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巡礼路デリシア街道、神には至らぬ神の道編
目で見て耳で知り2
しおりを挟む頼むから離れてくれよともう半ば懇願の領域に入った声が出るが、ブラックは俺の情けない頼みすら聞かず、今度は耳たぶに触れて来た。
「ぅ……っ」
「ツカサ君……は、はぁあ……っ」
熱い息が、頬に直接噴きかかってくる。だけど、普通の吐息じゃない。
その息の動きや触れ方だけで、相手の口がどんなふうに動いているのかが分かってしまう。今度は口を大きく開けたんだと分かり、拒否したい心と恥ずかしさと「いやらしい事をされている」という思いに、体の奥の所がかぁっと熱くなって、無意識に硬直してしまった。
そりゃその……こ、こんにゃく……いや、その、恋人に「やらしいコト」をされてんだから、どうしてもどっかで感応してしまうのは仕方がない事だと……思う……。
はっ恥ずかしいけどそりゃしょーがねえだろ好きなんだから!!
でも、その、でもさ、二人っきりじゃないし、それにこんな風にスケベ丸出しで迫って来られると、どうしてもこっちが耐え切れなくなってしまうというか……!
「ブラックっ、も……やだってぇ……! く、クロウもいるのに……っ」
「えー、熊公の前で何度もセックスしてるのに今更? んもー、ツカサ君たら本当に恥ずかしがり屋さんだなぁ……まあそこも可愛いんだけど……」
「うひゃぁっ!?」
耳たぶを噛まれて、いや、唇だけで食まれて予想外の事に変な声が出てしまう。
だがブラックは俺の事なんて関係なしに、音を立ててちゅむちゅむと耳たぶを吸い食みながら、わざとらしく鼻から息を出して俺の耳穴をくすぐってきた。
「ツカサ」
体をぴったりとくっつけられて逃げられない俺の横で、また別の声が聞こえる。
片耳は変な音と息の音ばっかり聞こえててどくどく脈打って煩いのに、もう片方の耳からは冷静な低い声が聞こえてきて、その温度差に余計に居た堪れなくなる。
こんなことしてるのに、部屋にはもう一人いるんだ。
そう思うと、言い知れぬ緊張に足の指に力が入ってしまった。
「っ、クロウ……っ」
「この村、あまり好きではないニオイが強くてちょっとつらいぞ……だから、オレもツカサの匂いで癒されたいんだが」
「ひ、人を線香の香りか何かと思ってんのかお前は!」
アロマほど洒落てると言うつもりはないが、それはともかく。てか、どっちかっていうと今の俺は線香の香りを浴びた方が良いんじゃないのか。だってブラックに耳を弄られていて、くっつかれてて、そのせいで恥ずかしさに体温が上がってるんだぞ。絶対ヤな汗かいてるって。
なのに、ブラックだけじゃなくてクロウまでベッドの脇に寄って来て……何をするのかと思ったら、唐突に俺の左腕を自分の方へと引き寄せやがった。
一体俺の腕をどうするつもりなんだろうか。
クロウが何をするか気になるから、ちゃんと見てなきゃいけないのに、ブラックに耳たぶを舐められたり軽く噛まれたりするせいで、注意が散漫になってしまう。
だけど、意識が強引に引き寄せられてしまうのはそれだけのせいじゃない。
くっつけられたブラックの体の……その……下の方の、一部分が、我慢し切れないのか俺の足に密着して上下に動いてるんだよ。ズボン越しなのに、否応なしに熱くて硬い感触が伝わってきてて……。
