異世界日帰り漫遊記!

御結頂戴

文字の大きさ
上 下
154 / 952
竜呑郷バルサス、煌めく勇者の願いごと編

9.ラッキースケベとはどういうことだ1

しおりを挟む
 
 
 なぜ俺はベッドで寝ているんだろうか。

 よく分からず数分ボーッとしていたが、いつの間にか部屋が太陽光でない明るさに照らされているのを見て、今が夜なのだと気付いた。
 夜。まさか……――

「お、おおぉ……は、半日以上寝過ごしたのでは……」

 そう呟き、声がかすれているのに気付いてあらてたが、幸い部屋には人の気配はない。思わずホッとしてしまったが、すぐに気絶する前の記憶が次々と浮き上がって来て、俺は叫べない代わりに歯を喰いしばった。

 か、顔が熱くて痛い。
 のども腰も痛いし声がこうなってるのも、全部あのオッサンどものせいだ。

 あんにゃろども、人がドキっとしたのを良い事に雪崩なだれ込んで後ろから下から好き勝手にやりやがって……何回ヤられたのかもう知りたくもないが、体がうまく動かんのですが! これじゃ調査出来ないんですが!?

 これ絶対にシアンさんやラスターに迷惑かけたぞ、これから遺跡の調査だったってのに、なに好き勝手にハメ外して気絶してるんだってなってもおかしくないぞ。もし半日以上寝てしまっていたとしたら、もう目も当てられない。
 くそう……もう今度と言う今度は我慢ならんぞ。あいつらが部屋に入って来たら、ギッタンギッタンにしてやる。もう曜術も使って締め上げてやる!

 ……いや、俺がこばみ切れなかったのが悪いんだろうと言われればそうなんだけど、しかしあのオッサン達に抵抗できるほどの体力など俺には無い。
 したがって、風呂に一緒に入った時点でこうなる事は必然であって……。

「あぁあああ……俺にはえっちを拒む選択肢もないのか……」

 頭を抱えてうつぶせになるが、まくらに顔をうずめた所で何も変わらない。
 ブラックとクロウがいやってワケじゃないんだけど……でも、この世には時と場合と場所によりって言葉があるだろ。大人ならばそう言うのに配慮して、俺が気絶しないように回数を減らすとか激しくしないとかやってくれても良いじゃねえかよー!!

 なんでこうアイツらは好き勝手にやるんだっ、なんちゅうオッサンどもだ!

 でも、二人と風呂に入るって決めたのは俺だし……なにより、途中で俺もなんだかふわーっとしちゃって、ついついうなづいちゃったりしちまったし……。
 う、ううぅうう……。

「か、かえすがえすも不甲斐ふがいないぃ……」

 なんでこう俺って奴は流されちゃうんだろう。
 す、好きだからか。でも、好きだからって何でも許すのはどうなんだ。
 俺だってオトナの男として、毅然きぜんとした態度を取らなきゃ駄目なんじゃないのか。いくら二人の事が大事だからと言っても、何でも許すのは違うよな。
 だけど……ブラックもクロウも、普通の大人ってわけじゃない。

 特にブラックは、他の大人とは、色々と違っている。
 アイツにしたら恋人のコミュニケーションと言えば「えっちする」のが当たり前の事で、だからなのかデートとかよりも性欲が優先されてしまう。
 生きてきた世界が違うからだと思うけど、俺が思う「恋人同士」の相手への好意の示し方は、ブラックにとっては難しい事なのだ。

 ずっと一緒に居たんだし、そういう奴だってのは俺も解ってる。
 理解したうえで今も恋人……いや、こ、婚約者……として、付き合ってるんだ。

 それを考えたら、どうしても拒否できない。
 「ブラックが望んでいるのなら、それで喜んでくれるのなら嬉しい」って、心のどっかで思ってしまって何も言えなくなっちまう。
 クロウの事だって、我慢しなくて良いって受け入れた自分やクロウの期待を裏切りたくなくて、クロウにだって喜んでほしいから、俺で良ければってなっちゃうんだ。

