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謡弦村アルフェイオ、陽虹を招くは漆黒の王編
5.チート能力が満足に使えない子もいるんですよ(憤怒)
しおりを挟む「……というわけで、今からこのギルナダがお主の警護に当たるのでよろしくのう」
「…………」
早速呼び出すぞいと言われて、寒さに耐えつつ淡い期待と共に外で待っていた俺に付き付けられた、護衛役。
その人は……。
「これギルナダ、大切なお客人じゃ挨拶せんか!」
「イテッ! オサバア、ケツ叩くんじゃねえよ! ったく……」
その人は、残念ながら非常に男らしい男だった。
ええもう女の匂いなんてカケラもないくらいに、色々立派な……はぁ……。
「なんだおめぇ、オラに不満でもあんのか」
「いえ……じゃあ行きましょうか……畑……」
「頼みましたぞ、ツカサ殿」
村長のお婆ちゃんに丁寧に礼をすると、俺はギルナダって奴と歩き出した。
しかし、このギルナダって男……ヤンチャボーイのレドルと同じタイプなのか、俺を「草原人」とかいうカテゴリーで見下しているらしい。
畑に向かう間にも、大きな溜息を吐いたりチッと舌打ちするばかりで、俺と会話をしようともしなかった。どつきまわすぞ。
いやいや待て。俺が怒っても何も解決しない。
俺は大人なのだから、スマートに対処しなければな。うむ。
まずはこのギルナダとかいう野郎……ゴホン、青年の事を知らねば。
ええと……まあ、顔は悪くないな。身長もこの世界の男性平均を余裕でクリアしている。つまり俺よりも背が高い。殴りてぇ。いや抑えろ俺。
髪色は青緑色と鮮やかだが、スポーツ少年並のさっぱりした爽やかな短髪だし、俺の世界でなら野球でもしてたかもしれん。民族衣装である色鮮やかなベストと、下が膨らんだ布地が厚い地味なズボンも似合っている。
だけど、胸筋腹筋丸出しは寒くないんだろうか。
キリッとした少々厳めしい顔と真っ黒な瞳は、俺的には近寄りがたい。
と言うか俺は男よりも女性とお知り合いになりたい。
腰の革ベルトにはデカいナイフを入れたホルダーが何本かぶら下がっているから、恐らくコイツも戦士の一人なんだろうけど……はぁ、この村が女性だけの部族の村だったら良かったのになあ。
「おい、こっちだ」
そう言われて、俺は渋々ついて行く。
畑は村長さんの家から一段下にあり、端の方に作られている。それが順々に下へと続いているのだ。それを今から一つずつこの不機嫌な野郎と見て行くのかと思うと気が滅入ったが、アレイスさんとお婆ちゃんの為だと俺は気合を入れた。
近くの野郎より遠くの美女戦士だ。
自分が今やれる事をして、アレイスさんに良い所をみせるぞ。うむ!
そんな事を思いながら案内された一つ目の畑は……俺が思っていた以上に広く……そして、大変な状況になっていた。
「これは……」
そんな思わず声を出してしまうくらいに、土が剥き出しの畑。
綺麗に畝は作られている物の、その畝に植わっている植物は尽く萎びている。
辛うじて緑色ではあるが、どうしようもないくらいに土にへたり込んでいた。
畑のお世話をしているらしい数人の人達も、それを見て困り果てたように立ち竦んでいる。これはどう見ても深刻としか言いようがない。
「お前にコレがなんとか出来るか? 木の曜術師なら分かるってのか」
横から言葉で突かれるが、相手をしたらこっちの負けだ。
俺は護衛役のギルナダを置いて、困っている農家の人達に話を聞く事にした。
最初は俺を警戒していた彼らだったが、俺が村長さんから依頼されたのだと話すと、簡単に俺を信用して困っている点を喋ってくれた。
……何故かこの手の集落だと、村長さんの名前を出したらすぐに信頼してくれるのだが、こればかりは俺にはよくわからない。
小説や漫画だと流して読んじゃってたけど、良く考えたら余所者に苦しめられてるのに余所者を信用しすぎでないかい?
純粋な人達だとうっかり信用しちゃうんだろうか。いやまあ今はありがたいが。
それはそれとして……とにかく話を聞くと、やっぱり状況は深刻だった。
この半月の間、度重なる襲撃によって警備を強化しなければいけなくなった村人達は、壊れた家の補修や壁の強化などで人手を取られてしまい、その結果世話が疎かになって、こうして作物が枯れてしまったという訳だ。
「なんとかなりますか? 曜術師さま……」
「お願いします」
夫婦らしい中年の二人にそう言われて、俺は思わず声が詰まってしまう。
ンンッ、よ、曜術師様。サマ付けなんて気恥ずかしいな!
