211 / 781
交易都市ラクシズ、綺麗な花には棘がある編
14.下手な言い逃れは身を滅ぼす1
しおりを挟む――――まあ、こうなってしまっては当然と言うかお約束だが、凄惨な殺人現場を発見してしまい警備兵に通報した俺達は、その後みっちり尋問……いや質問ぜめにあってしまった。
そりゃ、第一発見者がこんな怪しげな奴らなら、俺だって疑うし……第一被害者は「男」なら涎を垂らして欲しがる娼姫達だしな……女日照りに見える俺らが目撃者となれば、まず疑ってみようと思うのも無理はない。
だけどまあ、この質問てのがとにかく細かくてものすんごく長くてな……。
どうしてあんな場所に居た、なんで探っていた、依頼ならば誰が依頼したんだ……などなど、まあドラマや漫画で見るような事を聞かれたけれど、それを正直に話した所ですんなり納得して貰えるワケもなく。
八割がた「コイツら怪しいな、実は犯人じゃないのか」なんて顔をされながら、延々と質問され続けたのである。
いっくら俺達が怪しいからって、何時間も拘束は流石に度を越してるよぉ……。
俺の世界なら広義の一つも出来きたんだろうけど、しかしこの世界は兵士の権力が強いもんで、滅多にそんな愚痴は言えない。
なので、ブラックもクロウも大人しく質問攻めされてゲンナリしていた。
しかも今回はそれだけが原因で遅くなったんじゃない。
俺達の証言の裏を取るのにまた時間が掛かったんだよ。女将さんやゴーテルさんに頼まれた事とか、俺達が本当に三人だけで歩いて行ったのかとか云々……。
ここで女将さんが証言に来てくれて、俺がライクネスの王様から貰った天下御免の【庇護の腕輪】を見せなきゃ、潔白が証明できないとされて拘留されたままだったかも知れない。……今まで使い所がなかったが、初めてこの腕輪に感謝したよ。
女将さんにはナイショだけど、俺が両腕に黒いリストバンドをしているのは、右腕に装着したこの【庇護の腕輪】を隠すためでもあるのだ。
この腕輪は、今いるラクシズを治める貴族【フィルバード家】との繋がりや、王様の許可を示す細かい紋様が彫り込まれたゴツい金の腕輪で、ようするに水戸○門様の御印籠みたいなモンなのだ。もしくは永久フリーパスみたいなもんか。
ともかく、コレさえあればライクネス王国では大概何をしても許されてしまう。
……が、俺はこの通り小心者だし注目されるのも嫌なので、今まで使い所が無くて腕に封印したままだったのだ。しかしまさかこんな事に使っちまうとは……。
後から思った事だが、以前から仲良くさせて貰っているフィルバード家の御息女であるリタリアさんや、最近彼女の夫になった商人のラーミンさんに取り次いで貰っても良かったのでは……と思ったが、彼女達は今ハネムーンの真っ最中で不在だったのでどっちにしろ無理だったな。
うん、やっぱり腕輪を見せるしかなかったか……はぁ……。
権力ってヤなモンだけど、ありがたいモンでもあるよな。
でも早く帰りたいからって見せちゃった自分にちょっとばかり自己嫌悪だ。
例え、クロウが妙に厳しく尋問されてたからって、やっぱこんな風に強引に釈放を求めちゃだめだよなぁ……。確実にシロだって証拠を提示すべきだったんだろうか。
でも、そんな事言ってられないくらいの様子だったし……。
「……クロウ、大丈夫か?」
夜でも明かりが眩しい蛮人街の通りを歩きつつ、俺は左隣のクロウを見上げる。
すると、相手は少し元気がなさそうに熊耳を下げ気味にしつつ頷いた。
「む……平気だぞ。尋問には慣れてるからな。……が、久しぶりで少し落ちこむ」
そう言ってしょんぼりするのも無理はない。
だって、クロウが獣人だからって「お前が人族を殺して食ったんじゃないのか?」とか決めてかかられてたし、そのうえ「卑しい獣人の事だから……」なんてムカつく言い方されたりしてたんだから。
ソレが別室の俺のところにまで聞こえてくる有様だったんだぞ?
