異世界日帰り漫遊記!

御結頂戴

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竜呑郷バルサス、煌めく勇者の願いごと編

  懐かしさはいつからか2

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 水の確保はシアンさん、敷物はラスター、かまどの用意はブラックとクロウの二人組に任せて、俺は早速ロクと森の中に入った。

「ん~、良い天気だな~」
「キュ~!」

 もう昼過ぎとは言え、まだまだ日は高く青空が木々の隙間から見えている。
 常春の国であるライクネス王国では、こう言った気分が良くなるような感じの森が多いんだよな。そもそもモンスターも大体が温厚って言うか、気が優しいというか。こんな国境の近くじゃなかったら、昼間は襲われる心配だってしなくて良いんだ。

 そのくらい、ライクネスは平和でのんびり歩ける森が多かった。
 まあ、怖い森が無いとは言わないけど、でもそれだって周知されてるから、入らなきゃ安全なんだよな。ロクショウがいた森だって、ちゃんと名前が有ったんだし。

「あ、そっか……そういえば、ロクの故郷の森もライクネスなんだよな」

 ラクシズという街からそう遠くない場所にある【捕食者の森】というのが、ロクの故郷の森だ。名前を聞くとおどろおどろしいし、実際怖いモンスターが結構いる森でとんでもない所だったんだよな。
 そんなところで、ロクは仲間達と暮らしていたんだ。……といっても、今みたいに強くて可愛くて格好いい【準飛竜ザッハーク】になるまえのロクは【ダハ】っていう最弱の小蛇モンスターだったんだけども。

 いや、でも、それでもあの森は本当に怖い所だったんだぞ。
 ロクの進化前の姿だった【ダハ】だって、一匹では箸にも棒にもかからない最弱のモンスターだと言われているけど、仲間と集団行動をしている時はあなどれないんだ。
 実際、ダハの大群に襲われて食い尽くされた人だっている……らしいし。

 まあともかく、そういう森も有るから全部が危なくないとは言えないんだけど……でも、今は危険度ゼロだからいいのだ。ブラック達も警戒してなかったしね。
 あいつらがのんびりしているという事は、まだ敵がいないって事だろう。
 それはともかく……ロクショウの故郷の森かぁ。

「ロク、生まれた森に帰って見たいと思う?」

 もしそう思っているのなら一度連れて帰ろうかと思ったのだが、ロクは小さな頭をぶんぶんと横に振って「別にいい」と示してきた。
 うーむ、故郷の森への執着が薄いのかな。それとも、遠慮してるとか?
 でも、ロクの態度を見る限りは遠慮しているようには見えない。
 ……モンスターって、望郷の念とかはないモンなのかな。

「仲間に会えなくて寂しくなったりしない?」
「キュキュッ、キュゥー! キュッ!」

 相変わらず正確な意思疎通そつうは叶わないが、守護獣と契約者と言う関係だからか、俺にはロクショウの言っている事がなんとなくわかるぞ。
 ロクは、仲間は今いる俺達だけだと言っているのだ。
 つまり俺達の方が大事なのだと言ってくれるワケで……おぉ、おぉおお……。

「ろっ、ロクチャンなんて健気なっっ……!!」

 あまりの可愛さと健気けなげさと世界最高の優しさに涙がっ、涙があふれる!
 なんでこう俺の相棒は可愛すぎるんだと泣いていると、ロクは照れ照れと自分の頭――には届かないので、体を小さな手でぽりぽりしながら、きゅ~と首を曲げた。

「ん――――――ッ!! 可愛いぃいい!!」

 この可愛さにもう立っていられない!! ああもうチクショウどうして可愛さってのは暴力的なんだっ、目の当たりにするたび地面に倒れてごろごろせずにいられん!
 ロクのあまりの可愛さに草場で思いきり転がってしまった俺だったが――あまりに勢いが付き過ぎたのか、背丈の高い草にぼよんと当たって、その草のデカい先端が俺の頭にバコーンと当たった。

