異世界日帰り漫遊記!

御結頂戴

文字の大きさ
上 下
110 / 957
海洞ダンジョン、真砂に揺らぐは沙羅の夢編

6.心を鎮める事も修行というのなら

しおりを挟む
 
 
「うわっ、け、結構長くてワサワサしてる……」

 俺も田舎ではちょっとしたガキ大将だった男だし、この程度ていどやぶなら経験してないワケでもなかったんだが、ススキの野原ってのはえらく歩き辛い。

 なにがダメかって、まずススキの長細い葉が服や肌に引っかかるんだ。
 たぶんこれ、ヘタしたら怪我でもするんじゃないか。葉っぱが地味にギザギザしていて、ゆっくり歩くぶんには良いけど走ったら絶対にヤバいことになっちまう。

 ススキの原っぱっていうと、侍が思い浮かぶけど……着物ってもしかして野草の葉なんかから肌を守るためにすそそでが長かったりしたんだろうか?
 そう思えるのも仕方がないくらい、なんだか引っかかって仕方なかった。

「あ、あの……歩きづらくない?」

 ススキのサワサワしてる穂の部分は良いんだけど……と呟くが、ブラックとクロウは不思議そうに「そう?」と首を傾げるだけで共感してくれない。
 ……まあ、ブラックは長袖ながそでのうえにマントだし、クロウにいたっては、その褐色の肌でさえ「動物の毛皮」が変化したもんだもんな……そら何も感じないか。

 師匠もローブを着て肌を守っているし、この中でススキの強襲にさいなまれているのは半袖の俺だけとは。まあでも腕だけならなんとかなる。長ズボン穿いてて良かった。
 しかしこの状態でモンスターがやって来たら困るな……なんて思っていると。

「段々、周囲が暗くなって来たな」
「ウム……月のようなものの光も濃くなってきた。このホウキ草の草原も終わる」
「え?」

 前を歩いていたオッサン二人に慌てて追いついて、前方を見やると――――確かにススキの草原が終わっていて、草のないだだっぴろい道だけが続いていた。
 いや、これ道って言うか……荒野かな?

 草はまばらに生えてるけど、とても殺風景だ。周囲に目立った物は見当たらない。ただ、だだっ広いだけだ。遠くを見てもかすんでいて何も見えなかった。
 まあ、何も見えなくても、近付けば何かあるのかも知れないけど……にしたって、ホントこのダンジョンおかしい所だよな。

 昔の3Dゲームじゃないんだから、途中までじゃなくて全部見せてくれよ。
 なんでこんな部分だけゲームちっくなんだよまったくもう。

「あのー、師匠……まだ先に行くんですか?」
「進まねば出て来んぞ」

 何故かちょっとだけ不機嫌そうな声を出しつつ、師匠は先頭で歩き出す。
 まさか面倒なモンが先に在るんだろうか。ビクビクしつつも歩いて行くと、なにも無いと思っていた前方に、チラホラと何かのかたまりが立っているのが見えてきた。
 遠目からの感じでは、前方にだけ岩が群れているように見える。

 最初は、第三層の広場のように岩がボコボコと隆起しているのかと思っていたが……近付いてみると、それらは人工物である事が分かった。

「レンガが崩れたあと……?」
「みたいだね、まるで廃虚の村みたいだ」
「ムゥ……」

 確かに、隆起した岩のように見えていた「家の壁の一部」は、よく見てみれば住居を真四角に囲んでいただろう痕や、それをしめす割れたレンガが転がっている。
 俺達が歩いている場所は、どうやら集落の大通りのようだった。

「……な、なんか……」

 なんだか、寒くなってきた。
 野原を通り終わった途端に、さらに冷たい風が吹いて来て鳥肌が立つ。

 嫌な予感がするな、なんて思っていたと同時。

「――――おっと、おいでなすったか」

 ブラックがそう呟いて剣を抜く。それと同時に、クロウが構えた。
 なにが起こったのか分からず目をキョロキョロさせるが、俺は「おいでなすった」モノの気配すら分からない。そんな事をしている内に、ペコリア達までもが“何か”に気付いたのか、それぞれ俺をかこんであさっての方向にうなり出した。

 まさか、本当に何か来ているのか。
 様々な場所を見渡して、再び真正面を向いた、と――――嫌な臭気を感じて、俺は思わず息を止めた。何かが腐ったような、発酵臭にも似た甘ったるい独特な臭い。