「う、うぅう……や、やだ……すりつけんなぁっ……」
ズボン二枚越しなのに、なんでこんなに熱いのが分かるんだ。
出っ張って俺の足に擦りついてくる所が足じゃない変な感触で、イヤでも意識してしまう。ソレが何かなんて俺が一番よく分かってるのに、それでも俺の股にあるモノと同じ……いや、俺の何倍も凶悪な奴が俺の足で興奮を更に増そうとしているんだと思うと、どうしてもその事実が受け入れがたくて拒否してしまって……。
「ツカサ君……っ。はぁ……はぁあ……っ」
「~~~っ……」
何か言い返せばいいのに、思い付かない。
ブラックに触られてるところ全部から鈍い刺激が来るみたいで、言い返す前に変な声が出てしまいそうで、何も言えなかった。
でも、それだって仕方ないと思うんだよ俺は。
何度されても、じ……自分が、興奮されて、勃起したちんこを押し付けられてるんだと思ってしまうと、俺の中の常識が「ありえない」と思考停止してしまうんだ。
俺はれっきとした立派な男なのにって。
オッサンと色々しといて何をって感じだが、慣れないものは慣れないんだ。
だって、しょうがないじゃん。俺は普通に女子が、おっぱいが好きなんだよ。恋心と言う感情の前に、本能が在る。俺の男としての永遠のサガってやつなんだ。
そのせいで、今の状況に戸惑っちまうんだよ。
幼馴染で抱き着いて来たりするヒロにだって、こんな気持ち抱かない。
ヒロとこんな事なんてしないし、恋愛の意味で惚れるなんてもってのほかだ。
ブラックとクロウだから、特別にこんな事するんだよ。
だから欲望を向ける慣れはあっても、こうしてオッサンに……大人の同性に、こうも明け透けな欲望をぶつけられたら、どうしたらいいのか分からない。
色んな感情が綯い交ぜになって、でもゾクゾクするのと恥ずかしいのが強烈に頭の中へ流れ込んで来て、動けなくなっちまう。
それでも俺自身「ブラックとずっと一緒にいたい」と願ったんだから、いつまでもソレじゃいけないって事は、解ってるんだけど……で、でも、十七年間の常識をすぐ異世界仕様に変えろってのは無理だってば、こういう行為とかマジで慣れてないからだめなんだってば!
なのにブラックの野郎、お構いなしにイチモツ擦りつけてきやがって……っ。
「や、だ……っ、く……だから、す、擦り付けんなって……っ!」
「んふっ、ふ……ふふっ……つ、ツカサ君っ、僕のペニス感じちゃってるのぉ……? さっきから足をぴったり閉じちゃって……ああ、は、はぁっ、可愛いなぁあ……! つ、ツカサ君も、小さい子供おちんちん切なくなってきちゃった……?!」
「ばっ……!」
「ツカサ……」
「うえぇっ!? うぁっやっ、く、クロウ!?」
腕を引かれた感触が有って、指が、何か柔らかい物に挟まれた。
反射的に変な声を出してしまったけど、こ、これは……クロウに指を丸ごとパクっといかれてるじゃないか。オイお前何やってんだ。
「くっ……! あ、や……ちょ、バカ、ばかブラック! 今そんな……ああもうっ、クロウも、な、なにして」
「うんん、ツカサ君もっと僕のこと見てよぉ」
「はひっへ、ふははおあへほはへへふ」
な、なに、何だって?
えっと……俺の汗を舐めてるって言いたかったのか……?
