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巡礼路デリシア街道、神には至らぬ神の道編
3.巡礼者を労う宿にて
しおりを挟む巡礼路【デリシア街道】――――そう言われるのには理由がある。
……まあ、そう言われるのに理由がないワケが無いんだが、それはおいといて。
「巡礼」などと名が付いている事から分かるが、俺達が歩いているこのだだっ広く人気のない道はその名の通り、宗教の総本山へ向かう道なのである。
その総本山とは、この大陸で最大の信者数を誇る、博愛と献身の【ナトラ教】だ。
俺の世界じゃ総本山と聞くと悪いイメージも持ってしまうものだが、このナトラ教は珍しく清廉潔白がモットーらしく、信者達もほとんどが教義に準じているようなので、俺達のようにうがった見方をする人は少ないようだ。
少なくとも、俺が以前の旅で出会った教徒さん達は、みな良い人たちだった。
なので、個人的にはナトラ教に悪いイメージは無いのだが、この道の事を説明してくれたブラックからすれば「偽善者面で“施し”と言う名のもとに見下してくる、一番タチが悪い奴ら」とのことで、何だかもうそりゃまあ価値観が違うんだなとしか言いようがない言い方をしていて……そ、そういう一面もあるのかなぁ……。
まあ、俺は表面的なことしか知らないので、ブラックの言う悪い意見を体現する人も中には居るのかも知れない。
しかしそんなツレも「不正などの話はあまり聞いた事がない」と太鼓判を押す程度には、やっぱりナトラ教は優等生な集まりだった。
信者が多いと腐敗しやすいと聞くが、そうなってないのは驚きだよなぁ。
まあ、この世界のナトラ教以外の宗教って結構バイオレンスだから、穏便な宗教に入ってやりすごしたい人が入ってるからってのもあるのかも知れない。つーかだから最大になったんだろな。この世界って結構力こそパワーな感じの世界だし……細腕の女の子も俺の十倍か百倍か力があったりするし……。
…………異世界って宗教もマッチョなのなんで……?
と、ともかく。
そんな【ナトラ教】の総本山が、このデリシア街道の先にあるってワケだな。
俺達は素通りしちゃうけど、ブラックが言うには秋の月には巡礼者がごった返して道が砂利敷きに見えるくらい人で密集するんだそう。
なんか、年に一度ナトラ教の総本山にあるナニカが御開帳されるらしくて、要するに祭りみたいなものが行われるんだろうな。
だけど、今は何もないから閑散としている。
まあ総本山の薬師とか医師に用がある人はいるらしいんだけど、そんな人も王都への道路と比べるとごくわずかなんだとか。
それゆえ、巡礼路沿いにある村も、この時期は何だか寂しい感じだった。
丸一日、起伏も無く緩やかな蛇行ばかりを繰り返す草原の道を歩いて、色変わりをした日が落ちかけている時刻、俺達はようやっと一日目に泊まる村に到着したんだけど……そこそこ人口が多い村にも関わらず、村の中の人通りは少ない。
日が暮れる時刻だし、みな家に帰ったのだろうかと思ったらそうでもないらしい。
村の入り口で警備をしているおじさんが言うには、この時期は交替で街への行商に行ったりして人が少なくなっているので、こんなに閑散としているのだそうな。
働き盛りの人は出払ってるってことか?
それじゃならず者に襲われるんじゃないかと少し心配になったが、この村も他の村と同じように、夜は【結界】を発生させる曜具(魔道具みたいなものだ)を使って獣を寄せ付けないようにしているし、なにより巡礼路だから賊の心配は無いとの回答を頂いた。前者は分かるけど後者がちょっと理解しがたい。
巡礼路だと補正が掛かるんだろうか。そんなゲームシステムみたいな……。
思わず心配になってしまったが、おじさんは「もう日が落ちるから早く入りな」と俺達を急かして、村の中へ追い払ってしまった。
うーん、本当に大丈夫かなぁ。おじさんが凭れてた所だって、古びて微妙に傾いた木の柵だったし、その柵もすっごい簡単で全然村を囲う壁の役割果たせてないし。
いやでもこんだけ警備がゆるゆるで良いんなら、本当に安心なのかな?
