異世界日帰り漫遊記!

御結頂戴

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竜呑郷バルサス、煌めく勇者の願いごと編

2.エロゲのバステは実際にはつけたくない

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「……今日も、どっと疲れたな……」

 俺の隣で、太眉固太りな「まさに柔道部!」って感じの親友が呟く。
 いつもは俺に対してヤレヤレな態度を見せつけて来るのだが、しかし今日は別の事に辟易へきえきしているみたいで、俺が住んでいるマンションのロビーまで辿たどくと、肩を落としていた。

 しかしまあ、さもありなん。
 俺だって今日は凄く疲れたのだ。

 とみちゃん先生に教室へと投げ込まれた後、俺と隣にいる親友――尾井川、他二人は、とにかく防戦徹底でせまりくる脅威を回避していた。

 例えば、好奇心の目を向けるクラスメートに反感を持たれないよう気を付けながらやんわりお断りしたり、授業中にもジロジロみられるのにも耐えたり、昼休みには外に行こうとしたら絡まれそうになったり、ストーキングして来るヤツを必死にいて俺達がいつもメシを喰う場所にコソコソ移動したり……とにかく大変だったのだ。

 こんな状況では、そりゃあ守る側の尾井川は疲れて当然だろう。
 ヒロ(野蕗のぶきって奴の事な)とクーちゃん(セミナーティーという名前の伊日ハーフだ)も明るく振る舞ってはいたが、気力を持って行かれたのは確かなはずだ。
 だらだらしていた学校生活が急にこんな風に変わっちまうんだから、そりゃみんな戸惑ってダウンしてしまうだろう。そう思うと、本当に申し訳ない。

 俺は守られる側だけど、それでも何キロかせたんじゃないかと思うほど、精神が摩耗まもうしてるし……本当に、尾井川達には申し訳ない事をしていると思う。
 だけど、俺には解決するすべがない。
 この世界じゃ何の力も持たない俺は、ただ悪友や周囲の大人の人の厚意に甘える事しか出来ないのだ。それが、なんとも情けなかった。

 でも……本当に大変なのは、俺を守ってくれている尾井川達なんだもんな。
 俺がここで「疲れた……」とか思っちゃいけない。せめて、感謝していたわらねば。
 そう思いつつ、尾井川と一緒にエレベーターに乗って温かいまなざしを送ると。

「なんだその目は……いつにもまして気持ちわりいぞお前」
「酷い!! 親友になんてことを!」

 掌で怒りの肩ペシをするが、尾井川のシャツの肩部分をパンパンにしている贅肉ぜいにくの内部には、硬い筋肉が眠っている。なので、そんな尾井川の肩はマッスル過ぎて、俺の貧弱な手などバインとはじいてしまった。
 チクショウ、これだから体育会系ってイヤなんだ。

「おいおい、こっちは疲れてんだからパンチは勘弁してくれよ。いつものお前の攻撃でもダメージ1くらいは喰らうぞ」
「いつもはノーダメだと言いたいのかお前はー!!」
「あーほらほらエレベーターの中ではお静かにしろって……それよりお前、俺が家庭教師すんの終わったらまたに行くのか?」

 数秒、何を言われているのか解らず、エレベーターの上昇する音を聞いてしまったが……そういえば、尾井川だけは俺が「異世界とこちらの世界を行き来している」という事を知っているんだっけか。それを思い出し、こくりとうなづいた。

 ……今更だけど、まさか尾井川が信じてくれるとは思わなかったよなぁ。
 尾井川は俺が師匠とあおぐほどのエロオタクで、他のマニアックな知識にも造詣が深いのだが、その反面妙にリアリストで元々はオカルト否定派だったのだ。

 しかし、尾井川は今も昔も俺の親友だ。もしかしたら、俺の事を一番理解してくれているかもしれない。そのくらい、一番長く付き合ってきた。そのおかげか、俺の話も全部信じてくれて、最初の時は俺が異世界に戻る手伝いをしてくれたのである。
 まあ、俺がこの世界に帰って来た時に色んな光景を目の当たりにして、そのせいで信じざるを得なくなった……ってのも有るかも知れないが。

 ともかく尾井川は、俺の真実を知る唯一の存在なのである。
 ……アッチの世界だと、俺が「異世界から来た」って事実を知っている奴が何人もいるんだけど、本当こういう時って現実主義な世界だと困るよなぁ……。まあ、何でもかんでもオカルトだと言われるのもそれはそれで疲れるけども。