「んぎゃっはっ!! ああぁああ!!」
「キュッ!? キュッキュゥウウ!」

 ああっ、ごめんなさいロク大丈夫、大丈夫だから心配しないで。
 しかし何にぶちあたったんだ。チクショウ、結構重たかったぞ今のは。まったく、先端にデカいもんぶら下げやがって……なんて思いながら相手を見やると。

「あれっ、なんだタマグサじゃん」

 寝転がった状態で見上げたものは、先端にタマネギのような何かをつけて、びよんびよんと体を揺らしているタマグサだった。
 ああそうそう、これは旅の時に重宝したんだよなあ。
 草場ならどこにでも生えているし、しかも味はタマネギとまったく一緒だ。
 草の先端にネギ坊主のようにタマネギが乗っかっている所が唯一おかしいだけで、他はただの美味いタマネギなのである。異世界によくある冗談みたいな植物の一つだな。よし、これは採取して行こう。

 そう思いながら、ふとその先を見やると……太い木のみきに、何か濃いオレンジ色の花のつぼみのような物をたくさんつけたつるが巻き付いていた。

「……あれっ!? あれって、まさか……!」

 起き上がって近付くと、花のつぼみは同じ形の全く違う物体である事がわかる。
 その物体を手に取って、俺は匂いをいだ。
 間違いない。これはまさしく……――――

「これ、パシビーじゃんっ!!」
「キュキュー!」

 思わずロクが喜んで、俺が手に取ったパシビーにかぶりつく。
 そう、これは毒じゃない。形はツタから生えてる異様なニンジンだが、毒どころかとても美味しい果物なのだ。味は凄く甘い柿のような感じでシャクシャクしていて、とにかくもう、うまい。
 思い出しただけでよだれが出てきそうだったが、それをこらえて俺はツタから生えている何本かを拝借した。全部は採らないぞ。使う分だけ、な。

「いやしかし、まさかこんな場所で再会するなんてな……ライクネスって、やっぱしどこに行ってもライクネスなんだなぁ……」

 みのり豊かな常春とこはるの国、とはよく言ったものだが、このパシビーは甘味にえる俺が絶賛するところからしても人気がある果実なので、かなり希少で高価な物なのだ。
 売ってしまえば軽く二日は遊べると言うが、しかしこれを売るなんて勿体もったいない。
 こんな甘味は滅多にないんだから、食べないとソンだ。そう思わせるほど、パシビーはとても美味しかった。ううん、これをそのままデザートにしても良いけど……せっかくだから、何か違う物を作ってみたいな。

 柿みたいな味だから……アレが出来るかもしれない。
 どうせだから肉にも使ってみよう。

「よし、献立こんだてが出来た。もどろっかロク」
「キュー!」

 パシビーを頬袋ほおぶくろ一杯に詰め込んでご満悦まんえつのロクは、両手を上げてお返事をする。
 ……このパシビーも、ロクが「食べられるよ!」って教えてくれたんだよな。
 今日は何かと“最初にこの世界に来た時の事”を思い出すなと考えつつ、俺は食事の準備をしてくれているブラック達の元に戻った。
 パシビーを見つけたのは隠したままでな!

「あっ、ツカサ君、食材見つけた?」

 かまどをいじっていたブラックとクロウが立ち上がる。どうやら想像以上に完璧な物を作ってくれていたらしく、出来栄えは急ごしらえとは思えないほど立派だった。
 しかも炎まで点火してくれていていたれり尽くせりだ。さすが高レベルオッサンズ。

 思わずたじろいでしまったが……まあ、ブラックは火加減が得意な炎の曜術師だし、クロウは曜術師じゃないけど、そこらのヤツより凄い土の曜術が使えるクマさんだもんな。二人にまかせておけば、完璧なかまどが出来るのも当然だ。

 それを見込んで頼み込んだ俺も凄いってことだなあっはっは。……ゴホン。

「すぐに料理するから、二人はラスターと一緒に座って待っててくれ」
「ツカサ、なにか甘……」
「わーっクロウ鼻つまんでっ! 後のお楽しみだから!!」
「むぐ」

 あっ、あぶねえ、そう言えばクロウは熊の獣人だから鼻が利くんだった。
 これ以上近付かれてはバレてしまうと二人を追い払い、俺は彼らに背を向けながらコソコソと料理の用意を始めた。

