異世界日帰り漫遊記!

御結頂戴

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巡礼路デリシア街道、神には至らぬ神の道編

14.鬼の居る間に1

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   ◆


 その後、フクロウの長老さんがニワトリ頭目とうもくのクックに対して俺達が無実である事を説明してくれて、俺は一応無罪むざい放免ほうめんとなった。

 一応、というのは、まあ予想通りにクックが激しく反対したからだ。
 どうも彼は俺達に対してのうたがいを捨てきれず、そのうえ、炎属性ではないにしろ俺の仲間が【グリモア】である事に酷く嫌悪感を抱いているようで、そんな奴の仲間など信用出来ないってコトで俺が牢から出る事を良しとしなかったんだよな。

 ソレを長老さんと、意外にもクック以外の三人がなだめてくれて、なんとか「この村を出て行くまでは所持品を没収する」という形で収まった。
 俺に対しての拘束は何も無かったが、その代わり「あいつらを絶対に暴れさせないこと」という制約を付けられてしまった。

 ……なんで俺に対しての制約は無いんだ。そんなに弱く見えるのか俺は。
 まあでもあなどられているだけマシだよな。俺だってチートは持ってるんだから、いざと言う時には発揮してやればいいんだ。ふふふ、あなどった事を後悔こうかいさせてやる。
 いやそんな事にならないのが一番良いんだけどさ。

 ゴホン。ともかく。
 そうやってつかの自由を手に入れた俺は、小さいふんどし一丁……ではさすがに寒いし恥ずかしいので、片方の肩からけて腰のとこをヒモで結ぶだけの「飾り布」みたいな服を一応まとわせて貰う事にした。

 正直片乳出てるし膝上ひざうえまでしか布が無いし脇腹は両方とも開いてて寒いしで、ある意味貫頭衣かんとうい(真ん中に頭を通す穴を開けて服のようにしたもの)以上に恥ずかしいし寒い。太腿ふとももでてるし。横から出てるし。なんなら股間が寒い。

 鳥人は羽毛のおかげで寒くないんだろうけど、俺は彼らが見下す【ケナシ】なので非常に寒い。しかしこの服装でないと「ダサ」とかヒソヒソされてしまうという事で、俺は寒さをこらえてこの少々露出度の高い服を着こなすしかなかった。
 ぐ、ぐうう……郷に入っては郷に従えとは言うが、これはキツいですぅう。

 また風邪を引かないと良いけど……などと思いつつも、とりあえず俺は当面泊まる宿として、今は使われていない古い家を使わせて貰う事になった。
 長老さんの話では、後でブラック達も連れて来てくれるらしい。
 とりあえず今はお前だけ先に行っていろと言う事で、俺はニワトリ頭目のクックと、その子分……というか部下であるブーブックに案内して貰う事になった。

「おいっ、ケナシ早く来い!」
「…………」
「あ、はいはい」

 鳥人達の集落を通り、牢屋よりもさらに下の場所に移動する。
 上の方の簡素な吊り橋は真新しくしっかりしていたのに、下の方に行くと吊り橋も何だか古くて足元が不安だ。どうしてだろう。
 【セウの樹】が成長するにつれて、集落も上に移動して行ってるのかな?

 涼しい空気の中、ギシギシ鳴る吊り橋を下りながら俺はブーブックに訊いてみた。

「なあ、この村って樹の成長と一緒に上に移動してるのか?」

 そう問いかけると、ブーブックはフクロウやミミズク特有のビックリしたような顔で、冷静にコクリとうなづく。どうも彼は無口らしい。
 クロウといい勝負だけど、クロウの方がまだおしゃべりだな……。

「おい、何故ブーブックに聞く」

 なんか前方から声が聞こえて来るが無視。
 吊り橋を渡り切って、また丸太以上に大きな枝の上を渡りつつ再度俺は問うた。

「なんか理由が? 葉がしげると暗くなっちゃうからとか?」
「ええい、そう言う事は頭目とうもくの俺に聞けばいいだろうが! 何故俺に聞かん!」

 おお、怒った。だけど謝らないぞ。アンタにはオッサン二人を薬漬けにされて少々怒ってるんだからな。後遺症が無いとはいえ、二人は俺の大事な仲間だし、なにより凄く心配したんだ。おちょくってもバチは当たるまい。
 だが少しやりすぎたかなと内心舌を出しつつ、俺はクックに近付いて見上げた。

「じゃあアンタ教えてくれるのか? 俺のこと警戒してるんだろ」
「フン、人族のメスごとき誰が警戒するか。……ともかく、村の事は俺に聞け」
「じゃあ、どうして木が成長すると村も上に移動するんだ?」

 問いかけると、相手は歩きながら答えた。

「無論、日の光が当たりにくくなるからという理由も有るが……一番の理由は、大樹の頂点近くにある【祭壇】が遠くなるからだ」
「祭壇って……あのセウの樹の種をまつってたっていう……。警備のため、とか?」
「まあその理由もあるが、率直そっちょくに言えば【加護】が受けにくくなるからだな。お前は最初村のおだやかさに驚いていたと思うが、その通り高所は寒く風もかなり強い。人族であれば、本来一日も滞在すれば凍死とうしするだろう」

