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竜呑郷バルサス、煌めく勇者の願いごと編
16.組み分けとは難しいもの
しおりを挟む「……つまり、嵌めたら最後。二組に分かれて遺跡に放り込まれ、非常に面倒な事になるということだ」
俺が無意識にアホ面をかましていたせいか、ラスターは頭痛を抑えるがごとく額を指で押さえながら簡潔に説明してくれた。な、なるほど。鍵は罠でもあるんだな。
でも、どちらの遺跡も強制的に遺跡に放り込まれてしまうんなら……片方だけに力を偏らせていたら危ないよな。パーティー分けをした方が良いんだろうか。
そう思ってブラック達の方を見ると、俺が何を考えているのか解ったのか、わっと俺に抱き着いて来た。
「ツカサ君と離れるなんて僕いやだからね!?」
「む、むぐぐ」
ぐ、ぐるぢい。オッサンのにおいがするう。
調査する前から俺のヒットポイントをゼロにしてどうするんだ、やめろっ。
絡まるブラックの逞しい腕を剥がそうとするが、しかしブラックは余程組み分けが嫌なのか、俺を離そうとしない。
クロウも珍しく不機嫌そうに眉根を寄せて耳を少し下げていた。
何故そうもダダをこねるのかと思ったが、シアンさんがその答えを教えてくれた。
「ふふ、そうよね。ブラックはイヤなのよねえ。平等に、そしてお互いに過不足なくパーティーを分けるには、どうしても二人はツカサ君と別れなければいけなくなるのだもの……」
「え……」
まだそこまで考えていなかった俺は目を丸くしたが、シアンさんはどこか楽しげにニッコリと笑って続ける。
「仮にこの先全ての曜気が必要になる罠があるとしたら、どう考えても平等に分けるには、ツカサ君はラスター様の所に配置するのが安全だわ。私達が三人組で進む方が効率的なのよね」
「でも木属性と木属性で、ツカサ君とソイツが被るじゃんか!!」
確かに、ラスターは木属性の曜術が得意だったな。
日の曜術師と言うからにはもう一つ得意な曜術が有るんだろうけど……そう言えば俺、ラスターのもう一つの属性って知らないかも……。
でも、そう考えると確かに俺がシアンさんと一緒に行動するのも非効率だし、かと言ってブラックの方に付いて行っても、ラスターに不公平になっちまうな。
その事を、シアンさんがまたもや言い聞かせるようにブラックへと伝える。
「そうね、確かに重なってしまう属性もあるわねえ。でもツカサ君は水属性の曜術を使いこなす一級確定の曜術師よ? それに、貴方がメネス遺跡に行くのであれば、炎と金の曜気も使えるツカサ君がラスター様の方にいないと不平等でしょう。……そう解ってるから、貴方もダダをこねてるのよね? 」
「ぐ……ぐぬぬ……」
そこを突かれるとブラックも反論し切れないようで、歯噛みしている。
クロウは最早諦めているのか、くぅんと耳を伏せて俺を見つめていた。う、うう、そのモーションは卑怯だって、アカンって……!
そんな事されたらついつい「一緒に行くか?」とかなっちゃうじゃないか……!
でも、クロウがキュゥンとなってるって事は、クロウもブラック側のパーティーになっちゃうんだろうか。ていうか、どうしてクロウにはそれが判るんだ?