いやもう違っても舌で指を舐めまくってんだから大体似たような事だよな。
「なんで手!?」
「そこしかないでしょ。ツカサ君の体は僕が乗っかっちゃってるもんね~」
ああそう言う事か、ブラックとくっつかず舐められるのが手しかなかった、と。
……コイツら、前よりは凄く仲良くなったけど、基本的に仲悪いんだよな……。
いやまあ、中年二人の顔がくっついて顔中ベロベロ舐められるのも嫌だけども。
でも、指を生暖かくて濡れた舌に舐め回される感触は非常に耐えがたい。たかが手だと思うのに、触覚ってのはやけに鋭敏なのか、舌でなぶられ指の腹を舌先で指紋を辿るが如くねろねろと舐め回されたら、体が勝手に震えてしまう。
指舐め程度で刺激を受けてどうすると自分でも思うのに、クロウの分厚くてざらついた舌が指の股を舐めると、お腹の奥が熱くなって耐えられない。勝手に内腿に力が入り、我慢しようとしているのに自滅してしまった。
「ひぐっ、う、うぅう……! やだっく、くすぐったいってっ、や、ぁ……っ!」
「つかは……ハァッ……は……」
「つ、ツカサ君……っ、ツカサくんん……ね、も、もういいよね、ツカサ君もこんなに体が熱くなってるし、せ、せ、セックス、セックスしたくなったよねぇ……っ!」
やばい。そんなんじゃないのに、舐められてるだけなのに、オッサン達が無理矢理に体に色々押し付けてくるせいで敏感な俺の愚息が勘違いを起こしてしまう。
違う、治まれ、バカ、こんなところでまで正直に勃とうとする奴があるかバカ!
お前はどーしてそう俺以上に感受性高いんだよ!
く、くそう、どうしよう。
自分で「禁欲」で行こうなんて決意しておいて、オッサン二人に触られて俺まで興奮しちまったら意味ねーじゃねえかっ。こうなったら何が何でも逃げないと……ああでもこういう時にどうしたら、どうしたらぁああっ。
「ねぇ、ツカサ君……」
「ツカサ……オレも、もっと色んなところを舐めたい……」
「う、うぅ……ううう……っ」
駄目だ、そもそも体力も腕力も違い過ぎる。
さっきも力任せにベッドまで連れて来られたのに、俺が逃げられるわけがない。
つーかそもそも下手したら骨もポキッといかれる体格差と力量差なんだから、これは明らかに手加減されているワケで……って、どうやったら逃げられるのこれ。
いや待て、落ち着くんだ俺。力がなければ頭脳……頭脳も負けてるんだった。
うわーもう駄目じゃんっ、ダメじゃんかああああ!
お兄さんと話したせいで余計にえっちしたくない。従業員の人に勘付かれるなんてイヤすぎる。ああぁ余計な事を話さずに最低限の話だけすべきだったぁああ。
こうなったらもう、ヤるしかないのか。目の前のオッサンはヤる気でしかないぞ。
菫色の目がねばっこい光を灯してギラギラと輝いているし、鼻息も荒いし、横からは獣が唸るような声と共にハァハァと荒い息遣いが聞こえてくるしいぃ……。
もう駄目だ、逃げられない。
こんな事ならギリギリまで待って戻ってくれば良かった。そう思い、思わず涙ぐんだ――――と、その時。
場の雰囲気を一刀両断するように、小気味いいノックの音が割って入った。
「お風呂の用意が出来ましたので、一階の受付までお越しください。風呂場の鍵と、備品をお渡ししますので……」
「………………」
「…………」
オッサン二人の動きが止まった。
い、今だ。
「はっ、はい! ありがとうございます、すぐ行きまーす!」
ありったけの声を出して、さっきのお兄さんらしき人の声に答える。
すると、相手は「お待ちしております」と少し笑ったような声で返して、階段の方へと去って行った。この勝機を逃す俺ではない。
止まったブラックとクロウの隙を突き、俺は何とか二人の隙間を縫ってベッドから脱出すると、べちょべちょになった手を着ているシャツで拭きながらオッサン二人に毅然とした態度でこう言ってやった。
「はっ、はぁっ、ハァッ、ハァッげほごほ」
「ツカサ君、王様みたいな偉そうな立ち方するなら呼吸は整えようよぉ」
「う、うるじゃいなっ。その……と、ともかく! 俺達は急ぐ旅の途中なんだから、出発して数日で動けなくなるワケにはいかんだろ!? だから、今回は禁欲、巡礼者的な感じで禁欲をモットーに旅をすべきだと思うんだよ俺は!」
必死にそう訴えると、オッサン二人は鸚鵡のように首をかしげた。
「もっとー……? 決め事とかそういうコト?」
「禁欲をもっとーとは、更に禁欲せよということなのか?」
あっ、モットーって外国語だった。
でもブラックにはニュアンスが伝わっているのでまあ良い。
細かい所を突かれてソレにかまけていたら、主題がおろそかになるからな。これはオッサン達がよくやる手なのだ。俺は詳しいんだ。今度はそうはいかないぞ。
熱が残って鬱陶しい股間に太腿を触れさせないよう仁王立ちしながら、俺は欲望の塊のごとき中年二人に牧師のごとく教えを説いた。
「そう、えっちな事は我慢するんだよ! お前らだって、えっちして後衛がヘロヘロで使い物にならなくなったら困るだろ」
「え、別に困らないけど……ツカサ君そもそも普通の戦闘であんま活躍しないし」
「ムゥ、この周辺の低級モンスターでは怪我する事も難しいしな」
こ……このぉ……言いたい放題言いやがってぇえ……。
まあ真実なので言い返せないんですけどねチクショウ!
