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神滅塔ホロロゲイオン、緑土成すは迷い子の慟哭編
16.あったよ解決法!よし、でかした!
しおりを挟むチェチェノさんに城の「扉」を再び開いてもらい、難なく妖精の国に降り立った俺達は、早速神泉郷へと向かった。
ザッハークに進化したロクも一緒なので、城の妖精達(声だけ)は酷く驚いていたが、彼らはモンスターと言う存在をほとんど見た事が無かったせいか、それほど騒ぐことも無くチェチェノさんの眷属と言う話を信じてすんなり静まってくれた。
チェチェノさんは“樹木竜”なだけあって、妖精達の信頼も厚いらしい。
……ただ、髪の色が元の黒に近い暗緑色に戻ったアドニスに対しては、何か色々と言いたそうだったが……アドニスはただ黙っていた。
それはともかく、俺達は妖精達が驚かないように夜を待ってロクにのり、神泉郷へと一気に移動した。その時間は、たったの数時間ほど。
ランク7となった準飛竜のロクの翼には、妖精の国は少々狭いようだ。
そうして神泉郷に降り立ち、ウィリー爺ちゃんとドンジャさんを含む【原始の二十七士】をアドニスは迷いなく解き放った。
神泉郷に蜘蛛の巣のように伸びていた蔓は枯れて掻き消え、それと同時に一気に氷が解けて消える。その光景と言ったら、本当にたったの数秒の事で。
こんな展開は、ファンタジーでなければありえない光景だろう。
氷漬けの二十七士全員が解放された途端に息を吹き返したのも、彼らが“妖精”という人族とは異なる種族だからなんだろうな。
……ただ、迷いなく彼らを解放するって事は、アドニス自身が罰される覚悟をしているって事で……。
これだけの事をしたのなら、酷い罰があるのではないかと俺は心配だったが、ウィリー爺ちゃんを含めた彼らの答えは意外なものだった。
『我らの払う代償は、これで十分だっただろうか』
……それだけ。
びっくりするぐらいの「なにもなさ」だった。
俺はてっきりウィリー爺ちゃんが王様として厳しい制裁を加えるもんだと思っていたけど、どうやら妖精達の仁義とやらではそう言う償わせ方はしないらしい。
だもんで、人族の仁義に染まり切っていた俺達は、目を丸くして絶句するしかなかった。もちろん、アドニスも含めて。
そんなこんなでなあなあの身内裁判が終わった俺達は、ウィリー爺ちゃんとドンジャさん以外の二十七士をお見送りして、ドンジャさんともお別れした後、氷の城へと戻って来ていた。
「いやあ、飛竜に乗って飛ぶのがこれほど快適とは思わなんだのう。さあ、今日は皇帝陛下の回復を祝っての盛大な宴会だ。準備が出来るまで、しばし待たれよ」
「は、はあ……」
「各自、自由にして貰っていい……と、そう言えば我が愛しの孫娘には話をすると約束しておったな。ロクショウと一緒に付いて来るがいい」
ロビーでそんな事を言われ、中庭に連れ込まれる。当然ブラックとクロウが付いて来ようとしたが、ウィリー爺ちゃんは「二人と一匹だけの話だ」と強引に庭への扉を閉めてしまった。……後が怖いが、仕方ない。
でも、ここでやっとロクの事が聞ける。
俺はウィリー爺ちゃんに促されて東屋の石椅子に座ると、ロクもすぐそばで伏せて相手の説明を待った。
「さて……結果的にロクショウは進化してしまったわけだが……そうなると、我が伝えようとした話の内の一つは、もう解ってしまっておるのだろうな」
「ロクが“ダハ”から“ザッハーク”に成長しちゃいましたからね……」
そう言って東屋の外にいるロクを見ると、相手はグウゥと申し訳なさそうな声を漏らして顎を床に付けた。
ああ、ロクが悪いワケじゃないんだよ。そんな悲しそうな目をしないで。
「でも……どうしていきなり成長しちゃったんですかね」
「……うむ。心を読んだ所によると、ロクショウは『己の望みを優先しすぎた為にツカサを守れなかった。それ故に後悔し心が乱れ、自制が利かなくなった事で、今まで押し留めていた力が溢れてしまった』と言っておる。……ザッハークになってしまったのは、己の悔恨に因る物だったようだな」
