異世界日帰り漫遊記!

御結頂戴

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謡弦村アルフェイオ、陽虹を招くは漆黒の王編

21.お久しぶりです 1

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 異世界が本当に存在する事を知らなかった頃の俺は、股関節や裏腿うらももが酷く痛む事態が発生するなんて思いもしなかったし、そもそも股関節に思いをはせる事すらもしなかった。健全童貞ボーイとして、日々二次元の夢にひたっていたのである。

 そんな俺が、どうしてこんな目に遭っているのだろう。
 おかしいな。俺が泣くのではなく女性を泣かせるのが本来のことわりなんだがな。

 うつろな目でそう思うが、しかしそんな俺の「当たり前」は異世界じゃ通用しない。ギシギシと痛む下半身をどうにか動かしながら、俺はなんとかベッドから立ち上がろうとする。だが、やはり半日ほど酷使され丸一日寝込んだ俺の体は、可哀想なくらいに悲鳴を上げてガクガクと震えていた。ああ、本当にかわいそうに俺の体!!

 自分で自分を抱き締めてやりたいが、残念ながらそんな悲しいナルシズムにひたっている時間などない。
 それに……こんな俺の状態を、健康優良状態のクソむかつくオッサンが心底楽しげに隣で見ているしなあ!

「あははっ、ツカサ君の体ってば面白いね~。あっ、ねえツカサ君! この状態で僕のペニスを足コキしてくれない!? なんか凄く気持ちよさそう!」
「バカッ! 宇宙一バカ!! ちったあ俺の状態を気遣きづかえ犯人んんん!!」

 ののしり言葉の語彙が悲惨過ぎて泣きたくなるが、声もかすれて迫力すらない。

 なんかもうみじめ過ぎて肩を落とすが、ブラックは自分の元気さを見せつけるように大柄な体でピョンピョンと左右に跳びながら、ベッドに座り込む俺の顔を覗き込んで来た。ああ、俺、これ知ってる。「ねえねえ今どんな気持ち? どんな気持ち!?」の奴だ……。お前、そんなに俺をおちょくりたいのか……。

 いや、ブラックからすれば意図してない行動なんだろうけどな……ハハ……。

「へへ、ごめんごめん。ねっねっ、ツカサ君痛い? 動けないかな、歩けないかな? だったら僕がだっこしてあげよっか? ねえねえ」
「うぐぐ……こ、こんなん、平気だし……っ」
「まーたそんな意地張っちゃって~! 僕だったら、ツカサ君を優しく抱いて運んであげられるよ。その間に、たくさんキスもしてあげられる……ほら、こんな風に」
「っわ……っ!」

 せっかく起き上がって着替えまで済ませたってのに、ブラックは俺をいとも簡単にベッドへ押し倒して、ほおや口に何度もキスをして来る。
 ブラックの性欲のせいで、丸二日この部屋に閉じこもる生活をしていたせいか、このはた迷惑なオッサンは上機嫌だ。そのせいか、ウザさも倍増していた。

「ツカサ君……あはっ、はぁ……はっ……ね、ねぇ、外に出る前に、もう一回濃厚なセックスしよ……? 居なかったらどうせこっちに呼びに来るだろうし、それまでは恋人セックスして愛し合おうよぉ……」
「ばっ……か……! ちゃんと行かなきゃ……っ、あぅっ、だ……ダメだってば!」

 必死に手で突っぱねて牽制するが、腕も筋肉痛でうまく力が入らない。
 服をつかむ手すらすがるようにしかならなくて、そんな俺の姿をブラックは嬉しそうに笑って見つめながら、俺の口をゆっくりとついばんで抱き締めて来た。

 う……ブラックは図体がデカくて、今の俺じゃあらがえない……。
 相手の腕の中にすっぽり収まってしまうのがくやしくて歯噛みをすると、ブラックはクスクスと笑いながら俺の頬に自分のほおを擦りつけて来た。

「あぁ……ほんと、見ただけで勃起しちゃうよ……。ツカサ君のこと好き過ぎて、僕、出し過ぎでそのうちしおしおになって枯れちゃうかも」
「そ、その方が俺としては……」
「何か言った?」
「イッテマセン……」

 自分で枯れるって言ったくせに、なんで突っ込んで来るんだお前は。
 ほんと毎度毎度理不尽で自己中だ……ああもう仕方ない……。

 覚悟を決めると、俺は涎を垂らしそうなだらしない顔をしたブラックを見上げて、口をモゴモゴさせながら小さい声で言ってやった。

「お……終わったら、思う存分イチャイチャしていいから……。だから、真面目な話は聞きに行かなきゃ駄目だって……」

 「していい」とか、上から目線過ぎるけど、こうでも言わなきゃブラックが治まらないんだから仕方がない。それに、べ、別に、俺だってブラックと触れ合うのは……い、嫌じゃない……し……。
 でも、触れ合うってえっちじゃないぞ、手を握ったりとか、こ、こういう風にぎゅってしたりとか、そういうのが好きって言うか……あああ何思ってんだ俺は!

