異世界日帰り漫遊記!

御結頂戴

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海洞都市シムロ、海だ!修行だ!スリラーだ!編

21.修行と勉強1

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 俺のチート称号である【黒曜の使者】は、どんな怪我だろうが絶対に回復できるという“自己治癒能力”をそなえている。その能力が付加された経緯は、正直喜ばしいものじゃないんだけど……でも、今の俺にとってはありがたい能力だ。

 なんてったって物凄く早く傷が治るし、欠損や肌がただれるほどの大火傷だって時間を掛ければ綺麗に修復されてしまう。仮に俺がぐちゃぐちゃになっても、俺は意識そのままで復活……まあ大まかに言うと、残機無限でコンティニュー出来てしまう。
 そんなスゴい力なので、筋肉痛も打撲だぼくも翌日には多少良くなるんだけど。

 ……良くなるんだけども……それを上回る攻撃を受けるので、実感が無い。
 いや、俺がうまいこと拘束し続けられないのが悪いんだけども。

 でも三日目ともなると、流石さすがの俺も段々と集中力を持続させるすべわかって来た。
 つまり、これは意識の問題だ。手や腕に掛かる「負荷」を感覚通りに受け取らず、その重さや刺激などを「拘束している手ごたえ」として認識するんだ。

 せっかく「負荷」があるのに、目だけを使っているから、操作と視線を集中する事が別々になって気が散ってしまうワケで……。だから、コレを「敵を捕えた実感」として頭に覚えさせることで、視覚の情報と触覚の情報を統合するのである。

 簡単に言えば「手応え」ってヤツなんだけど、なんせ俺は曜術のイロハすら知らなかったし、なにより空中に伸ばした手に「手応え」がある感覚なんて奇妙な物でしかないのだ。釣りで感じる手ごたえとは微妙に違う。
 だから、気付くまで把握はあくが出来なかったんだけど……こうなればこっちのもんだ。

 ふふふ、今日の俺は一味違うぞ。
 第一層のよわよわ可愛いモンスターちゃん達にボコられつつも、この「手応え」を体に覚えさせて、俺は昨日以上のスピードで拘束できる時間を伸ばしていった。
 これにはカーデ師匠も舌を巻いたらしく、珍しく俺を褒めてくれた。

 まあ、ものすっごい見下した感じの「お前が、ここまで早く慣れるなんて思わんかった」的な感じのお褒めの言葉だったけどな!

 ……ゴホン。
 それはともかく、俺は第二の修行と言う事で、今度はこの拘束した状態でコンビネーション……つまり、ブラック達に拘束した敵を誘導して倒して貰う所作しょさを教わる事になった。
 これは事前に俺が「ブラック達とほとんど行動を共にする」と話して、後方支援を主体に勉強したいと言ったからだ。……まあ、一人でチート無双したい気持ちは俺にも有るんだけど、からを先に覚えておかないと俺の場合は体力がな……。

 いや、体力と言うか……筋力の問題なんだろうか。
 今の所まったく筋肉が付いた様子が無いので、体力がアップするまでは、搦め手を使ってクレバーに戦闘をこなすしかないのだ。
 まあ、曜術師には曜術師なりの戦いも有るし、木の曜術をマスターしさえすれば、次はブラックに炎の曜術を教えて貰って攻撃力を上げたって良いしな。

 それに、木の曜術を自在に操れるようになれば、少なくとも俺の大事な武器である“術式機械弓アルカゲティス”で、木の曜術を任意の威力で射出できるようになるだろうし……。
 ここはまず、木の曜術をマスターするのが最優先だ。

 ってなワケで、俺はブラックとクロウの協力のもと、パーティーを組んだ時にやらねばならないコンビネーションの修行を開始したんだけど……。

「だーっ、駄目じゃ駄目じゃ! この手加減知らずの中年どもめ、なにを一発で敵をほふっとるんじゃ!! これでは修行にならんだろうが!」
「えー?」
「ムゥ」

 今怒られているのは俺ではない。ブラックとクロウだ。
 大岩のかげで、可愛い丸々した赤カニモンスターやちょっとラメがついたヒトデくんから隠れつつ、師匠はオッサン達にガミガミと小言をくれている。

 …………なんか、シュールだ。
 周囲は海水の壁や綺麗な貝殻があって、カラフルな海藻も生えているファンシーな空間なのに、お爺ちゃんがデカいオッサン二人を怒っている。
 見れば見るほどシュールで笑ってしまいそうだったが、飛び火するのがイヤ……じゃなくて、修行なのでぐっとこらえて俺はやり過ごした。笑ってはいけない。