 ……なんか、そう思うのも……微妙に自惚うぬぼれてる気がするけども。

「…………あっちの世界じゃ、追いかけ回されてるだけの情けない男だってのに……こっちでチヤホヤされるからヘンな感じになるんだよな……」

 そうなんだよ……こっちに来たら急に「俺が主役! 求められてる!」って感じになっちゃうから、すぐに「受け入れてやる」とか「拒否する主導権がこっちに在る」とか思っちゃうんだ。そう言うのに順応しちゃうのって、けっこー危険だよな……。
 両方の世界で暮らすんなら、気が大きくなるのは絶対駄目な気がする。

 いっくらではチート能力者になれるって言ったって、俺は偉くなったわけでも強くなったわけでもないし、あっちの世界でもそれは同じなのだ。
 ブラックとクロウにチヤホヤされるのだって、二人が俺を好いていてくれるからであって、俺自身に魅力が有るかと言えば……ちょっと怪しい……。

 だって、俺はチート能力が使えるからって言っても、それ以外は何も変わっちゃいないただの高校生なんだぞ。

 チート能力以外あっちと同じってコトは、格好良くなったワケでも体がムキムキになったわけでもないんだ。いくら好かれてるからって、俺にはえっち拒否権が有るんだぞと居丈高いたけだかマインドになってたら、いつか愛想をつかれるかもしれない。

 よく考えたら、俺えっちの時はなんもしてないし……そもそも、ブラックとクロウの方がモテるんだから、何でもかんでもイヤイヤ言える立場じゃないよな。
 ブラック達との絆を否定するワケじゃないけど、だからって相手の気持ちや我慢を考えなくて良いって事ではないはずだ。失望されたり悲しむような事をしていないかと振り返るのは、お互いの気持ちを思いやるために大事な事だろう。

 だったら俺だって、ちょっとはサービスしなきゃいけないんじゃないだろうか。
 自分の都合ばっかり言うんじゃなくて、二人がえっちしなくても満足だって思えるくらいにかまったりとか、満足して貰えるように俺から頑張ったりとか……。
 こ、恋人キスとかだけじゃなくて……その……ええいっ、と、ともかく!

 このままじゃいかん。
 ブラックとクロウに振り回されて嘆く前に、俺だってやる事はやらないと。

 だから、まずは…………えと……そ、そうだ。体を鍛えよう。
 気持ちはフィジカルからって言葉も有るし、とにかく俺が男として立派なマッチョにでもなれば、心に余裕が出来て二人をなだめる事も出来るかもしれない。
 むう……紳士的に事を収めるマッチョで大人な俺……良い感じだ。

 そうとなったら、寝てもいられない。
 いや、なんかもう元気に動けないんだけど、とにかくベッドの上でも出来るような修行をやって、普段から力をつけておかないとな。

 でも、さすがにこの体では腕立て伏せも出来ないので、まずは精神……曜術の腕をみがこうと思い、俺はなんとか上体を起こすと、ベッドの横に置いてあるバッグに手を伸ばした。

「ぐ……ぐぅう……」

 体中がギシギシ痛いけど、でも動けないほどじゃない。
 なんとかバッグの中から深紅色に染められた革張りの本を取り出した。
 ふっふっふ、これは俺の薬師の師匠に頂いた教科書なのだ。これがあれば一人前の薬師になれるらしいので、こまめに勉強して力を付けないとな。

 ずるずるとベッドの中央に戻り、本を開こうとする。と。

「……あれ? なんか……開かんぞ……」

 なんでだろうかと思って表紙を何度もつかむのだが、どうしても手がすべる。
 何故なのだろうと思っていたら、本の表紙にぼんやりと文字が浮かんだ。

『体内の曜気が低下している場合、本は開きません。休息して下さい』

 きゅうそく。
 ……えっ、すげえこの本。そんな注意もしてくれるの!?
 っていうかこれ魔法の本じゃん、カーデ師匠こんなの作れるの凄いな!?