 ゴホン。話がれた。
 まあそんなワケで、尾井川はコッチの世界での頼れる協力者なのだ。

 今日だって、勉強が遅れがちでしかも期末テスト対策も何も出来ていない俺の事を案じて家庭教師をしてくれるのである。ホントに、何度感謝してもし足りない。俺には勿体もったいないくらいの親友だ。是非ウチで夕食食って行ってください。
 尾井川が居たら俺の親が焼肉を焼いてくれるんだよ。楽しみだなあ焼肉……。

「何ボーッとしてんだ。行くのかって聞いてんだよ」
「うえっ、は、はいはい! 行きますよそりゃもちろん!」

 かなり頭の中で話がずれて「焼肉楽しみ」しか残らなくなりそうで危うかったが、頭をブンブンと振って問いに答える。

 だって行かなきゃブラックがねるんだもん。ほっといたら変な無茶をしそうだし行かなきゃならない。……まあ、流石さすがに「向こうで俺の恋人のオッサンが待ってるんです」とまでは言えなくて、彼女が待っているんだと勘違いさせてるけども。
 …………言えない、絶対に言えない。この首から下げた指輪をくれたヤツが、親友よりも男むさい無精ひげだらけのオッサンだなんて……。

「お前なぁ……相手が恋しいのは分かるがよ、週一であんな寂れた神社に行ってたら流石さすがに特定されるぞ。待ち伏せでもされたらどーすんだよ」
「う……で、でも、最近は夜中に外に出てるし……」
「だからそれが危ないんだっての! なんでお前はそのナリできもだけデカいかなあ」

 ムッ、失礼な。まるで「他の所はデカくない」みたいに言いやがって。
 俺だってなあ、まだまだ成長する余地が有るんだからな。ちんちんだって何か……なんかこう……鍛えたらぜったいデカくなるし大人になれるんだからな!
 他のダチと違って尾井川は数センチの身長差だし、背もすぐに追い抜いてやる!

「…………そういう幼稚な思考の脱線の仕方をするから心配なんだよお前は……」
「ハッ!? なんでお前俺の思っていることが……」
「……もう良い、お前と話していると俺まで知能指数下がりそうだわ」
「なにをー!」

 尾井川はこう言う言い方で俺をバカにしてくるからいけない。
 いくら親友と言えど、怒る時は怒るんだからな。そう思いながら両手を上げて襲いかかろうとした俺の耳に――チーンという音が聞こえた。
 ……ああ、家が有る階に到着してしまったようだ。チッ、命拾いしたな。

 歩きなれた自宅への廊下を進もうとすると、尾井川が俺のシャツを引っ張った。

「外側歩くな。見つかるぞ。腰を屈めて俺の横に隠れろ」

 おっと……そう言えば俺のマンションは外廊下みたいに片側の壁が無くて、外から玄関口が見えるような造りになっているんだっけ。
 俺の家はマンションだが、古い会社の社宅に使われるような古いものなので、構造自体がセキュリティとは無縁だったりして大変なのである。

 太鼓腹の尾井川のかげに隠れてコソコソ移動しつつ、俺は自分の家に辿り着いた。
 尾井川に鍵を渡して開けて貰っていると、またもや相手が何やら言い出す。

「とにかく、外出はひかえた方がいいと俺は思うぞ。外の野次馬やじうまはともかく、学校内のヤツはお前の動向を簡単に探れるんだからな。家の前で待ち伏せされて、出てきた所をつけられでもしたら一発アウトだ。……それでも行くのか?」
「う……。それは、そうなんだけど……」

 けれど、それでも……行きたい理由が有るんだ。
 そりゃブラックのためってのは第一だけど……そうじゃない、理由も有るし。

「ぐー太」

 小学生の頃から変わらない、尾井川だけ使うあだ名で答えを急かされて、俺は口をギュッと引き締めたが……その場に腰を屈めたままで、尾井川を見上げた。

「待ってる人がいるってのも、なんだけど……やっぱり家でじっと待っているだけじゃどうにかなりそうでさ……。あっちの世界なそれなりに自由だって思うと、どうしても行きたくなっちまうんだ。会いたくなる。…………尾井川達に迷惑を掛けるっていうのは解ってるんだけど……」

