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交易都市ラクシズ、綺麗な花には棘がある編
報告・提案・思惑2
しおりを挟む「結論から言うと、あの遺跡で仕入れた情報はほぼ事実だ。そして、アーゲイアに、女神・イスゼルの使徒である【ポートスの一族】らしき存在が過去に流れ着いていた事も確認された。多数の書物を擦り合せた推測だが……現在アルフェイオ村に住む【ポートスの一族】と合致する特徴が多く、これは間違いないだろう。やはり、巨人と契りを結んだ女は、イスゼルや遺跡と繋がりが在ったようだ」
「やっぱり……」
“アーゲイア”ってのは、俺とブラックが滞在した街だ。
知性ある【百眼の巨人】というモンスターと、一人の女性が恋をして結ばれた伝承が残る、特殊な薬草が採取できた辺境の大きな街だったんだよな。
だけど、その街の伝承はただの伝承じゃ無かった。
巨人と結婚した“とある女性”は、アルフェイオ村という山岳にひっそりと隠れ住む【ポートスの一族】と同じ血が流れている人で、彼ら一族は【虹の女神・イスゼル】と交信できる力を持った特殊な流浪の民だったから……モンスターと契り子供を成す事を神に許されて子供をもうけることが出来たんだよな。
最初は彼女の一族の名前なんて分からなかったから、特異な伝説だなって思う程度だったけど、今となってはその『神と交信する』力は【ポートスの一族】が古くから行っている祭りと同じ物だと理解出来る。彼女は、ポートスの巫女だったんだ。
それが分かれば、あの【サウリア・メネス遺跡】でブラック達が教えて貰ったとか言う色々な話とも繋がって来る。何だか今でもちょっと信じられない話だけど、今回ライクネス王国で遭遇した事件の二つともが、ちょうど【ポートスの一族】絡みだったんだよなぁ。
しかも、この女神イスゼルってのが、厄介な【偽書・アルスノートリア】を作ってしまった張本人だって話で……。
……うーん、なにか図られているような気もするけど、気のせいだろうか。
ともかく、最初は「何らかの繋がりがあるんじゃない?」程度の感じだった二つの事件が【ポートスの一族】で繋がり、その一族が信奉する女神の創造物が、つい昨日俺達と明確に対峙したってことは……もう、四の五の言ってられないよな。
きっと、どんな形であれ、俺達は今後あいつらと関わる事になっちまうんだろう。
とはいえ、こんな風に繋がるなんて思ってなかったけど……。
ああ~……何だかやっぱりヤ~な大事件に巻き込まれているような気がする。
勘弁してくれ俺は異世界で悠々自適に旅がしたいだけなのに。
もう【黒曜の使者】の事で巻き起こった事件みたいなのはコリゴリだよぉ。
思わず頭を抱えてしまったが、ラスターは構わず――というかタイミングよく、今こっちが考えていた事に関する話を続けた。
「それと【アルスノートリア】だが……これも我が偉大な国に保管された膨大な記録と照らし合わせた結果、これも“ある時代”に、そのような存在の記述があった。……まあ……これは、今日のお前達には今更な話だろうがな。しかし、ここまで繋がりが見えれば、最早【アルスノートリア】は既に選定され、暗躍しつつ俺達を付け狙っていると見ていいだろう」
ラスターの断定的な言葉に、俺達は顔を見合わせる。
「ホントに? マジで今までのことすんなり鵜呑みにしていいの?」
かなりハッキリと肯定したけど、そう言いきってしまって本当にいいのだろうか。
あまりに思い切りの良いラスターを見て逆に不安になってしまったが、相手は確信があるのか、俺達の表情に「さもありなん」と頷きながらも続ける。
「口だけでは信じられんだろうから、該当する記述のある書籍の中でもっとも詳細な項目がある物を持って来た。本来ならば帯出は禁じられているが、この高貴であり王の信頼も厚い俺だからこそ許しを得て持ち出せた事を肝に銘じ」
「ああもう良いからはよ出せ!」
ったくもうこのナルシスト美形、ことあるごとに自画自賛しやがる。
けれどもそれがラスターらしくも有るので、前回コイツと色々あった俺としては、ほんのちょっと……いやホント、1ミリ程度はホッとしちゃうんだけどな。でもミリ単位だから。ホントにそんぐらいだけだからな。
心の中で必死に否定しつつも、俺達はテーブルに広げられた巻物をみる。
やっぱり古いせいでところどころ変色しているが、虫食いやボロボロになった所は見られない。パッと見「古代の遺産」とは思えないくらいに綺麗だけど、そう思えるほど巻物は大事に保管されていたんだろうな。
そこまで大事にってのは色々考えてしまうが……今はそんな場合ではないか。
巻物には文字がつらつらと書き連ねられており、どうも俺達が知っているこの世界の文字とは少し違うようだ。
俺を抱えたブラックが「古代文字か?」と呟いていたので、もしかしたら今の文字になる前の段階の物なのかも知れない。古文的な感じ?