 ある腐った物をいだ時にのみ感じる強烈な忌避感が一気に沸き起こって、俺は咄嗟とっさにバッグの中に入れていた袋から種を取り出した。

「いい反応じゃ。ちと遅いがの」

 師匠はすでにブラックとクロウの背後に回っている。
 もう完全に「何か」が近付いて来たのだと分かり、俺は息を吸っていいのか吐いて良いのかすらも覚束無おぼつかないまま、ただ手の内に在る種に曜気を込めた。

 あせるな。まだ敵が見えていない内に用意をしておくんだ。
 ていうか焦るな。敵が見えて来てもちびるんじゃないぞ俺、頑張れ俺。

 手の中に種を増やし、いつどこに撒いても良いように覚悟を決めた俺達の目の前に……ゆっくりと“そいつら”は現れた。

「……なるほど、確かに上の階のモンスターとは少し違うみたいだ」

 目の前に現れた、第四層の【コープス】達。
 そいつらはなんと――明らかに、体格が大きくなっていた。

 いや、ただデカくなったとかじゃなく、上半身が異様に大きいんだ。そこだけ筋肉が肥大化したみたいにふくらんでいて、凄くアンバランスで怖い。
 まるで、ゾンビを退治するゲームに出てくるヤバい改造ゾンビみたいだ。

 しかも相変わらず腐敗していて、顔なんてもう……あの……と、とにかく、ゾンビに似ている特徴は全く変わらなかった。
 ……でも、コイツらは死体でもないしモンスターでもないんだよな。
 こ、怖くない。怖くないんだからな!

 とにかく先手必勝、数が増えない内に俺が捕えるんだ!

「緑の鎖、敵を地に縛めよ……――【グロウ・レイン】!」

 ブラックとクロウが立つ間から種を飛ばし、前衛の更にその先につるを生む。
 数秒とは言え、俺の木の曜気をたっぷり吸いこんだ種は一気に発芽し、硬い地面に根差す太い蔓となって強化型のコープスに襲いかかった。

「グッ……!」

 右足から撒き付き、そのまま腕を固定した蔓だったが、やはり相手も剛腕なために負荷が強い。腕を振り上げて蔓を引き千切ろうとするちからが伝わって来て、俺は思わずギシギシと腕を引き絞るような痛みにうめいた。

 だが、術を止めるワケにはいかない。これは修行だ。
 これからだって、こんな風な力が強い敵が出て来るかも知れない。だったら、ここで簡単に負けてちゃ絶対にダメだろう。俺だって少しは成長してるんだ。
 第三層でもなんとか出来てたんだ、だからやれるはず。

 痛いけど、なんか凄い苦しいけど、なんとかして止めないと……っ。

「なるほど、腕力がすごいタイプか。耐久性はどうかな」

 俺が拘束した強化型コープスに、ブラックは楽しげな声を出しながら剣を向ける。
 どうでも良いが、早く倒して欲しい。汗がだらだら流れて来た、いやもうヤバい。凄く力が強くてつるが今にも引き千切れそうなんですけど。
 なんか俺の腕がボキボキになりそうなんですけど! はやくして!

 とは言え男として弱音は吐けず我慢するが、クロウが「待った」をかけやがった。

「ブラック、ちょっと待ってくれ。オレが戦いたい」
「え? なに……あの臭いモンスター素手で触りたいのお前……ヒくわ……」
「拳圧で吹き飛ばせば問題ない。力が強そうと言うのなら、力比べがしたいんだ」
「死体相手に?」
「歯ごたえが無くてつまらんのだ。このままでは欲求不満になってしまう」
「い――――から早く倒してくれよ! なにくっちゃべってんだオッサンどもー!! 俺のっ腕がっボキボキになってもいーのかおいいいい!!」

 あんまりつらくて迂闊うかつに弱音を吐いてしまったが、俺がいっぱいいっぱいである事をようやく二人も理解してくれたのか、ブラックは剣を収めて渋々クロウに譲ったようだった。
 まあ、これは多分、臭う相手に触れたくなかったからだろうけど。

 しかし、自分の思うように戦えることに浮かれたクロウには関係ない。
 クロウはいつになく嬉しそうに熊耳をピコピコと動かしながら、こぶしてのひらにぶつけてパシンパシンと鳴らし、なんとか拘束出来ている相手に近付いた。

 と、相手は一回り小さい長身のクロウ目掛めがけて、自由な左腕を振るう。
 その速さは、先程まで戦っていたコープスの動きではない。まるで、普通の人間のような反応速度だ。思わずクロウの身を案じて息を呑んだ俺、だったが。

「ふんっ」

 クロウはいとも簡単に、その左腕を片手で止めた。
 ……何かがぶつかったような凄い音がしたんだが、あの、1ミリも動いてないってどういう事。強化型コープスが意外と弱いのか、それともクロウが強すぎるのか?