 それはそれとして、何故修行に関係がない二人が師匠に怒られているかと言うと……それもまた、今回の修行内容に関わる事であった。
 まあ勿体もったいぶるほどの理由じゃ無いのでサラッと言うが、このオッサン二人が簡単に敵を倒し過ぎるから怒られているのだ。どのくらい簡単かって言うと、そりゃもう、一撃当てたら一気に敵が蒸発しちゃうくらい……。

 ……何故敵が蒸発するのかは置いといて、まあ確かにこれは困る。
 普通の戦闘なら楽々で助かるのだが、これは俺の修行だ。コンビネーションを自然と出来るようになるためのレッスンなのだ。

 それなのに、一撃で敵を倒してばかりでは、様々な場合がちっとも体験できない。
 戦いと言うのは、その場その場で状況が異なるものだ。そのため、一つの結果だけを極めるばかりではどうしようもないのである。
 だから師匠は様々な状況を想定した修行をさせようとしていた……らしいのだが、それを高レベル冒険者の二人が許さなかったのだ。

「ったく、お前らには加減ってもんがないのか!?」

 ガミガミと怒るカーデ師匠に、ブラックがねたように口をとがらせる。

「だって……雑魚ざこすぎて手加減しても一瞬で死ぬんだもん……」
「オレは真剣にやっているつもりだぞ」
「お前は服装がふざけとるんじゃっつーに。……ったく、それでもお前らは冒険者か! みねうちも出来ぬようでは一人前の剣士とも闘士とも言えんぞ!?」

 子供のような言い訳をするブラック達に、カーデ師匠はごもっともな事を言う。
 口は悪いが言っていることは至極真っ当なので、いつもは天上天下唯我独尊な二人もぐうの音も出ないようだった。まあ確かに、侍とかって当たり前みたいに敵をみねうちにしてるもんな……。

 もしかして、今まで強い敵とばっかり戦ってたから、ブラックとクロウは弱い相手に対する手加減が苦手なんだろうか。
 まあでも、道端を歩いてて攻撃力1のスライムにたかられたって、普通は気にせずに無視して進むもんだしな……。強すぎるがゆえの忘却って奴なのか。
 それはそれでムカツクな。いや完全にやっかみだけども。

「とにかく! お前らはもう信用ならん、後ろにさがっとれ! ツカサ、お前確か、武器とは別に守護獣を呼び出せる“召喚珠しょうかんじゅ”を持っとると言っておったな! それなりの手加減が出来るようなモンスターを呼び出せ!」
「ひゃっ、ひゃいっ!? はいっ!」

 そ、そういやそうですね、その手が有りましたね。
 所有者は俺だというのに召喚珠の事をすっかり忘れていた。いや、だって、彼らは俺の友達だし、怪我をさせるのとか絶対にイヤだから、プレゼントしたい時とかどうしても力を借りたい時以外にはあんまり呼びたくなくて……。

 いや、守護獣って要するに召喚獣みたいなモンで、戦って従わせたり仲良くなってたまを貰ったら戦いを手伝って貰うのは当然なんだけどさ。
 実際、そういう存在だから“守護獣”って言われてるワケだし。
 でも俺は彼らを戦いで従わせたわけじゃない。仲良くなったり認めてくれたりした結果、召喚珠をプレゼントして貰ったんだ。

 戦わせたいなんて最初から思ってないし、協力して欲しい時は切羽詰った時ぐらいなモンで、ほとんどバッグの中にしまいこんでいた。
 なので通常の戦闘に協力して貰うなんて考えた事もなかったんだが……。

「なんじゃ、不満そうじゃの」
「あ、いや……実は俺、普通の戦闘で召喚珠使ったこと無くて……」

 そんなに顔に出ていただろうか。
 自分のほおを揉みながら、凝視して来る師匠を見上げると、相手は「信じられない」とでも言わんばかりに顔を歪めて目を見開いた。

「はぁ!? ……はぁー……お前は本当に物知らずじゃの……。とにかく呼び出してみんかい。召喚珠を身の内で作れるようなモンスターならば、ここの雑魚どもよりは強い。早々倒れはせん」
「そ……そうですか……」

 だったら……大丈夫かな……?
 俺が所持している召喚珠は、とある人に譲って貰った争馬そうば種のディオメデ……藍鉄あいてつの召喚珠の他に、三個所持している。そのうち一つは特殊なもので、もう一つは今は使用できず、バッグの中で眠っている。

