異世界日帰り漫遊記!

御結頂戴

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大叫釜ギオンバッハ、遥か奈落の烈水編

21.たまには素直に1

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「っ……ぅ……んん……っ……!」

 俺のくちを唇でむようにおおったと思ったら、すぐに角度を変えて、今度はそのまま舌で下唇をなぞって来る。
 不連続な荒い鼻息が顔に掛かって、動くたび無精髭ぶしょうひげがチクチクと顔に突き刺さってくる。そのあまりの近さが何故か凄く恥ずかしくて、俺はシーツを強くにぎった。

 ……だ、だって、自分で「したいか?」なんて聞いた手前、やめろとも言えないし……それに、正直な事を言えば俺だって……あ……会いたかった、というか……いやもうそんな事はどうでもいい、言えるかこんなこと。

「つかしゃくっ、ふむっ、んん……っ」

 甘ったれた声が直接きかかって来て、その声に耳がぞわりとする。
 ただ密着したまま名前を呼ばれただけなのに、声に体がしびれたように軽く動いた。たったそれだけの事なのに、妙に意識してしまって腹の奥がきゅうっとなる。
 何日も離れていたからなんだろうか。それとも、久しぶりにこんな事をしてるからなんだろうか。ブラックとキスをしているという事実が何故だか急に生々しく思えて、恥ずかしさに逃げ出したくなった。でも、もう逃げる事もできない。

 舌をまれて、思う存分舐め回されながらくちを何度も何度もまれる。
 最初は音もしなかったのにちゅくちゅくと変な音が混じって来て、あらい吐息が耳に強く残るせいで、余計よけいに自分たちのしている事を意識してしまい、俺は不覚にも足をぎゅうっと閉じて熱くなったソコをおさんでしまった。

 だけど、こんなに恥ずかしい音がしてるのに、ブラックはそんな俺の動きを目敏めざとく察知してしまったらしく。

「んっ……ふっ、ふは……つ、ツカサ君っ、あはっ、もう勃起しちゃった……?」
「っ、はっ……ハァッ、はっ……し、知る、かよ……っ、んなこと……っ」

 息が続かない。
 くちしびれてるみたいでじんじんして、思わず飲み込んでしまった唾液だえきがどっちの物かもわからない。ブラックの舌が自分の舌に絡んでいるような余韻よいんが残っているようで、何だかうまく言葉が出て来なかった。

 そんな俺を、ブラックは嬉しそうにニヤニヤと笑っている。
 だらしない笑みは相変わらず山賊みたいな下卑げびた笑みだったけど、でも、そんな風に直球で「興奮してます」なんて顔をされたら、言葉も出てこない。
 ただ、久しぶりに「好きな相手からの性欲」を直球で受け取ってしまい、俺は何故だか自分に対して恥ずかしくなってしまった。い、いまさらな事なのに……。

「んん~? ツカサ君、また顔が真っ赤になったよぉ? ふ、ふへっ……も、もしかして、また僕の顔になおしちゃったのぉ~?」
「バッ……ばか! 違わいっ、自惚うぬぼれるのもいい加減にしろよおまえ!」

 そんな事あるか、と否定したのに、言ったそばからどんどん顔が熱くなってきて、もう今は痛いくらいにカッカしてしまっている。
 こんなの誤解されるに決まっているのに……っていうか、ブラックはもうこのうえなくニヤついて俺の様子を楽しんでいるのに、どうしてこうなっちまうんだろう。

 い、いっつもそうだ。
 俺は別になおしたりなんてしてないのに、ブラックがそんな風に言うから、変に意識しちゃって恥ずかしさでたまれなくなってしまうんだ。
 そんな、ほ……惚れ直すなんて、そんなこと……。

「ね……正直に言っていいんだよ。久しぶりに間近で僕の顔を見て、格好良さについつい惚れ直しちゃいました~って」
「そんなこと、あ……あるか……っ」

 バカ言ってんじゃないよ。そんなモブおじさんみたいにハァハァしておいて、どこが格好いいと言うんだ。そんなの思ってたら俺の方が変人みたいじゃないか。
 真剣な時とか普通に笑った時のアンタならまだしも、こんな顔をしているのにドキドキしたりするなんて、どう考えてもおかしい……って何笑ってんだよ!