 目を丸くした俺の目の前で、クロウは音が聞こえるほど強く息を吐くと――――コープスのドロドロに溶けた顔を見上げて、肩に力を込めた。
 刹那。

「うわっ!?」

 両腕をギチギチに痛めつけていた感覚が揺らいで、俺の腕も不安定になり、あわてて体勢を立て直す。コープスはと言うと、何事も無いかのようにただ左腕を受け止めているクロウに対して、逃れるように体を動かそうと躍起やっきになっていた。
 だが、体は動かない。唯一自由になる片足でクロウを牽制けんせいしようとするが、それも手で簡単にはじかれてしまい、逆に大きく体をかしぐことになってしまう。

 今は、おかしなことに俺のつるがコープスの体を支えている有様だった。
 ……い、いだい……全体重掛かってんじゃないかってレベルで重いんだけど!?

「なんだ、この程度ていどちからか……」

 おいっ、何ガッカリしてんだよクロウ、俺の苦労を知らねえのかお前は!
 頼むから早く倒してくれよ、と泣き言を漏らしそうになる俺だったが、クロウはと言うと、バランスを崩したコープスの手を離し、利き腕を後ろへと引きながら姿勢をわずかに低く変えた。

 殴る体勢だ。
 上体を軽くひねり、大きく足を開いてひざに力を入れたクロウは、相手を見据えた。

「まずは、耐えて見せろ」

 引いた腕の筋肉が、血管を浮かせんばかりに膨張する。
 その圧力が俺達にまで風となって伝わって来たようで、息を飲んだと、同時。

 ――――ドン、と、大砲を売ったような音がして――――

 気が付けば、目の前の大きな敵の体には、穴が開いていた。

「…………え。…………え……?」

 腕をさいなんでいた圧力が、消える。
 刹那、うめきながら地面にひざをついた強化型のコープスの体は、黒い霧のようになり溶けて行ってしまった。……そりゃ、もう、火にかけられた雪みたいに。

「……う……うそぉ」
「なんだ、弱いじゃん。クソ熊に一撃でたおされるとかしょーもない」
「ウーム……少し強く打ち過ぎたな。それほどの相手でも無かったのが残念だ」

 いや、あのアンタら、おかしいって。いくら強くてもその認識はおかしいって。
 よく見て下さいよ、この階層人が居ないでしょ。居ないって事は、それほどお手軽なモンスターが出ないって事でしょうが。
 そんなモンスターを「弱い」って、お前ら他の冒険者に謝れっ、謝れー!!

「うわ……いや、お前ら、今のコープスはランク3は行く強敵じゃぞ。その認識にはドンビキじゃわ……うわ……」

 ほらー師匠もドンビキしてんじゃねーか!
 やっぱお前らがおかしーんだ、強いからって調子に乗ってんだー!
 チクショー、本当ならチート能力持ちの俺がそういう事をする役目なのにー!

「つーか倒すんなら早く倒してくれよ! 俺マジで今すっげえしんどかったんだからな、完全に俺の能力と釣り合ってない強敵だったんだからな!?」

 腕だってもう、不用意にデカいダンベルを上げた時みたいに、物凄いプルプルしてヤバいんだからな! と両腕を見せるが、オッサン二人はどこ吹く風だ。

「あー、まあツカサ君程度ていどなら今のモンスターは強いかぁ」
「やはり、ここに来るのはツカサにはまだ早かったな」
「キーッ!! また高い所から!!」

 ああそりゃお前らにしてみりゃ俺はザコですけどね、しかし、お前らって奴はどうしてそう俺をいたわらずにズケズケ言って来るんだ。
 普通、こういう時ってなぐさめるもんじゃないのか。

