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神滅塔ホロロゲイオン、緑土成すは迷い子の慟哭編
7.変態でも吊り橋効果はあるのだろうか
しおりを挟む「ツカサ君……怪我はない? このクソゲスにキスとかされてないよね……?」
ど、ど、どうしたんだ俺。
何でこんなドキドキ……なんかおかしい、変だ。相手は換気口から妖怪みたいに這い出て来て必殺仕事人した中年ですよ、ニンニクの臭いが取れていないオッサンなんですよ。な、なのにどうしてこんな事くらいで…………。
「ツカサ君、どうしたの?」
「ンンッ!? い、いにゃ、なんでも……っ」
うげえ舌噛んだ気色悪い!!
ニャじゃねーよニャじゃ! ああもうブラックもニヤニヤしてるしいい!
「ふふ……ふふふふ……可愛いなあ、もう……!」
「ぅえ」
「そんなに可愛い顔されちゃうと、僕も我慢できなくなっちゃうよ……」
おい待てお前助けに来たんだよな。俺を何度目かのピンチから救う為に、換気口からぬるっとサダコってくれたんだよな?
なのに何でまた俺は押し倒されてんだよ!
「馬鹿っ、なにやって……!」
「ツカサ君……っ、はぁ、もう、あんなゴミにまで可愛い顔をするからこうなるんだよ……? 上から見てていつあのクズを殺してやろうかともう爆発しそうだったんだからね……ふ、ふふ……」
「は、はぁ!? うえぇ!?」
上で見てたってどういう事。
はっ。さてはお前……俺が助けを呼ぶまであそこで待機してやがったのか!?
じゃあ……俺がビクビクして怖がってるところも、襲われた時に恥を忍んで助けを求めたところも、全部見てたってのか。
あの換気口の網目からずっと見てたって……いやちょっとまって凄く怖い。
俺知ってるよ、こういう怖い話知ってるよ!!
こ、これ、あれじゃん、天井裏の男じゃんか――――っ!!
「いっ、いやあああああ天井裏の男おおおおお!!」
「何それ格好いいね、戯曲の主人公かな……? ハッ! も、もしや、てっ、て、天井裏からツカサ君の痴態を眺めて自慰に耽るみたいな……!? ふ、ふふふそれもまた一興だねえ!!」
「微妙に噛み合ってるいやあああああああ」
なんでこうスケベが考える天井裏の住人ってそんなんばっかなの。
確かにあるけど、そういうのも有るけどさあ!
オッサンなの、オッサンだからそう思うの!? 戯曲って言ったくせになんでそんな古いエロビデオみたいな展開しか思い浮かばないのよアンタは!
なんなの、この世界エロ詩吟ならぬエロ戯曲とかあるの!?
「はぁ……は……ツカサ君……」
「や、やだ、だめだってば……っ!」
俺を組み敷いたブラックが、熱に浮かされたような顔を近付けてくる。
いつもなら顔を押しのけてでも拒否してるのに、何だか今日はさっきから心臓の鼓動が激しく動いて止まらなくて、目の前のブラックの顔も何故だかきらきらして見えて力が抜けてしまう。こんなバカな。何で俺、こんなドキドキして……。
「ツカサ君……僕、今度はちゃんと間に合っただろう……?」
「ぇっ……」
意味の解らない事を言われて至近距離の顔を見上げると……ブラックは綺麗な菫色の瞳を心底嬉しそうに歪めていた。
その表情に、また心臓が強く脈打って、痛くなる。
意味が解らないたったそれだけの言葉が酷く俺を動揺させて、体の熱はどんどん上がって行くのにちっとも思い通りに動かなかった。
そんな俺の事を知ってか知らずか、ブラックは上機嫌で俺の頬や首に音を鳴らしながら軽く啄ばむようなキスを落としてくる。
ただでさえ変な感じなのに、そんな事をされたら余計に頭が茹だっちまう。なにより、気絶してるのかどうかは解らないが、他人がすぐ近くに居るのにこんなこと……。
「ぶっ、ブラック、こんなとこでだめだって……! よ、横にまだいるし、こんな事してる場合じゃ……」
「もし目を覚ましたら今度こそ殺すから安心して……ねえ、それより、もっと僕にドキドキして、ツカサ君……」
「っ……」
「僕のツカサ君を奪おうとしたクズから、ツカサ君を取り戻した……やっとそう出来て、僕今すごく嬉しいんだ……」
「あ……」
――――そうか……だから、アンタ……そんなに嬉しそうだったのか……。
今まで、俺が襲われたのはずっとアンタの手の届かない場所でだけだったから。
そのたんびにアンタは怒って、めちゃくちゃな事して、謝って来て……。
だから、やっと“間に合う”事が出来て、それが嬉しくて興奮してたのか。
「…………ばか……」
そんな事で喜ぶなんて、バカかよ。
俺は男だし、犯されかけるのだって俺の不注意からだし、アンタが怒る事は当然でも、そんな……そんな風に思う必要なんて、なかったのに。
ズルいよ……こんなやらしいことしてるくせに、そんな、俺が何も言えなくなるような事ばっか考えるなんて……。
「はっ……はぐ…………」
…………はぐ?