 でも、あちらへ行きたい。
 ブラック達が待ってくれていると思えば、自由にどこへでも行けるのだと思えば、俺は無意識に異世界の事を考えてしまうのだ。それはもう、どうしようもない。
 あちらの世界で長い時間過ごした俺は、その自由に慣れ切ってしまっていた。

 そんな正直な気持ちを打ち明けると――――尾井川は深い溜息を吐き、俺の家の鍵を回してガチャンとドアを開けながら言った。

「まあ、そらそうだわな。……お前も大変だし、この世界じゃ監視の目が多過ぎて、息がまるのも無理はない。…………だが、お前は警戒心がなさすぎだ」

 そう言いながら、尾井川はドアから手を離して自分のカバンを探り始める。
 何をするのかと思ったら――――俺に、緑色の小さな葉っぱのような飾りが付いた丸っこい物を、投げて手渡して来た。

「んん?」

 何だろうかと思ってキャッチした手を開くと、そこには赤い南天の小さな目がちょこんと乗った、葉っぱの耳の雪うさぎキーホルダーが乗っていた。

「わは、なんだこれ可愛い!」
「親戚の姉ちゃんが持ってたのを思い出したんだ。一見すると普通のキーホルダーに見えるが、ソイツの中にはコレの発信源が入っている」

 そう言いながら見せて来たのは、なにかの地図だ。
 ……俺の家の周辺を映してるな。いや、その俺の家に、なんか白いウサギちゃんの可愛いマークがペタンと付いているぞ。これはもしや……今流行りの【位置情報確認アプリ】と言う奴かい尾井川さん。

 俺が理解したのを見取ってか、相手は頷いて見せる。

「防犯ブザーは見た目的に分かりやすいし、お前に万が一の事が有っても音だけじゃどうにもならんからな……。一応、お前の行きそうなところは全部インプットして、何か変な動きがあればすぐアラームが鳴るようにしてある。……本当は親御さんにも渡したいところだが……お前はアッチに行くからな」

 なるほど、その手が有ったか。
 俺の行動がいつもと違う場合があったら、それはつまり異常事態が起こったと言うことだ。最近の俺の行動なんざ決まり切っているから、これがあれば万が一のことが起こったとしても尾井川がすぐに対応してくれる。

 ストーカーアプリとはよく言われるが、しかし今の俺にはありがたい追跡機能だ。
 これが有れば、尾井川が必ず異変に気付いてくれる。だったら、持っていたほうが良いだろう。変質者の盗撮は防げないけど、追いかけられて逃げてるのをすぐに察知して助けに来てくれるって事だしな、コレ。

 でも、そうか……そうなると、また尾井川の負担が増えるんじゃないかな……。

「コレがあれば俺もありがたいけど……でも、尾井川に余計に迷惑かかんない?」

 心配になって顔を見上げると、相手は苦笑して、それからニヤリと笑った。

「お前に迷惑かけられんのはいつもの事だろ。珍しく殊勝な顔してねえで、さっさと家に入って勉強始めるぞ」
「う、うん……」

 言いながら、勝手知ったる他人の家とばかりにあがりこむ尾井川の背中を見つつ、俺は心の中で真剣に「ありがとう」と言った。
 言えば尾井川は照れて怒って来るから言えないけど、でも、本当に感謝してる。
 俺が無茶なことを言っても、尾井川は俺を理解して……解決策を必ず授けてくれるんだ。ずっと昔からそうだった。

 本当に、ありがたい。

「…………ありがとな、尾井川」
「なんか言ったか」
「何でもない!」

 こっちの世界にも、やっぱり大事な奴がたくさんいる。
 それはとても幸せな事なのかも知れないなと思いつつ、俺は尾井川に続いて家に「ただいま」を言ったのだった。










「――――というワケで、キーホルダーを持って来たのです」
「お前な、新しい物を持って来る時は、必ず事前に言えとあれほど口を酸っぱく……いや、まあ今回は良い。情報量はともかく質量は少なかったからな……」

 あいも変わらずの白い空間。
 ……だが、三回四回と出入りを繰り返せばそれなりに作業も進み、異世界の神様であるキュウマの住環境も少しずつ整ってきているようで、今回は丸い卓袱台ちゃぶだいと座布団が白い部屋にポツンと置かれていた。

