異世界日帰り漫遊記!

御結頂戴

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神殿都市アーゲイア、甲花捧ぐは寂睡の使徒編

  調合するにも材料が必要2

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 ともかく、早く材料を用意して館に戻ろう。

 ブツを採取したら、日が暮れる前に退散だ。
 なんてったって、この世界は夜になると昼間とは比べ物にならない強いモンスターが出るって地域が多い。それでもこのライクネス王国ならモンスターも弱い方らしいけど、他の国だとマジでシャレにならんらしいからな……。

 まあでも、俺はブラックともう一人――って奴と旅をしてたから、さいわい旅の途中では何故かそう言うたぐいのモンスターには出遭であわなかったんだけど……。
 ……今考えると、あれってブラック達の殺気で近寄って来なかったのかな?

 いまだによく解らんが、まあとにかくこんな丸腰で外にいるのはやめておこう。
 俺達は再びアーゲイアの街に戻ると、今度は聖水を貰いに教会へ出向く事にした。

 ――聖水は冒険者用の雑貨店なんかでも売ってるんだけど、さっき歩いている途中で店をのぞいたら「聖水売り切れ」って出てたから、直接教会に貰いに行かないといけないんだよな……正直あんまり近寄りたくないけど仕方がない。

 ブラックも渋い顔をしてポケットに手を突っ込んでいた。

「はー……行きたくないなぁ教会……。ツカサ君、僕ロコンを買って来るから、一人で行って来ない?」
「お前っ、俺が取り込まれて小一時間帰って来なくてもいいのかっ!!」

 自慢じゃないが、俺は世間話に巻き込まれると抜け出せない人間だぞ!
 一人でいると確実に戻って来るのが遅くなるぞ、いいのかそれでも!

「すんごい間抜けな脅迫きょうはくだなぁ……分かった分かった、付き合うよ。そのかわり、後で僕にイイコトしてくれる?」
「二人でやってる依頼なのに何言ってんだお前」

 ふざけんなと睨むと、ブラックは「やれやれ」と言うような顔をして肩をすくめた。
 お、お前、さっきからやりたい放題調子に乗りやがって……ちくしょう、さっきの俺のドキドキとか色んなものを返せ。ホントむかつくオッサンだ。

 今後何かの機会に絶対ほえ面をかかせてやるぞと決心しつつ、俺達は街に一つだけあるという教会へ向かった。

「えーと……そう言えばライクネスの教会って何教だっけ」
「ツカサ君忘れたの? ライクネス王国の国教は【ナトラ教】じゃない。ほどこほどこし慈愛慈愛のうすら寒い宗教だよ」

 にわかに面白くなさそうに言うブラックに、俺はそうだったなと返す。
 そういや、この世界にはいくつかの巨大な宗教が有って、国によって全く違う神様を信仰してるんだっけ。えーと……前になんか教えて貰ったぞ。

 確か、今俺達がいる大陸では、いわゆる【三大宗教】が幅を利かせてるんだよな。

 まずは、最も信者が多い【ナトラ教】……さっきブラックが言ったように博愛主義で、他者への献身けんしんを美徳とする嘘みたいに平和な宗教だ。主神は慈愛の神ナトラで、ライクネス王国が国教に定めているが、他の国の信徒も多いんだよな。
 その女神のナトラ様は美しくて可愛い少女みたいな神様で、教えや啓典なんかも実に優しさに満ちた物が多いのだそうだ。ふふ、まあ女神さまだし当然だよな。
 ナトラ教は、ライクネスの弟分の国であるアコール卿国きょうこくでも国教になっているほどだし、南国のハーモニック連合国でも比較的数が多くて圧倒的一位だ。
 まあ平和な教義だし、締め付けもゆるい宗教みたいだから当然だよな。

