309 / 952
大叫釜ギオンバッハ、遥か奈落の烈水編
24.こういう時は寝るのがいちばん
しおりを挟む◆
エネさんと一緒に今後の事を話し合った後、俺達は再び自室に戻った。
それは旅立ちの用意をする為でもあったけど、一番の理由は疲れたからだ。
仲間の家庭事情とかいう踏み込んでいいのか悩ましい領域に冷や汗を垂らし、今回の事件をまとめても判明しなかったデジレ・モルドールの組織や俺の記憶などに頭を抱え、そのうえエネさんの殺意をビンビンに感じてしまっていたのだ。
これで疲れるなと言う方が無理がある。
一度にワッと言葉の洪水を浴びせかけられたようなモンで、俺だけでなくブラックとクロウも、椅子の背凭れに思いっきり体を預けて座ったり床の敷布に横たわったりして、それぞれに魂が抜けたように脱力し黙りこくっていた。
……まあ俺もベッドに沈んでるので、同じような物なんだがそれはともかく。
三人揃ってだらしなくなってしまったが、でもこれは仕方が無い事なのだ。
今後のことを考えるとなんともイヤ~な雰囲気が漂っているように思えて、俺のみならずブラックとクロウもゲンナリしてしまっているんだろう。
解る、解るぞお前らの気持ちは。俺も同じ気持ちだ。
まあ今回の旅は最初から「ちょっかいを掛けて来た【アルスノートリア】が本格的に動く前に、獣人の国・ベーマスの玉座の下にある土のグリモア――【銹地の書】を持って来る」という目的があったし、そのついでに「贋金の出所を調べる」という、シリアスにシリアスを重ね掛けしたような頼みも受けてしまったので、気軽な楽しい旅ってワケではなかったんだが……それでも今回はだいぶんキツい。
だって実質この一件は解決してないし、首謀者達は逃げおおせちゃたし、その首謀者の中にシアンさんの息子であるセレストってヤツがいそうな感じだし……。
ともかく、人間関係の事が何も片付いていない。
特に、セレストって奴の事を聞くと――――今度出会った時、どうなるのだろうという漠然とした不安が湧いて来てしまい、俺達はもう考え疲れてしまったのだ。
予測できない未来の事を考えるのは、本当に疲れてしまう。
だけど、俺達は旅に出なきゃ行けないのだ。
なにも解決してないのに、もう次に行かなきゃ行けなかった。
……考えてみれば、こんなにモヤモヤした感じで旅立つのは初めてかも。
それもあって俺もブラックもクロウもこうなっちゃってるんだろうか。
はぁ……ホントに、今後が憂鬱だよ……。
溜息を吐きたいが、普通の吐息しか出てこない。
エネさん的にはなるべく早く出立して欲しいとのことだったが、せめて今日ぐらいは一晩ぐっすり寝て英気を養っておきたい。シアンさんのことだって心配だし。
とはいえ、もうなんか色々考え過ぎて逆に頭がぼーっとしちゃってるんだがな。
「うぅ……これからどうなるんだろう……」
ベッドに突っ伏して思わず呟いてしまう。
と、俺の背後――――少し離れたところにあるテーブルの方から、ブラックの気の抜けた声が聞こえてきた。
「まあ……色々不安要素はあるけどさ、僕達がやらなきゃいけない事はそれとは別の事だし、なんにせよ出発はしないとね……」
「そうだな。ベーマスに向かう事がオレ達の使命なのだから、とにかく今回の事件は横に置いて気持ちを切り替えないといかん」
ブラックとクロウの言う通りだ。
どれだけ頭を悩ませたって、結局俺達の使命は変わらない。
すべてはもう終わったこと。脱出できたのだから、もう振り返らず元々の使命だけを考えて行動すべきなのだ。…………ってーのは解るんだけど、人間そう簡単に切り替えが出来るんなら苦労はしないし休息も要らないワケで。
ともかく今はもう、ぐっすり寝るべきだ。こんな状態じゃ悩むだけだしな。
そんな事を思い、俺は寝返りを打とうと突っ伏した体を動かす。――と。
「んぁああ~っ、ツカサくぅうん癒してぇええっ」
「ぐわあっ」
また変な声を出してしまったが、図体のデカいオッサンがベッドに飛び込んできて押し潰されたんだから仕方が無いだろう。そう、オッサンの体重がぎゅむーっと俺にだな……って重いんだってばっ、こら、離れろっ、離れんかいお前、抱き着くな!
