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神滅塔ホロロゲイオン、緑土成すは迷い子の慟哭編
12.積み重ねたもの
しおりを挟む「あど、にす」
え。なんで……まさか俺達がここに居るのを知って待ってたってのか。
俺達が事のあらましを理解するまで……。
「その様子じゃあ、狙ってやってたのか?」
ブラックの冷めた言葉に、相手はどちらとも言えない態度で呆れたようにわずかに肩を竦めて溜息を吐いた。
「ここまで簡単に入り込まれるとは思ってませんでしたけどね。それに……そこの無能そうな中年が珍しい金の曜術師だと知っていれば、ニオイタケ程度の軽い催淫効果だけじゃなく、媚薬も使ったのに。まったく……身体能力が高い曜術師なんて詐欺ですよ、詐欺。そんな人族みたこともありませんよ」
催淫効果……って……おおい! それマジ!?
そりゃ禁欲状態の兵士達なら軽い媚薬でもウフンアハンしますよね!!
じゃあ俺のあのドキドキも……いや、俺は別にムラムラしなかったし……もしかしたらそれほど禁欲してない奴には効かないモンだったのかな……。
「なるほどね、性欲に狂ってる間は逃げる事も出来ないし……少なくとも、この塔を離れる少しの時間くらいは作れる」
まるでこうなる事を予想していたかのように話すブラックに、アドニスは片眉を上げて面白くなさそうな顔をする。
「貴方達が塔を探ろうとすることなんて予想していましたよ。ツカサ君は転んでもタダでは起きない子だと、重々承知していましたからね。ただ……せっかく用意した仕掛けを見もせずに侵入されたのは、少々切なかったですが」
「仕掛け……?」
「このクソ眼鏡、部屋の前に自作のモンスターを設置してたんだよ。だから、戦うのも面倒臭いし、換気口から中に入ったんだ」
「うえぇ……そう言う事だったの……」
こ、こいつの事だから絶対に触手系だ。良かった……ケツ揉まれるだけで済んで本当によかった……!!
しかし、どうして予測していたのにアドニスは俺達を自由にさせたんだろう。
俺達がいる事なんてとっくに解ってただろうし、情報を掴まれて形勢逆転される事も予想できただろう。なのに、外でずっと待ってたなんて……。
「アドニス……俺達が情報を掴むまで外に居たのはどうしてなんだ?」
そう問いかけると、相手は少しだけ視線を逸らして再び俺を見た。
「この部屋にある情報だけでは、君とそこの中年に仕掛けた術は解けません。魔導書の力とはそういうものです。それに……正当な協力を得るためには、正当な情報を開示しなければいけない。あの計画書や文献を見れば、貴方達も『緑化計画』がどれほどこの国に大切な事か理解してくれたでしょう?」
「神に『斯く在れかし』と望まれた……その望みへの反逆ってことかい? はっ、バカバカしいね。これだけの技術力を持った今も古代からの妄執に取りつかれてるなんて」
「これだけの技術力を育て上げたからこそ、ですよ」
そう言うと、アドニスは俺達の横を通って執務机へと向かった。
「生まれた時から、故郷の大地のみが陽の光を臨む事のない場所だった。それは神の望んだ事であり、生まれたからにはその地で人生をまっとうするしかない……。それで納得できる者がどれほどいるでしょうね? 人は自分で考え、歩き、作る事が出来る。今まで泥水を啜って沼で生きてきた者でも、美しい清流を知ったのなら誰もがそこに身を置きたいと願う……それは当然の事でしょう?」
「…………」
「だからこそ、この国は進んだのですよ。唯一得る事の出来たものである“技術”を貴び、その力で全てを手に入れる道を」
重い呟きを零して机を撫で、ゆっくりと背後の窓に目を向ける。
美しい窓枠で区切られた外の風景は、その枠の色すら鈍く見える程の曇天だ。
俺達に背を向けているアドニスの顔は、どんな表情をしているのかは解らない。だけど、俺には何となくどんな顔をしているのか解るような気がした。
「アンタも、それは同じだった」
口から無意識にこぼれ出た言葉に、アドニスの方が少し反応する。
だが、こちらを向く事は無く相手は灰色の空を見上げた。
