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謡弦村アルフェイオ、陽虹を招くは漆黒の王編
18.人知れず去るのがヒーローというもの
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事が全て終わった後。社に安置されていた鏡をブラックに調べて貰って判明したのだが、どうやら“神の帳”を発生させるあの鏡は、確かに曜具的な物だったらしい。
ただし、道具とは言っても御神体の“鏡”だけでは効果が無く、山全体を覆うほどの霧は舞台装置と組み合わせる必要があるとの事だった。
御神体の鏡と、舞台と、装置を起動させる踊りを舞う巫子が居て初めて“神の帳”は発生する――一応はそういう事のようだとブラックは言っていた。
「ようだ」と言ったのは、ブラックもこの装置の機能をハッキリと理解している訳では無いからだ。曰く、この御神体の鏡は曜具のようではあるが、俺達が今現在使用しているものとは全く中身……構造が違うらしい。
ブラックに言わせると「どうやって動いているのか把握できない構造」なのだそうだが、元々金の曜術は全くノータッチだった俺にはよく解らなかった。
まあそもそも俺、機械とかチンプンカンプンなんだけどな! ははっ。
…………ゴホン。
ともかく……年代的に考えると、この御神体は古代の超技術の結晶みたいなモンで、俺達には理解不可能なシロモノってワケだな。うむ。この世界では結構な頻度で遭遇して来たタイプの奴だ。納得する他なかろう。
自慢じゃないが、俺は【黒曜の使者】と言う“凄く重要”で“世界を滅ぼす災厄”ともされる伝説級のチート称号を授かっていたせいか、今のように自分の世界とこちらの世界を行き来出来るようになる前は、幾度となくこういう物に触れる機会が在った。
だから、仕組みが判らない物は大抵が超古代の逸品だと理解出来るのだ。
まあ、古代のウンタラと言っても、別に道具だけじゃないんだけどな。
なにせこの世界は、かなりの歳月を経た意外と古い世界だ。出会って来た超古代の技術は多岐に渡り、遺跡や生物だけでなく“呪い”と言う概念的な物まである。
その全てが、現代の物と同等かそれ以上に強力な存在だったのだ。
……当然、そんな凄いモノの仕組みを、俺達が完全に理解出来るわけもなく。……だって、俺達はただの冒険者だし……ブラックもかなりの曜術の使い手だけど、曜具作りが本職ってワケじゃ無いしなぁ。そうなっても仕方ないと思うんだよ。
博識で頭のいいブラックにも解らないことだってある。アホの俺なら尚更だ。
だもんで、そういうのに出会ったら、毎回「触れないでおこうね」と事無かれ主義でスルーして来たのである。ヘタに触れて大事になったらイヤだし。
だから俺もブラックも、当然今回も「さわらぬ神にたたりなし」と、事が解決したので早々に立ち去ろうとしていたのだが――――そう簡単にはいかなかった。
ムアンさんのお墓を作って供養して、鏡を調べながら復興のお手伝いをし、その後オサラバするために、ブラックが「倒した」と言う盗賊の隠れ家へ速攻で向かおうとしたのだが……オサバアやアレイスさんに縋りつかれて引き留められ、気が付けばすっかり夜中になってしまった。
お礼の宴を開くのでと言われたが、ブラックの機嫌がうなぎ上りに悪くなるので長居もしていられない。それに感謝のされ通しで凄くむず痒くて、結局俺とブラックは「厠へ行く」と嘘をついて宴会場を抜け出してきてしまった。
ご、ごめんなさい皆さんアレイスさん……でもこれ以上滞在して居たら、今度は俺の横に居る凶暴なオッサンが何をするか判らなかったのです……。
さすがにこの状況でフラストレーションを爆発されたら、ご迷惑になってしまう。
なので、俺とブラックは藍鉄に乗り、村の入口までやって来たのだが。
「へ、へへ、ツカサ君と相乗り……あぁ……ツカサ君の体が目の前に……!」
……やって来たのだが、さっき背後のオッサンが煩い。荒い息を漏らしながら俺にぴったりとくっつき、挙句の果てには片手で俺を抱き込みつつ項を嗅いですーはーすーはーと不気味な呼吸音を耳のすぐそばで聞かせやがる。
セクハラだ。どう考えてもセクハラだよなコレ。
「た、頼むから変なことすんなよ!?」
「えぇ~、僕変な事してないよぉ? ツカサ君を大事に大事に抱えてるだけじゃないか……ハァ、ハァ……」
真夜中で肌寒い空気のせいか、余計にブラックの体温や吐息が熱く思える。
吸いこむ空気は喉を冷やすはずなのに、背後からの熱気あふれるオッサンの吐息が俺の周囲を熱しているのか、なんか生暖かくて物凄くイヤだった。
おい、これブラックの息吸い込んでないよな。これ温まった普通の大気だよな!?