「なっななななんで笑うっ!?」
「ふっ、ぁはっ、んふふっ……いや、うん、ごめんごめん。たださ、正直な婚約者を貰えて僕は幸せだなぁ~って」
「はぁ!?」

 何言ってんスかね!?
 まったくもってコイツの言う事は分からんと眉を吊り上げたが、しかしブラックは空涙そらなみだぬぐうレベルまで笑いやがる。
 どこがそんなにおかしいんだと思ったが、相手は怒る俺におかまいなしで、んふんふと笑いながらシャツしに俺の胸の真ん中にてのひらを当てて来た。

「あは……ここ、指輪があるね……」
「っ、そ、そりゃ……いつも下げてるし……」
「いつも下げてくれてるの? あの採掘場に居た時も……?」
「え? う、うん。だって、俺のお守りみたいなモンでもあるし……一生懸命取られないように考えて、出来るだけ胸にさげようって……」

 説明をうながされたので真面目に答えてしまったが、考えてみればこの指輪のおかげで俺は不安も少なくキチンと労働が出来たんだよな。
 何があったってブラックの指輪が俺を悪意から守ってくれるから、怖いなと思う時も有ったけど……この指輪を胸に感じていたおかげで冷静になれたんだ。
 思えば、この指輪は俺にとっての命綱だったのかも知れない。

 そう考えると――――やっぱブラックに感謝した方がいい、よなぁ……うーむ。

 今のこの状況で感謝するのはシャクだけど、助けて貰ったのは事実だし、なにより精神安定剤になってくれた功績は非常に大きい。
 立派なオトナの男としては「弱気になってました」なんて事実は隠したいトコロだが……恩など感じてないと意地を張るのも格好悪いよな。

 まあ、その……い、今は……二人っきりだし……それなら、俺だって……。

「……ツカサ君、どしたの?」

 しゃべる途中で黙ってしまった俺に、ブラックは再び首をかしげる。だがただかしげるだけじゃない。その顔は何とも嬉しそうで、俺が今から言う事をすでに分かっていそうな、ムカつく笑みを浮かべいた。
 そのわざとらしさに熱も下がりそうだったが、実際にはより上昇してしまったようで、俺は目を泳がせながらも……やっと、伝えるべき言葉をこぼした。

「…………ゆ、指輪、無かったら……こんな風に無事じゃ無かったかも。だから……あ、あのな。だから……あ……ありがと、な……って……」
「ふぁっ……あ、あぁっ……ツカサ君……っ」

 何かをこらえたようにのどめて、ブラックの声が上擦うわずる。
 なんか、あんまりありがたそうな感じに出来なかったけど、伝わっただろうか。
 久しぶり過ぎて目が泳いでしまったけど、でもブラック達にはかなり心配させたし迷惑を掛けたんだから、このくらいは素直に言えなくちゃダメな気がするし……いやでも今の軽かったかな。
 やっぱ料理でも作って改めて感謝した方が――などと考えていたのに、ブラックは俺の懸念などまったく気にしていなかったのか、唐突に俺のシャツをずりあげた。

「うわあっ!? なっ、なにすんだよぉっ!」
「だっ、はぁっ、だって、つ、ツカサ君が、そんな風に誘うから……っ!」
「さ、誘うって……」

 何を言っているんだとギョッとしてしまったが、ブラックは興奮に目を見開いて、頬を紅潮させながら獣のような笑みでガチャガチャと服を脱ぎ始めた。

「ああっもう我慢できないっ。ツカサ君も、もうセックス、先にセックスしよっ! イチャイチャもしたかったけどもう駄目だっ」
「おいおいおい!」

 今の感謝のどこが誘ったと認識されたんだ、いや、俺は感謝しただけだぞ。
 恥じらい過ぎて自分でもちょっとキモかったのではと心配していたのに、アンタは何で興奮してるんだよ。今のはどっちかっていうと感動するところだろ!?