「ロク、二人がこっち見ないように見張っててな」
「キュウッ!」

 任せなさい、と胸……いや首……どっちだ。どっちかをドンと叩いて、ロクは二人を監視するために飛んで行った。よしよし、これで安心して料理が出来るぞ。

「まずは……ヒポカムの肉だな!」

 クロウがついでに作ってくれていた料理台の上に、綺麗に洗った木の板を置いて、そこに【リオート・リング】を振って肉ひとかたまりをドンと取り出す。
 こんなにデカいかたまりを料理した事は無いが、なんとかなる……かな……。

「ツカサ君、手伝いましょうか?」
「あっ、シアンさん」
「お肉を切るぐらいなら、おばあちゃんにも出来るわ。手伝わせて」

 そう言いながらニコニコと微笑むシアンさんに、俺は思わずうなづいてしまう。
 昔から婆ちゃんの料理のお手伝いとか、一緒にお菓子作りをするみたいな事とかやってたから、ついつい断り切れなかったんだよなぁ。
 いや、まあ、シアンさんにごろにゃんしたい気持ちが無いでもないが。

「それで、どうすればいいのかしら?」
「あっ、ええとまずは、肉に付着してるマーズロウを取って一回流水で流して……」
「はいはい」

 俺が言うと、シアンさんはデカい肉の塊を軽々と持ちあげ、片手で水球を作りその中にポイと肉を入れて回しだす。あっ、あっ……そ、その術本当便利……。

「次は何をするのかしら」
「あっ、えーとカンランの葉っぱと、コッチのイシニオイタケをスライ……えと……こう……平たくなるように切って……そんで切り込みを入れた肉の塊にいれます」
「切り込みを入れるのね」

 そう言うと、シアンさんは水球の中で、肉のかたまりを――――ばすっという謎の音でいきなり切れ込みを入れ始めた。
 ななななにこれっ、何が起こってるの。水の中にあるのに斬撃ってなに!?
 ていうかシアンさんダメっす豪快すぎですそれだとこま切れになっちゃうううう!

「ヒィッ! き、切り刻まなくて良いですっ、切り込みをいれるだけで!!」
「あらそう? 今から切っておいた方が楽だと思ったんだけど……」
「お心遣いありがとうございますっ! でも、あの、今日の料理は普通に焼くのとはまた違った美味しさになりますんで! はいそりゃもう!」

 慌てて肉の一部が切れた状態のお肉を水の中から取り出して貰い、俺は不思議と水っぽくなっていないお肉の切り込みに、先程さきほどの材料を詰め込んだ。
 …………し、しかし、シアンさんって案外お料理は豪快なんだな……。
 ヘタなワケじゃないんだろうけど、なんというか、その……パワフル……。

 ……い、いや、忘れよう。今のは見なかった! おう俺は見なかったぞ!

「お肉に香りづけするのね?」
「あ、はいそうなんです! もう香草……マーズロウの香りはあるんですけど、肉の中に旨味を凝縮させるためにこの二つを入れるんです。イシニオイタケは、ガツンとちからがつくパンチのある味になりますよ」
「まあまあ! 楽しみねえ」

 シアンさん、やっぱりパワフ……いや、俺は何も聞いていない。
 とにかく次の準備だ。

 あ、ちなみにイシニオイタケと言うのは、見た目は黄土色の小石に似たキノコなんだけど、ニオイタケというニンニクの風味があるキノコと同じ味がするのだ。
 あっちは多量に食べるとヤバいんだけど、これは安全らしい。

 持ってみると形は完全に石で、恐らく小石に擬態ぎたいしてるんだろうけど、山岳地帯の草場に生えているので擬態はあんまり意味が無い……とのことで……。
 うーむ、なんだか残念なキノコだ。でもまあウマイからよし。