 他にも……モンスター……ではないけど、ある人を呼び出せるオカリナ(っぽい物)と、ロクを準飛竜ザッハークの状態で呼び出せる銀のリコーダーがあるんだけど……これらは、今使うには不適当だ。つーかここでロクを召喚したらダンジョンが壊れる。

 そうなると、俺が召喚できるモンスターは一種しかない。
 少々気が進まなかったが、俺は仕方なしに薄桃色の可愛い召喚珠を出した。
 と、その瞬間。

「うわっ」
「なんじゃっ!?」

 ぼふん、と音がして周囲に白煙が広がり、ぴょんぴょんと何回か音を立てながら、何かが飛び出してきた。そうして、すぐに煙が消えた俺の周囲には――――

「クゥ~!」
「クゥックゥクゥッ」
「くきゅー」

 羊の綿毛のようにモコモコした体に、小さくて可愛い前足と兎の後ろ足。
 ぴょんと伸びた耳はウサギその物だが……毛玉に可愛いつぶらな目と動物特有のおくちとヒゲがついたその姿は、どうみても「動くウサミミワタアメ」にしか見えない。
 そんな可愛さを煮詰めて作り上げたような不思議な生物が、俺の周りに三匹ぴょんと現れていた。

「な……ぺ、ペコリアじゃと……?」

 師匠が目を丸くして、素直に驚いている。ふふふ、そうでしょう驚きでしょう。
 ロクショウに負けず劣らずの可愛い生き物とお友達なんですよ俺は。この可愛さに驚くのは無理もない。

 しかしペコリア達は師匠の事など意に介さず、初めて来た場所にぴすぴすと小さな鼻を動かして状況確認をしながら後ろ足で立ち、俺の足に甘えてすがりつくように前足でぎゅっとズボンのすそを掴んでいた。

「ああああ可愛いぃいいいペコリアぁああああ」

 可愛いっ、俺になついてくれてるのをそんなに体で表してくれるの!?
 はあああああどうして君達はそんなに可愛いんだ、己の可愛さをしってるのか!
 でもちっともイラッとしない、だって本当に可愛いんだもん、仕方ないもん!
 あああああ抱き上げてもふもふしたいしてもいいよね仲間だもんねええ!

「はぁっはぁあっぺ、ペコリアちゃんっっ」
「クキュ~」

 抱き上げてお腹をもふもふしても、怒るどころかこのふところの広さだよ!
 こんなに優しいうさちゃんはこの世界広しと言えども俺の知ってるペコリアちゃん達だけだよぉおおおおおお!

「まーたツカサ君の悪い癖が始まった」
「ムゥ……オレだって熊の時はモコモコしてるぞ……」

 オッサン達うるさい!
 ……はあはあ。いやしかし今はそんな場合じゃない。
 なんか師匠がドンビキしてるし、抑えねば。三匹抱えてモフモフしたいけど、それは後で済まさなければ。おっとヨダレが。

「…………ドンビキなんじゃけど。弟子が気持ち悪くてドンビキなんじゃけど……」
「いやこれは可愛いものに対する最大限の礼儀なので!」
「キモ……」

 師匠に真面目に気持ち悪いと思われてしまった。まったく失礼な師匠だ。
 まあいいけど。

「それで、ペコリア達に頼んで本当に大丈夫なんですか?」
「おま……ゴホン。まあ、そうじゃな。珍しくて驚いてしまったが、こやつらもそのナリで鏖兎おうと種じゃ。集団でやれば上手いこと相手を倒せるじゃろう」

 カーデ師匠がそう言うのに、ペコリア達は不思議そうに首……がどこか分からないが、とりあえず体を傾げて「クゥ?」と反応している。
 ペコリア達は召喚珠のおかげか俺達と意思疎通は出来るのだが、これは単純に師匠と初対面なので「だれだろうこのおじちゃん」と思っているのだろう。

 そういうところも可愛いが、しかし……本当に大丈夫かな。

「ペコリア、今から俺の修行に付き合って欲しいんだけど……大丈夫……?」

 軽く「戦ってほしい」という事を説明すると、ペコリア達はフンフンと鼻を鳴らしつつ、話を反芻はんすうしているようだったが……三匹は理解したのか、任せなさいと言わんばかりに、胸っぽい場所を短くて可愛い前足でポンと叩いて見せた。

 ううっ、か、可愛くて俺の方の胸がグッっと……!

「あーハイハイもうそれ良いから、早く始めるぞい。上手くそやつらを操れよ」
「は、はい!」

 師匠にはあきれられてしまったが、しかし本番はこれからだ。
 なんとかペコリア達に迷惑を掛けないように、修行を頑張ってみよう。













 
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