まだちょっと疑ってはいるが、そこまで言うならまあ信じてみるか。野宿より絶対にマシだろうしな。そう思いつつ、ふと正面を見やると――小さな畑の合間に民家が並ぶのどかな道の先に、広場と特殊な建物が見えた。
「あれって…………えーと……教会?」
旅の荷物が入ったリュックを担ぎ直しつつ、今一度確かめる。
木造で、一見したら三角屋根の少し大きな家……にしか見えないが、両開きの扉の上には確かに見覚えのある紋章が打ちつけられている。
十字架に掛かる特徴的な欠けた円。あれは、ラクシズでも見かけた【ナトラ教】のマークだ。
巡礼路だから、村にもこんな立派な教会が在るのかな。
そんな事を思いながら三人で広場に近付くと、丁度中からシスターさんらしき人が出て来た。恰幅の良いふっくらしたおばさんだ。
「ちょうどいい、宿が無いか聞いてみるか」
クロウの言葉に頷くと、ちょうどおばさんも俺達に気付いたのか声を掛けて来た。
「あらあら、こんな時期に旅の方なんて珍しい。さ、お入りください」
「えっ、あ、でも俺達ナトラ教の教徒ってワケじゃ……」
回復薬は持てるだけ持ってるし、材料の一つである聖水は今必要ないんだよな。
ブラックが言うには「教会に入ったら冒険者は勧誘される」らしいので、早くお暇しないと……なんて思っていると、おばさんは大きく笑って手を振った。
「ああ、そうか。アナタ達は巡礼路は初めての旅人さんなのね。ここは教会だけど、旅の人には宿として解放しているの。もちろんお金はいらないから入って」
「ほ、ホントにお邪魔してもいいんですか?」
招かれたのならまだアレだが、無料で宿として使っていいと言われると、なんだか申し訳ない感じがしてしまう。しかも怪しい男三人とか大丈夫だろうか。
冒険者って人によっては怖がられるし、こういう素朴な村の女の人だと、内心ではストレスになっちゃうんでは。
シスターのおばさんも無理しているのではと心配になったが、彼女は特段そんな風に怯える様子も見せず、大きく扉を開いて俺達を招いてくれた。
「ちょうど今日は食糧庫の整理してたから、アナタ達は他の旅人よりも豪勢な食事を食べられるわよ。さあ、荷物は適当にそのあたりに置いて」
そう言いながら、シスターのおばさんは「食料を取って来るわ」と言って、教会を開けっ放しにしたままどこかに行ってしまった。
え……えっと……。
「食事も付いてる……ってこと……? え、でも、いいのかな……」
素泊まりだと思っていたので、ここまで良くして貰うとやはり申し訳ない。
これには流石に驚いているらしいクロウと「泊まって大丈夫かな」と顔を見合わせてしまったが、ブラックは俺達に構わず急に「あっ」と声を上げた。
「そっか、ここはホスピスなんだ」
「え? ほすぴす?」
変な音階で聞き返してしまったが、自分一人で納得してしまったらしいブラックは、憂いの無い顔でずんずんと教会に入って行ってしまう。
どういう事だと慌てて付いて行くと、ブラックは等間隔に並んでいる細長い椅子の一つに荷物を降ろし、やれやれと言った様子でそこに座った。
「要するにね、ココは巡礼者のために造られた簡易宿泊所なんだよ。教会になってるのは、恐らくその費用をナトラ教が持ってるからだろうね」
「簡易宿泊所……でも、あの人、俺達は冒険者だって分かってる風だったぞ? それなのに無料で寝床もメシも用意してくれるの?」
「ムゥ、面妖な」
そりゃ、博愛がモットーのナトラ教なら無料宿泊所を作ってもおかしくないけど、冒険者にまで解放するってのはやりすぎじゃなかろうか。
奉仕し過ぎだろとクロウと一緒に顔を歪めてしまうが、しかしブラックは「それがあいつらなんだ」と難しげな顔をして何度か頷いた。