土属性ならどちらに居ても大丈夫そうなんだけど……。
未だにそんな事を考えていたら、ブラックがいつの間にか俺の体を解放していた。
……と言っても渋々と言った様子で、まだ肩は掴んでいたが。
「もしツカサ君が危険な目にあったらどうするのさ」
まだ組み分けを諦めきれないのか、不満げに文句を言うブラックに、シアンさんは「心配ないわ」と言いつつ、俺の首の後ろに陣取るロクに掌を向けた。
「ツカサ君には可愛くて強いロクショウちゃんがいるのよ? いざとなったら、その【やがて竜となる】力を発揮して、きっと守ってくれるわ。だって、この子はツカサ君の守護獣ですもの。……ねえ、そうよねロクショウちゃん」
「キュウッ!」
今まで会話の蚊帳の外にいたせいなのか、ロクは名指しされて一層張り切ったようで、俺の首から飛び立って「まかせなさい!」とばかりにその場で宙返りをした。
あああ可愛いぃ……そうだよな、ロクショウはなんたって伝説級であるランク7のモンスターになるかならないかってぐらい強い【準飛竜】に進化したんだ。
俺が至らなくたって、ロクがサポートしてくれる。
だから、安心して進めばいいんだ。……ま、まあ、俺自身寄りかかってばっかりじゃいけないから、努力するのも勿論大事なんだけどな。
ともかく、戦力ならこれで問題ない。
曜気に関しても、五属性と“大地の気”を無限に放出する事が出来る俺がいるから、なんとかラスターのお荷物にならなくて済むだろう。
ブラックやクロウと離れて行動するのは不安だけど……でも、そうやってずっとは甘えてらんねえんだよな。
俺自身強くなると宣言したんだから、今回はラスターをサポートして、少しは俺も「デキる」という事を証明してみせねば。俺だって薬師目指してんだからな。
師匠にポテンシャルめっちゃあるって言われたんだからな!
よーしやったるぞ、俺がばっちりラスターをサポートしてやる。
「じゃあ、俺はラスターとロクショウとでサウリア遺跡を進めばいいんですね?」
再度確認すると、シアンさんはその通りとばかりに頷いた。
「ええ。少しばかり大変かもしれないけど、それぞれの遺跡の中にはお互いに連絡を取るための【伝令穴】という機能が隠されているようだから、入ったらそれを探して、互いに連絡を取りつつ一旦休むと言う風にしましょう」
「あ、でも……どっちかが、相手が待機している場所よりも先に行っちゃったりとかしたら、連絡できなかったりしません……?」
そうなんだよな。そこが問題なんだ。
この世界にはネットも電話もない。そりゃ術や魔道具的な物で無理矢理にどうにか出来たりもするけど、それ以外にはすぐに言葉が伝わる通信機器がないんだ。
俺はそういう伝令の術を使った事なんて無いから、どう考えても逐一連絡を取る事なんて出来ない。ブラック達が使えたって、相手が把握できない位置に俺達が居たらその術も届かないかも知れないんだもんな。
【伝令穴】という物に気付かないで通り過ぎちゃったら、そこでずっと待ってる片方は凄く時間の無駄じゃないか。これではいつまで経っても進めないぞ。
ていうか、そういうポカをするのは絶対俺の方な気がしてヤバい。
自分のミスを生々しく想像してしまい思わず苦い顔になる俺に、意外にもブラックがポンと肩を叩いて少し微笑んで見せた。
「それは心配ないよ」
「え……マジ? なんか作戦でもあるのか?」
相手を見上げて問いかけると、ブラックはチョイチョイと俺の胸元を指さした。
指輪を見せろと言う事だろうか。シャツの中から素肌に触れていた指輪を取り出すと、ブラックは嬉しそうに笑って左手に嵌っている指輪を見せた。
「う……な、なに見せつけてんだよ……」
「えへへ……まあ見せつけたいけど今回はそうじゃなくて……ツカサ君、僕の事を思って指輪の宝石のところを触ってみて。どこにいるのかなって感じで」
「……? う、うん……」
目の前にいるのに探そうとしろってのは難しい注文だが、ブラックがそう言うなら何か良い案が有るのだろう。とりあえず、自分の指輪を握りブラックの瞳の色と同じ菫色の宝石に触れて……な、なんか恥ずかしいから目を閉じて、考えてみる。