 んで、次に多いのが【リン教】だ。
 リンは“混沌”という称号を持つちょっと恐ろしい神様なんだけど、実力主義で戦闘をいとわない血の気の多い宗教ということで、信奉する人も結構いる。
 これはライクネスの上に有って、大陸の北方を全て支配している巨大な常冬の国【オーデル皇国】が国教と定めている。あの国は色々と複雑な歴史が有って、自分の力を誇示する事が重要だから、混沌でも力を尊ぶ【リン教】を選んでいるのだ。
 とはいえ、このリン教を信仰している国は少ない。オーデルは国土も広いし人口じんこうも多いから、その分底上げされてるって感じなのかもな。

 そして、最後に三番目に信者が多いとされるのが【アスカー教】だ。
 こちらも西方の国【プレイン共和国】が国教としている宗教だが……残念ながら、詳しい事は知らない。ただ、俺やブラックが知っている事は「文明の神・アスカーは、とんでもない自惚うぬぼれクソ野郎」だったってことくらいかな。
 でも、この世界を形作り改変し曜術を作り出したその功績は計り知れない。

 コイツのせいで俺に強制的に授けられた【黒曜の使者】の“意味”は歪んでしまったけど、でもおかげで俺が二つの世界を行き来できるようになったのも確かだ。
 だから、個人的には二度と名前も聞きたくない神様だけど、文明を作ってくれた事には感謝しなきゃ行けないのかも知れない。
 …………まあ、それはそれとして。

 アスカーは文明の神であり、いわば物作りの神でもある。
 なので、金の曜術師を囲い込み【曜具】という魔道具のようなモノを日々作り出しているプレイン共和国にとっては、信仰すべき神なのだ。
 ……けれど、今はその……で国が崩壊しちゃって再建中だから、信者が居るのかどうかは俺にはよく解らないけどね。

 ――――とまあ、とりあえずこの世界には色々な神様の宗教が有るのだ。
 もちろん、日本みたいに他の神様を信仰したりする地域も有るし、アルフェイオ村みたいに独自の神様を信仰してたりする所も多々ある。……らしい。

 俺はそこら辺の事はよく知らないけど、まあとりあえず教会は基本的に三つ種類があって、どこにでもあるのはナトラ教って事だな。
 んで、さっきの話だが……教会に入れば、すんなり聖水を売って貰える。

 それを何故ブラックや冒険者が嫌がるのかと言うと……説教をされるからだ。

 ……そう。
 教会に行くと、必ず「まともな職に就けー」だの「命を簡単に殺めるなー」だの「過去の宝を金儲けであさるなー」だのと説教をされるので、すねに傷持つ冒険者連中は行きたがらないのだ。なので、冒険者用の雑貨店で聖水を委託販売してるってわけ。

 まあ……教会側からすれば俺達は暴れん坊と同じカテゴリーに見えるみたいだし、正しい道に引き込みたいってのはわかるけどさあ。
 でも、それだって余計なお世話だよな。だからブラックの気持ちは解る。
 解るが、俺一人で行けと言うのはやめろ頼むから。

 ブラックが逃げ出さないように見張りつつも、大通りから小道へ曲がって少し歩くと、広い敷地を持つ小さな教会が見えてきた。
 ナトラ教の教会は、わりと作りがシンプルだ。まあ他の二つが豪華すぎるだけなんだがな。そんな事を思いつつ、階段を上がってドアをそっと開くと――教壇の前で、何とも綺麗なお姉さんが手を組んで教会の象徴に祈っているのが見えた。

 おお、この世界のシスター!
 さすがは美男美女八割の異世界、修道女も絵になりますなあ。
 
 なんて不埒ふらちな事を思っていると、気配で気付かれたのかシスターがお祈りをやめて近付いてきた。ぬう、黒い貞淑ていしゅくそうな服を盛り上げるおっぱいに目が行……イデデデブラック俺のケツを指でつねるな!!
 いやまあシスターにおっぱい目線が気付かれなかったから良いけども!