「ぐ、グヌヌ……じゃあ、えっと……め、メシ! メシ作る気力も無くなるし、次の日に俺めっちゃ冷たくなるぞ、賢者タイムになるぞ! いいのかそれでっ」
俺の賢者タイムは凄いんだからな。もう本当、なんで抜いちゃったんだろうかって数分真顔になるくらい虚無る時もあるんだからな!
まあそれはアホほどシコッた時の昔話だがそれは置いといて。
ともかく、旅で体力が削られるのに、これ以上体力が削られたら、お荷物が余計にお荷物になっちまうぞ。自分で言うのも悲しいが、そうなって良いのか。
俺はお荷物になったら更に迷惑をかけまくる自信があるぞ!
「ツカサ君て時々すごい自虐の脅し文句言うよね」
「ヌゥ……弱者としての精一杯の虚勢は見ていて可哀想になるのだ」
「だーっ! 憐れんで熊耳伏せてんじゃねええええ」
いっつも思うけどお前ら本当俺に酷いよね!?
まあ実際ザコだから仕方ないかもだが、それにしても直球過ぎるんですけど!
何かもう泣きたくなってしまったが、そんな俺の姿を見て何か思う所があったのか、ブラックとクロウは顔を見合わせて何やら頷き合うと、再び俺を見た。
「分かった分かった、じゃあ今回は僕達も禁欲で行くよ」
「無暗に性欲を出さぬように気を付ければいいのだろう?」
「え……あ、う、うん……」
なにこれ、なんか凄くスムーズに納得してくれたんだが。
あれ……ブラックなら絶対にギャーギャー文句言うと思ったんだけどな……でも、ブラックは時々まともで大人らしい対応をする時もあるからな……。
今回は旅をすると言う事と、俺の体調を鑑みてくれたんだろうか。
そもそも俺、まだ“あの問題”が……ブラックとえっちしたら、何故か気絶も出来ず延々と元気になっちまうっていう妙な問題が解決してないワケだしな……。
それを思い出して、今回は折れてくれたのかも知れない。
でも……ホントかな。本当に、禁欲してくれるのかな。
「ほ……ほんとに我慢してくれるのか……? ホント……?」
何だかちょっと反応に困ってしまい、顎を引いて上目遣いで見やると、オッサン達は「ぐっ」と変な声を出して肩を揺らしていたが、ゴホンと咳をして頷いた。
「ああ本当さ。そもそも、ツカサ君は僕よりもまだまだ経験が浅いからね……。それに、今回は長期的な旅になるんだから、焦らなくても機会はあるし……でしょ?」
「ぅ……ま……まぁ……」
機会があるって、それってもしかしなくてもえっちな事のだよな。
そ、そんな明け透けに……でも、えっちをするのが大好きなブラックからすれば、かなりの譲歩なんだよなコレって……ああ、なんかそう思うと申し訳なくなって来るけど、俺は久しぶりの旅なので今回ばかりは許して欲しいと思う。
「オレも協力するぞツカサ」
「あ、ありがと……ブラック、クロウ……」
「まあ僕はツカサ君の婚約者なんだし、これくらいは……ね」
ニヤリと笑ういつものブラックに、俺は改めて礼を言った。
でも、やっぱ我慢はさせてるんだから、二人の為に何かしてやらないとな。
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恋人である前にブラックは俺の仲間だし、クロウだってそうだ。
爛れた関係ではあるけど、やっぱり二人とも俺を気遣ってくれてるんだよな。
……欲に素直な二人に禁欲させるのは心苦しいが、でも、その……こ、今回は……言ってくれたら俺だって、その……手で、くらいは……。