「ええ。……私には、神が取り決めた忌まわしい力の他に……人族としての能力がありましたから」
「……その力で、妖精の国の奴らを見返す事は考えなかったのか?」
ありもしない「もしも」を考えるように、アドニスの背中に問いかける。
もし、その母親から貰った曜術の力で妖精の国の人々を圧倒出来れば、また違う道も有ったんじゃないかと。
だけど、アドニスは軽く笑うように息を吐いて俯いた。
「ツカサ君、この国で一番疎まれる事は何だかわかりますか? ……それは、力を持ちながらも動かない“怠惰な存在”ですよ。……残念な事に、私はその怠惰の血を半分受け継いでいた。ただ生まれ、己が身を考察する事も放棄した群衆の中で、私はただ笑われながら生きていたんです。それは間違いなく、私自身が妖精の血に呑まれて、“怠惰”を良しとしていたから。だから今まで、私は蹲っていた」
違う、そうじゃないだろ。
アンタは長い長い孤独の間、独りでも決してくじけることなく、曜術の勉強を続けて来たじゃないか。蹲って、泣いて、耐えて、他人の感情も解らなくなるくらいに、研究や勉強に没頭して来ただろ。
なのに、どうしてそんな事を言うんだ。
「だから、私はこの力を……母様から貰ったこの力を比類なき物に進化させる存在を知った時、飛びついたんです。泥の中の蛙が清き雨に飛び上がるようにね」
「国を追われる覚悟で、か」
ブラックの言葉に、アドニスはまた笑う。
揺れる両肩は、何故だか自嘲しているようにしか見えなかった。
「妖精の愚かな国など、私にはどうでも良かった。あんな狭い鳥籠で飼い殺しにされ見世物になっているくらいなら、私を見下した妖精達を震え上がらせ、極寒の地で死ぬほうがよほど有意義でしたから。……ただ一つ誤算があったとすれば……私が、雪原の中で死にかけていた男を見つけたことでしょうね」
「ロサードのこと……?」
「……ええ。お互い馬鹿なことをしましたよ。私は母様以外の人族を初めて見て、興味を引かれた。ロサードは私の能力と野望が、国益になると思った。力を持つ者は、時に盛大に道を誤ることがあります。……今思えば、あのまま死んでいた方がよほどましだったかもしれませんね。……少なくとも、二つの国にとっては」
それは……オーデル皇国と、妖精の国の事を言っているのだろうか。
自分の事を冷静に「死んだ方が良かった」と言うなんて、普通じゃない。
アドニスの言葉にウソが無い事が解るからこそ、余計に辛かった。
「……お前が皇国に加わったせいで、妖精の国は神泉郷を狙われ……そしてオーデル皇国の臣下達は、計画が実現するかもしれないと言う夢を見せられて、狂信的な行動に拍車がかかった。その結果が、パーヴェル卿の凶行か」
俺の頭の中で、優しそうなゲルトさんの顔とパーヴェル卿の笑顔が重なる。
思わず痛くなる喉を堪えた俺の前で、アドニスが振り返った。
なんでもないような、いつものすました顔で。
「……夢と言う存在は、本当に恐ろしいですね。実現が見えてくれば、人は見境が無くなる。どんなに己の身が汚れようとも、どれほど失う物が有ったとしても、人はその一縷の望みに縋ろうとする……。思いが届かないと知っていても、相手の為に必死になって他人を使い捨てにして、騙して、殺しかけて……」
「…………」
「だから、とても面倒な事になってしまった。……これなら、私一人で研究を進めるべきでした」
「でも……アンタは、この国の人達に必要とされたから……お母さんの叶わなかった願いや、遠い血縁であるパーヴェル卿の願いを叶えたいと思ったから、この計画に協力したんだろう?」
アドニスはパーヴェル卿の事を言っていたのだろうが、俺にはその言葉がアドニス自身の事を言っているように聞こえていた。
夢が実現すると解ったら、必死になって他人を使って、なりふり構わずに自分の考えを押し進めて、周囲を騙して、殺しかけて…………
それって全部、アンタの事じゃないか。
パーヴェル卿だけじゃない。
アンタだって、夢を追ってたんだよ。
なのに、どうしてそんな絵空事を喋るみたいに言うんだ。