でもこれじゃ何がかいてあるのか俺にはちょっと分からないな。
どうしたものかとラスターの顔を見やると、相手は俺が言いたいことを解っていたのか、丁寧に説明してくれた。
「これは、少し特殊な文字で書かれた古文書だ。ここで解読方法を教えるのは時間が掛かるゆえ口で言うが、中盤のこの部分にこう記述が在った。
『第三の乱世、二百三十年。力の神・ジェインの名のもとに、圧倒的な力が美徳となり弱きものは虐げられる。これを憂慮した黒髪の乙女、神に抗う力を用いて巨悪と呼ぶべき【七つの災厄】たる【グリモア】を討たんがため奇跡を行使する。
乙女を奉る民から選ばれし【七人の使徒】は美徳を備え、これにより【グリモア】の力を捻じ伏せ、儀式により封印に成功する。やがて【七つの災厄】は伝播をやめ【七つの魔導書】となり、永久に“昏き神殿”へ封印された。
乙女、この功績を讃えられ【イスゼル】の名を賜り、魔導書の守護者・神託の巫女として【オッターバーナル】の守護女神となり“光の民”の永久の統治者となった』
――――この光の民と言うのが、恐らく【ポートスの一族】だと思われる。簡単な対訳したため意味が違って聞こえるだろうが、ポートスは古語だ。かつての言語では光という意味があるらしい。まあどちらにせよ、イスゼルを信奉する民の祖先である事は明白だろうな。虹の女神はかつて人だったようだ」
ラスターは指をゆっくりと走らせながら該当の箇所を読み上げてくれたけど、なんだかスケールがデカすぎて過去に実際起こった事とは思いきれない。
いや、異世界なんだからこんな事が起こってもおかしく無いんだけど、俺の世界の神話よりも“お伽話”な感じがするのは何故だろうか。
……って、問題はそこじゃなくて。
「グリモアが……七つの魔導書になった……?」
「待て、グリモアというのは最初から魔導書だったわけじゃないのか」
そうそう、それだよ。オッサン二人が言っている事を、俺も思ったんだ。
だって、グリモアは名前の通りもとから【魔導書】だったんじゃないのか?