「う、うう……ああもうあのっ、と、とにかく俺、先にお風呂入って来るな! 後でアンタ達の髪とか拭いたりちゃんと梳いてやるから、二人とも入る用意しとけよ!」
「はーい」
「ウム」
おおよそ普通の男じゃ考えない事を考えて気恥ずかしくなってしまったが、そんな話を二人に言えるワケもなく。
自分らしくないスケベな事を考えてしまったせいで、ブラック達の顔を見ていられなくて、俺は早足で部屋を出てしまった。
「ぐ、ぐぅう……禁欲って言っといて、手コキって……」
でも、手コキって禁欲の内に入るんだろうか。
…………いや、ブラック達が我慢してるんだから……禁欲だよな、たぶん。
少々禁欲の定義に対して疑問が湧いてしまったが、それも些細な事だろう。
ともかく、これで明日からは安心だ。ゆっくり足を伸ばしてベッドで寝られるぞ。
そう思うと妙な解放感を覚えてしまい、俺は人のいない廊下である事を良い事に、ついついスキップなんかをしてしまうのだった。
ツカサが部屋を出て行ったあと、ベッドの上に座ったままのブラックと、その横の床に座り込んだ熊男は、二人でドアの方をじっと見つめていた。
「……で、本当に禁欲するのか?」
疑わしげな声を向けて来る相手に、ブラックは視線だけを寄越して目を細める。
「ナトラ教にさ、禁欲せよって教義なんて存在しないって……お前知ってるか?」
「いいや、初耳だ。そもそも人族の矮小な宗教なんぞ知らん」
相変わらずの人族に対しての謎の上から目線だが、その台詞も今は小気味いい。
ブラックはクスリと笑うと、細めた目をいやらしく弧に歪めた。
「言葉の抜け道なんて嫌ってほどあるのに、ホント可愛いよ」
そう、本当にブラックが手に入れた唯一の伴侶は愛らしい。
こっちが「禁欲する」と言ったら、それだけで喜んで無邪気に部屋を出て行った。
いつまで、どこまで、どのようにして禁欲するのか。そんな事も決めずに、ただ曖昧な言葉として約束をしただけなのに。
(ホント、ツカサ君って騙されやすくて可愛いなぁ……)
いっそ哀れになるほどお人好しで、人を疑って考えると言う事すらしない。
だが、そういう愚かで無知で無邪気な思考が、愛おしい。
「まあ、同意だな」
そう言って舌なめずりをする熊公。この男も、ブラックと同じような妄想をしているのだろう。ツカサがこの先、自分達に組み敷かれる時のことを。だが、それもまた仕方のない事だった。
なにせ、自分達を幼稚な言葉で罵りつつ泣き喚きながら犯されるツカサを想像するのは、それだけで己の興奮を煽る良い「おかず」になるのだから。
(それくらい当然だよねぇ。だってツカサ君たら最近行って帰ってばっかりで、僕が我慢してるのに気付いてくれないんだもん。……婚約者の僕を散々ヤキモキさせたんだから……このくらいのワガママは当然だよね、ツカサ君。だって、今まで散々僕に『禁欲』させてたんだから)
ツカサの言う「禁欲」は、今回の旅の中での事だろう。
だが、ブラックは今までずっと禁欲を行って来た。ツカサが異世界に帰っている間の数時間の繰り返しのなかで、ずっとツカサに対しての欲を我慢していたのだ。
それをすっかり忘れて「禁欲」などと言うのだから……これにはさすがのブラックも我慢ならない。恋人に我慢をさせているのだから、それをツカサも考慮してもっとブラックに優しくすべきなのだ。