アンタはそれだけ……他人の事も、自分の事も、解ってるのに。
「協力……? そんな甘い物ではありませんよ。……私はただ、私を認めなかった忌まわしい妖精達や、そんな存在を作り出した神を滅ぼしたかっただけです。その為に、この国の人々の研究を利用した。協力なんて、最初からしていません」
俺の視線から逃れるように、アドニスが涼しい顔で横を向く。
だけど、俺はどうしてもその言葉を飲み込めなかった。
……なぜなら俺は、あの“誓い”を見てしまったから。
「――――……違う……。そんな大層なこと、考えてないだろう? アンタは、ただ、嬉しかったから……自分の故郷を捨てる決心をしたんだ」
「嬉しかった?」
片眉を顰めるアドニスに、俺は震えそうになる喉を抑えて険しい顔で告げた。
「アンタは自分の事を受け入れてくれる人がいるのが嬉しかった。同じ耳を持つ、同じ考え方をしてくれる人が沢山居たのが、嬉しかった。自分と同じ血を持つ人が生きていて、嬉しかったんだ」
「……違います」
「だから、あんなにも『緑化計画』にのめり込んだ。この国で初めて貰った居場所を失いたくなかったんだろう? だから、アンタは頑張った。頑張って、自分の国すら売り渡したんだ。大地の気をより拡散させるためにこの塔を作り、行き詰って悩んで、そこに俺が現れて……あんな風に人の事なんて考えもせずに暴走した」
「違うと言っているでしょう……」
「アンタは、ただ、自分に居場所をくれた人達に報いるために……そして、計画の一員にしてくれたパーヴェル卿に自分の母親を……――」
かさねて、と、言おうとしたと同時。
「見当違いだと言っているのが解らないんですか!!」
まるで獣のように、怒りを剥き出しにして――――アドニスが、叫んだ。
「――――っ」
睨み付けて来る金色の目に、思わず声が詰まる。
だけど、俺は必死に言葉を口から吐き出した。
「……アドニス、アンタは洞窟で『俺の行動は理解出来ない』って言ったけどさ……本当に人の心が解らないなら、パーヴェル卿の死因を誤魔化すことも、ヨアニスを神泉郷で開放する事もしなかったと俺は思うよ。ブラックの事だって、俺が逃げないようにあの洞窟の中で殺してたはずだ。なのに、アンタは俺が悲しむって解ってたから、殺さなかった。ローブまで用意してくれたじゃないか」
「…………ッ」
「本当に損得でしか考えられない奴だったら……俺達の行動を読んで、そのうえで理解するかどうかを待つ事だってしない。……アンタがそうまでして自分を悪くしたがるのは……怖いからなんだろ?」
アドニスの顔が口惜しそうに歪む。
それこそが答えなのだと確信して、俺は金色の目をしっかりと見返した。
「……ここに来て、やっと解ったよ。アンタ、ずっとそうやって自分の心に蓋をしてたんだな。……もう二度と、居場所を失って傷付きたくない、誰かに心を開いて、また独りになる恐怖を味わいたくなかったから。だから、アンタは……自分が唯一素直に信じられる、自分自身の力だけを見つめて生きて来たんだ」
……ずっと不思議だった。
アドニスは、俺が何を言ってもからかうか無関心を装うだけだったのに、どうして自分の研究や能力を褒められた時だけは、素直に嬉しそうにするのかと。
俺の事を本当に実験材料としてしか見ていないのなら、俺の言う事なんて聞かず協力もしなかっただろう。だけど、アドニスは色んな理由を付けながらも俺達を助けてくれた。過去の事を訊いた時も、アンタ自身が思っている事を聞いた時も、いつもとは全然違う人間味のある表情で答えてくれた。
俺の事が本当にどうでもいいのなら、昔の事を聞かれて話すはずがない。
「どうでもいい相手」に、自分の身の上なんて話すわけがないんだから。
だから、どうして時々そんな風に俺に接して来るのか……解らなかった。
俺の世界でもこの世界でも、俺はアドニスみたいな人を寄せ付けない捻くれた奴になんて、会った事が無かったから。
だけど、今なら判る。胸が痛くなるほど、理解出来た。
「アンタ……本当はブラックの事を殺すつもりも無かったんだろう?」
「え……」
黙っていたブラックが、思わずと言った様子で俺の方を向く。