だから俺、つい我慢出来なくなって腕輪を出して水戸○門しちゃって……。
でも、こうなるなら早くやっときゃよかったよな。俺が我慢してたぶん、クロウに凄く嫌な思いをさせちまってたんだし……。
「ごめんなクロウ」
背中をさすってやると、少し気分が上がったのか、クロウの熊耳がピンと立つ。
その様を見ながら、右隣のブラックが深々と溜息を吐いた。
「ま、ライクネスじゃ獣人なんて珍しいし……乱暴で欲の権化でモンスターのようだと恐れられてるからなぁ。何一つ間違いないとは言え、触れた事が無いせいで余計に得体の知れない敵に見えてしまってたんだろうさ」
「その気持ちは分からないでもないけど……真面目に話してるんだから、質問だってあんな横柄な態度で言わなくても良かったのにな」
俺が口を尖らせて文句を言うと、ブラックは目を細めて同じように口を尖らせる。
「僕達冒険者だって、兵士や一般人からすれば獣人と似たようなモンだよ。根無し草で盗賊みたいな格好の風来坊なんて、一度見て信用出来ると思うぅ? だから、一回捕まるとこんな風にいじめられるんじゃないか。ねぇえツカサ君~っ、僕もなでなでしてよぉ~僕だってたくさん突かれてヤだったんだからぁ~!」
「あーもーはいはい! ったく図体ばっかデカいくせして子供かお前は!」
クロウに嫉妬したのか頭を押し付けてくるブラックも撫でてやる。
天下の往来でオッサン二人に何をしてるんだろうと思うが、まあ……蛮人街なら道に倒れて寝ている人や変な事してるひともいっぱいいるし、夜なら暗いから……今はその……まあ、二人ともヤなことされたみたいだし……撫でるくらいは……。
「グフゥー……ぐるるるる……」
「んへへぇ、ツカサくぅん」
クロウは喉を鳴らしてるしブラックは横から引っ付いて来て鬱陶しいが、酔っ払いが三人歩いているんだと周囲は思ってくれてるだろう。うん。きっとそうだ。
それに、尋問が酷かったのはその通りだもん。ブラックとクロウは胡散臭さ満点のオッサン二人だし、なにより強そうだし兵士の気合が入るのも無理はない。
それに比べたら、俺はマシだったもんな。一般人だと思われたのか、兵士の人にも優しく質問されてたし、なんなら「お菓子食べるかい?」なんて言われたし。
…………子供扱いされていたような気もするが、いや、そんな事は無い。
えー、俺の事はともかく!
今日はすっかり遅くなっちまったし、帰ったら二人に酒でも出してやるか。今日の朝こっそり買っておいたんだよな。ブラック達を宥める用のお高い酒。
これが今効果があるかは分からないけど、好きな物があれば、二人とも少しは気分が晴れるよな。どんだけ飲むかは分からないけど、今日は好きにさせてやろう。
とにかく今日は無礼講だっ。俺も今日見た事が整理できてないし、なんというか、きょ……今日はちょっと寝たくないので、オッサン達にお酌してやったりしても良いというか……その……とにかく飲むぞ、酒を!
