144 / 917
竜呑郷バルサス、煌めく勇者の願いごと編
3.聳え立つ巨塔1
しおりを挟む「りゅっ……えっ、えぇえええ!?」
なにあのでっかいの!
ツノが何本も生えててデッカい蛇みた……あれ、じゃあ、あの紫色のモンスターは竜ってワケじゃないのかな。竜ってこの世界じゃ滅多に見かけないんだよな?
たしか、モンスターが強くなって体を変えて行く内に到達するのが【竜】で、その力はモンスターとは別の扱いをされている【龍】に匹敵するんだっけ。
冒険者ギルドが定めているランクでは、最高位のランク8……いわば神話級だ。
だけどそんなモンは滅多に居ないって話だったような。
いやでも俺の可愛いロクショウは【準飛竜】で竜に近い姿をしているし、いない事は無いんだよな。つーかここどこ。前に居た所は、ラッタディアの【シムロ】って街だったのに、またブラック達は移動したんだろうか。
ていうかコレ俺も参戦した方が良い?
でも途中から入ってリズム崩したら申し訳ないし、呼ばれるまで黙って待ってた方が良いかなあ。うーむ……とりあえずシアンさんに近付いてみるか。
遠景に森を望む小高い丘の草原からコソコソと降りて、後衛で待機しているシアンさんに近付く。と、相手もこちらに気付いてくれたのか振り返った。
「あらツカサ君! 来てくれたのね~」
「はわーっ!」
気付いた途端、シアンさんが近寄って来てぎゅーって! ぎゅー!
あああ良い匂いがするぅううう。落ちちゃうっ、さらにシアンさんが好きになっちゃうっ熟女を好きになる趣味は無いのにそっちにも落ちちゃうぅううう。
「お婆ちゃんとっても寂しかったから、戻って来てくれて嬉しいわ……!」
「おおおふっおへへっ、俺もお久しぶりで嬉しゅうございますぅう」
「戻ってきて早々こんな感じでごめんね、騒がしかったわよねえ」
「ぷはっ、あの、これ一体どうなってるんです?」
美老女にしては上向き豊満過ぎな胸から脱出した俺は、細く優しい腕で抱き締めてくれているシアンさんを見上げる。すると、シアンさんは「あらあら」とでも言わんばかりの困ったような表情をしながら答えてくれた。
――――どうやら、シムロの街から俺が自分の世界に帰った後、ちょうど入れ違いでメッセンジャーの毒舌金髪巨乳美女エルフことエネさんがやって来て、ブラック達を強制的に【カスタリア】に呼び出したらしい。
で、何で呼び出したかと言うと……ライクネス王国からの要請だと言うのだ。
その内容は『ラスターと共にライクネス王国のある場所に行って、調査の手伝いをして欲しい』というような内容で、これがよりにもよって王様直々の命令だってんでブラック達も断れずに連行され……今に至るというワケなのだそうだ。
あ、ちなみに【カスタリア】っていうのは、この大陸の国を分割している複数の【国境の山】という山脈群のひとつに存在する、とある独立機関の施設だ。
この施設は【世界協定】という国家間の諍いを鎮めたり国を跨ぐ事件を引き受けて調査したりする機関の総本山で、シアンさんはそこで裁定員という職に就いている。世界協定でも数人しかいない最高権力者の一人なのだ。
でも、シアンさんは水のグリモア――【碧水の書】のグリモアで、しかもこの世界での俺のお婆ちゃんになってくれるって言う太っ腹なエルフお婆ちゃんなので、俺はこうしてシアンさんの胸に全力で甘えられるのである。
ふはは、役得とはこのことだ。今更だけど、この調子でグリモア全員が女性だったら良かったのになあ。この世界って八割が美形なんだし。
まあ、もう済んだ話だけども。それはともかくとして。
「えーっと……ここがライクネス王国のどっかで、なんでラスターがいるのかとかも分かりましたけども……それで、この状況はどういう事で……?」