しかしこう頼られるのも悪い気はしないぞ。普段はバカにされてばっかりだから、頼られるのは凄く気分が良い。……よし、このお二人の為にもなんとかしよう。
なんたって俺はこういう事にめっぽう強いチート能力を持ってるんだからな!
「えーとまずは……土の具合を確かめますね」
「ケッ、土の曜術も使えねえ奴が何言ってんだか」
遠くから何か聞こえた気がしたけど無視無視。
俺は土に片膝をつけると、両手を畝に乗せて集中した。
「…………」
土の中に含まれる「土の曜気」や植物の持つ「木の曜気」、それだけでなく、生命に関係する「大地の気」と「水の曜気」も見ようと、俺は目を凝らし深く息を吸う。
と――徐々にその場に宿る四つの光の粒子が見えてきた。
良かった、あいつにアドバイスされたやり方をマスター出来てたみたいだ。
「よし……」
落ち着いて、いま目に見えている光の量を見る。
集中……というか、今のこの幻視みたいな状態から我に返ってしまうと属性の光が見えなくなってしまうので、出来るだけ他の物に気を取られぬよう眺めると……どうも畑全体から「大地の気」が失せているような気がした。
「……?」
高い場所にあるこの畑から下界の村全体を見るが、村自体は大地の気が少ないようには感じられない。ライクネス王国は大地の気が大陸一湧き出てくる国だから、そこは良いんだけど……畑だけってのがおかしいな。
植物が枯れて木の曜気が少なくなっているのは解るんだけど、水の曜気はあるし、土の曜気も平均的な感じなのに、どうして大地の気だけが……。
「おい、何か解ってるのかお前」
だーちくしょう、集中が切れちまったじゃねーか。
でもだいたいの理由は知る事が出来たから、これなら何とかなるぞ。
しかしずっと見られていると少し困るので、ギルナダとご夫婦には俺の目の前で背を向けて貰って、他の奴にも見えないようにして貰った。
ギルナダは怪訝そうな顔をしていたが、まあご夫婦がしっかりガードしてくれるから大丈夫だろう。そう思いつつ、俺は再び畝に両手を置いた。
「――――……」
深呼吸をして、心を落ち着かせる。そうして今一度深く息を吸った瞬間、俺を中心にして、ふわりと風が舞い上がった。
「この地に再び命の息吹を……」
呟いて、掌に力を籠める。瞬間、俺の掌から金色の光の蔦が何本も這い出て来て、俺の腕に巻き付いて来た。
それらは一気に俺の肩まで巻き付き光を放つ。いつもの事だ。俺がこの「能力」を使う時には、いつもこうして不可解な光の蔓が俺の両腕を支配する。いや、この光の蔦が、俺の能力が発動した事を示しているのだ。
その証拠に、俺の掌から放射状に金色の光が畑全体に広がって行き畑を満たす。枯れ果てていた植物はその「生命の力」に触発されてか、ゆっくりと立ち上がった。
先程までは萎びていたのに、今は葉を伸ばして嘘みたいに元気になっている。
よし、やっぱり畑に大地の気が殆ど無かったのが原因だったんだな。
……【大地の気】ってのは、全ての生命が有する力のようなものだ。
【曜気】とは違い全ての命に宿っており、本来ならどこにでも存在する。
コレが無いと、人も植物も気絶したり萎えたり傷の治りが遅くなってしまい、酷い時には昏睡状態にすらなるのだ。土だって、大地の気が無ければ肥えはしない。
だけど、この気が潤沢にあれば、自己治癒能力だってかなり向上するし、畑だって肥料が無くても肥えて良い作物が採れるようになる。まさに命の源なのだ。
そして、鍛錬すれば誰でも使える【気の付加術】……ゲームで言う所の無属性の技を発動する為に使用する力でもあり……まあ要するにヒットポイント的な感じの役割としてこの世界に根付いているって感じだ。
なので、作物もほらこの通り……。
って、アレ? なんか作物の色がおかしいんだけど。
「いやいや、なんで緑色から黄色……? これ逆に枯れてるのでは……」
「えっ、黄色ですって!? ああっ、作物がこんなに元気に……!! さすがは木の曜術師さま、ありがとうございます、ありがとうございます……!」
「おお、本当だ……! これでドウキが収穫できるぞ!」
もう振り向いていいと判断したのか、いつの間にかこちらを振り向いていたご夫婦が一斉に喜び出した。二人で手を合わせてキャッキャしているのは可愛いけど、あのこの茎これで大丈夫なんですか。枯れてる色にしか見えないんですけど。
「あ、あの……この色で大丈夫なの……?」
思わずいけ好かないギルナダに聞いてしまうが、こいつも俺の力に驚いていたようで、畏れをなしたのか呆けた顔をしたままコックリと頷いた。