いやまあキスやその先の事もヤッといて何を今更って話だけど、でもさすがにそういう雰囲気でもない時にイチャイチャすんのは無いだろ。例えこの世界じゃ男同士がイチャつくのがオッケーでも、俺が耐えられないんだよ。俺が!
「っ、ぐ……おっ、おい、静かにしろよ! 誰かに気付かれたらどうすんだ!」
「ヒィン……」
ほらもう藍鉄も呆れてるじゃないか!
やめろと言わんばかりに背後のオッサンの顔を押し退けようとするが、こんちくしょう図体がデカいお蔭で力も強いのか、俺の手じゃビクともしない。
それどころか顔を押し退けようとする掌をべろりと舐めてきやがった。
「ひぃっ!?」
「ん~、しょっぱいねぇ。ツカサ君汗かいてる? そうだよね、今日は乳首が透けるくらい踊ってたもんね……! へっ、えへへっ、早く宿屋に行きたいなぁあ……」
「こ、このド変態ぃい」
ぐううぅ……ち、ちくしょう、俺が一人で馬に乗れれば……。
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「ブルルッ」
「え?」
必死に耐えているせいで周りを見ていなかった俺に、藍鉄が何かを知らせるような声で鳴く。何が起こったのかと前方を見やると……入り口の壁に誰かが寄りかかっているのが見えた。うげっ、ま、まさか今までの事を見られてたんじゃ……。
「あ、誰かいるね」
「へっ、変な事すんなよ!? したら怒るからな!!」
「はいはい」
分かってるのかなコイツ……まあいい、藍鉄に頼んで走り抜けて貰えば良いんだ。これ以上ここに居たら、分不相応に褒められ過ぎて恥ずか死しそうだし、なにより村の人達に迷惑をかけてしまう。
「よし、藍鉄、あの門を突破して……」
「ちょっ、ちょっと待て! まだ行くな、オラだ!」
こちらのしようとしている事に気付いたのか、相手が慌てて近寄って来る。
「オラ」という一人称……もしかしてギルナダか?
思わず手を止めると、暗い闇の中から思った通りの相手がやってきた。そう言えば、宴の席にギルナダは居なかった気がする。もしかしてずっとここにいたのか。
だけどどうして。見張りでもしてたのかな?
不思議に思って相手を見ていると、ギルナダは少し照れ臭そうに頬を掻いた。
「その……お前らなら、礼も受け取らずに出て行くだろうなと思って……」
「分かってるならどいてくれないかな。挽いていいの?」
背後でニッコリと笑いながら恐ろしい事を言ってるオッサンが居るが無視だ。
俺は藍鉄に少し近付いて貰うと、ギルナダの横に付けた。
すると、相手はなんだか照れくさそうな顔で一度目を伏せたが、再び顔を上げる。
「色々……ありがとな……。盗賊も退治してくれて、その……姉さんの事も……」
「ううん。行きがかり上のことだったし、俺達は特別な事は何もしてないよ」
「すっごく疲れたけどな」
「ブラック!! ……とにかくさ、ギルナダ達は気にしないで良いんだよ。それより今日はゆっくり休んで。やっと平穏な暮らしを取り戻せたんだからさ」
今日は誰もが疲れているだろう。それはギルナダだって一緒だ。
だから、余計に俺達の事は気にしないでほしかった。それに……これ以上この村に居ても、俺達に出来る事は無い。迷惑をかけるだけなら去った方が良いからな。
そんな思いはギルナダもよく解っているのか、小さく頷くと再び俺を見上げる。
ギルナダの表情には、何か決心したような強さが見て取れた。
「…………オラ、ムアン姉さんに憧れてて……それに、姉さんの言う通り、この村は他の場所より取り残され過ぎてて、酷く不便に思えたんだ。だから、みんなのために村を拓いて変えたかった。……でも、お前の言う通り……考えなしにやっても、何かが変わるどころか悪化するだけなんだよな。今回の事みたいに」
「……うん」
「でも、オラ、やっぱ村を変えてえんだ。今回はツカサが土を良くしてくれたから、偶然助かったけど……いつもこうは行かない。それに、神の帳もまたいつ消滅するか判らねぇんだ。だから……その時村を守るために……自分達で村を守るためにも、ちゃんと色々知っておきてぇ。知って、みんなで話し合って、それから村を変えるよ。……姉さんが幽霊になって村に帰って来てくれたのは、それを教える為だとオラは思うから」