 ということは……そうならないように、ある程度ていど寒さや風を抑える効果が【祭壇】にはるという事なのかな。そっか、だからあんなに穏やかな風が吹いてたのか。
 俺の予想は大当たりだったようで、クックは目を不機嫌そうに細めていた。

「……ケナシのメス男にしては頭が回るようだな。……まあ、お前が考えている事で大体合っている。我々も別に寒さに弱いワケではないが、雛鳥ひなどり達は。出来れば風が穏やかな場所で育てた方が良いからな」
「ふーん……でも、小さい子、ココに来るまでにあんまり見なかったような」
「ハハッ。我々は、いやしいケナシどもとは違うからな! 発情期どころか年中発情しているお前らと一緒にするな」

 そう言いつつ俺を存分に見下してきたクックだったが、背後からの違う声が会話に割り入って来た。

「というより、我らのメスがオスを受け入れる時期が短く間隔かんかくも長いせいだな」

 えっ、この声ブーブック?
 なんてシブいオッサン声なんだ……もしかして俺達よりだいぶ年上なのか。

「ぶ、ブーブック!」
「メスは、雛鳥を三十年かけて育てる。我らは長命がゆえに雛鳥の時期が非常に長く、そのためモンスターにも狙われやすい。だから、元々雛鳥の人数は少ないのだ。それに加えて、かつて起こった“モンスターの大反乱”の時に絶滅しかかり、現在の鳥人族は他の樹からの生き残りをすべて寄せ集めた……この樹一本だけにむ、少数の民だけになってしまったからな。……それも、雛鳥が少ない理由だ」

 ブーブック、さん。めっちゃ説明してくれる……。
 意外な一面に思わずあごを引いてしまったが、しかしそれで何となくライクネス王国に棲む鳥人族の内情が分かった。

 この世界は昔から色々とデカい戦いが起こっていたらしいけど、そのうちの一つの「モンスターの大反乱」によって、鳥人達も被害を受けてしまったんだろう。
 もしコレが一度しか起こっていない事件なら、シアンさんの息子さんがその戦いに参加して命を落としたのと同じ時に、鳥人族も大打撃を受けたって事になるけど……それって確か、数百年も前のことだよな。

 長命の種族は繁殖能力が低い、ってよくゲームや漫画の設定とかで出るけど、一度滅びる寸前すんぜんまで行ってしまうとこんなに立て直しが難しいんだな。
 ブーブックさんの話からすると、昔はこの周辺の【セウの樹】全部に鳥人が棲んでいたっぽいのに、今はこの樹一本だけしかライクネスの鳥人族がいないなんて……。
 うーん、長命ってのはあこがれるけど、種族として考えたら中々シビアなんだな。

 思わず考え込んでしまうと、隣のクックが赤いトサカを立てて眉間にしわを寄せた。

「フン……それもこれも、人族が調子に乗ってモンスターを刺激したりしたからだ! 生まれた土地を捨て住処すみかを増やし、みずからも増え喰われたせいで、邪悪な魔物たちも増えてあんな惨劇が生まれた。だから俺はケナシなど好かんのだ」
「…………」

 そう言われると何も言えなくなるんだが……でも、そもそもの話、この人達が住む【セウの樹】を生み出したのは人族の女神じゃないか。そりゃ、迷惑したって気持ちは分かるけど、人族のやった事の全てが悪手だったって言い方は、人族としての俺的には承服しかねる。

 けれど悪い所があると言われりゃそうだろうし……うーん……難しい。
 世界的な「やらかし」の功罪って、根元を考え出すとキリないよな……この世界の歴史を深く知らない俺には、反論しようにも情報がないし。むむむ……何も言い返せないのが情けない。

 ちょっと落ち込んでいると、不意にブーブックさんが話しかけて来た。

「……あそこだ。薬が切れるまでは、あの家に住んで貰う。雨漏りなどはしていないと思うが、一応確かめてくれ」
「あ、は、はい」

 話を聞いている内に、廃墟になった村の最下層に来てしまったらしい。
 周囲の太枝に転々としているち色のわらで出来た家は、確かにちょっと古そうだ。その中でも比較的マシな方の家に通された俺は、ブーブックさんの言うように土間が沈下ちんかしていないかとか屋根がちてないかを確かめて、やっと一段高くなった板間にころがりがって足をばした。

 うーむ、古いニオイはするけど、床は丈夫じょうぶだし結構いいぞ。
 一部屋だけと言ういかにも部族っぽい間取りだが、宿として借りるだけだし、特に困った所は無い。火をかないと寒そうってぐらいかな。