「ほ、ほあぁ……ってことは、この本の中にはもっと凄いものが……!?」

 表紙で体力を測ってロックしてしまうぐらいのハイテクな本なのだから、中身は俺が想像し得ないくらい凄い仕掛けが眠っているかも知れない。
 それを思うとワクワクしてしまって、俺は興奮のあまり熱くなってきてしまった。

 ぬおお、こうしちゃいられない。早く体を治して頑張らねば!

「ああでも早く中を見たいぃ……なんとかして早く元気にならねえかな!?」

 声がかすれているが、そんな事はもうどうでもいい。
 体力が低下しているのなら……そうだ、たくさんメシを喰えば良いんだ。
 宿の人に頼んで何か食べさせて貰おう。そうとなったら体の痛みもなんのそのだ。

 一気に張り切る気持ちが出て来て、ベッドから降りようと思って体を動かし――――俺は今更いまさら自分の服の変化に気が付いた。

「む……あれっ、そういえばいつの間にガウンみたいなのを着てるんだ俺は」

 今まで気付かなかったが、俺が来ているのは少し硬めの浴衣のようなガウンだ。
 恐らくブラック達が俺を洗った後に着せてくれたんだろうが、着心地は微妙な感じで、なんだかジーンズを直接肌に着込んでいるみたいだった。

 これだと動きにくいし、替えのシャツに着替えよう。
 そう思い、俺はヒモをいて雑にガウンを脱いだのだが……ふと自分の体を見て、思わず「ゲッ」と変な声を出してしまった。

 だって、俺の右胸には……誰かさんが吸い付いただろう痕が残っていたのだから。

「………………あいつ、相当強く吸い付きやがったな……」

 ああ、これは絶対にクロウだ。
 こんなくっきり残るほどの痕なんて、めちゃくちゃ力が強いクロウしか出来ん。

 あんにゃろう、俺の胸をふくらますとか言ってめちゃくちゃやりやがったんだっけ。
 男の胸がそう簡単にボインになるワケが無いってのに、なんでこう乱暴に伸ばそうとするんだろうか。アレは獣人特有の気質か何かなのか。

 ガウンだとこのヤバい痕跡が絶対に見えてヤバいぞ。なんて事をしてくれたんだ。
 これは絶対に隠さなきゃダメだ。このまま出たら絶対ヒソヒソされる……!
 そうとなればさっさと着替えようと思い、再びバッグに手を出した。
 と、同時。

「ツカサ! 具合は大丈夫か?」
「キューッ」

 そう声が聞こえて、俺の返答を待たずにドアが開く。
 体が痛くて咄嗟とっさに動く事も出来ずにぎこちなくそちらを向くと、そこにはラスターと、俺の超可愛いロクショウがいて……っておい!
 ちょっ、お、お前何勝手に開けてんだ!

「あっ、あ……!」

 自分の今の姿を思い出して恥ずかしさに熱が一気に上がった俺に、自信満々な表情でドアを開けたラスターは、何かに気付いたように目をチラリと俺の顔の舌の方へと向け――――顔中を真っ赤に染めた。

「つっ、つ……つか、さ……それは……っ」
「ばっ、バカ! 突然開ける奴があるかあ!!」

 目の奥までじりじり焼けるくらいに顔が熱くなってしまった俺に、ラスターはユデダコになりながら片手で目を隠して「すまん!」とあわてた様子で謝った。
 ほ、本当だよ、お前貴族だってのになに無遠慮にドア開けてんだ!

 慌ててバッグからシャツを取り出して、胸を隠そうとするかのようにかぶる。
 だけど、自分のほおが痛くなるくらいに熱を持っているのを自覚してしまい、シャツを着ても、妙に恥ずかしい気持ちが抜けなかった。










 
しおりを挟む
感想 1,046

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

義兄の愛が重すぎて、悪役令息できないのですが…!