「ツカサ君……っ! 顔真っ赤、可愛いぃ……っ!!」
「わーもう言うなバカぁ!!」

 そういうの知りたくないんだってば! 何でお前言っちゃうんだよ!!
 良いからさっさとどけよと力の入らない手でブラックの胸をポコポコ叩くと、相手は実に嬉しげに苦笑しながら俺を抱いたまま立ち上がった。

「でもさ、ほんとにツカサ君つらそうだから……だっこはさせてよ。元はと言えば僕のせいだし、大事な恋人を黙って放置できないでしょ。ね?」

 そう言いながら、ブラックは至近距離で微笑む。

 綺麗な赤い髪がきらめいて、菫色すみれいろの瞳が光を含み潤んでいる。
 無精髭が生えただらしない顔なのに、それでも、息を飲んでしまった。

 ……ブラックの髪も瞳も、今朝から……いや、二日前からずっと触れていた物だ。
 その髪は俺が優しくいてリボンでたばねてやった物で、宝石みたいな瞳には自分の間抜けな赤ら顔が映っている。ブラックに真正面から見つめられると、今朝の自分と今の自分をかえりみてしまい……もう、どうにも恥ずかしくてたまらなかった。

「う……ううぅ……」
「さ、行こう。大丈夫、誰も変な目でなんて見やしないよ。それに早朝なんだから、人だって少ないって。……まあ、見られた所でどうってことは無いけどね! 羨ましがる視線なんて、僕にとってはご褒美みたいなもんだからね……ふっ、ふふふ」

 そう言われながら、お姫様抱っこのように抱え上げられる。
 こうなると、もうどうしようもなかった。
 ううう……俺がもう少し筋肉をつけていたら、一人で歩けたのに。

 でも、これもブラックの優しさなんだよな。普段は自己中だし他人に辛辣しんらつだから、ついからかわれている感じに思えるけど、この抱っこだって結局は俺のためなんだ。
 筋肉痛で歩けないって見抜いてたから、おどけながらも助けてくれたんだよな。
 そう思うと、なんだかくやしいけど……ちょっと、嬉しかった。

 …………それはそれとして、羨ましいってなんだって感じだが。
 まあそりゃアンタは顔だけは美形ですから、女子やメスっ子が俺のお姫様抱っこを羨ましがるかもしれないけどさあ。ああもうムカつくなあ!
 何でこうイケメンってのは、やるコトなすコト女子にモテるんですかねえ!?

 ちくしょう、ちょっと楽になったら絶対に自分で歩いてやる……!

「ツカサ君、行くよぉ」
「ぐぅうう」

 マントをなびかせながら部屋を出るブラックは、なんてことは無いと言わんばかりに俺を姫抱きにしたまま宿の料金を払って、早朝の街に出た。そうして、恥ずかしげも無く堂々と俺を抱えたままでギルドへと向かう。

 ブラックの言う通り人通りも少なく、店を開ける人も準備にいそがしそうだったので、俺がヒソヒソされる気配は無く……あっさりと冒険者ギルドへ到着してしまった。

 あまりにスマートだったので、うっかり成すがままになってしまっていたが、なんと言うか……何事も無くて良かった。本当に良かった。
 人に笑われてたら俺はもう二度とこの街に入れない所だったぞ。
 ホッとしつつ、ブラックに何とか降ろして貰い、やっとこさギルドの扉を開けた。

「あのー……すみません……」

 そう言いつつ、少し薄暗いギルドの中に入ると、モップで床を掃除をしていた受付のお兄さんが「ああ、こちらですよ」と案内してくれた。

 この世界の冒険者ギルドの中って、この手の話によくある酒場&受付スタイルなんだけど、一段下に酒場が作ってあるんだよな。といっても、酒場や繁華街が在る街のギルドは酒場がないので、これが普通ってわけでも無いんだけどね。

 周囲を見回しながら、ギルドの受付の奥にあるドアから入って、応接室へ向かう。
 ギルドのバックヤードには何度か入った事があるけど、やっぱり緊張するなあ。
 落ち着いた雰囲気の廊下を進んでいくと、重厚な両扉の前でお兄さんが止まった。と、数回ノックをしてドアを開ける。

 どうぞと言われて中に入ると――そこには、品のいい調度品が配置された少し広い部屋があり、中央に置かれたテーブルを挟んだ二つのソファの一つに、優雅にお茶を飲む美老女が座っていた。

「あら、早かったわね二人とも。さ、座って頂戴ちょうだい

 そう言いながら、微笑んでくれる美しいお婆さまは俺達を招く。
 だが、その美老女の横でボディーガードのように直立している、漆黒のローブをかぶった胸の主張がやけに激しい誰かさんは、こちらを見て思いっきり舌打ちをした。
 ああ、この辛辣しんらつな感じも久しぶりだ……。

「シアンさん、エネさん、お久しぶりです」

 俺がそう言うと、長い耳の美しい老女様は女神のように微笑み……ローブから顔を覗かせた耳長の金髪美女は、深々と頭を下げた。













 
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