ブラックを探す、ブラックの居場所を探す……なんて思いながら指輪を握っていると――――なにやら、指輪からふわりと温かい物が伝わって来たような気がした。
目を開けて、何が触れたのだろうと見やり……俺は目を剥いた。
「あ、これ……」
俺の、ブラックから貰った婚約指輪。
その指輪に嵌った宝石から…………なんと、光が放射されているではないか。
しかもその光は直線に伸びていて、ブラックの方へと向いている。
ちょっと動いてみたが、その光は方位磁石のようにブラックが居る所を向いたまま動こうともしなかった。……これ、前にも見た事がある……。
「へへ……僕の方ずっと向いてるでしょ?」
「そっか、これでお互いが居る場所を確認するんだな! 頭いいっ!」
思わずそう言ってしまうと、ブラックはデレデレしたように笑って頭を掻いた。
いやあこの機能、俺はすっかり忘れてたよ。
そうそう、この婚約指輪にはブラックが施してくれた術が沢山入っていて、俺の身を守ってくれるだけでなく、居場所も探し出せるようにしてくれてるんだっけ。
前に離れ離れになった時も、この指輪が俺達を再び出逢わせてくれたんだ。
そう思えば、指輪がより大事な物に思えて来るが……いやそんな場合ではない。
ともかくブラックのお蔭で、すれ違いにはならなさそうだな。
ありがたいことだとブラックを見上げると、相手は少しさびしそうに笑っていて。
どうしたんだろうかと目を瞬かせると……不意に、顔に触れて来た。
「ツカサ君……無茶しないでね……? 僕、本当はツカサ君から離れたくないけど、すっごくすっごく一緒に居たいけど……でも、我慢するから……」
「ブラック……」
言いながら、ブラックは俺の耳に顔を近付ける。
そうして――低くて体の奥がぞくぞくする声で、囁いた。
「だから……帰って来た時は、我慢したご褒美にいっぱい……僕が満足するくらい、僕のこと甘やかしてね……」
「~~~~~っ」
耳の穴に吹きかけられる、熱い息。
唇が触れて、喋る度に耳を触るカサついた感触がたまらなくて、思わず足が内股になるくらいぎゅっと閉じてしまう。いや、違う。してない。ぞくっとしてないから。
そ、そんな場合じゃないのに、俺って奴は本当にこの……っ。
「ふふ、楽しみにしてるねっ」
俺の反応で「まんざらでもない」と判断したのか、先程の不機嫌さなど嘘のようにブラックは浮かれた調子で手を叩く。
「じゃあ、荷物の仕分けしようか。もう時間が無いからね」
「誰がその時間を無駄に消費したと思っている。まったくこれだから下等民は……」
まあ確かにラスターが呆れるのも無理はない。
今回ばかりはこの段階でモメたしな……いや、ラスター達が早く教えてくれたら先に決める事が出来たんだろうけど、それはもう話しても仕方ないな。
ともかく今は確かに荷物を分けないと。
俺が食料とか持ってたワケだし、ブラック達の方に調理が簡単に済むような食料を優先的に分けてやらなければ。それと、クロウの分の食べ物も。
その事を教える為に、俺はラスターに近付いて相手を見上げた。
「ラスター、これから荷物分けるけど、あいつらに食料を多めに渡しても良いか?」
「ああ。獣人は大喰らいと聞いているからな。気にせずに分けると良い。俺は二三日食事を摂らずとも平気だから、お前とその守護獣が満足する量だけを持って行こう。少人数だから、身軽な方が良いだろうしな」
おお、流石は騎士団の団長様。こういう時に凄く真面目な事を言う。
まあ……自分は食べなくて良いってのは、ちょっと格好つけすぎだけどな。
だけどその真面目さと実直さが妙に安心できて、俺は笑って頷いた。
「何はともあれ、これからよろしくな。ラスター」
そう言うと、やっとラスターはいつもの自信満々な顔で微笑んでくれたのだった。
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