「そっか……やっぱり、俺達と一緒にいたかったから、頑張ってくれてたんだな……ロク……。気付いてあげられなくてごめんな」
ウィリー爺ちゃんに断ってから席を離れると、俺はロクの頭のすぐそばに座って、俺の体の二倍以上も有る頭をぎゅっと抱きしめた。
ああ、小さかったロクが、こんなに大きくなってしまうとは……。
こんな巨大な力をあの可愛い小さな蛇の体で抑えつけてたなんて……う……うっ、うぅううううう……。
「なっ、泣くでない! ツカサよ落ち着け、ロクショウまで泣きだすぞ!」
「グォオ! グオォオオン!」
「ハッ! ろ、ロク、お前は悪くないんだぞよーしよしよしよし!」
俺が泣いた事で悲しくなってしまったのか、ロクは綺麗な青緑色の目を潤ませてボロボロと涙を流し、ぐおぐおと泣き始めてしまう。
体が大きくたってロクはロクだ。なんて可哀想な事をしてしまったのかと思い、俺はロクの頭に抱き着きながら鎧のように固い鼻筋を何度も撫でた。
「ごめんなあ……。大丈夫だよ、俺は絶対にロクを手放さないから。俺達はずっと一緒だからなあ……」
「グゥウウ……キュォォオオ……」
ロクは俺の言葉が嬉しかったのか、鼻水を垂らしながらも精一杯の可愛い鳴き声を出しながら、でっかい舌を伸ばして俺の顔をべろんと舐めてくれた。
うぐううういじらしい、いじらしいよぉお……。
「ウィリー爺ちゃん、なんとかロクと一緒に旅が出来るようにならないかな……。出来れば、ロクの姿を隠せたり、小さく出来たりしたらいいんだけど……」
ロクと俺の心が「一緒に居たい」という気持ちで合致している以上、離れるなんて選択肢はない。でも、このままじゃ他の人間に迫害される可能性もある。俺には可愛いロクだけど、初対面の人からしてみればランク7のモンスターだ。
恐ろしいと思われるのも仕方ないし、そのせいで迫害されるかもしれない。
こっちがいくら説明したって聞いてくれない奴ってのは一定数いるもんな……。
だから、ロクの事を守るためにも良い手段があるならやっておきたい。
俺の問いかけに、ウィリー爺ちゃんは唸って腕を組んだ。
「ううむ……正直、我らもダハが一気にザッハークにまで成長するとは思わなんだ。ゆえに、今すぐには思いつかんでな……」
「え……ロクがザッハークになるのは予想外の事だったんですか」
驚いてウィリー爺ちゃんを凝視すると、相手は白い顎髭を扱きながら頷く。
「ダハがいきなり準飛竜になるのは、まず有り得ぬ事だ。……恐らく、お主の“力”が作用して、そのような珍しい黒の準飛竜に姿を変えたのであろう」
え……黒の準飛竜って珍しい存在だったの。
俺とロクが目を丸くするのを見ながら、ウィリー爺ちゃんは無言で頷く。
「……そもそも、妖蛇種が準級の竜になるのは、数百年の時間が必要なのだが……ロクショウの場合は、お主に寄り添っていた事に加え、多くの栄養を摂取した事で軽く数百年分の力を蓄えてしまったのであろう。……全く、こんな事は滅多にある話では無かろうよ」
「そんな……」
俺の力と色んな物をたくさん食べさせた事が原因?
……って事は……俺の黒曜の使者の力がロクの体にどんどん染み込んで、ロクはこんなにでっかく育ってしまったって事なのか……?
じゃあ、ロクが望まぬ成長をしてしまったのは、俺に原因なんじゃないか。
愕然とする俺に気付いたのか、ロクは大きな舌で器用に顔を舐めて来て「ツカサのせいじゃないよ」と慰めようとしてくれる。
俺のために頑張らざるを得なかったと言うのに……ロク……お前って奴は……。
「な、泣くでないぞツカサ。……ロクショウが己に我慢を強いたのは、お前と共に生きたいがゆえだ。その事でお前が自分を責めれば、ロクショウ自身も傷付く」
「あ…………そ、っか……そうだよな、ロク、ごめんな……」
「グゥウ……」
「ともかく、そんなに深刻になるでない。方法が無いわけではないのだぞ」
「えっ、本当ですか!?」
「うむ、さっき思いついた」
思わず顔を明るくする俺達に、ウィリー爺ちゃんは苦笑しながら立ち上がる。
何をするのかと思ったら、パチンと指を鳴らして空中から何かを取り出した。
うおお、あれか、空間を繋ぐ【異空間結合】ってやつか!?