「でぇえい鬱陶しい! もう一個ベッドあるんだからそっちで寝ろよ!」
「え~? それじゃツカサ君で癒されないじゃないかぁ。ツカサくぅん、ねっ、ねっ、ぎゅ~っとしてぇ。頭撫でて~あわよくばキスしてぇ~~~」
「要求が尻上がりに図々しくなってる!」
ベッドの上で抱き着いて来るだけに飽き足らず、俺を両腕で拘束しながらねだってくるなんて、もうそれ半ばお願いっていうより脅迫なんじゃないのか。
オッサンの硬くて分厚い胸板に背中を押されている身にもなれっ。何が悲しゅうて疲れてる時にオッサンをあやさにゃいかんのだ。
冗談じゃない、俺は今から寝るんだ。明日への英気を養うんだからな。
ふざけるんじゃない、と逃れようとするが……まあ、当然逃げられるはずもなく。
「ツカサ君、だめぇ……? 僕、す~っごく頑張ったんだよ。穏便にツカサ君を救出するために、我慢していっぱい頑張ったんだよ……?」
「ぐ……」
甘えたようなわざとらしい声で囁かれ、言葉が詰まる。
……確かに、ブラックなら単独で俺を見つけ出して、力技で一気にあの場所を壊滅させる事も出来ただろう。というか、普段のコイツならたぶんやったはずだ。
でも、今回は珍しくエネさんや警備兵達と協力していた。被害も最小限で、俺以外の人達も助けようとする姿勢は見て取れたのだ。
クロウはともかく、基本的に協調性のないブラックが大人数でコトを進めるってのは、凄く珍しいことなのである。
そう考えると、確かに我慢して頑張ったとは言えるのだが……。
「…………アンタ昨日さんざん好き勝手やったじゃんか……」
「それはそれ、これはこれっ。ね……ツカサく~ん……」
ゆっくりと体を反転させられて、俺は強引にブラックの顔とご対面させられる。
だが、いざ向き合った顔はと言うと、しょげてるどころかニタニタとしまりのない顔で、今にも涎を垂らしそうで。
「…………」
「えへ……えへへ……ツカサ君、きょ、今日も、僕と一緒に寝ようねぇ……」
「何故今更そんな変態オヤジみたいな言葉を……」
改めて言われると何かゾワゾワしてくるからやめろ。
素直に甘やかしてやるべきかとも思ったが、その直球なスケベ顔のせいで気持ちが霧散しちまったじゃねえか。なんでお前はそう顔に締まりが無いんだ。
「ムゥ、ブラックばっかりずるいぞ。ツカサ、オレも甘やかしてくれ」
「ちょっ……お前までベッドに乗ってくんな駄熊!」
クロウの不満げな声が聞こえてきたと思ったら、背後からベッドが大仰に軋む音がして、思いっきり背中側の地面が沈んだ。
何事かと思ったら、吐息がうなじに吹きかかり、ふんふんと嗅がれる。
「ふあぁっ! く、クロウくすぐったいってば……!」
「ツカサ……んん……いいニオイだ……」
「うう……」
ブラックと同様にクロウも頑張ったし、それを考えたらこの程度は許してやるべきだとは思うんだけど……あの、あのですね、そう前も後ろもぎゅうぎゅう密着されると非常に苦しいと言いますか、オッサンの供給が過多すぎて俺が死ぬといいますか。
「ツカサくぅん……あぁ……もーこのまま寝ちゃいたい……今日は疲れたよぉ」
「んむむ……癒される……」
ブラックは俺の髪の毛に顔を埋めて来て、クロウは相変わらずうなじに顔をぎゅっと押し付けて、深呼吸をしている。
どんな状況だよと思ったが……でも、まあ……いつものことだしな……。
なんかもう逆に、このなしくずしな感じに懐かしささえ覚えてしまう。
ギオンバッハに来てから色々あって、クロウもブラックのために遠慮してくれたりしてたけど、これが俺達の“いつもの”なんだよな。
……まあ今日はちょっと密着され過ぎてる気もするが。
でも、そう思うと何だか……しょうもないけど安心してしまって。
「あ……ツカサ君もまんざらじゃないでしょ~。へへ……」
「ツカサの美味そうなニオイがさらに美味そうになったぞ。分かり易いな」
「だーもーだまらっしゃい!!」
ふざけたら逃げるからな、と前と後ろのオッサンの横っ腹をつねると、二人は少しも痛くなさそうな軽い声で「いてて」と漏らし、二対の肌色の違う腕で俺を捕えた。