最初に彼らを創造した【黒曜の使者】がそう名付けたとばかり思ってたけど、本当はそうじゃないのかな。
よくわからなくてラスターを見やるが、相手もその辺りは分からないと言った様子で柳眉を不可解そうに歪めていた。
「そこは判然としない。……そもそも、イスゼルという存在に関する記述は少なく、この【オッターバーナル】という地名も陛下は初耳だと仰っていた。すべてを把握しておられる陛下が地名を覚えていないとは考えられない。仮に古代の地名であっても、記述が在ったのなら我が陛下は覚えておられるはずなのだが……」
「お前の親玉の脳みそは巨大図書館かよ」
うんざりしたような顔で言うブラックに、ラスターは不機嫌に返す。
「うるさいぞ、小汚い中年冒険者め! お前の一族も同じようなものだろうが。……ともかく、この古文書も最近宝物庫の中から発掘されたものなのだ。……実際、この件に関しては不可解な所がありすぎる」
「はー……。結局この程度か。これじゃあ事件に繋がりがあるって可能性が強まっただけで、それ以上でもそれ以下でもないままじゃないか」
そう言いつつ、ブラックは呆れ返ったような声を吐き出しながら額に手を当てるが、妙に勝ち誇ったような感じがするのは何故だろうか。
硬くて居心地の悪い膝の上に座りながらも眉根を寄せていると、ラスターは反撃をするかのように背筋正しく立ったまま腕を組んで見せた。
「そうでもないぞ。重要なのは実在ではない、記述だ。現に古文書にはハッキリと、我らグリモアとアルスノートリアの確執の始まりが記されているだろう。……と言う事は、今回の件はやはり……お前達を害するために起きたのかも知れないぞ」
「偶然立ち寄った場所で偶然に?」
「考えても見ろ。この国が所有する【黄陽のグリモア】以外のグリモアが再び出現し代替わりをしたのは、たかだか数十年の間だ。その先代だって、長く封印されていた【魔導書】を揺り起こして適任者を宛がった者達だった。つまり、先代のグリモアが目覚めるまで、少なくとも数百年以上の空白期間が在ったんだ」
「…………」
そう言えば、そんな話だったような気がする。
だけど、それをラスターに指摘されたブラックは、何故か口を噤んでいた。
いつもなら平気で言い返すのに。
「それが今改めて散らばり、この完璧な俺を選んだように、各々の魔導書が新しい【支配者】を選んだ。……俺達が、今世最初の【グリモア】ではない。……先代で『七人のグリモアが揃った』ことで【アルスノートリア】も目覚め、今の今まで我々を打つ準備をしていたという可能性もある。何せ我々は光の民にとっては許されざるの敵のようだからな」
先代。
前の代の【グリモア】って……もしかして、ブラックがパーティーを組んでたって言う人達の事なのかな。他の人は今どこにいるのか解らないけど、ブラックやシアンさんはその時にはグリモアだったはずだよな。
今の発言にブラックが反応しないってことは……ホントのこと、なのか?
なら、ラスターの言う通り確かにその時【グリモア】は七人揃っていた事になるし、今までの事件の潜伏期間の長さから考えたら、今やっと事件が芽吹いたと言えなくもないんだけど……しかし、本当にそんなことがあるんだろうか。
ラスターの考えた通りなら、例え先代の【グリモア】によって引き起こされた事件だったとしても……やっぱりコレは俺らが原因って事になるよな。要するに、相手は【グリモア】や【黒曜の使者】相手に喧嘩を売ろうって考えてたんだから。それならそれで、今までの事件の謎も解けて色々スッキリしない事も無いんだけど……。
「でも、あの【菫望】は、偶然だって感じだったぞ?」
俺達と対峙したアイツは、どうもこっちを標的にした感じではなかった。
むしろ、偶然出会ったからおちょくったみたいな……なんかイラッとするな。
いやそんな場合では無くて、とにかく計画的な感じでは無かった。
そこの所はどうなんだとラスターに問いかけると、相手は肩を軽く揺らした。
「全てが全て我々への罠……というわけでもないのだろう。長き封印の時を経て再度グリモアが全員集結したのだって、高々数十年前の話だ。こちらが【黒曜の使者】であるお前が揃わねば纏まらなかったように、あちらにも何かの不都合が有って、種は撒いたが未だに芽吹き切れない状態なのかも知れない」
「…………」
そう言われると、何とも言えなくなる。
だって【菫望】は術の実験がどうとか言っていたし、だとしたら、アイツ自体は、つい最近【アルスノートリア】になったのかもしれない。
アッチだって七人も存在するんだから、メンバーが全員揃うまで活動しないなんて事は無いだろう。一人でも一騎当千の力なんだし、あの【菫望】以外にもヤバい奴が既に現れていて、俺達を罠にかける為に色々仕込んでいたのかも。
だとしたら……アルフェイオの領主の館で見た、宙に浮く黒いローブの何者かは、間違いなく【アルスノートリア】って事になるんだけども……。
「…………相手の事を知る術は何かないのか?」
クロウの言葉に、ラスターは少し悩んで唸る。
「現状、対策が見つからんな。こちらからすれば、相手は未知の存在であって情報も限りなく少ない。せめて【オッターバーナル】という土地か“昏き神殿”という神殿の場所が分かれば相手の輪郭を掴めるかもしれんのだが……」
「ライクネスの誇る膨大な記録も意味なしか」
こらっブラック!
