかのように、ブラックは俺の手を引っ付けたままで、指の間から唇を突き出して頬にひっついてきた。
「っ……!」
少しカサついたブラックのが、頬に触れて来る。
わざとらしく突き出た唇が指の間でわざとらしく動き、その結果を実感させるかのように、ブラックは俺の頬に吸い付き肌を撫でるように柔く食んでくる。その今までにないもどかしい感触を覚えて、背筋がぞわぞわと動いた。
ねっとりした動きが、はずかしい。
ブラックがやってるのに、指の間と頬で感じる動きは全く別の「やらしい何か」にしか思えなくて、何故か俺の方が我慢出来なくなる。
なんでこうなるんだと思えば、余計にお腹の奥が熱く疼くような気がして、俺は己の堪え性の無さに泣きたくなってしまった。
こ、こんな、しょーもないムードもないキスでぇえ……っ。
「あー、ごめんごめん……えへ……ツカサ君がずーっと僕の顔チラチラ見てるから、ちょっと意地悪したくなっちゃって……本当はセックスしたいけど、今日はキチンと我慢するから練習しよ? ……ね?」
「…………ほ……ほんとにしない……のか」
「しないしない。ツカサ君だって、セックスは我慢しなきゃ練習できないでしょ」
僕達よりも全然体力ないんだし。……なんて言われてしまうが、事実なので仕方が無い。言われた通り、俺はブラック達より撃たれ弱いのだ。
普通の高校生なんだから当然だが、しかしそう言われると少し悔しいな。
悔しいせいか、いつの間にか足を閉じてじんわり来ていた衝動を耐えていた自分に再び恥ずかしさが込み上げて来てしまった。
これは違うっ、い、いつもえっちな事されるから体が反射的になってただけで。
「んふふ……じゃあ練習しよっかツカサ君……まず胸の上で手を組んで」
「え……ぅ……。こ、こう……?」
急に真面目に言い出したブラックにつられて素直に手を組む。
胸の上に乗せていると、なんだか安らかな眠りにつかされるような気がして来るが、これは声を出す練習なのだと気合を入れ直して俺はブラックを見上げた。
ぐっ……や、やっぱなし。出来るだけ見ないぞ。見ないからな。
「そのまま真っ直ぐ寝ててね……。うん、ツカサ君やっぱりお腹で呼吸してないね」
「おなか?」
「腹式呼吸ってヤツだよ。お腹を動かして呼吸をする方法だね。ホントはみんな寝ている時とかに出来てるんだけど、普段生活してる時はしてないんだ。コレをやれると声の出方も違ってくる」
「そうなんだ……」
そう言えば、音楽の授業とかで口を大きく開けろとか息を吸えとか言われたな。
腹式呼吸とかも習ったような気がするけど、俺は不真面目な生徒なので呼吸法など覚えていなかったようだ。……まあ、俺としては、音楽の時間は心地いい眠気タイムだったしな……。ちゃんと授業聞けばよかった。
しかし、そこまで詳しく説明すると言うことは、ブラックも真面目に俺を鍛えようとしてくれているのだろう。今度はおふざけナシみたいだな。
まだ顔が緩めで信用出来ないが、しかしここは従おう。
俺だってお芝居を失敗したくないし、やるならきちんとやりたいからな。
ここで教えて貰えるのならありがたい。
今からは真剣にブラックの話を聞くぞ、と意気込んで相手を見上げると、ブラックは俺の意気を見とったのかウンウンと頷いて腹に手を当てて来た。
「ツカサ君は立って練習すると意識が散っちゃうから、ベッドでやる方が良い。胸が動いていない事を確認しながら、ゆっくり息を吸っておなかを膨らませてみて」
「う、うん……」
胸ってことは、俺は普段は胸で呼吸をしていたのか。
自分がどうやって空気を吸っていたかなんて、そう言えば考えもしなかったな。
当たり前のこと過ぎてどうやって呼吸をしているのかすらも気が付いてなかったが、呼吸ですら人にとっては修行の一環になるんだなぁ。
でも、漫画でも腹に力をこめる事でパワーを増す方法があるって沢山言われてるんだから、ブラックの言う事に間違いはないよな。
歌にも声にも力にも関係するなんて、呼吸って凄い。やっぱし、能力を向上させるなら基礎体力からってことなんだろうか……むぅ……人体というのは奥深いもんだ。
しかし……意識して見ると腹式呼吸って難しいな……。
「んん……っ、ふぅう……。い、意外と困るなこれ……」
何だか腹が思うように動いてない気がする。
弱ってしまってブラックの顔を見やると、相手は目を笑みに細めて、俺の腹の上に乗せている大きな大人の手をぽんぽんと動かした。
「腹を動かす呼吸は、色んな動作に応用できるから覚えておいた方が良いよ。脚力や腕力、意識を集中させるのにもココを動かして呼吸するのは都合がいい。自然とお腹で呼吸できるようになれば、ツカサ君も少し強くなれると思うよ」
「ほ、ほんとか!?」
「僕がこう言う事で嘘を言った事ある?」
迷わず首を横に振る。
そうだな。ブラックは俺に曜術の基礎を教えてくれていた時も、何だかんだで熱心に指導してくれたし、分かり易いように噛み砕いた言葉で教えてくれてたんだ。
普段は不真面目過ぎて表情がたるんでるけど、こういう事には意外なほどに真面目なんだよな……だから、俺も真面目に教わらないと。
「じゃあ……今日から逐一こういうこと教えてくれるか?」
俺も一生懸命練習して、良い芝居を出来るようにするから。
そう言うと、ブラックは満足げな笑みで再び目を弧に細めて俺の頬にキスをした。
「いいよ……。ツカサ君が良い演技を出来るように、たっぷり教えてあげるね……」
キスだけでも我慢出来ずに体が硬くなってしまうのに、妙に熱のこもった囁きを耳に吹きかけられる。急にそんな刺激的な事をされたせいで、俺は練習中だと言うのについ息を止めてしまった。
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