「ぐぅううう……」
「ホレ、口喧嘩はそこでやめんかい。そろそろ“おかわり”がくるぞ」
「え゛……?」

 師匠の言葉に、いつのまにか下がっていた頭を上げる。
 と、そこには。

「わー、断末魔を聞いて集まって来ちゃったかな?」
「…………う……うそぉ……」

 呑気のんきなブラックの言葉の向こう側。
 さっき強化型コープスがやって来た道の先から、のしのしと足音が聞こえてきた。その音に、再びペコリア達が体を膨らませて威嚇したが……最早、それだけではどうにもならないくらいの事態を見て、俺は絶句するしかなかった。

 ……だって。
 だって俺の目の前には、ガタイの良いコープスが五体も、むさ苦しい群れとなって近付いて来ている光景があったのだから。

「このくらい居れば、ちょっとは歯ごたえあるかな」
「ムゥ、楽しみだ」

 あまりにも、絶望的な風景だ。
 なのに、ブラックとクロウは絶望するどころか凄くワクワクしている。第三層で気怠けだるげにしていたのがウソのようにやる気に満ちていた。

 つーかお前ら、なにヤる気になって拳パシンパシンしてんの! 剣を掲げてんの!
 どう考えてもこれモンスターハウスでしょ、大群で大混乱でしょうが!?

 何故こうこのオッサン達は戦うのが大好きなんだよ、俺の修行の事とか色々考えてくれよコンチクショウめがああああ!

「もーやだ!! もーやだからな俺ー!!」
「これでは修行にならんのう……」

 泣き喚くが、オッサン達は聞いちゃいない。
 カーデ師匠もお手上げとばかりに長い白髭をしごいていた。

 ああ……ああぁあ……どうしようもう、これ……。







   ◆



 …………結果から言おう。死ぬかと思いました。

 …………。
 いや、ブラック達が一緒だから死ぬワケがないんだけど、でも俺からしてみれば、本当に辛かったし死ぬかと思ったし走馬灯が見えたんだよ。

 だってさ、あの剛力自慢のゾンビ軍団に対して、か弱い美少年の腕をした俺が必死に食らいついて一生懸命拘束してたんだぜ。それを何度もやらされるなんて、曜気が枯渇する前に腕が爆発して死ぬだろ普通。どんだけ腕力の差があると思ってんだ。

 いや、そもそも俺か弱くも美少年でもないけど、それは許してくれ。
 ともかく、あの一体だけでも限界に近かったのに、二度も三度もやらされて死ぬかと思っていたところに再び敵が湧いて来て、もう本当に死が見えたんだよ。

 背後からも出現した時は「もうだめだ」と思ったな……。

 だけど、まあ……結局の所、俺の走馬灯なんて関係なく、オッサン達が全部倒して帰って来る事が出来たんだけどね。
 そもそもアイツら強いし、強化型コープスなんてメじゃなかったみたいだし。
 当然ながら、コープスに潰されるわけがなかったんだよな……。

 でも、俺は違う。まだアイツらと渡り合えるほどの能力は持ってなかったんだ。
 そのせいで、早々に限界が来て倒れた俺はというと、前みたいにペコリアに守って貰いながら、いつ死ぬだろうかとおびえつつ逃げ回っていたのである。
 ……はあ、情けない。

 そこは俺の不徳の致す所ではあるけど……でも元はと言えば、ブラックとクロウが第四層に行こうと言わなければ、俺はボロボロにならずに済んだんだ。
 腕が酷い筋肉痛で湿布だらけになる必要も、寝込む必要もなかったんだぞ。

 それを思うと、もう俺は怒らずにはおれなかった。
 ブラック達が第四層に行きたいと言ったせいで、こうなったんだからな。

 …………けど、結局俺が弱かったのが悪いんだから、ブラックとクロウに強く言う事も出来ず、大人しく寝込む事しか出来なかった。
 まあ、師匠が「こりゃだめだ」って二日ぐらい休みをくれたし、筋肉痛によく効く湿布しっぷもくれたから、休めてラッキーだけど……でも、やっぱりムカつく。

 おかげで湿布の香りが苦手なペコリアとロクには近付けないし、帰って来てからはずっと寝てるしかなかったんだぞ。おまけに、帰って来る時……だ、だっこされて街を闊歩かっぽされちまうし……っ。

「ああああああああああ生き恥ぃいいいいいいいい」
「なにツカサ君いきなり、びっくりしたなあもう」
「うるせー! お前らのせいだっ、びっくりするなら俺に水持ってこい!」
「はいはい、ワガママだなー」