「移動していたら、ちょうどポイズンスラグの亜種が暴れているのを見つけたのよ。あの子達は放っておこうと言うのだけど、大きさがあの通り尋常じゃなかったから、王国騎士のラスター様が放って置けなくてね……それで、今戦闘中なの」
「ぽいずんすらぐ」
「私達の言葉に直すと、毒ナメクジね」
なるほど。ていうかそうか、この世界って日本人の神様が代々管理して来たから、英語が公用語じゃなくて日本語が普通なんだっけ。だから、所々に英語が有ったり、外国人風のブラック達の名前だけがカタカナ系だったりするんだっけか。
文字は異世界風なのに、ホントこう言う所がチグハグなんだよなぁ。
まあ、多国籍なごちゃまぜファンタジーが日本のラノベだろうがって言われると、完全に否定する事は出来ないんだけども……。
それは置いといて、ようやく全部スッキリしました。
ラスターが騎士として放置できなかったんだな。うむ、相変わらず傲慢ナルシストのくせに正義漢で真面目なやっちゃ。
そんな事を思いながら、三人の大人が竜の顔に擬態していた部分を叩き、徐々にポイズンスラグの形をナメクジらしいものに戻していくのを見ていると、なにやら急にシアンさんの胸元がモゾモゾと動きはじめた。
えっ、シアンさんのおっぱいもしかして自分で動けるんですか。
予想外すぎて一瞬変な事を想像してしまったが……シアンさんの服から飛び出してきたのは、ちっちゃくて黒くて可愛い、俺の相棒だった。
「キュ~!」
「あっ、ロクぅ!」
小さな蝙蝠羽をパタパタと動かして俺の胸へと飛び込んでくるロクに答えて、俺も「ただいま」と言わんばかりにロクの小さな顔に頬を摺り寄せる。
シアンさんが胸の中であやしてくれていたお蔭で、ロクの体は温かい。
普通ならこんな風にヘビちゃんと触れ合うのは難しいが、この世界でならたくさんスキンシップしてもオッケーだから、本当にこういう所はありがたい。
そんな事を思いつつ、ロクとほっぺを摺り寄せ合戦をしていると――――目の前で物凄い悲鳴が響き渡り、ポイズンスラグの体が燃え上がった。
あっ、ブラックが炎の曜術で一気に燃やしたのか。
そう思った刹那、ポイズンスラグの体が大きく膨らんで……
心臓が驚きそうなくらいの轟音を立て、一瞬で破裂した。
「わあっ!?」
いきなりはじけたと思ったと同時、その紫色の肉片がこちらへ豪速で飛んでくる。思わずロクを庇って背を向けたが、シアンさんは俺を守るように背中を向けて、何事かを呟き掌を前へと押し出した。
肉片が、もう目と鼻の先に来る。
目を瞑りそうになったが……シアンさんと俺達の周囲には、青い水のような円形の障壁がいつのまにか出現していた。
その障壁は飛んできた肉片を溶かし、形を飲み込んでいく。
何が起こっているのか解らず目を丸くした俺達の前で、シアンさんが曜術で作ったのであろう障壁は、飛んできた全ての肉片を消化し切ってしまった。
「し、シアンさんすげえ……」
「うふふ、そう言って貰えて嬉しいわ」
水の曜術ってことは、俺にも使えるのかな。いや、でも、こういうのって水のグリモアしか使えなかったりするのかも……でも水バリア格好いいぞ。俺もやりたいぞ!
もしかしたら教えて貰えるかもしれない、などと淡い期待を抱きつつ、俺はロクを頭に乗せてシアンさんに教えを乞おうと口を開いた……と、同時。
「ツカサくぅうううううん!! あぁああ会いたかったよぉおおおおお」
「おぐふっ!?」
どん、と体を押し倒すほどの強い衝撃が来たと思ったら、いつのまにか俺は中年のオッサンのにおいとともにぎゅうぎゅうと抱き締められていた。
……ああ、約一週間ぶりだなこの感じ……学校だとオッサンに近付く機会すらないから、なんか帰るたびに改めてブラックがオッサンだと言う事を実感してしまうぞ。
いや、嫌とかじゃないんだけど、あの……毎回こっちに来るたびに抱き締めて来るのは勘弁してくれないか。そもそも人前だしここ外だしラスターいるし……!