俺はその顔を少し見上げて頷くと、またアドニスを見やった。
「俺さ、ブラックを助けに行った時……コイツを囲うようにしてシラカバが綺麗に折り重なってるのを見たんだ。……あの時は気が動転してて解らなかったけど……雪の重みから人を庇うように偶然木が倒れるなんて、滅多に無い事だよな?」
「…………」
「しかも、コダマウサギが近くに居たのに、そいつらが襲い掛かった様子も無かった。それって……どう考えても、シラカバがブラックを守るように動いたって事だよな? そんな事が出来る奴なんて……アンタくらいしかいないよ」
アドニスは木の曜術師であると同時に、氷雪を操る事の出来る妖精でもある。
例えモンスターが作り上げた氷の樹であっても、それが自然から生み出された物ならば、操る事は簡単だろう。だから、アドニスは雪崩を呼んだと同時に氷の樹をブラックの周囲に集めて、圧死しないようにしたんだ。
そんなこと……本当に殺そうと思っていたら、やるはずがない。
現に、アドニスは俺の言葉に反論できず、視線を床へ逸らしていた。
「アンタの中には、ちゃんと母親から貰った大事なものが根付いていた。人を寄せ付けないように嫌な奴を装っていても、どうしても非情になれなかったんだ。……だから、遠い血縁に当たるパーヴェル卿に母親を重ねて、彼の望みを叶えてやろうと思ったんだろう? ……彼とヨアニスだけには従っていたのは……ヨアニスに愛して貰う事が、パーヴェル卿のたった一つの望みだったからだよな」
「…………見てきたように言いますね」
やっと言葉を発した相手に、俺は口だけをわずかに笑ませた。
「妄想でしか無かったら、一蹴してくれていいよ」
「私がそんなに献身的で優しい存在なら、妖精の国を滅ぼすような事をすると思いますか? 私がやった事は、世が世なら大罪です。処刑されても仕方がない事だ。そんな事をしでかした私を見て、君はどこが優しいと」
「まだ、滅ぼしてないじゃないか」
「……はい?」
「滅びてないよ。だってあんた、ウィリー爺ちゃんを殺してないじゃないか」
俺の言葉に、ブラックが「あっ」と声を漏らす。
「そうか……氷縛の術…………原始の二十七士はまだ死んでいない!」
「……そう、殺して鍵をあけっぱなしにする事だって出来たのに、アドニスはそれをしなかった。いや、出来なかったんだ。……だって、ウィリー爺ちゃんはアドニスのお母さんが愛していた人だったから」
「…………ッ」
例え母親の存在が消えてしまったとしても、自分が覚えている限り彼女が父親を愛した記憶は消せない。
心があるからこそ、自分が唯一愛している存在が大切にしていた物を壊す事が出来なかった。それこそが、アドニスが自分の感情を押し隠している証拠だ。
「アドニス、アンタが計画に固執する理由も解るし、それが本当にこの国の人達のためになるって言うんなら、俺は協力してもいいと思ってる。……だけど、今やっている事は、違うだろう? 故郷を自分の手で壊して得られる結果でアンタは満足できるのか?」
「は……泣き落としですか?」
「違うよ。人を思う事の出来る、まっとうな研究者のアンタに質問してるんだ。……こんな形で計画を成功させて……アンタは本当に、満足できるのかって」
俺のその言葉に、アドニスはまるで子供が思わず叱られた時のように顔を歪めて――見開いた金の瞳で俺の事をじっと見つめていた。
「…………研究、者……?」
虚を突かれたかのような声音に、少し心配になりながらも俺は頷いた。
「アンタはちゃんと、何が大事かを知ってる。知ってるから、人が求めるような変な道具だって作る事が出来た。パーヴェル卿の献身を見て、自分に出来る事で彼の思いを後押ししようとした。なにより……アンタ、ずっと……長い長い時間を生きていても、ちゃんとお母さんの事覚えてたじゃないか」
「私、は…………」
「アンタは、ちゃんとした人族の研究者だよ。人の事を考えて色んなものを作る事が出来る……立派な、研究者だ」
俺のその言葉に、アドニスはただ瞠目していた。
こんなアドニスの顔、初めて見た気がする。
