異世界日帰り漫遊記!

御結頂戴

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交易都市ラクシズ、綺麗な花には棘がある編

11.癒し系アイドル(笑)

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   ◆



 さすがに朝から色々するのは嫌だぞ、と鬼の形相ぎょうそうで必死に拒否した俺は、とにかくオッサンくさい腕のおりから逃げ出して朝の支度したくをすませた。
 正直それほど疲れてはいなかったが、昨日の事があるだけにブラック達もすがる事は無く、俺は家の外で顔を洗って歯をみがく事が出来た。

「ふぁ~……」

 あくびをしながら布で顔を拭い、俺はようやくスッキリと顔を出す。
 にしても、やっぱ水場が庭の井戸か寮の台所にしかないのは不便だよな……。朝飯作ろうにも、わざわざ寮に行かないといけないし。

 娼姫をやらされてた時は、当番制でお姉さん達が作ってくれてたんだよな。俺は、寝込んだり回復薬を作ったりしてたからそこらへんは免除されてたんだ。
 でも、今回はさすがにご相伴しょうばんには有り付けないだろうし……ああ、昨日無理にでも一般街に行って食料を買い込んでくれば良かった。

 などと思っていると、寮の方の建物のドアが開いて誰かが呼びかけて来た。

「ああツカサちゃん、ちょうどよかった」

 そのうっすら酒焼けしているセクシーな声に振り向くと……そこには、きっ、昨日と変わらずえっちなシミーズを着ているだけの細身でえっちなお姉さまがっ。

「ルゥイさんっ」

 煙管キセル美熟女お姉さま……ことルゥイさんにすぐに駆け寄ると、相手は緩くうねった銀桃色の髪を風になびかせてうっすら微笑む。ううっ、その片目が隠れがちなミディアムウェーブな髪が素敵過ぎる……熟女にはあまり興味が無い俺だが、こんなお姉さまに手ほどきをして貰えるなら是非してもらいたいくらいだ……っていやいや今はそうでなく。

「おはよツカサちゃん。朝も元気ね」
「え、えへへ……ルゥイさんは……良く眠れました?」
「アタシゃ酒とタバコさえ切らさなきゃどこでだって安眠サね。……それよりツカサちゃん、ごはんまだだろう? レミーヌが今作ってるから持ってきな」
「え……でも、それみなさんの朝ごはんでは……」

 作ったのを分けてくれるなんて、みんなの食べる量が減っちゃうじゃないか。
 ヒトのめしのおこぼれを貰うなんて、そんなの男として恥ずかしいぞ。そうは思ったが、ルゥイさんはぽってりとしたセクシーな唇をニッと笑わせて俺の頭を撫でた。
 ふぁっ……ふあぁああ……。

「女将さんはね、ちゃんとアンタらの分の材料まで用意してるから心配いらないよ。あの人は『そういうとこ』もキチンとしてるからね。さ、こっちおいで」
「はっ、はいぃ……」

 ふわー、いいにおいする……おててがしっとりしてて優しい……オッサンとはまったくの大違いだ……普段かたくて分厚くて暑苦しいのにばっかりはさまれてるから、こういう時に女の人と触れ合えるのは物凄く嬉しい……ああぁ……このままベッドまで行って、優しく大人になる手ほどきをされたいっ。ルゥイさんなら大歓迎すぎるっっ。

「おーいミレーヌ! もう準備出来てるかい?!」

 セクシーなかすれ声を大きく張りながら、ルゥイさんは俺を後ろにひきつれて廊下の奥へと進んでいく。台所……というか炊事場は大体家の奥だったり外側にあるのが多くて、ちょっとだけ歩くんだよな。たぶん、湿気だとか水回りの問題があるっぽいんだけども、まあ詳しい事は俺もお姉さま方も知らない。

 少なくとも、この街は基本的に下にある人工的に作られた上下水道にそって、家の間取りが決まっているようだ。
 ……てなことを考えていると、もうもうと白い煙が上がっている台所に到着した。

「な、なにやってんのサ! アンタ、食材無駄にしてないだろうね!?」
「ふぇえ~……こ、焦げてないとは思うんですけどぉ……」

 そう言いながら涙目で振り返ったのは、ゆるふわで毛先がカールしている可愛い髪型のうら若き美女だ。ちょっとぶりっこな感じだけど、俺的には大いにアリだ。
 こんなお姉さんに童貞を捨て……いやいやだから違くて。