「ではわれはオス二人と寝具を持って来る。四人分でいいな」
「ああ」
「あっ、あの、ペコリア達も……」

 きびすを返したブーブックさんに頼むと、相手は「心得ている」とうなづいて、そのまま外に出て行ってしまった。……うーん、大人の男っぽくてちょっと憧れる。
 そうだよな、大人の男ってのは多くを言わないんだ。背中で語るんだよな。
 周囲にロクでもない大人ばっかりいるせいで忘れていたが、大人の男ってえのは、そういうハードボイルドな感じなんだ……! ああ、俺もシブくなりたい。

「おい。……おい、ケナシのメス男」

 やっぱさ、真の男ってのはどんな種族でも同じなんだよな。
 普段は無口で無愛想だけど腕っ節が強く、情に厚くて格好いいってのが見た目からして超良いし、ぶっちゃけめっちゃモテそう。いや絶対モテるよなあんなん。
 くーっ、俺も格好いい感じでモテたいっ。女の子にれられたいぃいいい。

「おいコラーッ! 人の話をコケーッ!!」
「聞けーっじゃないの!?」

 思わずツッコミをいれてしまった。
 いや、っていうか、何怒ってるんですかアンタ。

「うるさいコケッ、どーしてお前はそう人の話を聞かない……」

 怒りのあまりニワトリな鳴き声が混じりつつ、クックが俺に向かってクドクドと何かの説教をしようとするそぶりを見せた、と同時、開けっ放しの入口からウグイス系鳥人のウォブラーとブーブックさんが入って来た。

「ういーっす、オッサン二人と寝具っすよー」
「お前らーっ!」
「うわなんですか頭目! なんで怒ってんですかぁ!?」

 理不尽に怒られたウォブラーはおののいているが、ブーブックさんは気にせずに板間へ近付き、両肩に抱えていたオッサン二人を転がした。
 あっ、敷布団っぽい分厚い布で簀巻すまきになってる。

「お前が風邪を引いていたので、用心のために巻いて持って来た。薬の効果で動く事は無いだろうが、寝冷えしないよう気遣きづかってやれ」
「あっ……ありがとうございます」

 ブーブックさん……話したらめっちゃ気遣いしてくれるし格好いい……。
 つくづくこうなりたい物だと思いつつ、簀巻すまきをいて二人をやけにやわらかい布団に寝かせてやると、ウォブラーが抱えて来ていた掛布団をかけてくれた。
 なんか頭が急にボサついてるが、クックに絞られたのだろうか。

「あのさ、悪いんだけど敷き布がちょっと足りなくて、キミだけ掛け布だけになっちゃうんだけど……それでもいい?」
「俺は大丈夫です。ありがとうございます」

 とりあえず羽織はおるものさえあれば、あとは囲炉裏いろりで火をいて我慢出来る。
 素直に礼を言いつつウォブラーの顔を見やると、相手は何故かまた後頭部の羽毛をブワッと浮き上がらせて、目を泳がせつつ頷いていた。
 うーん……何か俺やっぱどっか気持ち悪いのか? キモオタがにじみ出てるのか?
 今はカワイコぶった演技はしてないんだけどな……いやまあ、一度見れば忘れる事が出来ないくらい気持ち悪かった可能性もあるしな……悲しい。

 掛け布を取って、ぐったりと伸びているブラックとクロウにかぶせてやっていると、背後でクック達の声がした。

「んじゃ、また何か有ったら呼んで下さい」
「食事は定期的に届ける」
「うむ、祭壇の警備の途中で悪かったな。ホークにもよろしく言っておいてくれ」

 なんだか挨拶あいさつわしているような声がして、二つの足音が去って行く。
 だが、それ以外に出て行くような音はしなかった。
 …………あれ。クックは家に戻らないのかな。

「あのー……頭目とうもくは職務に戻らなくていいんで?」

 振り返ると、相手は居丈高いたけだかな態度でフンと息を吐くと、その場にどっかと座った。

「なにを言う。職務なら今まさに遂行すいこう中でははないか」
「……と、いいますと……」
「俺はこの集落の頭目だ。危険を察知し監視する役目がある」
「…………えーと……」
「頭が良いと思ったが、かぶりだったようだな」

 う、うるさいな。状況が飲み込めないんだよ!
 えーと、危険を察知し監視する役目があるって言う事は、つまり……。

「……アンタも、俺達と一緒にこの家にいるってことデスカ」
「なんだ、分かっているなら最初からそう言え!」

 そうなると絶対くつろげないから、分かりたくなかったんですよ!
 ……とは言えず、俺はぎこちない愛想笑いで「アハハ」と笑うしかなかった。

 二日ぐらいで薬が切れるというけど……目が覚めて自分を眠らせた鳥人族が近くに居たら、ブラック達はどういう反応するんだろうか。
 勘違いとは言え、クック達が「拘束して来た犯人」だと知ったら……。

 ………………。
 ……何か……絶対にロクでもない事になりそうな気がする。
 お、俺がしっかりしなくちゃ……。













 
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