「元々は、乗合い馬車もない時代に徒歩で総本山に向かう教徒を労う宿だったけど、今は関係ないんだよ。ナトラ教には寄付が溢れてるし、そもそもここは常春の国で、食料には事欠かない。それに、冒険者が通りやすくすることで、モンスターの駆除をやってもらうって寸法なのさ。だから、巡礼路を使う冒険者にも優しいんだ」
「なるほど、持ちつ持たれつ……」
「冒険者が道を通れば、村に近付くモンスターも減ると言うわけか」
「まあ、主要道路にはモンスター避けの曜具が設置されてるけど、いつ強力なヤツが来るとも限らないしね。安全を得るためには施しも構わないんだろう」
だから、僕達は気楽に毛布でも待てばいいよ、と椅子にごろ寝するブラックに、俺は「世の中うまく出来てんなぁ……」と感心するしかなかった。
これってアレだよな。共生関係ってヤツだよな。
【ホスピス】が有れば、冒険者は路銀を節約するためにそこを通りやすくなる。
そしたら道に出てくるモンスターも駆除されて、巡礼者も村々も安全になりついでに行商人も増えて結果的に村を盛り上げる事に繋がる。
旅人のもてなし自体はナトラ教がしてくれるから、村人は彼らに優しくするだけでオッケーだ。そしたら冒険者達は気分が良くなってまた道を使おうと思うワケで……いやホント、なんつうか良く出来ている。
冒険者って煙たがられる事も多いから、こういうの嬉しいだろうしな。
「ブラックは【ホスピス】に泊まった事あるの?」
さっきのは明らかに思い出した風だったし、たぶんあるんだよな。
パンパンの重たいリュックを降ろしながら何の気なしに問うと――ブラックは口をモゴモゴと動かして「まあ、昔ね」とだけ呟いて視線を逸らした。
…………過去の諸々になんか関係あんのかな。
まあ、その……初っ端から重い空気にするのもなんだし、追及はすまい。
今回は旅を楽しみたいんだ。なるべく気楽にいかないとな!
ってなワケで気を取り直して、俺は戻ってきたシスターのおばさんを感謝の気持ちで少し手伝いつつ、教会でたまに食べられると言うお料理をごちそうになった。
「さあ出来た。たんとおあがり」
少し質の悪い汎用的な蝋燭を、燭台にいっぱい立てて明るくした室内。
古びた木製のテーブルが置かれた小さな部屋で、シスターのおばさんが料理を並べながら「遠慮しなくて良いからね」と大皿を俺達の前に置く。
皿の上では、なんとも素晴らしい料理が湯気を立てていた。
「あの、これ本当に食べて良いんです? 鳥の丸焼きなんて……」
「私もご相伴に預かりますけどね、それで良かったら是非。それに、今月の内に消費しておかなきゃいけない干し鳥だったから、食べてくれるのが助かるのよ。この量はおばさん一人じゃ食べきれないでしょ?」
困り顔で笑うシスターさんは、俺の世界の近所の世話焼きおばさんと一緒だ。
その笑顔にすっかり気が緩んでしまって、俺はつい皿を差し出していた。
クロウもフンフンと鼻息を荒くして肉に大興奮だ。
そんな様子にシスターさんは笑いながら、丸焼きにした鳥を切り分けてくれた。俺達には、自分のよりもだいぶ多めに。
「いただきます」
「いただくぞ」
「…………」
こらブラック、お前本当人見知りするな。
いやしかしこの世界は「いただきます」とか言わない奴が普通なんだっけ。
でも御馳走になったからには、俺が後でちゃんと「ゴチソウサマ」くらいは言わせちゃるからな。一宿一飯の恩はオッサンにも絶対に示して貰う。
まあとにかく、今は丸焼きの鳥だ。
なんか鳥なのに四本も足が有ってびっくりしたし、干し鳥ってなんなんだ……とは思ったけど、実際に料理として出て来た物は物凄く美味そうでたまらん。