一つは胸下で、もう一つは腰のあたり。どちらも俺の腕より逞しくて、逃げようと思っても無駄だろうなと確信してしまうほど太くがっしりしている。
こうなってしまったら……まあ、もう……仕方ないよな。
別に俺はやりたくないんだけど、逃げられないし。ブラックもクロウも、このままが良いと思ってるみたいだし。だったら、まあ……その、なんだ。
「…………寝るだけだからな。ほんとに」
「えへぇ……わ、わかってるよぉ……! ふ、ふふっ……つ、ツカサ君のにおい……良い匂いでいっぱいにして安眠するから大丈夫ぅう」
「オレも良い夢が見れそうだ」
「ぐぅう……適当な事を言いやがって……」
男の臭いを嗅いでなにが安眠だ、普通に汗臭いだけだろうが。
そう毒づいてしまったが、吸い込んだ空気にブラックとクロウの“におい”が混じっているのを感じて、俺は無意識に息を飲んでしまう。
「………………」
ち、違うぞ。飲み込みたいほどのニオイだったとかじゃないからな。
俺は、その……。
二人のにおいを感じて、無意識に安心してしまった自分に気が付いてしまったのに、ちょっと反応しちゃっただけで……。
でも、そんな事を言えるわけがない。
「ツカサ君、好きぃ……」
「ツカサ……」
「ぅ……うう……っ。もう良いから早く寝ろばかぁ……」
早く寝て頭の中をスッキリさせたいのに、これじゃ眠れる気もしない。
だけど俺を挟んだオッサン二人は既にうとうとし始めていて、そのことに俺はイラつかずにはいられなかったのだった。
→
11
お気に入りに追加
1,010
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。

義兄の愛が重すぎて、悪役令息できないのですが…!
ずー子
BL
戦争に負けた貴族の子息であるレイナードは、人質として異国のアドラー家に送り込まれる。彼の使命は内情を探り、敗戦国として奪われたものを取り返すこと。アドラー家が更なる力を付けないように監視を託されたレイナード。まずは好かれようと努力した結果は実を結び、新しい家族から絶大な信頼を得て、特に気難しいと言われている長男ヴィルヘルムからは「右腕」と言われるように。だけど、内心罪悪感が募る日々。正直「もう楽になりたい」と思っているのに。
「安心しろ。結婚なんかしない。僕が一番大切なのはお前だよ」
なんだか義兄の様子がおかしいのですが…?
このままじゃ、スパイも悪役令息も出来そうにないよ!
ファンタジーラブコメBLです。
平日毎日更新を目標に頑張ってます。応援や感想頂けると励みになります♡
【登場人物】
攻→ヴィルヘルム
完璧超人。真面目で自信家。良き跡継ぎ、良き兄、良き息子であろうとし続ける、実直な男だが、興味関心がない相手にはどこまでも無関心で辛辣。当初は異国の使者だと思っていたレイナードを警戒していたが…
受→レイナード
和平交渉の一環で異国のアドラー家に人質として出された。主人公。立ち位置をよく理解しており、計算せずとも人から好かれる。常に兄を立てて陰で支える立場にいる。課せられた使命と現状に悩みつつある上に、義兄の様子もおかしくて、いろんな意味で気苦労の絶えない。


飼われる側って案外良いらしい。
なつ
BL
20XX年。人間と人外は共存することとなった。そう、僕は朝のニュースで見て知った。
なんでも、向こうが地球の平和と引き換えに、僕達の中から選んで1匹につき1人、人間を飼うとかいう巫山戯た法を提案したようだけれど。
「まあ何も変わらない、はず…」
ちょっと視界に映る生き物の種類が増えるだけ。そう思ってた。
ほんとに。ほんとうに。
紫ヶ崎 那津(しがさき なつ)(22)
ブラック企業で働く最下層の男。悪くない顔立ちをしているが、不摂生で見る影もない。
変化を嫌い、現状維持を好む。
タルア=ミース(347)
職業不詳の人外、Swis(スウィズ)。お金持ち。
最初は可愛いペットとしか見ていなかったものの…?