意味は無くないだろ、何だかんだで情報は出て来たんだし……。
ああでも謎がまたこんがらがってきてしまった。
「えっと……グリモアが魔導書になったってのも気になりはするけど……でも、今は【アルスノートリア】の方が先だよな。あっちのが実害出てるんだし、今までの事件があいつらの思惑だったんなら、どのみち俺達にも関わってくるんだろうから」
「そうだな。このぶんだと、他国にも何か“種”を巻いている可能性がある。なので、これからその件について各国に書簡を送ろうと思っている。……まあ、これから引き起こされる事件だろうから、探っても無駄なのかも知れないが……異変に気付く者が居ないとも言えないからな」
そう言えば、ライクネス王国から唯一選出される【勇者】という称号を持つ者は、国に保管されている【黄陽のグリモア】を受け継ぐのと同時に、各国から要請を受けてモンスターを討伐したり揉め事を解決したりできる、超法規的存在なんだっけか。
シアンさんが属する【世界協定】と似たような存在だけど、こっちが元祖だ。
だから、ラスターには他の国に独自で接触する権限が与えられているんだろうな。
まあそれも清廉潔白な存在だからこそ許される事なんだろうけど。
…………俺にとっては傲慢で危ないヤツだけどなコイツ!!
「オレ達は何もしなくていいんだな?」
話から逸れてプンスカ怒っていた俺だったが、さすがにいつも冷静なクロウは俺のように話の腰を折らず、一番大事な所をラスターに問う。
あ、そうそう、そうだよ。
アルスノートリアとかグリモアの事とか色々気にはなるけど、まずはソコだ。
俺達にもキュウマから賜った密命ってのがあるんだ。自由に動けないとなると、後々面倒な事になるからな。ここでハッキリさせておくに限る。
さて、ラスターの返事はどうだろうかと相手を窺うと。
「ああ、警戒しろと言っても相手の出方が分からん以上、街に留まっている方が逆に周囲を危険にさらしかねんからな。お前達は個人で旅をしていた方がいいだろう」
「じゃあ、お咎めなし? 俺達、出立して良いの!?」
思わずブラックの膝から飛び降りて再度問いかける俺に、ラスターは苦笑するような呆れたような顔をしながら頷いた。
「フッ……まあ、折りを見て情報交換する時間を設けて貰うつもりだが、それまではお前達も独自で旅をしていればいい。……相手が本当にグリモアを討伐しようとしているのなら、どこにいようがいずれは対峙するだろうしな」
「お、おっかないこと言うなよ……なあブラック」
討伐するなんて、まるでモンスターみたいな事を言う。
【菫望】には出遭っちまったけど、あいつら全員がグリモアを殺そうとしてるって決まったワケじゃないし、七人全員が襲い掛かって来るなんて、そんな……。
でも、先代の【グリモア】が居た頃から爪を研いでいたかも知れないと考えると、そう悠長な事も言っていられないのかな。
「…………」
ブラックはどう思っているんだろうと振り返って――――俺は、息を呑んだ。
「……ブラック?」
今まで俺を膝に抱えながらエヘエヘと笑っていたオッサンの顔が、何故か暗い影を落として思いつめたような顔で硬直している。
いつものだらしない顔じゃない、真剣な表情が気になって思わず手を伸ばすと――相手はすぐに顔を緩めて、俺の手を引いた。
「どしたのツカサ君」
「あ、え……いや……」
再び膝の上に軽々と乗せられてしまったが、なんだか何も言い返せない。
……さっきの表情は、一体何だったんだろう。
そうは思うけど、俺はあの表情に一つだけ心当たりが在った。
――――ブラックは、過去を思い出す時いつもああいう顔をする。
何か、思い出したのかな。気になる事でもあるんだろうか。
そう問いかけたかったけど、今はそれを聞けるような雰囲気じゃ無かった。
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