そんな打算アリアリの決意を新たにしながらも、俺はブラックとクロウにしつこく懐かれながら、なんとか【湖の馬亭】に帰宅した。
「た、ただいまでーす……」
「ああっ、やっと帰って来たね! よかったよ無事で……!」
娼館の営業が有るので女将さんには先に帰ってて貰ったけど、俺達が帰って来るのを待ってくれていたらしい。扉を開けるなり、受付から飛び出してきてくれた。
こういうところが優しいんだよなぁ女将さん……。
思わずホロリとしていると、お部屋で待機中だった今日の当番のお姉さまがたも、階段から降りて来てくれて俺をぎゅうぎゅうとおっぱいで歓待してくれた。
あ……あぁ……今日の疲れが吹き飛ぶぅう……。
「大丈夫だった? やぁよねえ警備兵達って。すぐ人を疑うんだから」
「アタシの客に警備兵いるから、今度からアンタらを疑うなって言っとくよ。ウチの館で働いてた子に悪い子なんているもんかね!」
「ツカサちゃん疲れちゃった? 大丈夫? おねーさんヨシヨシしたげよっか?」
うんっ、ヨシヨシしてぇっ。
なんて言いそうになってしまったが、背後から二つ分の恐ろしい邪悪な波動が流れ込んできたので咄嗟に口を噤む。おい、何でお前ら余計に不機嫌になってんだ。
こんなにっいっぱいのお姉さんがっ俺達をおっぱい責めしてくれてんだぞ!!
なに不機嫌になってんだ、おっぱいに感謝しろ!
おっぱいは一人に二つしかないんだぞ!?
母性の象徴たるおっぱいがいっぱいであれっここは最早天国なのでは……
「ツカサ君っ!!」
「ハッ! えっえええええーとあのっ、みなさんご心配ありがとうございますっ! あのその後でご迷惑おかけしたおわびとか持って行きますんでじゃあー!!」
「あっ、ツカサ! 明日ちゃんと話を聞かせて貰うよ!」
「はーいー!」
黒い塊になりつつあるオッサン二人をひっつかんで、おっぱいがいっぱいの神聖な森からダッシュで脱出した俺は、なんとか平屋に逃げ込んだ。
はぁ、はぁ、ふぉお……ば、爆発だけは避けられたなっ! うむ!
「ツカサ君の浮気者……おっぱい好き……すけべぇえ……」
「わーもー、ごめんってばっ! でもお前らだって、素敵なおっぱいがすぐ目の前に有ったら揉みたいと思うだろ!?」
「えぇ~……?」
「ムゥ……」
大きい身振り手振りで必死に俺の男としての正当性を訴えると、何故かブラックとクロウは少し悩んだ後、俺をジッと見つめて同じように顎に手を当てた。
なにそのシンクロポーズ。
「……まあ、そりゃあ……」
「目の前にあったら、揉むな」
「え? ……え?」
なんで俺の方を凝視するの。なんで視線が顔からちょっとはずれてるの。
ま、まさか。
「おおおおいおいおいっ、なんだその手はっ!」
「え? だって、目の前におっぱいがあったら揉むのが普通なんでしょ?」
「ならば、オレ達もツカサのように興奮してもいいということだな」
だな、じゃねえ。待て、なんでこっちに手を伸ばしてくるっ、なんで仲良く右手と左手の片手ずつなんだよお前らこう言う時だけ息合い過ぎだろこらああああ!!
こ、このままだとヤバい、回避だ回避せねばっ。
「あのっ、ま、待てよお前ら! 折角俺がイイもんをあげよーと思ったのにっ!!」
「え? いいもん?」
「ヌゥ?」
首をかしげる二人に、俺は数歩下がって【リオート・リング】を取り出した。
ふ、ふふふ、これぞ秘策よ。喰らいやがれっ。
「美味しいお酒っ、今日は色々あったから特別だぞ! ふんぱつだっ」
奮発して良い酒を買っといてやったんだからな。
だから機嫌直してもうおっぱいのことは忘れるんだ。
というか俺に今日の怖い光景とおっぱいのことを忘れさせてくれチクショウ。
まあ俺の思惑はともかく、印籠を悪役に見せつけるかの如く、リオート・リングを突き出すと――――ブラックとクロウは顔を見合わせたが、何故かいやらしい笑みでニタリと笑った。
な……なんだその笑みは……。
→
応援ありがとうございます!
0
お気に入りに追加
959
1 / 5
この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる