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竜呑郷バルサス、煌めく勇者の願いごと編
17.光輝なる遺跡、縹渺たる遺跡1
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「準備は出来たな。では、行くぞ」
少ない時間でなんとか荷物を分けた俺達は、ラスターの号令に従って急いで遺跡へと歩き始めた。洞窟の中はもう既に橙色の光が薄れ始めていて、さっきまでは隅の方までバッチリ見えていたのに、今となってはもう暗くなりかけている。
再び暗闇に閉ざされてしまうのだと思うと、ぐずぐずしてもいられない。
これで時間に間に合わなかったら、俺達はもう一日待たなきゃ行けなくなる。
その事はブラック達も解っているらしく、珍しく突っかかる事もせずにラスターに付いて行った。
なんだかいつもと違うので、ちょっと心配になってしまったが……今更そんな事を言っても仕方がない。クロウが背負った重い荷物(ほとんどが食料)も気にしつつ、俺は近付いて来る遺跡を改めて見上げた。
うーむ、近くで見るとまさに陰と陽って感じだな……。
今まで俺達が潜った遺跡って、一つの建物がドカンと建っている感じだったから、こんな風に二つ並んでいると妙な感じがする。
それに、遺跡の外観もこれまでの物とはちょっと違うんだよな。
なんというか、インドとかそこらあたりの遺跡っぽいというか……石造りの遺跡の上にピラミッドのような段々になった石の屋根が乗っているというか……ともかく、今までの遺跡よりエスニックだな。
それに、遺跡に近付くための道も他の遺跡とは少し違う。
山の上にあったバルサスみたいに遺跡の周囲には深い堀があって、元々は水が流れていたのか小さな小石がぽつぽつと落ちている。
この遺跡や洞窟の中の石とは色が違うので、別の場所から来た石だよな、多分。
その堀を渡る小さな石造りのアーチ橋から下を見やると、地面が薄らと湿っていて色が変わっているのが見えた。どうやら、長い間流れていないってワケでもなさそうだな。長雨が降った時とかには水が流れて来るのかも。
しかし、ここは洞窟だし堀を作る必要なんてないよな。
生活用水にでもしていたんだろうかと考えつつ、橋から長く伸びる一直線の石畳を歩いて行くと、ついに道が二股に分かれた。
周囲に草一本オブジェ一つもないこの場所だと、なんだか妙にその道が寒々しい物に思えて思わずブラックとクロウを見やると。
「ツカサ君……分かれ道が来る度に絶対確認してね? 絶対だからねっ」
「食料はちゃんと分けるから心配するなツカサ」
いや、あの、そういう意味で見ちゃったんじゃないんだけど……まあいいか。
気を取り直して、俺は二人に頷いた。
「あんまり無理すんなよ。あと、喧嘩しちゃダメだからな」
「解ってるって」
「ウム」
「もうあまり時間が無い。行くぞ」
ラスターが急かすので、それもそうかと思い別れの挨拶もそこそこに俺達は分かれ早足で歩き始めた。しかしラスターの足が意外と速かったので、追いつく事が出来ずに慌てて小走りで隣に並ぶ。
ち、ちくしょう、足が長いのをこれでもかと見せつけやがって……。
いやラスターは別に全然気にしてないんだろうけど、俺にとっては憎たらしい。
くそう……俺だってラスターぐらいの年齢になったらきっと足も凄く伸びて、格好良い大人のお兄さんになっているはずなんだからな。
今はその無意識のイケメンアピールに胡坐をかいているがいいわと思いつつ、背の高い相手の背後について階段を上ると――――ようやく、遺跡が近付いてきた。
最初からデカいと思ってはいたが、至近距離まで来るとその大きさが解る。
入り口だけでも四メートルはあるんじゃないかってデカさで、当然ながら扉も俺達が動かせるような大きさではない。【準飛竜】の大きさになったロクショウならば、簡単に開く事が出来るんじゃないかってレベルの石の扉だった。
そんなもののドコに鍵を嵌め込むのだと思っていると、ラスターがちょいちょいと指で床を指さした。下を見やると、扉の前には長方形の石板が埋まっていて、そこには何やら見慣れない文字と、鍵の鉱石と同じ形の切り込みが刻まれていた。
「ここに、同時に鉱石を嵌め込むんだ」
「え……でも、切り込みしかないぞ?」
「この鍵で押した時だけ、下に沈むようになっている」
なるほど……最初から鍵ありきの仕掛けなんだな。ということは、この鉱石が消失してしまったら、もう正しい方法で開く事は出来なくなってしまうわけで……う、うう、俺が持ってるんじゃないけど、失くさないように気を付けよう。
そんな事を俺が思っていると、いつの間にブラック達と合図したのか、ラスターが向こう側の遺跡の方を見ながら金色の鉱石を石板の切れ込みに合わせた。
そうして。
「開くぞ……!」
向こう側のブラックと同時に、鍵の鉱石を押し込む。すると。
「わっ! ら、ラスター!?」
「ぐぅっ……!」
急にラスターの体が金色の光を放ったかと思うと、その光がカギを嵌めた場所へと吸い込まれていくではないか。まさか、曜気か何かを吸い取っているのか。
心配になってブラックの方をもう一度見やると、ブラックも紫色の不可解な光に体を包まれており、ラスターと同じように鍵穴に光が吸いこまれているようだった。
ま、まさかこれって罠だってんじゃないよな!?