 そのちゃぶだいの向こう側には、相変わらず空に浮かぶいくつもの映像パネルと、キュウマが記録したのであろう真新しい本が何列も雑に詰まれている。
 几帳面っぽいキュウマがああやって放置しているのだから、まだ作業は続いているのだろう。それを思うと申し訳なかったが、こればっかりは報告しようが無かった。

 すまんと手を合わせて謝った俺に、キュウマは渋い顔をしながら眼鏡を指で直したが、今回の話を聞いて納得してくれたのかそれ以上は何も言わなかった。
 そんな相手の懐の深さに感謝しつつ、俺はカーテンで仕切られた試着室に入る。

 神様の部屋に似合わない設備で今日もモゴモゴと着替え、装備を整えていると――再びキュウマが話しかけて来た。

「それにしてもお前、大変な事になってるな……」
「うん……なんか、全然お前の両親探しとかはかどって無くてごめんな」
「まあ行き来を始めて一か月も経ってねえんだから、そこは仕方ないさ。不可抗力な事は謝らなくていい。……とは言え……人に注目されているとなると心配だ」
「なんで?」

 キュウマも何か気付いた事が有ったのだろうか。
 いつもの簡素なズボンとシャツとベストを着込んで試着室から出た俺に、キュウマは難しそうな顔をしながら言葉を続けた。

「…………お前、グリモア達に対して発情しやすくなってるのに気付いてるか?」
「え゛っ!?」

 いきなり何を言うのかと変な声で聞き返すと、キュウマは「茶化しているワケじゃないぞ」と言わんばかりに不機嫌な顔になりながら目を細める。

「黒曜の使者のバステの一つだよ。聞いてなかったか? 七人のグリモアに対しては、黒曜の使者は支配された時に抵抗しないために、触れられると気持ちが良……」
「わーっ! なんか知ってます知ってます言われたなぁそういうこと!」

 キュウマの口から言われると余計恥ずかしくなって必死で返した俺に、相手は何故だかあきれたような顔をすると、やれやれと肩をすくめた。

「知っているなら良いが……ああ言っておくけどお前の体が悪いんじゃないからな。俺だってグリモア相手に興奮せざるを得なかったわけだし」
「え……そういうことあったの……?」

 意図して触れられた時、黒曜の使者はどうしてもグリモアをこばむ事が出来ない……なんて感じで妙に抵抗できなくなってしまうのだが、もしかしてキュウマもそれで男相手にイヤ~な思いをしたんだろうか。
 あんなに大勢の嫁さんが居たのにか。そうか、それはちょっと胸が透くな。
 しかし、キュウマは俺の想像をバッサリと斬り捨てた。

「いや、俺の時は七人全員が女のグリモアだったからな。息子が興奮して乾くヒマが無かったと言うのが俺の体験だ」
「てめえええええええ」
「テメェじゃねえ! お前な、嫌でもチンコが勃起して死ぬほど痛くなる感覚がわかるか!? 赤玉出るレベルでもう出ないつってんのに、嫁に触れられると猿もびっくりなほどに勃起すんだぞ毎日勃起だ! これがコントロール出来るようになるまで大変だったんだからな!」
「頼むから爆発してくれよ……なぁ……一回でいいからさぁ……」

 久しぶりに……キレちまったよ……。
 ……つーか、な~にがチンコが乾くヒマがないだこのモテモテクソ野郎め!
 男が大多数の俺の時代とわれ! マジで代われお前ぇええええ!!

 憎しみで人が殺せたらと怒りに我を忘れそうになっていると、キュウマは話が脱線しかけているのを感じたのか「とにかく」と呟き、咳を一つ零した。

「ゴホン。……とにかく、これは明確なバステ……永久に消えない傷跡みたいなもんなんだが、困った事にこれが別の奴にも掛かる事があってな」
「あ……クロウとかそういうの有ったような……」
「うむ。あの熊獣人の男もそうだが、どうやらグリモアを受け入れる事の出来る実力を持つような存在には、節操なく【黒曜の使者】の体は反応してしまうらしい。お前の代でも“そうなった”って事は……そのバステは永続発動中なんだろうな、まだ」