良い答えだ。
色んな事を知る事は悪い事じゃ無い。
大切なのは、村が守って来た事を残しながら無理のない範囲で暮らしを変える事であって、知識を取り入れる事は決して間違いではないのだ。
最初のギルナダや……何かが変わってしまったムアンさんでは出来なかっただろうけど、でも今のギルナダならきっと出来る。
それを確信して、俺は強く頷いて見せた。
「うん。ギルナダならきっと出来るよ。……俺に協力できる事があったら、遠慮なく呼んでくれ。その時は絶対力になるから」
「ツカサ……ありがとな」
田舎っぽい訛りだけど、なんだか安心する。
笑って頷いてやると、ギルナダは照れたようにはにかんで笑い返してくれた。
「ツカサ君、もう行こうよ。あんまり長居してると誰か来ちゃうよ?」
「あ、そ、そうだな……じゃあギルナダ、いつかまた」
「おう」
そう言って別れようとして……俺は言い忘れていた事をギルナダに問うた。
「あのさギルナダ。俺が来るってわけじゃないんだけどさ。もし良かったら……ある人に、あの御神体のことやムアンさんの事を調べさせて貰えないかな」
「ある人?」
「うん。その人、すっごくデカい組織……ええと集まりの長みたいな人で、色んな事を知ってるし……それに物凄く優しいんだ。その人なら、色々知ってるかも」
「そ、そうか……! ツカサがそういう奴なら安心だ。楽しみに待ってるぞ!」
ギルナダも本当最初と比べて仲良くしてくれるようになったよなあ。
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ああでも、そうなると“あの人”に会うのも楽しみだなぁ……!
久しぶりだけど、今度はどっちの姿で会えるかな。どっちでも嬉しいなぁ。
そんな事を思いつつ、無意識にワクワクしながら暗い霧の世界に入ろうとすると、背後で何か明かりが灯って、ブラックの手が前に伸びて来た。
これは……カンテラか。おおっ、カンテラが目の前に来ると、前方の霧が晴れて光の一本道が遠くまで伸びて行くぞ!? もしやこれも曜具……!?
「とりあえず、まずは盗賊の隠れ家に行くよ。ギルドに報告するにしても、色々しておかなきゃ行けないし。めんどくさいけど」
「う、うん……」
あ……なんかすっげえブラックの声が不機嫌……。
もしかして今のギルナダとの会話に嫉妬したとか? いやまさか、あんな事で。
でもブラックだとマサカでも無いから怖いんだよな……。
…………し、仕方ない……。
「ブラック」
「なに」
ああもう怒ってると露骨に答え方がぶっきらぼうになりやがる!
グッと堪えながら、俺は……手綱を握る手に自分の熱い手を添えて呟いた。
「ちゃ……ちゃんと、約束は守るから……その……宿屋、良いとこに、しよう……」
ぐぬぬ……自分で言ってて凄く恥ずかしくなる……。
だってこれ、その、じ、自分からえっちしよって言ってるみたいなもんだし……。
う、ううう、やっぱ言わないほうが良かったかな!?
おっ、おっ俺みたいなのが似合わない事を言うのってすっげえ気持ち悪っ
「あぁあああツカサ君んんんもぉおおお可愛い事いっちゃってぇええええ!! ハッ、はぁあっ、も、もう飛ばそう、最高速で飛ばそう! 藍鉄君早く! 早く用事を済ませて全部やっつけて宿屋にむかえええい!!」
「ヒッ……ヒィイン……」
「ごめんねごめんね藍鉄……」
……男としては許容できん台詞で喜んでくれるのはありがたいけど、でもやっぱり物凄く恥ずかしいし、自分への嫌悪感が凄い。
あと藍鉄にとても申し訳ない。ごめんね藍鉄男同士のイチャイチャとか見たくないよね本当。俺だってやりたくない。二人きりならいいけど野外は勘弁してよホント。
「はいどー!!」
「あ、藍鉄頑張って……!」
心の底からそう言うと、藍鉄は「任せて下さい」と言わんばかりに嘶いてくれた。
→
※かなり遅れてしまって申し訳ないです…すみません…_| ̄|○
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