これは「四足鳥の塩包み焼き」と言うらしく、鳥の中に香草を詰め込み、塩と卵白で包んで焼いた料理だそうで、教会ではよく出される料理なのだそうだ。
どこの世界にもある簡単な調理法だけど、実際出されると「不味いはずがない」と確信出来てしまうくらい美味そうなのが驚きだ。
ああ、丸焼きってどうしてこんなに男のロマンを誘うんだろう。
二股フォークとナイフで裂くと、すんなり肉が離れるほど柔らかい。
思わずかぶりつくと、パリッとした鳥皮のわずかな弾力と旨味が染み出し、淡白な鶏肉と相まって震えが来るほどの美味さが襲ってきた。
「んっ、ぅまっ……あっ、お、美味しいです!」
「うま、んまい」
「……まあ、こんな村で食べられるとは思えないくらいは美味いな」
ガツンと来る「肉の味」には流石にブラックも勝てなかったのか、素直に褒める。
そんな三者三様の俺達にシスターさんは苦笑して飲み物を注いでくれた。
「いい食べっぷりでおばさん嬉しいわあ。秋の月以外は宿泊者が少ないから、本当に退屈なのよねぇ。食料だって余ってたまに腐らせちゃうし……だから、今日は巡礼路を歩いて来てくれて本当に嬉しいわ」
最近は馬車での移動も多いので、徒歩の冒険者も少なくなってしまったらしい。
こういう異世界でも、便利さによる「ナントカ離れ」ってのは起きてるんだなあ。
そんな事にしんみりしつつも、俺達は旅の話や巡礼路の日常を肴に、謎の鶏肉をたっぷりと堪能したのだった。
……ブラック達は強めの葡萄酒とやらを飲んでやがってゴキゲンだったな。
俺はシスターさんが気を利かせて葡萄……酒の酒成分が少ないジュースみたいなのを飲ませてくれたからいいけど。良いけどね!!
まあともかく、存外どころか僥倖とも言えるもてなしを堪能した俺達は、シスターさんのご厚意で毛布だけでなく敷布まで貸して貰ってしまい、今日の所は教会の聖堂に失礼ながらも寝かせて貰う事になった。
……とはいえ一宿一飯の恩でコレはさすがに申し訳ない。
オッサン二人は手伝う気が無いらしいので置いといて、俺は先程の食事の片付けや皿洗いなどを手伝う事にした。
このくらいしか出来ないけど、少しでも感謝を返さないとな。
「本当にごめんなさいねえ、旅人のアナタにこんな事させて」
「いえいえ、俺が好きでやってる事ですから……」
「ふふ、アナタみたいな人も多いのよねえ。だから冒険者の人は好きなのよ」
そう言ってシスターさんは笑うが、たぶんその人達シスターさんの姿に自分の母親を思い出してるんだと思います……。
こんだけ良くしてくれるおばちゃんが居たら、なんか故郷を思い出しちゃうもの。
基本、荒くれ者ばっかりの冒険者が手伝うなんて、そういう理由しかないだろう。
やっぱ冒険者も人の子だなあ。
「にしても、そんなに人が少ないなら秋の月ってどんぐらい人が来るんですかね」
「そうねえ……この教会が満杯になって、外に人があぶれるくらいはいるわね。連日ごったがえすから、その時は村総出で宿に早変わりよ」
この村ってわりと広めなのに、それが人でぎゅうぎゅうになるのか。
それは……何と言うか、あんまりお目に掛かりたくない光景だな……。
「な、なんか大変っすね……。でも、何でみんな、そんなにしてまでナトラ教の総本山に行きたがるんですか? なんか御開帳があるって話でしたけど……」
素朴な疑問を口にすると、シスターさんは優しく答えてくれた。
「ええ、年に一度総本山の【奥ノ院】が開かれて、一般の人も女神ナトラ様の奇蹟を目に出来るようになるのよ。そこに参れば、一年安泰になると信じられているから、身分や職業関係なくみんな見に行くの。……まあ、お祭り気分で行く人がほとんどだから、そこまで堅苦しい行事でもないのだけれどね」
なるほど……俺の世界で言うなら初詣みたいなモンかな?