「あ、ああ……ドウキは元々黄色の茎なんだ。大地の気をよく吸い上げるから、この高山でも立派に育つし、水だけでも生きていける……。しかし、あそこまで枯れた物を、ここまで元に戻すなんて…………」
ふふふ、どうだ凄かろう。俺の事を見直しただろう。
まあ、とは言えこれは【チート能力】のお蔭なので、俺の実力ではないんだが……成功したんだし長い事付き合ってきた能力なんだから、細かい事は言うまい。
とにかく俺の力が役に立ったようで良かった。
「ああ、曜術師様ぜひ、ぜひ他の畑もお願いします!」
「ほれギルナダ、お前もお頼みせんか! こんな事が出来るなんて、高名な曜術師様に違いあるまいて!」
「うぐっ……う……た……頼む…………そうしてやってくれ……」
大人の人に怒られて頭を下げるギルナダは、ちょっと子供っぽい。
そんな風に素を出されたら、笑って許さずにはいられないよな。
「ふふっ、大丈夫ですよ。ちゃんと頑張って元に戻しますから」
堪え切れず思わず口を覆って笑ってしまうが、ギルナダはバツが悪そうに口をモゴモゴと動かすだけで何も言わなかった。それどころか頬がちょっと赤い。
解る解る、身内に怒られるのを見られるのって、なんか恥ずかしいんだよな。
戦士とは言うけど、こう言う所は俺達と結構一緒なんだ。そう思うと急に親近感が湧いて来て、俺は最初の頃よりはギルナダが嫌いじゃなくなっていた。
ま、コイツも戦士なんだし、警戒するのは仕方ないよな。
それよりも、さっさと畑を元通りにして不安を取り除いてあげないと。
「じゃあ次行こうぜ!」
「あ、ああ。次はこっちだ」
俺の勢いに負けてか素直に案内してくれるギルナダ。
少し打ち解けてくれたのか、今度は俺の方を見ながら相手は頭を掻いた。
「それにしても……おめぇ、一体どんな術を使ったんだ? あんなに元気になった畑の土を見たの、オラ初めてだぞ……」
「へへへ……まあ、大したことじゃないから」
そう言ってごまかすけど、実際はわりと大したものだったりする。
だってあれは、俺のチート能力によるものなんだから。
……でも、俺が貰ったチート能力は、普通のと少し違うんだよな。
――――俺のチート能力は、【黒曜の使者】という称号だ。
この称号を持つ俺は、この世界の全属性を操る事が可能で、そして本来ならば人に譲渡出来ない曜気や大地の気を、無限の力を持って他人に渡す事が出来る。
その気になれば、海を操り荒野に草原を発現する事も出来た。
……だけど、それ以上の事は何も出来ない。
俺自身が強くなる訳でもないし、ステータスウィンドウも出てこない。この世界には「スキル」なんて物は無いから、何かしてスキルを覚える事すらないのだ。
もちろんMPが上がったりもしない。俺のステータスは、元の俺のまま。
そう。ただ、膨大な力を持って、全ての術を扱う事が出来るだけ。
……そんなの、神様にも及ばない力だ。俺自身が強い訳じゃない。
それに、俺はこのチート能力をまだ完全に使いこなせていないんだよな……。すぐキャパオーバーをしたり、あまりに頻繁に使い過ぎると、失神する事だって有る。
調子に乗ったらすぐにしっぺ返しを食らうわけで、そんなの全然チート能力を使いこなせてないよなぁ、ホント……。
だもんで、結局のところこの【黒曜の使者】の力は、授かっただけの力なのだ。
故に、俺はいつまで経っても後衛で剣術も武器使いも危うい。正直な話、レドルに「弱そう」と言われて怒れなかったのは、自分がそうだと自覚しているからなのだ。
――――けれど、俺はそれで良いと思っている。
だからこうやって派手な事をせず、自由に冒険出来ているんだからな。
「おい、ツカ……いや、曜術師……ええと……」
下らない事を考えていた俺に、不意にギルナダが声をかけて来る。
少し気安くなってくれたのか呼び方に迷っている相手に、俺は笑って言った。
「ツカサで良いよ。俺もギルナダって呼んでいいか?」
気軽に言うと、相手はちょっと照れ臭そうにしてぎこちなく頷いてくれる。
……もし俺がこの能力で無双出来ていたら、男と話そうなんて思わずにハーレムを作っちゃってただろうし、それに……アイツにも、出会えていなかっただろう。
そう思うと何だか急に何とも言えない気持ちが湧き上がって来て、俺はシャツの下で素肌に触れている“お守り”を意識してしまった。
→
※ゆったり更新してて話が進んでない…申し訳ないです…!
でも次は二話連続更新で話が動きます!※もあるよ!(`・ω・´)b
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