例えば足を開いて恥じらいつつ誘ってくれたり、風呂で娼姫のようにそのむっちりした柔らかい体を使いブラックの体を洗ってくれたり、それかツカサに首輪を嵌めて疑似奴隷遊び……いや、それは置いといて。
まあ「して欲しいこと」は色々とあるが、ともかくブラックは今までずっと我慢をしていたのだから、今回は多少の意地悪をしても許されるだろう。いや、むしろ、今のブラックのこの事実を言えば、ツカサは絶対に顔をションボリさせて謝ってくれるはずだ。例え、自分が理不尽に犯されたとしても。
ツカサは、そういう優しくて易しい子なのだ。
「ふふ……どこでやろうか……楽しみだなぁ」
「しばらくは退屈な道だから愉しみも必要だろう。良かったな」
ツカサを怒らせるだろう事を考えているのに、このベッドの横に胡坐をかく熊獣人は、愛しい相手の気持ちよりも自分と共謀して欲を満たそうと考えている。
だが、そういう相手だからこそ、ブラックも安心出来るのだ。
ツカサとブラックの関係を絶対に肯定する、群れの中の二番目の雄。
相手がそう自分を位置づけているからこそ、ブラックも熊公のその殊勝な心がけに応じて「おこぼれ」を食わせてやっているのである。
憎たらしい恋敵ではあるが、そういう意味では共犯と言っても良いだろう。
(まあ、それはどうでもいいけど……とりあえず今は、ツカサ君を油断させるために『禁欲』してるふりでもしてあげようかなっ。その方が、抱き締めたりキスをしたりするのもやりやすくなるし……)
そう、性欲を出さなければ、ツカサはキスも拒まないのだ。
どうも恋人同士の甘い雰囲気という物に幻想を持っているらしく、二人きりの時に体を寄せて愛を囁くと、恥ずかしがりはするが喜んだりする。
ブラックとしては何が違うのかと疑問だが、それでもツカサとイチャイチャするのは悪い気はしない。ずっと密着できると言うのもまた至福ではあった。
しかし……抱き着き放題キスし放題というのも中々に危ない気もする。
だが、それを許しているのはきっと自分と……まあ、横にいる駄熊にだけだろう。同性に対して意識を向けないツカサは、男に抱き締められても嬉しがることはない。
ブラックにだけ、この自分にだけ、ツカサは体を委ね摺り寄せてくれるのだ。
(それもこれも……僕がツカサ君の大好きな恋人だからだよね……!)
恋人だからこそ、ツカサが「好き」と思っているからこそ、ブラックの行き過ぎた欲望もツカサは受け止めてくれる。怒ったとしても、最後には許してくれるのだ。
全ては、ツカサが自分を愛してくれているから。
……そう思えば、ブラックは良い気分になって先程の不満も霧散してしまった。
「はぁ~、早く風呂の順番こないかなぁ。ツカサ君に触って貰いたい……」
ベッドに重い体を投げ出して、頭の後ろで手を組む。
今日の所はセックスもお預けだが、しばらくは平気で同衾してくれるだろう。
なにせ今後数日は、どれほどブラックが体を密着させても、抱き締めても、恋人のじゃれあいだと思って許してくれるのだから。
ああ、本当に可愛くてたまらない。
(ふふ……最近は恋人同士らしいイチャイチャなセックスが多かったし……たまには刺激的なのも良いよね、ツカサ君……)
さて、どうやって驚かせてやろうか。
きっと彼の事だから、十割の確率で驚き泣き喚いてくれるだろう。
……改めて思うツカサの無防備さに、笑いが込み上げてしまうブラックだった。
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