日本以外ならまた違った表現があるのかもだけど、これがしっくり来るな。
ナトラ教は信者が多いとは言うが、そういうゆるゆるな部分も関係してるのかも。
妙に納得してしまい、俺はスッキリとした気持ちで皿洗いを終えると、ブラックとクロウがごろ寝している聖堂へと戻った。
ああ、こっちは蝋燭もなにも付けてないからすげー暗い。
水琅石の明かりは明るいけど、やっぱり周囲が暗闇だとポツンと光が在るみたいで、ちょっと寂しい気持ちになっちゃうな。
「んもう、ツカサ君たらやんなくても良い事して……」
戻ってきた俺の腕を引くと、ブラックは隣に寝かせようとする。
あんがい分厚い敷き布のお蔭で床についた膝は痛くないが、そのまま強引に寝転がされてしまった。
靴を履いたままだけど……まあ、いざって時があるから仕方ないか。
「どこ気にしてるのさ。こっちみて」
「あっ」
大きな手で顔を包まれて、強引にブラックの方へ顔を向かされる。
「……次は普通の宿が有ったらソコ泊まろうね」
「な、なんで……」
無意識に声を小さくしてしまうと、ブラックは不機嫌そうに目を細める。
ちらちらと揺れる水琅石のランプの明かりに菫色の瞳が揺らいで見えて、妙に胸が騒いでしまうが……そんな俺の状況を知ってか知らずか、相手は子供のように分かりやすく口を尖らせた。
「せっかく邪魔者も……まあ、一匹いるけど……ともかく極力少ない旅になったってのに、毎回これじゃお預け食らい過ぎて僕我慢出来ないよ」
「そん……っ、んっ……」
そんな事を言ってる場合か、と言おうとしたのに、口を塞がれてしまう。
だけど、押し付けるように触れるキスはそれ以上深い事などせず、ブラックはもう一度俺をジッとみやると動けないように抱き締めて来た。
「あーもー、ツカサ君朝になったらこっそりヌいてよねっ」
「フガッ、な、なんでだよ!」
「だってツカサ君がいけないんだよっ! 僕がこんなに我慢してるのに、すぐ可愛い顔して僕のこと誘惑するから……」
「してねえっての!!」
バカなことを言ってんなよとブラックの顔を睨みあげるが、相手は尖らせた口でちゅっちゅっと顔に吸い付いて来て、会話のキャッチボールもままならなくなる。
だから、ヒゲが、夜は濃いんだってっ。
ええいやめんか寝られないだろ!
「あは……ホントわかりやすいなぁ」
「な、なにが」
「ほっぺ、すっごく熱持ってるよぉ。暗くても分かっちゃう」
「ぐっ……」
ば、馬鹿野郎そんなわけあるめえよ。これは暴れたから熱くなっただけだ。
何を言ってるんだお前は、と俺は平静を装おうとしたのだが。
「ふふ……まあ、ツカサ君が僕のことを大好きなのに免じて、今日のところは同衾で我慢してあげるかな」
「な、なにが我慢するだっ。野宿じゃこんなに快適に寝られないってのに」
今日おふとんで寝られるのは、ホスピスのシスターおばちゃんのおかげだぞ。
そう言って睨むと、ブラックは「そういう事じゃないんだけどなぁ」と呆れたように眉を上げていたが……それでも満足したのか、俺を抱えたまま目を閉じた。
「ツカサ君おやすみぃ」
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「…………いや、教会の中で何考えてんだか……」
「ん?」
「な、なんでもない!」
改めて考えて、自分がどんなにヤバい事をしているのかと思ってしまい、体中がカッと熱くなってしまったが……その恥ずかしさを必死に堪えて俺は目を閉じた。
無料宿泊所ってのはありがたいけども、後ろ暗い事をしている人間にとっては凄く居た堪れないお宿だよな、ホント……。
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