「…………メシは無事みたいだね……相変わらず壊滅的な切り方の具だけど」
「だってぇっ、わたしオトコに貢がれる系美少女だもんっ。文句があるんならルゥイ姉さまが作ってくれたらいーじゃない! 姉さまだって、料理の腕は結局わたしとどっこいどっこいのくせにっ」
「可愛げのある女は『どっこいどっこい』なんて使わないわよ! ったくもう……」

 そう言いながらも、ルゥイさんは鍋の中の料理の味を確かめている。失敗してないかどうか確認しているんだろうな。それを、ミレーヌさんはくねくねしながら見ている。なんだか姉妹みたいでちょっと微笑ましいな……なんてなごんでいたら、ミレーヌさんは俺がいる事に気付いたのか、大仰によたよたしながら俺に抱き着いて来た。

「ふえぇんツカサちゃ~ん! ルゥイお姉さまがいじめるのぉっ、あたしが頑張って作ったお料理、凄く馬鹿にするのぉ~」
「あ、あびゃびゃっ、ふっ、ふへっ、み、みれーにゅさっ」

 胸がっ胸がしがみ付いた腕にぎゅむんぎゅむん当たっておるのですが!!
 あああ勘弁して下さいそんな事されたら俺ってばっ、俺ってばもうっ!

「あらあら? うふふ、ツカサちゃんたら可愛い~! 同じ娼姫同士でこんなに赤くなっちゃうなんてっ。ミレーヌお姉さんにあこがれちゃったかな?」
「からかうのもそこらへんにしな。女同士でなにイチャコラしてんだい。ほら、さっさと皿出して用意するよ!」
「はぁい……」

 ああ、ミレーヌさんが離れて行く……。
 その事をとてもとてもとーーーっても残念に思いつつ、名残なごりしげに寸胴ずんどうの方へと向かって行くミレーヌさんを見る。
 しっかりした足取りだが、時折立ち止まって小首をかしげているのがまた可愛い。
 なんだろう、何か不思議なことでもあるのかな? あざとくて可愛いな?

「ツカサちゃん、アンタも手伝ってくれるかい?」
「あっ、はーい!」

 ルゥイお姉さまに頼られている俺は、すぐさまさんじて深めのお皿をテーブルに並べる。その皿の中に、ミレーヌさんは何だか上機嫌でスープをそそいでいった。
 とても幸せな作業だけど、しかし……良く考えたら、お姉さまがたには俺って同類としか見られてないんだよな。その事を思うと、悲しいやら切ないやらだ。
 だってさっきも「娼姫おんな同士」って言われたし。

 ……このライクネスでは男の「メス」が比較的少ないので、基本的には俺の世界と同じく男女での結婚が一般的なものになっており、同性同士の婚姻は珍しい。
 まあ、それでも「無くは無い」程度ていどだから、驚かれたり珍しがられるだけで蛇蝎だかつごと忌避きひされるってなワケでもないみたいなんだけどな。

 だから娼姫の男は珍しくて、基本的に彼らを呼ぶ時は「彼女達」と言うし、この国の中では男の姿をしている俺でも「女」と言われることがある。
 それゆえに、ルゥイさんもミレーヌさんも俺の事を「メス」だと認識して、「娼姫同士で」と言ったのである。

 ――――男の容姿だろうが、ちんこが付いていようが、メスは女なのだ。
 何となく俺には納得のいかない話だが……まあ、この世界の性別ってカオス過ぎるから、絶対数が多い地域では女性のメスに呼称がかたよるのも仕方ない。
 ……俺は別にメスじゃないけどな。ブラックがメスだって言うし、実際ヤッちゃってる事も組み敷かれる方だから、メスだと甘んじて受け入れてるけども。

 でも、精神は男だっ。例え俺がこの世界ではメスであろうとも、やっぱり女の子が大好きだし美女美少女に童貞を貰って欲しい男なんだよ俺はぁああああ!!