「ふぁあぁツカサ君のほっぺぇ……」
「ぎゃーっ! 吸い付くなぁああ!」
抱き締めただけじゃ興奮が抑えられなかったのか、今度は俺のほっぺを餅のように伸ばすがごとくチュッチュと吸い付いて来る。
そんな事をされて黙っていられるはずも無く、逃げ出そうと必死でもがいていると、またもや知ったような声がこちらに近付いてきた。
「おいやめろ小汚い中年め! ツカサが嫌がっているだろうが!」
「ムゥ……オレもツカサに吸い付きたいぞ……」
ラスターとクロウだ。ラスターは相変わらず自惚れても仕方がないぐらいキラキラしたイケメンだが、クロウもちょっと老けてるものの負けず劣らずの野性的イケメンだなぁもう……なんで俺の周り男ばっかりなんだろうな……。
さっきのキュウマの衝撃的な過去が尾を引いていて思わず落ちこんでしまったが、そんなこちらの気持ちなど余所に、ブラックは俺を抱き締めて起立し後退する。
しかし、これで立ち止まるような人間なんてここにはいない。
ラスターとクロウはヅカヅカと距離を詰めて来て、こちらに手を伸ばしてきた。
軍服に似たような服を纏う腕と、筋肉質な褐色の腕が俺を掴もうとするが、こちらのオッサンもさるもので器用にその追跡を逃れて更に距離を取る。
「おいっ、いい加減にツカサを離せ!」
「ブラックだけずるいぞ」
「あーもー話が進まないだろ!? もう良いから早く目的地に行こうって!」
ここでグダグダしても仕方ないだろうと全員を窘める俺に、シアンさんも頷きつつ近付いてきた。そうして、ブラックの腕を優しく解いて俺を解放してくれる。
何だかんだでブラックもシアンさんには弱いんだよな。助かったぜ。
「ツカサ君の言う通り、早く街へ向かいましょう。ここまで巨大なポイズンスラグが出たなんて、余程のことだし……次が無いとも限らない。冒険者ギルドに報告して、周辺を警戒させなければ」
「むっ……水麗候がそう仰るのであれば、仕方ない……」
水麗候っていうのは、シアンさんの呼び名の一つだ。
なんかよく分からないけど、ラスターやクロウはそう呼ぶんだよな。敬意を払う時の呼び名なんだろうけど、位の高い人しか呼ばないから俺としては違和感だ。
いや、シアンさんの名前を気軽に呼べる俺とブラックが変なのかな……。
まあそれはそれとして。シアンさんのお蔭で一旦は落ち着いた俺達は、丘の向こうに在ると言う目的地へと歩き始めた。
「ところで、目的地ってどこなんだ? ここってライクネス……なんだよな?」
いつもの事ながら右にブラック左にクロウと中年共に挟まれて歩きつつ、前を歩くシアンさんとラスターに問いかけると、ラスターが軽く俺の方を振り向いた。
「そうか、ツカサは知らなかったな。大体の事は水麗候から教えて頂いただろうが、俺達はこれから【バルサス】という都市に向かう事になっている。そこで詳しい情報を仕入れて装備を整えるんだ」
「装備を整えるって……バルサスって所が最終目的地じゃないの?」
ラスターの言い方は、なんだか別の場所に行くための休息地みたいな言い方だ。
不思議に思って問いかけると、相手は少し顔を引き締めて目を細めた。
「そのことは宿屋で話そう。説明するにも、少し長くなりそうだからな。……ああ、そろそろ近付いて来たぞ。ツカサ見て見ろ。あの山が目的地だ」
「え……山……?」
ブラック達から離れてラスターの隣に並ぶと、緩やかに下った草原から少し遠くに青く霞んだ岩山が見えた。まるで、獣の牙を逆さにして置いたような鋭い山だが……良く見てみると、その山には中腹辺りから黒ゴマっぽい物がポツポツと付いている。
あれは何だろうかと眉根を顰めた俺に、ラスタは―少し笑うような声を漏らした。
「あの山はこの国でも珍しいものだ。近付いたらもっと驚くぞ」
「そうなの?」
「ああ、あの黒い点もなんなのか分かる」
そう言って、ラスターは嬉しそうに笑う。
ぐっ……ま、睫毛が長い……本当コイツ顔だけは整ってやがる……。
一瞬ドキッとしてしまったが、男にときめく趣味は無いと首を振って、俺は前だけを見て、再び目的地へと歩き出した。
……後ろは見ない。見ないぞ。なんか凄い怖いオーラをヒシヒシ感じるからな。
→
※思ったより長くなって切りどころが微妙になってもうた…
_:( _ ́ω`):_スミマセ…
10
お気に入りに追加
1,003
あなたにおすすめの小説
お腹の子と一緒に逃げたところ、結局お腹の子の父親に捕まりました。
下菊みこと
恋愛
逃げたけど逃げ切れなかったお話。
またはチャラ男だと思ってたらヤンデレだったお話。
あるいは今度こそ幸せ家族になるお話。
ご都合主義の多分ハッピーエンド?