 ……と言う事は、俺は強い奴に触れられたら、黒曜の使者の呪いで「ああ~ん」と感じちゃうってわけなのか。まさか。いや、そんなはずは。
 しかし実際、グリモアでもないクロウにその力が発動していたらしい事を考えると、あながちキュウマの指摘もウソとは言えまい。

 えぇ……じゃあ俺、マジで節操なしの体になってんのぉ……。

「イヤ過ぎるぅ……可及かきゅうすみやかにいて欲しい……。いや、でも、それとアッチで注目されるのに何が関係あんのさ」
「……お前は今、前例のない立場に居る。黒曜の使者であり、異世界と俺達の世界を繋ぐ唯一の存在だ。それは、未知の存在と言っても良い。……だとしたら……最悪の場合、お前の能力が俺達の世界で発動するんじゃないかと思ってな」
「こ、怖いこと言うなよ……」

 両方の世界で曜術が使えたら便利で嬉しいかも知れないけど、バッドステータスを持ち込まれたらアッチの生活が狂いそうで嫌過ぎる。それだけは無いと言ってくれ。
 だけど、慎重で頭のいいキュウマは、もう既に「もしかして」を考え始めてしまっているらしく……俺の願いなど余所に、腕を組んで考え始めてしまった。

「そうなると、こちらの世界の影響が出てくるかもな……。いや、これはまだ仮説でしかないが、お前が行き来する事で何らかの変化が起こる可能性は高いんだ」
「…………俺、どうにかなんの……?」
「そればっかりはどうとも言えん。俺は神だが未来予測は出来んからな。……だが、お前のことだし大丈夫かな。そうそうグリモア候補なんているわけないし、まあ……あっちの世界じゃほぼ大丈夫だろう」

 不安にさせるだけ不安にさせておいてこの言い草!
 やっぱり神様なんて理不尽な存在だ。人民を弄んで楽しんでるんだぁ。

「なるのかならないのかだけでもハッキリさせてくれよ!」
「あーならんならん。大丈夫。……それより、早く恋人の所に行ってやれよ。大変な事になってるし、凄くうるさくて記録つけんのが面倒臭いぞ」
「えっ、ブラック達がどうかしたのか!?」

 慌ててキュウマの近くに駆け寄ると、相手は何故か嫌そうな顔をしたが、ハァとか大きな溜息をこれみよがしに吐いて、俺の隣に異世界へ通じる穴を開いた。

「お前マジでアイツの事……いやまあ良い。とにかく行ってやれ」
「ぶ、ブラック達……」
「心配いらんけどうるさいから行けっつーんだ!」
「わっ」

 強引に穴に近付けさせられて、飛び込みをさせられる。
 何をするんだと振り返ろうとしたところで――――キュウマが俺に言った。

「じゃあな。いつもみたいにタイムリミットが来たら呼びに来る」
「わーっ、ヒトデナシー!!」
「そりゃ俺は神様だからな」

 ああそうでした。
 チクショウ、なんでコイツが神様なんだろう。
 俺が手助けしたにもかかわらず改めてそう考えてしまうが、考えが思い浮かぶ前に頭から地面にぶつかってしまい俺は崩れ落ちた。

「ぐっ、ご……ごぉおお……ッ」

 い、い゛だい゛。ちくしょうキュウマの野郎、毎回変な落とし方しやがって……。
 黒曜の使者の超回復能力が無かったらいつか死んでるぞ、なんて思いながら、俺は体を起こして前方を見やった。と――――。

「おい熊公右回れ! クソ貴族でしゃばんな!」
「ええいお前こそでしゃばって野蛮な剣技で俺の美技を邪魔するんじゃない!」
「お、落ち着いて二人とも……」

 うるさいオッサンの声と、うるさい青年の声。
 それに困ったように挟まる、麗しくて聞いただけでドキドキしちゃうような、一度聞いたら忘れられない綺麗なおばあ様の声……!

 思わず目をらした、草原の先には――――

 巨大な紫色の竜っぽい何かを前に、デカい三人の男が連携も無くバラバラに戦っている光景が見えた。












※あけましておめでとうございます!
 今年も楽しく更新し、読者さんにも楽しんで頂けるように
 頑張って精進していきますので、よろしくして頂けると嬉しいです(*´ω`*)
 2021年は漫画やゲームも作って行きますので
 もしよろしかったら見てやって下さると作者がよろこびます…////

 
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