 何がワガママだ。お前らに比べたら可愛いもんだろうが。
 ベッドの隣で本を読んでいたブラックを睨むと、相手はニタッと笑ったが、すぐに席を立って一階に水を取りに行ってくれた。

「……はぁ……」

 息を吐いて、再びベッドに沈む。
 俺が湿布だらけなおかげで、ニオイに敏感なクロウやロクショウ達は一階の診察室のベッドで眠って貰っている。だから、寝室には誰も居ない。
 俺とブラックの二人だけしか居なくて、すごく静かなんだ。
 それが寂しくて、俺は枕に顔をうずめた。

「うぅ……」

 ……ワガママっていうか、八つ当たりだってのは自分で解ってるし、こういう時に怒らないのが大人の対応だってのも解ってるんだ……でも、今日の事を思い返すと、どうしてもイライラしちゃうんだよ。
 結局の所、ブラック達に付いて行けなかった俺が悪いのにな。

 強かったら寝込まずに済んだし、俺も格好良く立ち回れたのに。
 返す返すも後悔ばかりが湧いて来て、自分の成長の遅さに苛立いらだってしまう。

 漫画なら、小説なら、もっともっと早く強くなれるはずなのに。俺だってチート能力があるはずなのに、どうして俺はこんなに出来が悪いんだろう。元からバカだからなんだろうか。だから、いざ真剣にやろうと思っても空回りしてしまって、全然先に進めないのかな。

 でも、バカなりにやれることだって有ったはずだ。
 自分のダメさはあっちの世界で痛感していたはずなのに、どうしてそれを生かせずに上手く出来ないんだろう。自分の出来の悪さを忘れてしまうんだろう。
 異世界だからって何でも思い通りになることなんてない、現実と一緒なんだって、俺が一番よく知ってたはずなのに。
 解っているから、一生懸命頑張ろうって……頑張ってた、はずだったのに。

 ……そう思うあせりが余計に心をささくれさせて、ブラックに当たってしまった。

 自分が強くなれば、少しでも頭が良ければ、全部解決する話なのにな。

「…………ヤなヤツ、おれ……」

 ブラックは「ワガママ」だなぁと笑ってたけど、本当なら怒って良いんだ。
 そもそも、俺の技術が足りないから修行に突き合わせてるってのにさ。
 弱いんだから見放されるのは俺の方じゃんか。こんな所で追放されたって、俺には逆転劇なんて起こりっこないぞ。まあ、ブラックとクロウがそんな酷い事をするワケないんだけどさ。
 そんなワケないから、俺だって強くなって……二人を守ってやりたいのに。

 ……はあ。ムカつくことされたのに、自分が一番ダメなヤツだから何も言えん。

 せめて、これ以上ブラックに八つ当たりしないようにしないとな……。

「にしても……自信なくなっちゃったなぁ……」

 首だけを動かして、ブラックが座っていた場所を見やる。
 今の俺には、その椅子に座る気力すら無かった。

「…………」

 少しは強くなったと喜んでいたこの前の俺がバカみたいで、恥ずかしい。
 デカブツ相手にたったの数度で倒れるレベルじゃ、まだまだ強いなんて自惚うぬぼれられないじゃないか。調合だって今もコツをつかめてないのに、出来そこないの薬で金を貰って浮かれて……。

「……だめだ、こんなんじゃ……」

 弱音を吐いてしまうけど、それじゃいけない事は自分が一番知っている。
 このままじゃ、ダメだ。師匠に二日も休みを貰って寝こけてるなんて、そんな事をしていたら今より弱くなってしまう。なのに、全然動けないなんて……。

「なんかもう……全部出来てないじゃん、俺……」

 ブラックを守る事も、薬をキチンと作る事も、俺の世界の勉強すらも出来てない。
 やるやるって言って全部まともに出来てないじゃないか。
 駄目だ。こんなんじゃ、ダメなのに。

 それなのに、体が動かない。今日はもう、何も出来そうになかった。

「…………ねよ……」

 疲れているからこんな事を考えるのかも知れない。
 水を飲んで寝てしまえば、明日からの二日間で何か“良い案”が浮かぶはずだ。

 ……それで強くなれるワケじゃ無いけど、今の俺は色んな感情がまぜこぜになっていて、眠る事でしか自分を抑えられそうになかった。

 明日は湿布が効いて、少しは動けるようになっているといいなぁ……。











※ちょっと遅れてすみません(;´Д`)