「うぐ、ぐ……つ、つかさく……その顔、反則……っ……」
いつの間にかぼけっとしていた俺に、どもった奇妙な言葉が聞こえてくる。
俺としたことが、どうやらうっかり雰囲気にのまれて周りが見えなくなっていたらしい。こ、こんな少女漫画みたいな事になるなんて……い、いやでも、ほら、誰かに助けに来て貰えるってのは、思わず人を乙女にしちゃうのかもしれないし……じゃなくて、なんだ今のどもった変な声は。
ようやく正気に戻りふと目の前の相手の顔を見て――――俺は閉口した。
「ね、ねえ……も、もっと、もっと僕に、可愛く『ばか』っていっ、い、いっ、言ってくれるかな……っ!? はっ、はぁっ、や、やばい、射精しそう……っ」
「………………」
あれ……確か、俺の上には格好いいキラキラしたブラックが圧し掛かってるはずでしたよね……。
おかしいな……。俺の目の前にいるのは、魔王みたいな顔して鼻血を垂らしてる悪夢みたいなオッサンしかいないんですけど……。
「ドキドキがどっかに失踪した…………」
「えっ!?」
「ブラック、あのな、格好いい事するのは凄く良いんだけど……その後に急に素の変態に戻るのやめてくれるかな……」
「素の変態って何、ツカサ君なんでそんな虚無みたいな顔してるの」
「さあさっさとやることやりましょうか……」
「えっ、なに? どうしたのツカサ君急にベッドから降りて。ねえ、動くのも良いけど別の運動もしようよー、セックスしようよ~。ね~?」
うるさい!!
返せっ、俺のドキドキを返せこのバカぁあああ!!
◆
…………返す返すも恥ずかしいが、人ってのは雰囲気にのまれやすい生き物であって、先程の事は俺としては人生の五本指に入る程の失態だった。
なんでやねん。
どうして俺が男にピンチを救って貰って、乙女のようにキュンキュンしなけりゃいかんのだ。違うだろ。俺がやるべきはもうちょっとこう、違う奴だろ!!
だああもう、変だよ、絶対変だよこんなの、どうして換気口から這い出るんして来たオッサンを見て、俺があんなドキドキしなきゃいけなかったんだ!?
違う、これは何か変だ、絶対に理由があるはずなんだっ!!
なんかこう、変なもん食ったとかさあ!
「ツカサ君、鍵開いたよー」
悶々と考える俺の前で、ブラックが重たい鉄の扉を開場してのほほんと言う。
あれからブラックの股間を必死に収めて、本来の目的の図書保管室へやってきたのだが……さっきの興奮はどこへやらでのたまうブラックに、俺は何だかちゃんと顔が合わせられなくて、視線をずらして小さく頷いた。
「う、うん……ありがと……」
ぎこちなくそう言うと、ブラックは嬉しそうな声を漏らす。
「えへへ、ツカサ君のためなんだからお礼なんていいよ」
うぐ。だ、だめだ、何かまだ変な感じがする……。
目の前のオッサンのありのままのド変態な姿を見たと言うのに、なんで全員逃亡してくれなかったんだ俺の中のドキドキよ……。
いくら恋人だからって、好きだからって、こんな急にドキドキするのかな。
ほんとに俺、悪いモンでも食ったんじゃ……いや、そこまで否定ちゃったら俺がまるでブラックの事を好きじゃないみたいじゃないか。そうじゃなくてだな。
「ツカサ君?」
「あっ、う、は、入ろうか。くれぐれも静かに……」
慌てて扉を開き、周囲に気取られないようにゆっくりと締める。そうして、無闇に侵入されないようにと内側から施錠した。
ここは棚が多い分隠れられるし、何よりブラックが金の曜術で鍵開けが出来るなんて俺以外は誰も知らないから、鍵を掛けておけばひとまずは安心だろう。
ふう、よし、ここからは気合を入れなければな。
「それで……何を探すんだい?」
「うーん……この塔の図面とか、資料が無いかなって。逃げる算段を立てるにも、内部の構造をしらなきゃどうしようもないし……俺の今の状態じゃ、お前に大地の気を渡してラピッドかけて塔の窓から飛ぶなんてのも無理そうだしな」
「あはは……ちょっとこの高さは僕も厳しいかなー……。そうか。じゃあまずは塔の図面を探せばいいんだね?」
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そう言うと、ブラックは一瞬虚を突かれたような顔をしたが、またいつもの気の抜けた笑みで笑って棚を漁り出した。
「う、うん……そうだね……じゃあ探してみようか」
うん? なんかちょっと受け答えが変だったけど、どうしたんだろう。
何か気になる事でも有ったんだろうか。
でも、俺に話してくれないって事はそんなに気にする事でもないのかな。
うーむ、よく解らんけど……気にしている暇はないか。とにかく早くアドニスを出し抜く為の情報を掴んで、計画を立てなければ。
→
※次は後半くまさん視点がはいるよ
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