ずー子
BL
戦争に負けた貴族の子息であるレイナードは、人質として異国のアドラー家に送り込まれる。彼の使命は内情を探り、敗戦国として奪われたものを取り返すこと。アドラー家が更なる力を付けないように監視を託されたレイナード。まずは好かれようと努力した結果は実を結び、新しい家族から絶大な信頼を得て、特に気難しいと言われている長男ヴィルヘルムからは「右腕」と言われるように。だけど、内心罪悪感が募る日々。正直「もう楽になりたい」と思っているのに。 「安心しろ。結婚なんかしない。僕が一番大切なのはお前だよ」 なんだか義兄の様子がおかしいのですが…? このままじゃ、スパイも悪役令息も出来そうにないよ! ファンタジーラブコメBLです。 平日毎日更新を目標に頑張ってます。応援や感想頂けると励みになります♡ 【登場人物】 攻→ヴィルヘルム 完璧超人。真面目で自信家。良き跡継ぎ、良き兄、良き息子であろうとし続ける、実直な男だが、興味関心がない相手にはどこまでも無関心で辛辣。当初は異国の使者だと思っていたレイナードを警戒していたが… 受→レイナード 和平交渉の一環で異国のアドラー家に人質として出された。主人公。立ち位置をよく理解しており、計算せずとも人から好かれる。常に兄を立てて陰で支える立場にいる。課せられた使命と現状に悩みつつある上に、義兄の様子もおかしくて、いろんな意味で気苦労の絶えない。

吊るされた少年は惨めな絶頂を繰り返す

五月雨時雨
BL
ブログに掲載した短編です。

飼われる側って案外良いらしい。

なつ
BL
20XX年。人間と人外は共存することとなった。そう、僕は朝のニュースで見て知った。 なんでも、向こうが地球の平和と引き換えに、僕達の中から選んで1匹につき1人、人間を飼うとかいう巫山戯た法を提案したようだけれど。 「まあ何も変わらない、はず…」 ちょっと視界に映る生き物の種類が増えるだけ。そう思ってた。 ほんとに。ほんとうに。 紫ヶ崎 那津(しがさき なつ)(22) ブラック企業で働く最下層の男。悪くない顔立ちをしているが、不摂生で見る影もない。 変化を嫌い、現状維持を好む。 タルア=ミース(347) 職業不詳の人外、Swis(スウィズ)。お金持ち。 最初は可愛いペットとしか見ていなかったものの…?

久々に幼なじみの家に遊びに行ったら、寝ている間に…

しゅうじつ
BL
俺の隣の家に住んでいる有沢は幼なじみだ。 高校に入ってからは、学校で話したり遊んだりするくらいの仲だったが、今日数人の友達と彼の家に遊びに行くことになった。 数年ぶりの幼なじみの家を懐かしんでいる中、いつの間にか友人たちは帰っており、幼なじみと2人きりに。 そこで俺は彼の部屋であるものを見つけてしまい、部屋に来た有沢に咄嗟に寝たフリをするが…

ある日、人気俳優の弟になりました。

雪 いつき
BL
母の再婚を期に、立花優斗は人気若手俳優、橘直柾の弟になった。顔良し性格良し真面目で穏やかで王子様のような人。そんな評判だったはずが……。 「俺の命は、君のものだよ」 初顔合わせの日、兄になる人はそう言って綺麗に笑った。とんでもない人が兄になってしまった……と思ったら、何故か大学の先輩も優斗を可愛いと言い出して……? 平凡に生きたい19歳大学生と、24歳人気若手俳優、21歳文武両道大学生の三角関係のお話。

○○に求婚されたおっさん、逃げる・・

相沢京
BL
小さな町でギルドに所属していた30過ぎのおっさんのオレに王都のギルマスから招集命令が下される。 といっても、何か罪を犯したからとかではなくてオレに会いたい人がいるらしい。そいつは事情があって王都から出れないとか、特に何の用事もなかったオレは承諾して王都へと向かうのだった。 しかし、そこに待ち受けていたのは―――・・

異世界転生して病んじゃったコの話

るて
BL
突然ですが、僕、異世界転生しちゃったみたいです。 これからどうしよう… あれ、僕嫌われてる…? あ、れ…? もう、わかんないや。 ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ 異世界転生して、病んじゃったコの話 嫌われ→総愛され 性癖バンバン入れるので、ごちゃごちゃするかも…

処理中です...