「んで、次は気付け薬のリモナの実をしぼり、皮をみじん切りにして表面に擦りつけ、塩胡椒も適量振り掛ける。最後にカンランの油をらして下拵したごしらえ完了です」

 リモナの実は、おなじみのレモンに非常に良く似た果実だ。
 味も効果もそのままだが、気付けの薬として冒険者のみならず庶民しょみんにも親しまれており、長く保存が出来るので冒険者の店などで山積みで置かれている。
 ほんとうに使い勝手が良いんだが、料理として使ってる人はあんまりいないんだよなぁ……なんでなんだろう。不思議だ。酸っぱいからかな。

 あと、カンランという植物はオリーブだとか椿だとかに似ている植物だ。
 木の実の中には直接たっぷりと油が入っていると言う不思議な木の実で、葉っぱも香草として使い勝手が良い。俺は、とある友人達……うーん……関係的には「主人と」なんだけど、ともかくその二人にカンランの果樹園を管理して貰っていて、そのおかげで定期的にこうして油を入手できるのである。

 うーん、たまには二人がいる村にも会いに行きたいんだけどなぁ……。
 この調査が終わったら、ブラック達に相談でもしてみようかな。

 ともかく、これで準備は出来た。ちょっと馴染ませる間に、次はソース作りだ。
 ブラック達がこっちを見ていないのを確認して、俺はバッグの中からじゅくしまくりで柔らかくなったパシビーを取り出した。

「あら、それ……」
「シーッ。シアンさんナイショです。あとでこれでお菓子も作りますから」
「あらあらまあまあ!」
「えーっと……ソースの作り方なんだっけ……お酒って何でも良かったっけ……」

 母さんが一度か二度作ったきりだから忘れてしまったが、確かお酒を使ったはず。ブラック達が見ていない事を確かめてリングを振ると、俺は酒の瓶を取り出した。
 この中にはブランデーが入っているのだが、オッサン達にはナイショだ。
 あ、自分で飲むためじゃないぞ。料理用だからな。
 おっと、ニオイを隠すために付け合せのタマグサをいためておこう。

「えーっと、パシビーを切って、ハチミツ、ブランデー、リモナの汁を加えて……」

 それから合わせたモノを形が無くなって液状になるまで潰す。本当はミキサーでも有ればいいんだけど、俺にはちょっと使えない。
 何度もやって、目の細かい布で越して、俺はソースを作った。
 確か、肉って甘いソースも合うんだよな。

「よし、あとは肉を焼くだけ……おーいブラック、すまんが肉を焼いてくれないか」
「えー? 僕の出番!? はいはいはーい」

 喜び勇んでやって来たブラックは、肉の塊を見て目を丸くしていたが、俺が「以前やったように肉を両面こんがり焼いて欲しい」と頼むと、すぐにやってくれた。
 この世界でも火力ってのは変わらないワケだけど、曜術で発生させる炎はそれとは少し違うらしく、やはりイメージが大事なようで……肉の塊は必要以上にげる事も無く、たったの数分でじゅうじゅうと良い匂いに焼け始めてしまう。

 いつもながら驚くが、やっぱりこう言う所がファンタジーなんだよな……。

「こんくらいで良いかな? ……よし、これで出来上がりなの?」
「うん。後は、食べやすい大きさに切って、パンを用意してソースとタマグサと一緒に挟んで……よしっこれで昼食の完成だ!」

 人数分の綺麗な布にローストした肉とソースを挟んだパンを並べる。
 これぞ異世界式ローストポ……いや、ビーフ……?
 いやいや、ローストヒポカムのパシビーソースサンドイッチだ!

「あらあら、美味しそうねえ!」
「あはっ、つ、ツカサ君早く持っていこ!」

 シアンさんとブラックが、あからさまに期待したような目で俺を見る。
 そこまで期待されると少々不安になってしまうが、しかし今回はアレな失敗もせずキチンと出来たはず。いや、多分、きっと……まあとにかく、食べてみれば分かる!

 どうか美味しく出来ていますように……などと小心者な事を思いつつ、俺達は昼食を仲間達が待つ場所に持って行った。











※入り切らなかった(;´∀`)
 次もちょっとだけお料理回(デザート)でごわす

 
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