「あら、どうなさいましたか?」
「あっえっあの、せ、聖水の喜捨きしゃを……」

 そう言うと、シスターさんは穏やかな顔から一気に喜びに顔をほころばせた。

「あらあら、それは徳の高いことを……! ありがとうございます、すぐに御用意をいたします。それで、聖水の御入用は……」
「えーと、十五本ほど……って、金額どんくらい?」
「普通は銀貨五枚……五百ケルブくらいかな」

 この世界では、一日銀貨一枚程度ていどで昼と夕食の二食がたっぷりまかなえる。
 俺の世界での貨幣価値と微妙に違うかもだけど、銀貨一枚で千円か二千円かなってくらいの価値っぽい。なので、十五本で一万円程度と考えると……それなりなのか?

 まあ聖なる水だし、効果は確かなモノなので妥当だとうな値段なのだろうとは思うが……銅貨一枚でも惜しい冒険者にとっては、結構な出費だよなあ。

 ちょっと落ちこんでいると、シスターさんはニコニコと笑って付け加えた。

「ご喜捨は基本的に“おこころ”であって、金額は無価値です。ですので、皆さまの思った通りの“おこころ”でご喜捨頂ければと思います。では、持って参りますね」

 そう言い奥の扉に消えて行ったシスターさんを見つつ、ブラックは俺にヒソヒソと耳打ちをした。

「妥当な金額だから落ち着いてんだよ。これでそれより下の金額なんて言ってごらんよ、絶対機嫌が悪くなって粗悪な聖水渡すんだから」
「そっ、そんな事ないだろ」
「いーや、ナトラ教だろうがヨソの教だろうが、聖職者ってのはピンキリだからね。それを証拠に、今の女だって機嫌よかっただろ。普通はそう言うもんだよ」
「えぇえ……」

 そんな事……あんのかなぁ……。
 でも低く見積もって怒るんなら「この金額が良いです」って言って欲しい。
 まあでも俺は純朴なシスターさんを知ってるので、全員がそうでは無いと信じたい。信じよう、この世には純朴で清楚なシスターさんばかりだと。

 きっちり十五本持って来てくれたシスターさんにお礼を言ってご喜捨すると、彼女はホクホク顔でお礼を言っていた。……やっぱお金が好きなタイプのシスターさんなのだろうか……。ちょっと決心が揺らぎつつも、早く帰ろうと目で訴えるブラックの示すがままに帰ろうとすると――――シスターさんに不意に呼びとめられた。

「あの、もし」
「はい?」

 二人同時に振り替えると、シスターさんは綺麗な顔を少し不安げに歪めて、両手を祈るように組んで見せる。なんだか深刻そうな表情だ。
 どうしたんだろうと思っていると、彼女は俺とブラックを見て眉根を寄せた。

「あの……御気分を悪くなさったら申し訳ないのですけど……」
「どうしたんですか?」
「…………貴方がた、悪魔に……遭遇なさったのではないですか……?」
「……悪魔、ですか?」

 思わず聞き返すが、ブラックが俺の肩をつかんで息を吐く。

「そんな物に遭遇した事など、一度も有りませんね」

 なんだか、冷たい声だ。
 思わず見上げたブラックの顔は――――なにかを心底軽蔑するような、苦々しい顔をしていた。

「あ……も、申し訳ありません……」

 ブラックのあまりの剣幕に、シスターさんがおびえたように身を縮める。
 だけど、ブラックはそんな事など気にもせず、俺の肩を掴んだまま歩き出した。

「……さ、行こうかツカサ君」
「え、あ……ありがとうございました」

 一応お礼を言ったのだが、どこか怯えたようなシスターさんはそのまま動かず、扉は再び閉ざされてしまった。

「…………」

 名前を呼ぼうとしたのだが……なんだか、呼びかけられない。
 ブラックも今は話し掛けられたくないような雰囲気で、俺は相手が何かを言うまで黙って肩を抱かれて歩くしかなかった。

 ……さっきシスターさんが言っていた「悪魔に遭遇したか?」と言う言葉に、何故ブラックは怒ったんだろうか。どう考えても怒ってるよなコレ。
 悪魔って、この世界では何か特別な意味が有るのか?
 それを聞いて不快に思うような事が、過去のブラックに起きたんだろうか。