「ツカサちゃん、難しい顔してどうしたんだい」
「い、いえ何でもないです……」

 俺はお姉さま達に童貞を奪って欲しいんです。……などとは言えず、俺は三人分のお皿をすごすごと平屋へ持ち帰ったのだった。

「はぁ……」

 ドアを開けて、両手がおぼんでふさがっていたので足でガサツに閉める。
 母さんにはいつも怒られるんだが、こんな時にかまっちゃいられない。などと思いつつふと玄関からすぐのダイニングを見やると――――そこには、ブラックとクロウの他に、女将おかみさんが座っていた。どうやら俺を待っていたらしい。

 とりあえず食事をしてくれと言われたので、俺達はクズ肉とごつ切り野菜の塩味なスープをすすりながら話を聞く事にした。

「で、朝っぱらから何の用だ? こんなクソ不味いスープ飲みながらやる話か?」
「アタシに八つ当たりするんじゃないよ、ガキだねえ。具があるスープを飲めるだけありがたいと思いな。……とまあそれはともかく……アンタらにも悪い話じゃないんだから、ちゃんとお聞きよ」
「悪い話ではない?」

 相変わらず、風体とは真逆のマナーが良過ぎる仕草でスープを口に運ぶ中年二人ふたりに、女将さんは異様な物を見るように眉根を寄せて目を細めながらあごを引く。

「ちょっとね、おつかいを頼まれて欲しいのさ。ちゃんと報酬は払うよ」
「僕らは仕事をしにここに来たわけじゃないんだけどね」
「事情が事情だし、アンタらに頼むしかないんだよ。信用出来て、一般街にも平気で入れるような奴と言ったら、ツカサとアンタらしかいないだろう?」

 女将さんったら嬉しい事を言ってくれる。
 だけど頼みごとで一般街におつかいって……何をしにいくんだろう?
 首を傾げていると、女将さんはテーブルに小瓶を置いた。それは……。

「あれ? 俺が作った回復薬……」

 だけど、ラベルが貼ってある。普通に店で売られている薬に偽装されてるな。
 でも、俺が作った回復薬は市販のものよりも綺麗で透明なコバルトブルーなので、見間違えるはずもない。このラベルはどうしたんだろう。
 不思議に思って女将さんを見ると、俺の疑問を悟ったのか答えてくれた。

「ラベルが無いと、出所を探られかねないからね。……あれから、アンタの回復薬は少し噂になってたんだ。どこで漏れたか知らないけど、とんでもない回復量の薬を【湖の馬亭】が使ってるぞ……ってね。だから、一応用心のために考えといたのさ」
「ということは……この娼館に関係のない者にその薬を使わせる、と?」

 鋭い所を突くクロウに、女将さんは話が早いとうなづいた。

「アンタらに頼みたいのは……昨日言った、ウチと縁のある一般街の娼館のとある娘に、この薬を届けて欲しいってことなんだ」
「それって……その、ヘレナさんがお見舞いに行ったっていう……?」
「ああ。紹介状を書くから、門前払いはされないはずだよ。なんなら、三人そろって遊んで来ても良い。費用はこっち持ちにしとくからさ」

 その発言にブラックとクロウは何故か眉根をグッと寄せたが、しかし怒り出す事はせずに女将さんに問いかけた。

「…………ロクな金額じゃやらない」
「分かってるよ。ったく……銀貨で五十枚ならどうだい」
「えっ高っ」

 いや、俺達がここに逗留する時に払った金額より高いじゃないか。
 蛮人街の娼館で遊ぶなら、三人二回ずつ遊べるんじゃないのかこの金額は。
 そういう思いが「高い」と声を出してしまったようで、あわてて口をふさいだが、そんな俺をブラックをクロウはじっと見つめて来て……いやおい何見てんだよ。庶民しょみんか、俺を庶民って言いたいのかコラ。

「わかった。お使い程度ていどでそんなに貰えるってんなら、やってもいい」
「意外とこの娼館も稼いでいるんだな」

 失礼な事を直球で言ってしまうクロウだったが、そういう裏表のない真っ正直さは嫌いではないのか、女将さんは何故かえっへんと肩を上げた。

「ま、ここの娼姫は蛮人街いちだからね。どの娘も高等区にだってヒケを取らないよ」

 そう言って胸を張る女将さんは、なんだかお茶目で可愛い。
 よし、女将さんがこんなに優遇してくれるんだし……正直、今の内に路銀を貯めておきたい気持ちも有ったからな。女将さんのご厚意に甘えようではないか。
 こういう時は気持ち良く受け取った方が良いって言うし。

 でも、報酬を貰うんなら……おつかいの帰りに食材を買って来よう。
 せっかく料理を余分に作って貰ってるんだし、お姉さま達にも迷惑を掛けているんだから、俺だってお礼の気持ちとして料理をおすそ分けしなけりゃな!












 
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