「ラスターっ、だ、大丈夫なのかこれ!?」
二人とも戦闘不能になったりしないよな。大丈夫だよな!?
心配になってラスターにそう問いかけた。瞬間。
「え゛っ」
ガコン、と音がして、急に宙へと打ち上げられたかのような浮遊感が襲う。
いや、これは…………お、俺達が立っていた床が、消えちゃったんだ!
「うっうわああああ!」
「キュゥウウウ!」
一気に真っ暗な世界に落下した俺に、ロクショウが必死で追いついて来る。
ロクショウの小さな体が浮かないように手で固定してやりながらラスターを見ると、相手は上体を曲げるような変な格好で落下していた。
お、おい、もしかしてさっきの奴でダメージでも喰らったってのか。
「ラスターお前大丈夫か!?」
ゴォオオという凄まじい風の音に耳を塞がれるが、必死で大声を出してラスターの無事を確かめる。すると、相手は少し辛そうなのに、それでも俺の方に近寄って来て――――何をするかと思ったら、俺を抱え上げた。
「わっ、わあ!? なにしてんだお前っ」
「決まっている……この、高さ……っ、お前では着地できないだろう……っ」
「そ、そりゃそうだけど、アンタそんな苦しそうなのに……」
無茶しないでくれと思わず心配になるが、ラスターは苦しげな表情を必死に堪えるかのように自信満々な笑みを浮かべて、俺の体を己の腕で固定した。
こうなってはもう俺も逃げられない。ラスターの腕すらも俺は振り解けないんだ。
でも、本当に大丈夫なんだろうか。
こんな疲れた状態のラスターじゃ、無事だとしても確実にダメージはあるだろう。そうなったら調査にも支障をきたすし、なによりラスターの体が心配だ。
どうにかして俺も着地の衝撃を和らげないと……。
「そ、そうだ……!」
こんな時こそ修行の成果じゃないか!
いつ地面に着地した衝撃を受けても良いように、俺が木の曜術で屈強な蔓を何本も伸ばしておけばいいんだ。そうしたら、ラスターのダメージも少しで済む。
それに、俺が荷物持ち以外でも役に立つと言う証明になるではないか。
自分の身を挺して守ろうとするラスターに、これで「コイツは自分の身を守れる」と思わせる事が出来るに違いない。いけ好かないイケメンだけど、でもラスターは俺の仲間だし恩人だし大事な奴だからな。
そもそも俺は多少怪我をしてもすぐに治る特殊能力持ちなんだから、いざって時は俺よりも自分の身を守って貰わないと。そうでなきゃ、俺の方が守って貰って申し訳なくなっちまうよ。
……と、ともかく。俺の力をもってすれば、ラスターだって無傷で済むはずだ。
なあに、大丈夫。俺は以前も木の曜術でトランポリンっぽい物を作り、落下の衝撃からブラックを救った事もあるし、なにより今は術を維持する修行もしてるんだ。
今までの俺とは少しくらいは違うんだぜ。ふふん、こういう時には任せとけって。
よし、じゃあさっそく……!
「我に従う緑よ、その腕で我らを守りたまえ――――【グロウ・レイン】……!」
すっかりおなじみになった、植物を成長させる【グロウ】とそれを操る【レイン】の合わせ技の曜術だ。けれど、俺が使う時は【黒曜の使者】のチート能力で手の中に植物を生み出して、自在に操る事が出来る。
本当の【グロウ】は、元となる種や植物が必要なんだけど……こういう時ぐらいは、俺にもチート能力を使わせてくれ。
ともかく、しっかりとイメージした太く力強い蔓を召喚した俺は、それらを下へと向けて来たる衝撃に備えた。
「ツカサ、お前と言う奴は……そこまで俺の麗しい身が大事なのか……」
「感慨深げに自分アゲすんな!! 気が散るから黙ってろ!」
素直にお礼を言うかと思ったらすぐこれだ。
こんちくしょうめと思いつつ、集中していると――――
「ッ、ぐぅッ……!?」
「ぅっ……!」
急に「ドン」と爆発でもしたかのような衝撃が腕に来て、俺は思わず手を宙に上げそうになる。だがそれを必死でこらえて、次に来た強烈な腕の痺れに黙っていると――――ラスターが、カツンと音を立てた。
「…………どうやら到着したようだな」
そう言いながら、俺の出した蔓を優しく避けて、俺を抱き上げたまま数歩動く。
確かに、ラスターの足取りは地に足を付けている時のものだった。
ということは……ここが、サウリア遺跡ってこと?
そう思った刹那。
視界いっぱいに光が飛び込んで来て、俺達は思わず顔を覆った。
→
※ちょいと短くて申し訳ない(;´Д`)
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