王の称号があるとこんなに簡単に使えちゃうのか……やっぱ妖精王って凄いな。
「成長したとは言ってもな、何も悪い事ばかりではない。準飛竜級の力を持つのであれば、竜には敵わないまでも色々と出来る事が増えるぞ。……おおそうだ、技能を見せてやろう!」
そう言いながらチョイチョイと手を動かして俺を誘う爺ちゃんに、俺は涙と鼻水を拭って素直に東屋に戻る。ロクも気になるのか、伏せたままで東屋に鼻先をぐいっと突っ込んできた。鼻息が凄いが許して頂こう。
「妖蛇種は元々固有技能が多彩で優れておるからな……ざっと思い出して見たが、準飛竜であれば、このうちの大半の術は鍛錬次第で習得できるはずだ」
ウィリー爺ちゃんは俺が戻って来たのを見計らって、空から取り出した何か……羊皮紙のような物をテーブルに広げた。
そこに書いてあるのは、様々な“技っぽい名前”と簡単な図解だ。
もしかして……ここに書かれている事がロクが出来るようになる事なのかな。
「えっと……“火炎の吐息”に“毒の吐息”……あと“飛竜の礫”に……“石化の邪眼”だって!? ま、まだある……ひぃい……こんな怖い術をロクが……!?」
「そこではなくて、こっちを見なさい」
色んな凄いスキルがあって混乱する俺に、ウィリー爺ちゃんが下の方に固まっているスキルを指さした。
そこを見てみると。
「あ…………これ……!!」
「グォオオ!」
見つけた瞬間に、思わず声を上げる。
ウィリー爺ちゃんが指さした底には――――
なんと! 【変化の術】という項目が有ったのだ!!
「うぃ、ウィリー爺ちゃん本当に!? 本当にこれロクも出来るの!?」
「修練を重ねれば……だがな。それに、変化の術を習得するには、変化の術を使う“師”を見つけねばならん。長い時間をかけて己で固有技能を習得する道もあるが、ロクショウの場合はそう言う訳にもいかんだろう。その辺りは、我が責任をもって良い師を見つけてやろう」
「ほ、ほんとですか……!? あ、ああ……ありがとうございます、本当にありがとうございます!!」
思わず机に頭をぶつけそうになるほど頭を下げた俺に、ウィリー爺ちゃんは笑いながら俺の肩を掴んで顔を引き上げた。
その顔には、本当に優しい笑みが浮かんでいる。
思わず目を瞬かせた俺に、ウィリー爺ちゃんは優しそうに頬を緩めた。
「礼などいらぬよ。……お主には、たくさんの恩が在る。我を讃える祭を再興してくれたのもそうだが、我が息子を連れて帰って来てくれた事……我に我が子と話し合う機会をくれた事……何より…………我が息子を【同族殺し】という最も忌むべき罪から救ってくれた事には、いくら感謝しても足りぬほどだ」
「そ、そんな…………それに、俺一人でやった事じゃないし……」
「だが、我が息子の心を解き、癒してくれたのは間違いなくお主の力だ」
そんなに褒められても困りますうう。
アドニスは自分で立ち直っただけで、俺は別に何もしてないですううう!!
何度もそう言うが、ウィリー爺ちゃんはよっぽどのお人好しなのか、俺の言う事を冗談か謙遜だと思っているようで取り合ってくれない。
それどころか「ますます気に入った」と言いながら、俺をまた膝に乗せて俺の頭を撫でてくる始末だ。あーもーだから俺は孫娘じゃないんですってばあ。
「何にせよ、お主にはまだ贈り物も言わねばならぬ話も沢山あるでな……しかし、今日は疲れたであろうから、夕食を取ったら一度寝るがいい。ロクショウの師匠の件や他の事は、明日話そう」
「は、はい…………」
膝の上に乗せられて頭を撫でられるのは物凄く恥ずかしかったけど、最近本当に色々有ったせいか、何故か昔大人の膝に乗せて貰った事を思い出してしまい、俺は不覚にもちょっとだけ心が緩んでしまった。
ああ、俺も気を張って疲れてたんだな……。
ぼんやり思いながら頭を撫でられる俺を、ロクショウが何だか嬉しそうな目でじっと見つめてくれていた。
→
※次はただのタラシ回。
何で妖精達がすんなり許したのかとかは次回。
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