 どうしてこんな感情のドッジボールになるんだと頭を抱えたくなったが……。

「つっ、ツカサ君っ、ハァッ、はぁっ」
「…………ふふっ……」
「ふゅ?」

 ハァハァしながら目をしばたたかせる相手に、苦笑が止まらなくなる。
 ブラックとしか出来ない「トンチキな会話」をベッドの上でしてるんだと思うと、どうしてか胸がぎゅうっと苦しくなる。やっといつもの日常に帰ってきたんだと実感が湧いて、飲み込もうとしたのにどうしようもなく目頭が熱くなった。

 そっか。そうだよな。俺、やっとブラックのところに帰って来たんだ。
 帰ってきたから、こんな風にありがとうって言えるし……目の前でスケベ顔を隠しもしない、格好悪いけど大事な人に手を伸ばせるんだよな。

 もう、指輪をにぎって落ち着かなくたっていいんだ。すぐそこに居るんだから。
 ……そう思う自分が少し情けなかったが、今日ぐらい素直になってもいいだろう。
 だって、さっきとんでもない誘い方しちゃったし。
 ブラックだって……いつも、俺に素直な気持ちをぶつけてくれてるんだから。

 だったら、こ……こっちだって、協力的になるべきであって……。
 となると……その……や、やっぱり……自分でも動くべき、だよな。

 考えてみたら、俺ってば大概ブラックに脱がされて良いようにされっぱなしだし、転がされて弄られるばっかりで、ブラックの事を気持ち良くしようとしたこととか、あんまし記憶にないし……。
 ………………あれ、俺って実は、かなりのなのでは。

 う、い、いや、違う。違うぞ。俺だってブラックのことは、その、こ、恋人だって思ってるんだからな。こっこんっ婚約者っ、だって、ちゃんと思ってるんだからな! わかってるんだぞ頭の中では!!
 だから、その……恋人らしく、するって言うのなら……。

「…………お、俺も……脱ぐ……」
「はへっ!? つ、ツカサ君っぬ、脱いでくれるの!?」
「う゛っ……いっ、一々いちいち言うなよ!」
「だ、だっ、だったら、た、立って僕の前でゆっくり……っ」
「バカー!! こんな明るいうちからやれっかそんなこと!!」

 そんなストリップみたいなコトが出来るかとつい怒鳴ってしまったが、ブラックは俺の怒声などものともせずに、キラキラと菫色すみれいろの瞳を輝かせて俺を見つめている。
 こんなにスケベオヤジみたいなのに、キラキラしながらズボンを下ろしているのに、そんな純粋な目を見せられても困る。ねだられたってやりたくないってば。

 いや、でも、今日はその……お詫びの気持ちも有るし……心配かけた事を考えるんなら……そ、そのくらいは……うむ……。

「ツカサくぅーん……お願いぃ……」
「…………」
「僕もペニス先に出しておくから……ね……?」
「それのナニが対価になるというんだ」

 思わず突っ込んでしまったが、ブラックがしたいというのなら……し、仕方ない。
 今日だけは素直に従ってやるか……。

 そう思い、俺はブラックの体の下からずりずりとすとベッドから降りた。
 どうにも不安定なせいで、とてもじゃないがベッドの上では立って脱げない。
 そんな俺の意思にブラックは嬉しそうにニタァッと下卑げびた笑みを見せたが、すぐにベッドのはしに移動して床に足をつけるように座ると、俺が移動するのに合わせて自分も移動した。ぐ、ぐぬぬ……これみよがしに追ってきやがって。

 でもまあ、脱ぐだけだし。ぬ、脱いだら……その……ベッドに戻るし……。
 だから、恥ずかしい事じゃない。ていうか窓開いてた。怖っ。しめよ。

「ああん、窓閉めちゃうの?」
「ガラス窓だから光は入って来るだろ! 誰かに聞かれたらどうすんだ!」
「まあ確かに……ツカサ君の可愛い声をタダで聞かせるのもシャクだしなぁ」
「いーから黙ってろ!」

 ちょっと薄暗くなった部屋に緊張してか、胸がぐっと苦しくなったが、俺は気にしないようにしてベッドの足の方へと戻る。そこにはすでにブラックが座ってスタンバイしていて、はやく俺が脱ぎはじめないかと息を荒げて目を輝かせていた。
 いや、だから目……ま、まあいいか……。

「ツカサ君っ、はやくはやくぅっ」
「わ、わかったから……。でも、べ、別に、面白い事なんてないからな。すぐ済むんだからな!? えっちな事なんてなんもないぞ!」
「分かってるってぇ。ツカサ君が、僕とのセックスのために張り切って脱いでくれるのが興奮するんだよ~」
「はりきってない!!」

 せっかく人が素直に従ってやろうってのに、本当に余計な事しか言わんなコイツ。
 このまま逃げてやろうかと思ってしまったが、俺は頭を振ってブラックの前に立つと、そのままシャツから脱ぎ始めた。













※三連戦。次本番、ご注意。

 
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