 ブラック達が全面的に悪いんだけども、自分の足りなさを思うと
 自分が情けなくて怒れずに溜め込んでしまうツカサ

 
しおりを挟む
感想 1,052

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

無名の三流テイマーは王都のはずれでのんびり暮らす~でも、国家の要職に就く弟子たちがなぜか頼ってきます~

鈴木竜一
ファンタジー
※本作の書籍化が決定いたしました!  詳細は近況ボードに載せていきます! 「もうおまえたちに教えることは何もない――いや、マジで!」 特にこれといった功績を挙げず、ダラダラと冒険者生活を続けてきた無名冒険者兼テイマーのバーツ。今日も危険とは無縁の安全な採集クエストをこなして飯代を稼げたことを喜ぶ彼の前に、自分を「師匠」と呼ぶ若い女性・ノエリ―が現れる。弟子をとった記憶のないバーツだったが、十年ほど前に当時惚れていた女性にいいところを見せようと、彼女が運営する施設の子どもたちにテイマーとしての心得を説いたことを思い出す。ノエリ―はその時にいた子どものひとりだったのだ。彼女曰く、師匠であるバーツの教えを守って修行を続けた結果、あの時の弟子たちはみんな国にとって欠かせない重要な役職に就いて繁栄に貢献しているという。すべては師匠であるバーツのおかげだと信じるノエリ―は、彼に王都へと移り住んでもらい、その教えを広めてほしいとお願いに来たのだ。 しかし、自身をただのしがない無名の三流冒険者だと思っているバーツは、そんな指導力はないと語る――が、そう思っているのは本人のみで、実はバーツはテイマーとしてだけでなく、【育成者】としてもとんでもない資質を持っていた。 バーツはノエリ―に押し切られる形で王都へと出向くことになるのだが、そこで立派に成長した弟子たちと再会。さらに、かつてテイムしていたが、諸事情で契約を解除した魔獣たちも、いつかバーツに再会することを夢見て自主的に鍛錬を続けており、気がつけばSランクを越える神獣へと進化していて―― こうして、無名のテイマー・バーツは慕ってくれる可愛い弟子や懐いている神獣たちとともにさまざまな国家絡みのトラブルを解決していき、気づけば国家の重要ポストの候補にまで名を連ねるが、当人は「勘弁してくれ」と困惑気味。そんなバーツは今日も王都のはずれにある運河のほとりに建てられた小屋を拠点に畑をしたり釣りをしたり、今日ものんびり暮らしつつ、弟子たちからの依頼をこなすのだった。

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

聖女召喚されて『お前なんか聖女じゃない』って断罪されているけど、そんなことよりこの国が私を召喚したせいで滅びそうなのがこわい

金田のん
恋愛
自室で普通にお茶をしていたら、聖女召喚されました。 私と一緒に聖女召喚されたのは、若くてかわいい女の子。 勝手に召喚しといて「平凡顔の年増」とかいう王族の暴言はこの際、置いておこう。 なぜなら、この国・・・・私を召喚したせいで・・・・いまにも滅びそうだから・・・・・。 ※小説家になろうさんにも投稿しています。

ある少年の体調不良について

雨水林檎
BL
皆に好かれるいつもにこやかな少年新島陽(にいじまはる)と幼馴染で親友の薬師寺優巳(やくしじまさみ)。高校に入学してしばらく陽は風邪をひいたことをきっかけにひどく体調を崩して行く……。 BLもしくはブロマンス小説。 体調不良描写があります。

兄たちが弟を可愛がりすぎです

クロユキ
BL
俺が風邪で寝ていた目が覚めたら異世界!? メイド、王子って、俺も王子!? おっと、俺の自己紹介忘れてた!俺の、名前は坂田春人高校二年、別世界にウィル王子の身体に入っていたんだ!兄王子に振り回されて、俺大丈夫か?! 涙脆く可愛い系に弱い春人の兄王子達に振り回され護衛騎士に迫って慌てていっもハラハラドキドキたまにはバカな事を言ったりとしている主人公春人の話を楽しんでくれたら嬉しいです。 1日の話しが長い物語です。 誤字脱字には気をつけてはいますが、余り気にしないよ~と言う方がいましたら嬉しいです。

処理中です...