素直に感情を見せて驚く顔なんて……。
「……君の、言っている事が……私にはよく、わかりません…………」
「はは、奇遇だな。俺も何言ってるのかよく解んなくなってきたよ。……でもさ、もう、良いんじゃないかな。この国の人達がアンタを笑ったことってあったか? 居場所を奪おうとしたことが有った?」
「いえ……みなさん…………やさしかった、です……」
呆けた顔でただ答えるアドニスに、俺は少し笑みを深めて口に手を当てた。
「じゃあ、計画を焦る必要なんて、どこにもなかったんじゃないかな。……この国の人達は、アンタを見捨てるような事なんてしないよ。アンタは自分の力で薬師の称号を勝ち取って、色んな人に頼りにされるようになった。……それって、凄い事なんだぜ? ……自分の力で勝ち取った場所ってさ、そう簡単に崩れたりしないもんだよ」
「だけど、私は……彼の遺志を継がねば…………」
「今すぐって、誰か言ってたか? 言ってないだろ。……パーヴェル卿も、きっとアンタが故郷を失う事なんて望んでないよ。アンタが妖精族だって知っていたら、やめようって言ったはずだ。……そんな事をヨアニスが許すはずがないって、ちゃんと考えられるのが……本当のパーヴェル卿だったんだから」
アドニスだって、そうだろう。
妖精の国を憎んでいたと言っているが、だったらあの指南書には“誓い”ではなく酷い言葉や憎しみの痕が滲んでいたはずだ。
なのに、そんな事は無かった。ただ、妖精の国の現状を見て疑問を呈し、その事が受け入れられない事を悔やみ、苦しみ、それでも緑化計画を捨てきれずに、延々と研究をし続けていた軌跡だけが記されていたのだ。
アドニスは、悲しいくらいに真面目な研究者だった。
そしてまた、孤独を必死に受け入れようとする、心の強い人間だった。
だから……心を閉ざして、憎まないようにしたんだ。
人の心が解らなければ、人を憎まなくて済むから。
「私、は…………」
アドニスの金の瞳が、光を孕む。
何か強い意思のような物を感じて、俺はアドニスが何を言っても受け止める覚悟で、彼の言葉を待つためにぐっと喉に気合を入れた。
相手の震える唇が動く。
そうして、呟こうとした――――刹那。
――けたたましい警鐘の音が塔内に響き渡り、俺達は一斉に音の方を見た。
『緊急警報、緊急警報!! 西南西にモンスターの発生を確認!! 塔内の騎士及び曜術師は速やかに持ち場にて警戒態勢をとれ、繰り返す……!!』
若い兵士の焦った声。
何が起こったのか解らず一瞬硬直してしまったが、俺とブラックはすかさずアドニスの背後にある窓に駆け寄って外を見た。
曇天の下の、雪の大地。
街から伸びる道のすぐそばの雪原に、なにかの巨大な影が見えた。
あれは、明らかに馬車でも人でもない。道に比べて大きすぎる。遠すぎて詳細は良く解らないが、確かにモンスターのようだった。
「あれは、一体……」
「おかしい、このオーデルにはあれほど巨大なモンスターは存在しないはず……。それに、いたとしても街道の近くにいきなり出現するなんて有り得ません」
アドニスの冷静ながらも困惑を含んだ言葉に、俺は眉を顰める。
「じゃあ、突然あの場所に舞い降りたってのか?」
警鐘が鳴りやまない部屋の中で、俺が何ともなしに言った言葉。
その言葉を聞きとったかのように、モンスターは大きく膨れ上がった。
いや、膨れたのではない。
「開いた」のだ。
あまりにも大きく――――雄々しい、翼を。
「まさか、あれは…………竜……なのか……!?」
ブラックの驚愕を含んだ言葉に、俺は息を止める。
竜。……竜だって!?
チェチェノさんと同じ、モンスターの最高位である竜が現れたってのか!?
でも、何で、どうしてこんな所に……!
「こ、このままじゃ、ノーヴェポーチカが襲われるかも……」
「…………お二人とも、申し訳ないですが付き合って貰いますよ。あのモンスターを倒すために力を貸して下さい」
アドニスの真剣な言葉に、俺達は拒否を考える事も無く頷いた。
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