小説家になろう様でも投稿しています。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
小さなことから〜露出〜えみ〜
サイコロ
恋愛
私の露出…
毎日更新していこうと思います
よろしくおねがいします
感想等お待ちしております
取り入れて欲しい内容なども
書いてくださいね
よりみなさんにお近く
考えやすく
イケメン彼氏は年上消防士!鍛え上げられた体は、夜の体力まで別物!?
すずなり。
恋愛
私が働く食堂にやってくる消防士さんたち。
翔馬「俺、チャーハン。」
宏斗「俺もー。」
航平「俺、から揚げつけてー。」
優弥「俺はスープ付き。」
みんなガタイがよく、男前。
ひなた「はーいっ。ちょっと待ってくださいねーっ。」
慌ただしい昼時を過ぎると、私の仕事は終わる。
終わった後、私は行かなきゃいけないところがある。
ひなた「すみませーん、子供のお迎えにきましたー。」
保育園に迎えに行かなきゃいけない子、『太陽』。
私は子供と一緒に・・・暮らしてる。
ーーーーーーーーーーーーーーーー
翔馬「おいおい嘘だろ?」
宏斗「子供・・・いたんだ・・。」
航平「いくつん時の子だよ・・・・。」
優弥「マジか・・・。」
消防署で開かれたお祭りに連れて行った太陽。
太陽の存在を知った一人の消防士さんが・・・私に言った。
「俺は太陽がいてもいい。・・・太陽の『パパ』になる。」
「俺はひなたが好きだ。・・・絶対振り向かせるから覚悟しとけよ?」
※お話に出てくる内容は、全て想像の世界です。現実世界とは何ら関係ありません。
※感想やコメントは受け付けることができません。
メンタルが薄氷なもので・・・すみません。
言葉も足りませんが読んでいただけたら幸いです。
楽しんでいただけたら嬉しく思います。
病気になって芸能界から消えたアイドル。退院し、復学先の高校には昔の仕事仲間が居たけれど、彼女は俺だと気付かない
月島日向
ライト文芸
俺、日生遼、本名、竹中祐は2年前に病に倒れた。
人気絶頂だった『Cherry’s』のリーダーをやめた。
2年間の闘病生活に一区切りし、久しぶりに高校に通うことになった。けど、誰も俺の事を元アイドルだとは思わない。薬で細くなった手足。そんな細身の体にアンバランスなムーンフェイス(薬の副作用で顔だけが大きくなる事)
。
誰も俺に気付いてはくれない。そう。
2年間、連絡をくれ続け、俺が無視してきた彼女さえも。
もう、全部どうでもよく感じた。
元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~
おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。
どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。
そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。
その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。
その結果、様々な女性に迫られることになる。
元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。
「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」
今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。
夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました
氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。
ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。
小説家になろう様にも掲載中です
婚約者の側室に嫌がらせされたので逃げてみました。
アトラス
恋愛
公爵令嬢のリリア・カーテノイドは婚約者である王太子殿下が側室を持ったことを知らされる。側室となったガーネット子爵令嬢は殿下の寵愛を盾にリリアに度重なる嫌がらせをしていた。
いやになったリリアは王城からの逃亡を決意する。
だがその途端に、王太子殿下の態度が豹変して・・・
「いつわたしが婚約破棄すると言った?」
私に飽きたんじゃなかったんですか!?
……………………………
6月8日、HOTランキング1位にランクインしました。たくさんの方々に読んで頂き、大変嬉しく思っています。お気に入り、しおりありがとうございます。とても励みになっています。今後ともどうぞよろしくお願いします!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる