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竜呑郷バルサス、煌めく勇者の願いごと編
9.ラッキースケベとはどういうことだ1
しおりを挟むなぜ俺はベッドで寝ているんだろうか。
よく分からず数分ボーッとしていたが、いつの間にか部屋が太陽光でない明るさに照らされているのを見て、今が夜なのだと気付いた。
夜。まさか……――
「お、おおぉ……は、半日以上寝過ごしたのでは……」
そう呟き、声が掠れているのに気付いて慌てたが、幸い部屋には人の気配はない。思わずホッとしてしまったが、すぐに気絶する前の記憶が次々と浮き上がって来て、俺は叫べない代わりに歯を喰いしばった。
か、顔が熱くて痛い。
喉も腰も痛いし声がこうなってるのも、全部あのオッサンどものせいだ。
あんにゃろども、人がドキっとしたのを良い事に雪崩れ込んで後ろから下から好き勝手にやりやがって……何回ヤられたのかもう知りたくもないが、体がうまく動かんのですが! これじゃ調査出来ないんですが!?
これ絶対にシアンさんやラスターに迷惑かけたぞ、これから遺跡の調査だったってのに、なに好き勝手にハメ外して気絶してるんだってなってもおかしくないぞ。もし半日以上寝てしまっていたとしたら、もう目も当てられない。
くそう……もう今度と言う今度は我慢ならんぞ。あいつらが部屋に入って来たら、ギッタンギッタンにしてやる。もう曜術も使って締め上げてやる!
……いや、俺が拒み切れなかったのが悪いんだろうと言われればそうなんだけど、しかしあのオッサン達に抵抗できるほどの体力など俺には無い。
したがって、風呂に一緒に入った時点でこうなる事は必然であって……。
「あぁあああ……俺にはえっちを拒む選択肢もないのか……」
頭を抱えて俯せになるが、枕に顔を埋めた所で何も変わらない。
ブラックとクロウが嫌ってワケじゃないんだけど……でも、この世には時と場合と場所によりって言葉があるだろ。大人ならばそう言うのに配慮して、俺が気絶しないように回数を減らすとか激しくしないとかやってくれても良いじゃねえかよー!!
なんでこうアイツらは好き勝手にやるんだっ、なんちゅうオッサンどもだ!
でも、二人と風呂に入るって決めたのは俺だし……なにより、途中で俺もなんだかふわーっとしちゃって、ついつい頷いちゃったりしちまったし……。
う、ううぅうう……。
「か、かえすがえすも不甲斐ないぃ……」
なんでこう俺って奴は流されちゃうんだろう。
す、好きだからか。でも、好きだからって何でも許すのはどうなんだ。
俺だってオトナの男として、毅然とした態度を取らなきゃ駄目なんじゃないのか。いくら二人の事が大事だからと言っても、何でも許すのは違うよな。
だけど……ブラックもクロウも、普通の大人ってわけじゃない。
特にブラックは、他の大人とは、色々と違っている。
アイツにしたら恋人のコミュニケーションと言えば「えっちする」のが当たり前の事で、だからなのかデートとかよりも性欲が優先されてしまう。
生きてきた世界が違うからだと思うけど、俺が思う「恋人同士」の相手への好意の示し方は、ブラックにとっては難しい事なのだ。
ずっと一緒に居たんだし、そういう奴だってのは俺も解ってる。
理解したうえで今も恋人……いや、こ、婚約者……として、付き合ってるんだ。
それを考えたら、どうしても拒否できない。
「ブラックが望んでいるのなら、それで喜んでくれるのなら嬉しい」って、心のどっかで思ってしまって何も言えなくなっちまう。
クロウの事だって、我慢しなくて良いって受け入れた自分やクロウの期待を裏切りたくなくて、クロウにだって喜んでほしいから、俺で良ければってなっちゃうんだ。
……なんか、そう思うのも……微妙に自惚れてる気がするけども。
「…………あっちの世界じゃ、追いかけ回されてるだけの情けない男だってのに……こっちでチヤホヤされるからヘンな感じになるんだよな……」
そうなんだよ……こっちに来たら急に「俺が主役! 求められてる!」って感じになっちゃうから、すぐに「受け入れてやる」とか「拒否する主導権がこっちに在る」とか思っちゃうんだ。そう言うのに順応しちゃうのって、けっこー危険だよな……。
両方の世界で暮らすんなら、気が大きくなるのは絶対駄目な気がする。
いっくらこの世界ではチート能力者になれるって言ったって、俺は偉くなったわけでも強くなったわけでもないし、あっちの世界でもそれは同じなのだ。
ブラックとクロウにチヤホヤされるのだって、二人が俺を好いていてくれるからであって、俺自身に魅力が有るかと言えば……ちょっと怪しい……。
だって、俺はチート能力が使えるからって言っても、それ以外は何も変わっちゃいないただの高校生なんだぞ。
チート能力以外あっちと同じってコトは、格好良くなったワケでも体がムキムキになったわけでもないんだ。いくら好かれてるからって、俺にはえっち拒否権が有るんだぞと居丈高マインドになってたら、いつか愛想をつかれるかもしれない。
よく考えたら、俺えっちの時はなんもしてないし……そもそも、ブラックとクロウの方がモテるんだから、何でもかんでもイヤイヤ言える立場じゃないよな。
ブラック達との絆を否定するワケじゃないけど、だからって相手の気持ちや我慢を考えなくて良いって事ではないはずだ。失望されたり悲しむような事をしていないかと振り返るのは、お互いの気持ちを思いやるために大事な事だろう。
だったら俺だって、ちょっとはサービスしなきゃいけないんじゃないだろうか。
自分の都合ばっかり言うんじゃなくて、二人がえっちしなくても満足だって思えるくらいに構ったりとか、満足して貰えるように俺から頑張ったりとか……。
こ、恋人キスとかだけじゃなくて……その……ええいっ、と、ともかく!
このままじゃいかん。
ブラックとクロウに振り回されて嘆く前に、俺だってやる事はやらないと。
だから、まずは…………えと……そ、そうだ。体を鍛えよう。
気持ちはフィジカルからって言葉も有るし、とにかく俺が男として立派なマッチョにでもなれば、心に余裕が出来て二人を宥める事も出来るかもしれない。
むう……紳士的に事を収めるマッチョで大人な俺……良い感じだ。
そうとなったら、寝てもいられない。
いや、なんかもう元気に動けないんだけど、とにかくベッドの上でも出来るような修行をやって、普段から力をつけておかないとな。
でも、さすがにこの体では腕立て伏せも出来ないので、まずは精神……曜術の腕を磨こうと思い、俺はなんとか上体を起こすと、ベッドの横に置いてあるバッグに手を伸ばした。
「ぐ……ぐぅう……」
体中がギシギシ痛いけど、でも動けないほどじゃない。
なんとかバッグの中から深紅色に染められた革張りの本を取り出した。
ふっふっふ、これは俺の薬師の師匠に頂いた教科書なのだ。これがあれば一人前の薬師になれるらしいので、こまめに勉強して力を付けないとな。
ずるずるとベッドの中央に戻り、本を開こうとする。と。
「……あれ? なんか……開かんぞ……」
なんでだろうかと思って表紙を何度も掴むのだが、どうしても手が滑る。
何故なのだろうと思っていたら、本の表紙にぼんやりと文字が浮かんだ。
『体内の曜気が低下している場合、本は開きません。休息して下さい』
きゅうそく。
……えっ、すげえこの本。そんな注意もしてくれるの!?
っていうかこれ魔法の本じゃん、カーデ師匠こんなの作れるの凄いな!?
「ほ、ほあぁ……ってことは、この本の中にはもっと凄いものが……!?」
表紙で体力を測ってロックしてしまうぐらいのハイテクな本なのだから、中身は俺が想像し得ないくらい凄い仕掛けが眠っているかも知れない。
それを思うとワクワクしてしまって、俺は興奮のあまり熱くなってきてしまった。
ぬおお、こうしちゃいられない。早く体を治して頑張らねば!
「ああでも早く中を見たいぃ……なんとかして早く元気にならねえかな!?」
声が掠れているが、そんな事はもうどうでもいい。
体力が低下しているのなら……そうだ、たくさんメシを喰えば良いんだ。
宿の人に頼んで何か食べさせて貰おう。そうとなったら体の痛みもなんのそのだ。
一気に張り切る気持ちが出て来て、ベッドから降りようと思って体を動かし――――俺は今更自分の服の変化に気が付いた。
「む……あれっ、そういえばいつの間にガウンみたいなのを着てるんだ俺は」
今まで気付かなかったが、俺が来ているのは少し硬めの浴衣のようなガウンだ。
恐らくブラック達が俺を洗った後に着せてくれたんだろうが、着心地は微妙な感じで、なんだかジーンズを直接肌に着込んでいるみたいだった。
これだと動きにくいし、替えのシャツに着替えよう。
そう思い、俺はヒモを解いて雑にガウンを脱いだのだが……ふと自分の体を見て、思わず「ゲッ」と変な声を出してしまった。
だって、俺の右胸には……誰かさんが吸い付いただろう痕が残っていたのだから。
「………………あいつ、相当強く吸い付きやがったな……」
ああ、これは絶対にクロウだ。
こんなくっきり残るほどの痕なんて、めちゃくちゃ力が強いクロウしか出来ん。
あんにゃろう、俺の胸を膨らますとか言ってめちゃくちゃやりやがったんだっけ。
男の胸がそう簡単にボインになるワケが無いってのに、なんでこう乱暴に伸ばそうとするんだろうか。アレは獣人特有の気質か何かなのか。
ガウンだとこのヤバい痕跡が絶対に見えてヤバいぞ。なんて事をしてくれたんだ。
これは絶対に隠さなきゃダメだ。このまま出たら絶対ヒソヒソされる……!
そうとなればさっさと着替えようと思い、再びバッグに手を出した。
と、同時。
「ツカサ! 具合は大丈夫か?」
「キューッ」
そう声が聞こえて、俺の返答を待たずにドアが開く。
体が痛くて咄嗟に動く事も出来ずにぎこちなくそちらを向くと、そこにはラスターと、俺の超可愛いロクショウがいて……っておい!
ちょっ、お、お前何勝手に開けてんだ!
「あっ、あ……!」
自分の今の姿を思い出して恥ずかしさに熱が一気に上がった俺に、自信満々な表情でドアを開けたラスターは、何かに気付いたように目をチラリと俺の顔の舌の方へと向け――――顔中を真っ赤に染めた。
「つっ、つ……つか、さ……それは……っ」
「ばっ、バカ! 突然開ける奴があるかあ!!」
目の奥までじりじり焼けるくらいに顔が熱くなってしまった俺に、ラスターはユデダコになりながら片手で目を隠して「すまん!」と慌てた様子で謝った。
ほ、本当だよ、お前貴族だってのになに無遠慮にドア開けてんだ!
慌ててバッグからシャツを取り出して、胸を隠そうとするかのように被る。
だけど、自分の頬が痛くなるくらいに熱を持っているのを自覚してしまい、シャツを着ても、妙に恥ずかしい気持ちが抜けなかった。
→
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