 考えてみるけど……分からない。
 ブラックの過去を知らない俺には、何も言う事は出来なかった。

「…………早く、帰ろっか」
「うん」

 教会から離れた事で、ブラックは少し落ち着いたようだ。
 もしかしてだけど、ブラックが教会を嫌っているのは、冒険者だからってだけじゃないのかな。まあ、それを訊く事なんて出来ないけど……。
 …………。ああもう、なんかクサクサするなあ。気を取り直さねば。

 調合するにも気合がいる。早く気分を上げようと思い、俺達は野菜屋さん……じゃなくて、露店のおばちゃんから新鮮な【ロコン】を数本買い、ついでに以前見た事が有った、野イチゴに似ている【ヒメオトシ】という赤桃色の実を小袋一杯に購入した。ふふふ、疲れた時は甘い物っていうからな。

 まあ、ブラックの態度が気にならないでも無かったけど……自分から言い出さない限り過去は聞かないって俺から言い出したんだしな。

 ……なんか最近、またその事でモヤモヤしちまってるけど……男が一度決心した事なんだから、ブラックが話して良いと思えるまで待ってやらないと。
 俺だって甲斐性かいしょうがあるって所を見せとかなけりゃ、男がすたる。
 ただでさえこの世界じゃメス扱いされてるってのに……あーいかんいかん、前向きに行け俺! とにかく帰ったら早速調合だ!

 俺まで暗くなってたらどうしようもないじゃん。
 頑張れ俺!

「よしっ、これで調合の準備は完了だな! 帰ったら早速作ろう」
「部屋で作るの?」

 日が落ちるとともに少し落ち着いて来たらしいブラックが、横から顔を出す。
 薄暗くなった街並みでは相手の顔が少し判りにくいけど、もう大丈夫そうだな。
 俺はいつもの調子を心掛けると、軽くうなずいて見せた。

「俺独自の回復薬は部屋で作るけど、他のは厨房を借りて作ろうかなって」
「はぇ? どーして?」

 不思議そうに首をかしげるブラック。いつもの調子が出てきたみたいだな。
 素直に良かったと思いつつ、俺は筋肉を誇示するかのように腕を曲げて見せた。

「この際だから、ちょっとずつ調合を変えて作ってみようかなって思って。それにさ、もしかしたら聖水が重要な要素かも知れないし……色々試したいんだ。そのためには、広い場所がいるからな。厨房を貸して貰わないと」
「ふーむ……ほんとツカサ君は、調合の話になると驚くほど頭が良くなるねえ」
「うるせえなこの! バカにしてんのか!」

 毎度毎度お前はどうしてそう俺をバカにするような事を言うかな!

 ……まあ、元気になったんなら良いけどさ。
 せっかく二人で色々やってんだし、どうせなら楽しい方が良いもんな。
 俺だってブラックと一緒に居るなら、もっと、その……仲良く、したいし……。

「ところでツカサ君、さっき買った【ヒメオトシ】は何に使うの?」
「んっ、んんっ、ま、まあそれは……後のお楽しみって奴だ! さ、帰ろうぜ!」

 問いかけられたけど何とかスルーして、俺は足早に歩き始めた。

 ブラックが後ろでブーブー行ってるが、正直に答えられるワケが無い。だって……「アンタのために、何か美味しい料理を作ろうと思ってる」なんて言ったら、絶対に変な事になるかニヤニヤ笑われるかするだろうからな。

 あと料理が失敗した時に、それを悟られるのも何か恥ずかしいし。
 だから、完成するまで秘密にしておかねば。

「待ってよツカサ君、夜道は危ないよ」

 すぐに俺の隣に並んでくるブラックの顔も、夜の闇に少しずつ染まっている。
 今はその暗さもありがたいと思いながら、俺はブラックと一緒に領主の館への帰路を急いだのだった。















※ヒッ…ちょ、調合まで入りませんでした……:( ´ω` ) :スミマセン…
 次回は調合&お料理です、はい_| ̄|○
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