久々に幼なじみの家に遊びに行ったら、寝ている間に…
しゅうじつ
BL
俺の隣の家に住んでいる有沢は幼なじみだ。
高校に入ってからは、学校で話したり遊んだりするくらいの仲だったが、今日数人の友達と彼の家に遊びに行くことになった。
数年ぶりの幼なじみの家を懐かしんでいる中、いつの間にか友人たちは帰っており、幼なじみと2人きりに。
そこで俺は彼の部屋であるものを見つけてしまい、部屋に来た有沢に咄嗟に寝たフリをするが…
その男、有能につき……
大和撫子
BL
俺はその日最高に落ち込んでいた。このまま死んで異世界に転生。チート能力を手に入れて最高にリア充な人生を……なんてことが現実に起こる筈もなく。奇しくもその日は俺の二十歳の誕生日だった。初めて飲む酒はヤケ酒で。簡単に酒に呑まれちまった俺はフラフラと渋谷の繁華街を彷徨い歩いた。ふと気づいたら、全く知らない路地(?)に立っていたんだ。そうだな、辺りの建物や雰囲気でいったら……ビクトリア調時代風? て、まさかなぁ。俺、さっきいつもの道を歩いていた筈だよな? どこだよ、ここ。酔いつぶれて寝ちまったのか?
「君、どうかしたのかい?」
その時、背後にフルートみたいに澄んだ柔らかい声が響いた。突然、そう話しかけてくる声に振り向いた。そこにいたのは……。
黄金の髪、真珠の肌、ピンクサファイアの唇、そして光の加減によって深紅からロイヤルブルーに変化する瞳を持った、まるで全身が宝石で出来ているような超絶美形男子だった。えーと、確か電気の光と太陽光で色が変わって見える宝石、あったような……。後で聞いたら、そんな風に光によって赤から青に変化する宝石は『ベキリーブルーガーネット』と言うらしい。何でも、翠から赤に変化するアレキサンドライトよりも非常に希少な代物だそうだ。
彼は|Radius《ラディウス》~ラテン語で「光源」の意味を持つ、|Eternal《エターナル》王家の次男らしい。何だか分からない内に彼に気に入られた俺は、エターナル王家第二王子の専属侍従として仕える事になっちまったんだ! しかもゆくゆくは執事になって欲しいんだとか。
だけど彼は第二王子。専属についている秘書を始め護衛役や美容師、マッサージ師などなど。数多く王子と密に接する男たちは沢山いる。そんな訳で、まずは見習いから、と彼らの指導のもと、仕事を覚えていく訳だけど……。皆、王子の寵愛を独占しようと日々蹴落としあって熾烈な争いは日常茶飯事だった。そんな中、得体の知れない俺が王子直々で専属侍従にする、なんていうもんだから、そいつらから様々な嫌がらせを受けたりするようになっちまって。それは日増しにエスカレートしていく。
大丈夫か? こんな「ムササビの五能」な俺……果たしてこのまま皇子の寵愛を受け続ける事が出来るんだろうか?
更には、第一王子も登場。まるで第二王子に対抗するかのように俺を引き抜こうとしてみたり、波乱の予感しかしない。どうなる? 俺?!

異世界転生して病んじゃったコの話
るて
BL
突然ですが、僕、異世界転生しちゃったみたいです。
これからどうしよう…
あれ、僕嫌われてる…?
あ、れ…?
もう、わかんないや。
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
異世界転生して、病んじゃったコの話
嫌われ→総愛され
性癖バンバン入れるので、ごちゃごちゃするかも…
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる